カーバンクル

機構開発


 

機構


 『カーバンクル』とは、科学魔道時代に実用化された生体制御機器のことです。星界蟲の生態調査を行なう過程で誕生した派生技術で、無機細胞とフェイスマスクに関する研究をもとに開発されました。
 これは宝石のような外観をした球状の結晶体で、内部に組み込まれた魔道回路によって、遠隔地からでも生物の操作を可能とします。その多くは生物兵器の制御に用いられたため、基本戦術プログラムや『破滅の犬』という絶対服従を強制するプログラムが組み込まれています。


○利点

 カーバンクルは生物への情報通信および行動制御に用いられるものですが、これまでの技術より優れた点が多々あります。


▼グループ制御
 カーバンクルは意識の共有化を可能とするもので、グループに含まれる全ての個体を同時に制御することが出来ます。これによって制御されている生物兵器の群れは、1つの生命体のように完璧に統制された行動を取ります。


▼即時一斉通信
 距離を無視して即時通信を行なうことが出来ます。また、端末となるカーバンクルの霊的回路に対して直接妨害を行なわない限り、間に障害要素があっても通信が途絶えることはありません。この通信はグループ全体に行なわれるもので、同時に全個体に命令を出すことも出来ますし、個体ごとに制御することも可能です。


▼緩衝流
 通常の霊子機器とは異なり、緩衝流に妨害されず情報通信を行なうことが可能となります。


○システム

 カーバンクル・システムは以下のような構成になっています。


▼司令核体(コントロール・コア)
 『クイーン・カーバンクル』とも呼ばれている、情報統合および制御を行なうためのカーバンクルで、情報処理用の霊子機器と連結されています。これは端末となる生物に命令を与えるだけでなく、各個体が入手した情報を受信し、整理する機能も備えています。霊子機械を含む統御用システム全体をさして、『カーバンクル・コマンダー』あるいは『タワー・カーバンクル』という場合もあります。


▼端末核体(レシーバー・コア)
 意識の共有化および情報交換の機能を持つ端末用カーバンクルで、星界蟲由来の無機細胞を介して生物と連結されています。一部の霊子回路を除けばコントロール・コアとほぼ同一の構造で、外観は透き通った球状結晶となります。


▼制御対象
 意識の共有化を行なうことにより集団制御を行なうことも出来ますし、個体だけを制御対象とすることも可能です。集団制御を行なう場合、1つの群れとなるグループ全体は、司令を行なうコアを木の幹に、端末を枝葉に例えて『カーバンクル・ツリー』と呼ばれることもあります。


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開発


○共有意識

 星界蟲は群れ全体で意識を共有しているため、個体と同じように完全に統率された行動を取ることが出来ます。この機構をうまく利用できれば、生物兵器の完全制御が可能となるはずで、研究者たちは大きな期待を寄せていました。
 共有意識の成立と情報伝達を担っているのが、フェイスマスクと呼ばれる物質で、星界蟲の個体は全てこれを備えています。この研究が進められるうちに、色々と面白い性質を持つことが判明し、カーバンクルと呼ばれる制御技術の誕生へと繋がることになります。


▼フェイスマスク
 星界蟲に特徴的な器官で、口器のすぐ上に無貌の仮面のような、緩やかに彎曲する白板がそなわっています。成長しても大きさは変化せず、生涯同じ形状を維持します。
 外装はケイ素化合物で構成されていますが、内部はエーテル・ブレインの核と同じ素材の結晶体です。結晶の内部には霊的回路が組み込まれており、これを通じて群れと意識を同調させたり、仲間同士の情報交換を行なっているようです。
 外装で特徴的なのは、人間でいえば額に相当する部分に刻印が施されていることです。溝は内部の結晶体にまで到達しており、霊的回路として機能します。刻印パターンは群れごとに異なっており、同じ集団を形成する仲間としかマスクを通じた連絡は行えないようです。なお、この刻印パターンは『コロニー・エンブレム』と呼ばれており、群れの識別のために利用されています。


▼共鳴伝達
 共鳴伝達というのは、全く同一の構造を持つ存在に対して、距離や障害を無視して同時に情報を伝える、同時一斉通信機構のことです。幽子世界を介して情報が伝達されるものと考えられていますが、幽子の動きを直接認識することは出来ないため、詳しいメカニズムについてはわかっておりません。
 星界蟲はフェイスマスクを通じて共鳴伝達を行ない、群れの統率を完璧に行なっているようです。そのため、フェイスマスクを失った場合は、群れから離れて単独行動を取るようになります。なお、フェイスマスクは再生されるようで、たとえ壊れても自動的に元に戻ります。


▼精神場
 共鳴伝達の機構を詳しく解析した結果、この通信手段は同一の霊的回路で精神場を繋いで、意識の共有化を行なうことで達成されるものでした。そのため、この技術を実用化するためには、通信のための霊的回路と生物の意識を連結し、1つの共有意識を持たせる必要があったのです。


▼グループ化
 通常、精神場の連結を行なうための霊子回路は同一パターンのもので、そのまま生物と繋げた場合は全個体の意識が自動的に共有化されることになります。共有意識を持たせるグループを区分けするために利用されたのは、星界蟲のマスクに施されているコロニー・エンブレムの機構で、特定パターンの霊刻を施すことで共有化する個体を選択することが出来ます。


○司令核体(コントロール・コア)

 意識の共有化だけで生物の制御が可能となるわけではなく、命令を伝達する側の機器も開発しなければなりません。そのために研究されたのが、エテーテル・ブレインと呼ばれる星界蟲の脳に相当する器官と、女王を頂点に抱く群れの社会システムです。
 女王が死んだ場合は群れの共有意識は失われ、それぞれの個体がバラバラに活動するようになります。つまり、女王は群れ全体の精神場を連結する、中継機構としての役割を担っているわけです。そして、このようなシステムが成立しているということは、女王は端末個体とは異なる情報処理機構を持っているはずです。
 研究の結果、女王のエーテル・ブレインの中に、共有意識の情報統御を担当すると思われる霊的回路が発見されました。これは無機細胞が結晶化することで出来た霊子回路でしたが、何故かこの機能は人工回路では再現できない特殊なもので、星界蟲の端末個体から取り出したエーテル・ブレインに、この回路構成を組み込んだものを中枢回路としました。そして、指示情報を入力する霊子機器に組み込み、グループ化された生物の共有意識と連結したところ、共鳴伝達と共有意識の制御に見事成功したのです。情報制御の核となるこの結晶体のことを、『司令核体』(コントロール・コア)と呼んでいます。


○生体連結

 端末用のカーバンクルは生物兵器の頭部に埋め込まれ、無機細胞を介して有機物と連結する形で、直接的に生物と一体化されました。というのは、科学魔道やその派生技術では、これまで間接的な精神制御しか達成できておらず、カーバンクルを外装した場合も同様の結果に終わったためです。
 これを実現する上で非常に役に立ったのは、星界蟲の無機細胞は有機物とも無機物とも連結が可能で、それ自体が霊的回路を構成できるという性質でした。これによって生物と霊的回路の仲立ちとして無機細胞を利用することができ、比較的早期にこの技術の実用化が達成できたのです。


○自我

 カーバンクルのテスト中に生じた問題なのですが、コトロール・コアに端末個体のエテーテル・ブレインを使用したためか、生物兵器の自我が失われるという現象が発生しました。これは自我を持たない無機生物の精神場の影響だと考えられます。しかし、兵器として正確な運用を行う上で、自発的な意思というのは本来無用とされるもので、もともと薬物を投与するなどして自我の抑制処理がなされておりました。そのため、この想定外の副作用は特に現場では歓迎され、時代が進んで生物兵器の自我を残したままシステム運用ができるようになっても、この機能を残したまま利用しておりました。


○発展

 カーバンクルの誕生によって、情報伝達装置と意思制御の両方が同時に達成され、非常に効率的かつ正確なシステム運用が可能となりました。こうして生み出された技術は、月人の精神統合技術にも利用されています。


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