楽しい植物画 FAQ

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Q26:じっくり描いたら息苦しい感じに仕上がってしまいました。どう注意したらよかったのでしょう?


A26:実は私も風景画などで「描きすぎだ」と言われることがよくありました。おそらく息苦しい絵だったと思います。絵の仲間によれば、「強調と省略によってメリハリをつけること、見えるすべてを描いては散漫になる。風景というものは画面に自分の世界を再構成して見せるもの」だそうです。
 では、植物画ではどうでしょう。ふつう背景や花瓶などは描かないきまりですし、植物の構造や色を正確に伝えるための絵ですから、むやみに省略するわけにいきません。そういう意味では構成力が足りなくても失敗が目立たず、私に向いているのかもしれません。
 植物画を初めて見た人がよく、「写真みたいだ」といいます。写真の無い時代に記録を目的に描かれてきた歴史からいって当然です。それにしても植物画のなかには、「くどい」「もっとあっさり描けないのか」と感じる作品も見かけます。なぜ、そういう感じを与えるのでしょうか。
 私なりの結論は、「隅々まで詳しく描きすぎている、しかもどこも同じ克明さで描いているからそうなる。植物画でもやはり、主役となるべき部分は克明に描くが、脇役は控えめにすることが必要だ」というものでした。
 最近、この考えを裏付けてくれるような本と出会いました(注1)。そこにはこんな意味のことが書かれていました。‥‥フェルメールの絵は見てきもちがよい。その「きもちよさ」の秘密は、「本物そっくり」から一歩進んで「人間の目に(見える画像に)そっくり」の絵を描いたからである。人間は、見たもの全体にピントがあっているように意識していても、実際は目がある瞬間にピントを合わせられるのはごく狭い範囲であり、次々と視線を移して全体を見て回った結果を、頭のなかで総合して全体を鮮明な像として意識する。つまり、ある情景を見た瞬間に目に入ってくるのは、視線を落としている所だけにピントがあって他はぼけている画像である。人間は絵としてそういう画像を見せられると、「きもちがいい」と感じる‥‥。
 つまり、全ての箇所にピントがあっているように描かれたら「きもちがいい」とは感じられないわけです。
   (注1)赤瀬川原平著「名画読本」カッパブックス光文社刊 (980円)






【 余談 】フェルメールの時代
 ヤン・フェルメールは、1660年代に活躍したオランダのデルフトの人。顕微鏡の発明者リュウエンフックとも親交があり、レンズ付きの暗箱(カメラオブスクラ)を覗いていたとされています。彼の画集を私が見たかぎりでは、どれにも暗箱に言及していました。  
 ‥‥当時のレンズは焦点深度が浅く、摺りガラス上にピントが合うのは一点だけ、他はぼやける絵。その映像は彼に大きな影響を与えたと思われる。‥‥フェルメールの偉大さはこうした「きもちいい」と感じさせる仕掛けだけではありませんが、その話は割愛します。
 ところで、フェルメールの暗箱の話から、風景画に関する私のもう一つの疑問、すなわち「空気遠近法には反するが、 近くのものをぼかして表現した方が良い場合もあるのではないか」も解けました。より近くにあっても、それが脇役ならば焦点をあわせないで見ているはずで、 ぼけて見えるのが当然なのですから。




Q27:植物画をパステルで描いてみたらどうでしょうか?


A27:植物画(いわゆるボタニカルアート)は、水彩で植物を1品種だけ細密に描くのが決まりで、パステルは使いません。画材としては、細部の描写が難しく、図鑑のような絵を描くには不向きだと、私の植物画入門講座のレジュメにも、書きました。ただし、そういう制限なしで植物の絵を描くためには、素晴らしい画材だともつけ加えておきました。(例:ルドンの花の絵)
 別項の余談で、インターネットでモモの絵を注文され、パステルで描いたことを書いていますが、果物を描くならパステルが一番だと私は思っています。これまでもリンゴ、カキ、ナシ(ラフランス)、プルーン、レモンなどを描いてみましたが、果物の場合、細部を描かなくても質感と輪郭が違っていなければ見誤られることはないようです。水や油で溶く作業がいらず、手にじかに持ってあるいは手で紙の上にこすりつけたり、のばしたりして描きますから、視力が弱い方にも扱いやすい画材です。
 そういえば、パステル画で有名なドガは晩年盲目に近い状態でした。普仏戦争で負傷した眼は50歳代後半にはほとんど見えなくなって、彫刻しか制作できなくなりましたが、それ以前の油絵を放棄した段階でパステルで多数の浴女と踊り子を制作したそうです。
 パステルのもう一つ有利な点として、修正したいときにそこに塗り重ねればその色にかえられることです。透明水彩ではそれができませんから、先に塗る色は後あとまで考えて決めなければならず、これが難しさの一つの原因でもあります。パステルは色を置いてみて間違っていたら練りゴムで取り去ることもできるので、迷わず描き進められる画材です。
 ですから植物画は透明水彩技術が面倒という方には、パステルで自由に描くほうがむいているかもしれません。いまごろになって植物画から離れる話が出てきて不審に思われますか?このシリーズの終わりにあたって、「絵にはもっと多様な楽しみ方がある」ことを付け加えたいからで、他意はありません。
 パステルで描くときには、水彩のように混色で自由に色を作り出すことはできませんから、たくさんの色数のセットが欲しくなります。水彩で混色しすぎると色が濁ると説明しましたが、パステルでは混色をしませんから、濁りのない鮮やかな画面が得られます。これがパステル画の魅力の一つにもなっています。
 パステルの欠点としてはチョークのような画材ですから粉が散ります。これを吸わない注意とフィクサチーフというスプレーで定着することも必要です。



【 余談 】 インターネットのホームページ作り
 職場で私が入っている自然観察サークル(通研ナチュラリスト)では、1995年4月に観察ガイドブックを出版しました。お昼休みに描いてきた植物画などもカットに入れて好評でした。それから2年たち、これをインターネットのNTT自然とマルチメディアというページ (http://www.wnn.or.jp/wnn-n/index.html)の一部に載せることになり、その作業を私が担当しました。初めての経験でしたが、意外に簡単だったので、1997年の1月からは、個人でプロバイダーと契約して、自分のホームページを持つことにしました。これで外国からも見てもらえるし、また載せる内容も自由に追加・変更できます。 (http://www.big.or.jp/~wakamatu)
 反響はどうかですか?、例えば、カナダから研究所に研修に来ていた女性がお昼休みの植物画に参加して描いた作品を掲載したら、帰国した本人から喜びのメールが届いたこともありました。でも植物画とか自然観察という地味なページはあまり興味をひかないせいかアクセス数は多くありません。
 ところで、インターネットには実に様々なページがあるので、当然「植物画」をテ ーマにしたページもあると思い、ある検索エンジンで調べてみました。 花や植物の写真を集めたページは多いのですが、植物画というのは、極めて少数でした。植物画の透明水彩はブラウン管の上で見ると、 紙の上に描かれた実物以上に透明感のある素晴らしい作品に見えるのですが、それはまだあまり知られていないし、 そもそも見る人々の側に興味がないとうことかもしれません。





【 余談 】 植物画展「おばあちゃん画伯vsお昼休みのアーティスト」


 職場でお昼休みに集まって描いているグループの作品と、私が月二回行っているお年寄りグループの作品を1996年10月11日から6日間、練馬区民サロンで展示しました。
 「新しい風」で予告したので、読者の方が十数人ご来場下さったのをはじめ、5日間で約180人のお客様でした。アンケートに116人の方が応じられ、47人がご意見・ご忠告の欄にご記入。いずれも暖かいお言葉で、出品者一同嬉しく読ませていただきました。以下はその抜粋です。
◆ まじめ、すなおでとても楽しい/絵の楽しさを思い出した/今迄私は大きいも のばかり描いていたが、このようなものを暖かく見て描きたくなった/雑事に紛れていたが、描いてみようという気持ちを持たせていただいた。今日はうれしい日になった/定年后には始めたい/身近な植物を繊細にきれいに描き素晴らしい作品ばかりだ。私も描きたくなった/皆さんの絵にこめられた思いが伝わってくる。絵って本当にいいもの!
◆ 色が、感じがとっても雰囲気出てる/なかなか味わいがあり、個性が出ている/気軽に描けそうで楽しめた。題材も身近なものでよかった/
◆ 高齢者が頑張っておられ、素晴らしい/地域の高齢の方々、職場での同好の士の作品が仲よくならんでいるのが、 自然ですばらしい企画/お年寄りが喜ばれている様子で嬉しい/花びらなど正確。 お年にしては細かく描いておられる/私の母と同じ年齢(88歳)の方の作品に驚きました。





【 余談 】 植物画展 第2回「おばあちゃん画伯vsお昼休みのアーティスト」  
 20人の水彩、色鉛筆、パステルなどの作品約50点を展示しました。前年の第1回の展覧会を観た1人の女性が、ホームの指導を志願されて一年、皆さんの絵は格段に進歩しました。この植物画展は、300人以上のご来場で成功裏に終了。会場アン ケートには146人の方々がお答え下さいましたが、以下はその抜粋です。
【 この展覧会の雰囲気 】 ほのぼのとしました。秋を見つけた気がしました。野の花の美しさを再発見/皆さん、感じた事を素直に表現されていますね。素敵でした/素直で素朴な感じが好印象でした/植物がていねいに、明るく描かれ、見る者をすなおで、やさしい気持ちにしてくれました/皆さんがイキイキとした顔で絵筆をもっている姿が目に浮かびます。 学校では、ノルマとして描いた絵がほとんどなのでうらやましく想いました/  I like it that many unknown artists have a possibility to show their pictures to people to get an idea what other people think about them./一年毎に力作が増えて楽しみです/一花、一草、一実、生命輝いて見るものの胸にせまってきます/3人の子育て真っ最中の私には心のなごむひとときでした。
【 描きたくなった 】 機会があったら私も描いてみる/自分でも描いて見たくなる/描いている方々の楽しさが伝わり、心があったかくなりました。私は散歩しながら、春の芽が出てきてい ることに感激したり、黄色の花を見て明るい気持ちになったりしていますが、それを絵にする素晴らしさを痛感しました。
【 お上手ですね 】 短い時間で勉強しているとのこと素晴らしい!がんばって下さい/優雅を感じます /八王子から見に来ました/質の高い展示に驚いた。プロには無い素朴なタッチがかえって見る側をほっとさせますね/素人とは思えない程、生き生きとして色使いもすばらしい、絵はがき等になったら、ぜひ購入したい/とても繊細な絵で感心しました。


【 身近な自然 】 みな身近にある花ばかりですてきでした/知らない植物に会えてよかった。もっと自然を観察しなくちゃ/ネコジャラシやタデの様になにげない草花も絵になってうれしい。色鉛筆のやわらかな色合いがなつかしい/コブシに種があることなど、今までに何にも思わずにいたものを描くのはさすが/生きている感じがします。実り熟したものが光っている/ふるさとを思い出しました。
【 お年寄り 】 若者が描いたように生々している。すばらしい/戦争中苦労してきて体がきかないのに、こうして素晴らしい絵を描かれて、 涙が出て感動しました/年齢を想像してあまりのお上手におどろいています/年配者の作品と伺いましたが、 心のやさしさと若さが感じられました/年老いている方が絵に親しむことは私の夢であり、 これからの発展を楽しみです/会場に入った瞬間、私自身が懐かしいような温かい雰囲気に包まれるのがわかりました。 人生の年輪を感じる一つ一つの絵に勇気と希望を頂きました(30代ホームペルパー)





【 余談 】 けやきコミセンで第2回「お昼休みのアーティスト展」  
 武蔵野市役所ロビーで千川上水写真展を見たとき、主催の「けやきコミュニティセンター」の活動に感心したので、夕方に立ち寄ってみました。2階にギャラリーがあるというので見せてもらうと、照明設備やフックのレールもとりつけられた、小さいけれど展示専用の立派なもの。ここなら通研から昼休みに歩いても来れるし、展示会の留守番もいらない、しかも無料で予定もあまり入っていない。さっそく使ってみることにしました。まず、「お昼休みのアーティスト展‥‥だれでも描ける植物画」を、2月15日から1週間。前回展からあまり間がないので私の作品が多くなりました。アンケートにお答えいただいた方やご来場の「新しい風」読者には私製植物画絵葉書を進呈しました。
 来場者名簿にはダブりなしで113人、アンケートには63人がご記入されました。
 研究所の方には昼休みの散歩ついでにとご案内しましたが、実際には、小雨のなかウオーキングでとか、大雨の夜、勤務の帰りに立ち寄られたり、あるいはお休みの日にご夫婦でわざわざお出かけ下さったり‥‥と申し訳ないことでした。「新しい風」を見てお出で下さった方も多く、Aさんには私が不在で失礼しましたが、アンケートにぎっしりご記入下さり、嬉しいことに「(植物画の)テキストを頂き、私もはじめました」とありました。JSA東京支部勤務のMさんがお出でのとき、近所の子供たち数人が来てMさんからメモ用紙をいただき植物画を描いたので、これも展示しておきました。
 10代の客もありました。隣の学習室を利用していて、ギャラリーに誰もいなくなったときに見てくれたらしく、「ちょっと興味があったのでのぞいてみました」「どれも身近にあるものばかりなのですが、実物とはまた違った温かい雰囲気のある絵ばかりで、心が和みます」と書いてくれました。
 本格的なギャラリーで感じがよいというほかに、このセンターの建物と受け付けの人たちも温かいと好評でした。
 このセンターはゴミ処理場(現武蔵野市クリーンセンター)建設反対住民運動から始まり、市民が要求するコミュニティセンターを作ろうと市との交渉を数年重ねてようやく完成。その運動をした人々を中心にコミュニティ協議会を組織して運営しています。当番の人々と次々と交流できました。また作品の構図や見せる工夫についても 的確なアドバイスをいただきました。
 交通が少し不便なのと、ここが営利行為禁止のせいか、予定があまり入っていません。前回の練馬区関区民館ほど来場者は多くないけれど、 落ち着いた雰囲気で見られます。



【 余談 】  金野新一遺作展





  金野新一画、朝市風景・秋田西馬音内 1966年、水彩 245×355ミリ


 連載小説の挿絵でご存知の方も多いでしょうが、分かりやすい絵で、とくに人物のあたたかい描写が特徴でした。92年に亡くなられ、1996年12月11日から6日間、練馬美術館で遺作展が行われ、画集「金野新一作品集」が出版されました。民主的な活動に献身され、美術運動のために自分のアトリエも即座に提供するような人だったことが、画集付録の「思い出集」の随所に語られています。
 実は我が家にも金野さんの絵が1枚ありますが、それは似顔絵コ ーナーでの高い評判を聞いたカミさんが、ぜひと列に並び、末っ子を描いて貰ったものです。
 展覧会には団地の絵仲間を誘い、2度見に行きました。水彩やコンテの作品にひかれるものが多く、コンテスケッチの眼光鋭い男を手に入れたいと思いました。かみさんが、あんなこわい顔を家に飾るのはいや、買うなら‥‥というので話し合って、「朝市風景・秋田西馬音内」と題する水彩画を選びました。もんぺ姿のおばさん達の描写がすばらしく、秋田は我々二人の共通のルーツでもあります。思い立ったが吉日とばかり購入を申し入れ、我が家の玄関に飾られることになりました。
 3月に行われた池袋の画廊での展覧・販売会には多くの方にご覧いただきたく、ご案内しました。 また画集をご希望の方はご連絡下さい。3500円と安価ですが、光陽印刷だけによい仕上がりです。


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