概要
○領土区分
カイテインでは貴族領主が各々所有する領土を治めています。領土は皇帝が所有する皇帝領、領邦国家である公国/候国(州/小州)、独立伯爵領(準州)、そして自治都市を中心とした帝国自治領(準州)の3種類に分類されています。
○貴族制度
貴族は支配階級に属しており、非常に強い権限を持っています。領主貴族は1つの自治体を統括する存在であり、管区軍の将としても活動します。無領地貴族には官僚として働くものと、騎士として領主貴族に仕えるものがいます。
○政治制度
▼帝国
三権は皇帝のもとに集約されており、皇帝の意見が政治に非常に強く影響します。カイテイン帝国全体の立法議会としては有力貴族からなる帝国立法院が、政府機関としては帝国参議会が設置されています。議員や官僚となるのは殆どが貴族で、民衆の意見が国政に反映されることはありません。なお、立法議員と帝国参議官を兼職することは許されておらず、双方に席を置くのは皇帝のみとなります。
▼地方
皇帝領および帝国自治領では、地方の政治制度は統一されています。その他の地方自治体では、政治運営はそれぞれの領主が定めるものとなります。なお、領邦国家では独自の州法を規定することも出来ますが、帝国全体の法律には従わなければなりません。
○軍事
カイテイン帝国軍は、領主貴族(皇帝領を含む)の保持する兵士と、帝国自治領から徴集される民兵で構成されています。各軍は管区軍として自治体単位でまとめられており、それぞれの指揮権は各領主もしくは帝国自治領の地方長官に与えられます。軍隊は常備軍ですが、その兵制は領邦国家によって異なっており、各領主は規定された兵力を供出すれば義務を果たしたことになります。常備軍の訓練には資金がかかるため、訓練されていない農兵で兵数をまかなおうとする領主が多く、帝国軍はその規模ほどには戦力に期待できないのが実状です。なお、カイテインは移動ルートとして有効な海を持たないため、海軍を保有しておりません。
○警察
内務省に属する警務局が警察組織を統轄しています。警務局は国家警察として機能し、その下部組織として州/小州/準州警察が各地域に配備されています。しかし、貴族領地に設置される警察組織は各領主の指揮下に入っているため、制度は統一されていても、完全に中央行政主導の組織というわけではありません。中心となる国家警察は、州警察などの下部の組織に対して監査・粛正を行う権限を持ちますが、皇帝領や帝国自治領とは異なり、各貴族領地に対して皇帝や警務局が過剰に干渉を行うことはありません。
組織体系は通常の形態で、警察署の中にいくつかの部署があり、刑事や警察官が業務を担当します。警察組織に務める場合は、警察学校で訓練を受けなければなりません。
○司法
カイテインでは三権が分立されておらず、司法組織である法務省は行政府の下部機関となります。領内の裁判権は各領主が持っているため、たびたび不正が行われています。
裁判所は州などの自治体ごとに分けられており、それぞれに上級裁判所(州/小州/準州)、下級裁判所(地域自治体)の2つが設置されています。この上に帝国最高裁判所が存在しますが、これは自治体や政府機関が帝国法に反していないかどうかについて判決を下すもので、一般市民に対する裁判が行われることはありません。
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領土
○領地区分
カイテインでは貴族領主が各々所有する領土を治めています。領土は皇帝が所有する皇帝領と、領邦国家である公国/候国(州/小州)、独立伯爵領(準州/特別市)、そして自治都市を中心とした帝国自治領(準州)の3種類に分類されています。これは聖歴631年に制定された領地改革法に基づいた区分であり、現在でもほぼ同様の方式によって治められています。
○皇帝領
首都を中心とした皇帝の直轄地と、国土防備のために設置された各地の委任地を合わせた領地です。皇帝は皇帝領の国王と帝国の皇帝を兼任する形となります。
委任地は皇帝の血縁者が統括する州や小州として扱われ、それぞれの首長には総督の地位が与えられます。これらは1つの軍管区でもあり、総督は管区軍の司令官としても機能します。これらには全て個別の自治権が与えられていますが、地方の政治制度は統一されたものとなります。
○領邦国家(公国/候国)
皇帝の血縁ではない公爵/侯爵が治める土地であり、1つの国家として扱われます。領主は公国・候国の首長であると同時に帝国の州/小州知事として扱われ、世襲的にこれを引き継ぐことになります。州内の政治運営はそれぞれの領主が定めるものとなり、独自の州法を規定することも出来ますが、帝国全体の法律には従わなければなりません。
○準州
▼独立伯爵領
伯爵が直接統治している土地で、市とその周辺地域を含む自治区域となります。準州は領邦国家としては扱われず、幾つかの特権を制限されています。なお、市のみを領地とする場合は、特別市と呼ばれることもあります。
▼帝国自治領
自治権を与えられた地方都市とその周辺領域を指すもので、帝国全体の領土として扱われます。これらは殆どが辺境開拓の目的で設置されたもので、将来的に皇帝領に組み込まれたり、何らかの功績を挙げた貴族の領土として下賜される可能性があります。
自治領は帝国という大国家の支配下にあり、数々の政治的制限を受ける立場となります。たとえば、自治領の代表は帝国から派遣された地方長官(準州知事)が受け持ちますし、自治領から帝国の議会に議員を送る権利はありませんので、準州民の意見が帝国の制度に反映されることは一切ありません。また、自治領を管区とする地方軍の指揮権は地方長官に与えられておりますし、重要ポストに就く官僚の人選も地方長官の意向に左右されます。
これらの制限の代わりに、自治都市では土地開拓に関して幾つかの免税が行われています。また、派遣される軍隊も自治領民への威圧だけでなく、開拓兵として土地の開墾などの仕事を受け持ち、領民との関係もそれなりにうまくいっているようです。
○地方監査制度
皇帝自身の所領以外は、司法省による監査を受ける可能性があります。監査には毎年定期的に行われる定例監査、裁判所を通じて報告が届いた時に行われる申し立て監査、そして参議会の意向によって行われる臨時監査の3種類があります。これによって統治能力なしと判断された場合、最も重い措置では領地を没収されることもあります。処分は帝国法に基づいて行われるものであり、意義をとなえれば帝国に造反するものと見なされ、逆賊として処罰されることになります。
申し立て監査は領民の陳情によって行われることもありますが、自治体側に非がないとされた場合は、申し立てを行った者が処罰される可能性もあります。また、臨時監査は領主との関係を悪くするため、通常は要請を行って書類の提出を求める程度で済ませるだけとなります。皇帝の意向によって皇帝領および自治都市に対する監査を行う時以外は、よほどの疑いがなければ邦国に対する強制監査が実施されることはありません。そのため、監査制度は有名無実化しているように思われますが、領主に対する皇帝からの警告の一種としてとらえられるため、一時的な抑制効果は見込めるようです。
▼巡察使
司法省に所属する地方監査役の俗称で、かつてはこのように呼ばれておりました。行政監察官と司法検察官の2種類が存在しますが、それぞれが互いの範囲に踏み込んで捜査を行うこともままあるようです。
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政治制度
カイテイン帝国全体の立法議会としては有力貴族からなる帝国立法院が、政府機関としては帝国参議会が設置されています。立法議員と帝国参議官を兼職することは許されておらず、双方に席を置くのは皇帝のみとなります。
帝国の政治を担うのは皇帝と有力貴族、および官僚貴族たちであり、国民の意見は殆ど政治に反映されることはありません(地方行政は領地の運営方針次第)。これは聖歴740年代初頭に定められた制度を殆どそのまま受け継ぐ形で運営されています。
現在の法治主義を重視した統治制度では、特定家系が世襲的に継いでいた役職が廃止されたため、大公爵制度のような一貴族の専横が許されることはありません。しかし、帝国憲法の制定や諸機関の設立などの制度改革を実際に主導したのは、常に皇帝とそれに追随した有力貴族であり、現在も法律の立案や解釈には中央政府の意見が強く反映されることになります。全領邦国家の代表で構成される議会を持つため、中央政府の意見を抑える機構は存在しますが、それでも皇帝の意見は最重要のものとして受け止められます。
◆カイテイン/制度
皇帝──┬──皇帝府
│
├──帝国立法院──┬──第一帝国会議(上院)
│ └──第二帝国会議(下院)
│
└──参議会────┬──名誉参議会
└──帝国参議会──┬──内務省
├──財務省
├──軍務省
├──工部省
├──司法省
├──外務省
├──農務省
├──商務省
├──宮務省
└──地方省
○帝国立法院(立法府)
帝国立法院は法律、予算、外交などの重要案件を協議する立法機関です。立法院は二部構成となっており、上院である第一帝国会議(第一会議)と下院である第二帝国会議(第二会議)が設置されています。位置づけとしては、第二会議は基本案を作成・提出する機関であり、第一会議で最終審議を行った後に、正式な法案として認められることになります。
▼構成
第一会議を構成するのは皇帝と領邦国家の代表で、各邦国は領主が指名する代表者1名を立法議員として送り出すことが出来ます。議員は領主貴族である必要はなく、一族の者や宰相職にある者がなることもあります。
第二会議は各領邦国家および独立伯爵領の領主が指名する推薦議員が各1名と、選挙によって選ばれる選出議員からなり、選出議員は領地の規模や領主貴族の功績を考慮した人数配分となっています。帝国自治領(準州)からは推薦議員1名(地方長官)が参加することが出来ますが、選出議員を出す権利を有しておらず、国民は国政に対して殆ど意見を届ける機会がありません。しかし、他地域でも殆ど貴族ばかりが議員として選出されるため、政治に民意が反映されないという意味では大差ないようです。
▼皇帝
皇帝は第一会議においては、永世議員としての特別な地位にあります。行政府である参議会の意見をまとめて第二会議へ提議を行ったり、意見調整を行うための会談の場を設けるなど、行政と立法の中継や政府全体の緩衝役として機能します。
▼審議
第二会議を通過した基礎法案は第一会議で審議され、皇帝の承認を経て正式な法案として成立することになります。第一会議での可決には2/3以上の票が集まることが原則とされておりますが、1/3以上の賛同を得ていれば廃案とはならず、再び第二会議へと戻され修正を行うこととなります。法案の修正は第一会議の審議をもって行われ、第二会議はその決定に異議を唱えることは出来ません。
再審議や差し戻しは法案の可否が決定するまで何度でも繰り返されます。しかし、広大な面積と多数の領邦国家を有する帝国は、通常時であっても国家として統一した行動が取りにくい状態にあります。そのうえ審議が長期化することで危急の自体に対応できないということになれば、有事の際にそれが原因で帝国の存亡さえ危うくすることも考えられます。これを回避するため、第一会議で三審以上の審議に及んだ場合に限り、三審目からは皇帝権によって即時の強行採決(この場合は過半数の支持を得れば可決)、会期の短縮、もしくは採決不能として期限付きの延期を選択することが出来るよう定められています。
このように皇帝は議会において強い権限を持ちますが、不用意に強行採決を選択することは諸侯の反感を買うことになり、今後の政局が不安定になる可能性があります。ルワール侵攻を計画している今の時期に国内が割れるのは特に避けるべき事態であり、皇帝も現在は議会での振る舞いに慎重になっております。
○参議会(行政府)
▼構成
◇皇帝
皇帝は帝国参議会の最上位にある永世最高参議長として位置づけられています。参議会の行政執行権は帝国憲法と同時に皇帝に保証され、皇帝の名の下に執り行われるものとなります。◇帝国参議会
帝国参議会は行政府の最上部に位置する組織であり、皇帝と帝国主席参議長(首相)、そして帝国部門参議長(国務大臣)で構成されています。このメンバーで行政会議が行われ、政策について協議することになります。これは大公爵位の廃止後の帝国再建設に際して設立された臨時機関を受け継ぐ形で定着したものです。この下部には全10省が置かれており、実際の行政行務を統括します。
現在の帝国部門参議長の選出方法は、大公爵一門が役職を独占していた時代とは異なり、皇帝に任命された帝国主席参議長が、名誉参議会が作成した推薦名簿をもとに選出するという方式が採られています。そのため、最終的には皇帝の血族と有力貴族たちで殆どが占められることになります。◇部門参議会
各省に設置される下位の参議会のことで、部門参議長を議長とする省内の審議機関です。部門参議会の構成員は、部門参議長の推薦議官、皇帝の推薦議官、そして省内部局の最高責任者となります。部門参議会では実際の行政業務の具体的な方針案や予算配分、委員会の設立や委員選定といった決定が行われます。また、ここで提案された法案が帝国参議会で検討され、皇帝の承認を経て第二帝国会議に提議されることもあります。◇名誉参議会
帝国参議会に対して参考意見を提出をするという、参議会のうちでは特殊な機関となります。メンバーの指名権は皇帝にあり、旧参議官や国家に勲功のあった有識者からも選出されますが、有力家系のうち皇帝に近しいものから最も多く選ばれます。そのため、政府における表向きの位置付けとは裏腹に、非常に影響力の強い存在となります。
▼審議
帝国参議会での会議は閣議に相当するもので、各部門参議会や各州などから上げられた問題の審議を行います。設立当初、皇帝も含めて各参議長は等しい発言権を有し、全会一致による議決が要求されておりましたが、有力貴族の間で意見が分かれて審議に大きな滞りが生じたため、最終採決は多数決による議決へと変更されています。
▼司法権限
司法参議会を下に置く帝国参議会は、事実上の最高審の役割を与えられる機関となります。なお、各領内での司法権限は各自治体の長に委任されるもので、それぞれの州法に基づいて判決が下されます。帝国法に反しない限りにおいては、司法参議会が州の判決に口を挟むことはありません。
▼官僚
大公爵位とともに名誉職であった官位は廃止され、実行力を持った官僚が参議官として登用されるようになりました。しかし、その大勢を占めるのは貴族であり、特に高級官僚職に皇帝派の名門貴族が集中しています。また、これら官僚職は世襲ではありませんが、その地位はよほどのことがなければ終身の形で継続されますし、制度上はどうあれ引退後に空いた席にはその子供や親戚が就くことが殆どです。こういった事情から、その権力に大きさ比して判断力の乏しい官僚が多く、私利私欲のために活動する者も少なくはありません。
一般の市民はよほど才能と幸運に恵まれていても下位の官僚職に就くのが精一杯でしょうし、貴族のために席が必要になれば簡単に地方や閑職へと飛ばされたり、さしたる理由もなく免職されてしまうこともあります。なお、資産を持つ有力市民の場合は、貧乏な貴族から官職を買い取るという手段も考えられますが、それだけで高い官職につけるわけではなく、賄賂を贈るなど有力貴族と個人的な繋がりを持つ必要があります。
▼省庁
◇内務省
国内行政の中心であり、行政府では最も重要な機関となります。省内には警務局(警察機関)、地理局、郵政局、人民局(戸籍の管理など)、聖職局(宗教機関の活動管理)などがあり、人民活動の一切を監視する役割を負っています。◇工部省
機械工業の普及・発展や鉱山開発などを担当する機関で、官営工場を建設するなど興業政策を推進しています。近年では長距離鉄道の敷設を計画しておりますが、貴族領主の反発もあってうまく進んではおりません。◇宮務省
帝国主催の式典を取り仕切ったり、政府所有の施設を管理したりする機関です。貴族の後継者登録の処理や家督争いの調停を行う貴族局や、邦国間に起こった問題を調停・解決する部局も宮務省の下部組織になります。◇地方省
帝国自治領の行政担当機関で、地方長官は地方参議官の中から選出されることになります。下部には地方自治局や開拓局などがあり、開拓兵の行務監督も任されています。
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皇帝
皇帝はカイテイン帝国の頂点に立つ存在であり、カイテイン皇家直系の子孫が世襲的にその地位に就きます。継承者が途絶えた場合は、有力者の家系などから養子が迎えられることになりますが、それも皇帝の血筋に連なる一族の者に限られ、カイテインの血族以外が後を継ぐことはありません。
▼政治的役割
皇帝は帝国立法院(第一会議)の永世議員であり、帝国参議会の永世最高参議長として位置づけられています。司法組織は帝国参議会に含まれ、また、諸貴族には立法議員と参議会議官の兼職は許されてはいないため、三権に携わる公的な存在というのは帝国全土において皇帝が唯一となります。皇帝はこのような地位にあることから、行政と立法の間を仲介する役目となり、また、帝国軍全体の統帥権を有するただ1人の存在でもあります。
▼権限
大公爵位が廃止されて以後は皇帝の権限が強化され、帝国内でその威光に逆らうのは自殺行為とも呼べるものです。このような状況が確立されたのは皇帝の策略だけではなく、制度改革よりも個人の利益を望んだ貴族たちが皇帝と懇意になることを選び、皇帝の権威を助長していったためでもあります。
しかし、皇帝自身も法に拘束される身であることから、無制限の専制が許されるわけではありません。また、地方領主が利害を二の次にして結託すれば、立法院で皇帝派の意見を抑えることも不可能ではありません。
○人物
▼ハルネス2世(男/48歳)
聖歴778年に死去した父ジュミール3世の跡を継いで即位した現皇帝です。首都ネルイールの中央にあるアイデルハウト宮殿に居を構え、皇帝府の人員とともに日々精力的に公務をこなしています。
皇家はスレイラール人の血を強く引いているため、皇帝もやはり金色の髪と青い瞳の持ち主です。皇家の男性は代々偉丈夫で、ハルネス2世もその例に漏れず風格に満ちた容貌をしております。眼光は鋭く、立派な口ひげをたくわえているため、彼を前にしたものは強い威圧感を受けずにはおれません。最近では髪に白髪がまじるようになっていますが、老いが彼から威厳を奪うことはなく、目元に刻まれた皺はいっそう人間的な深みを感じさせます。
行政執行者としての彼はおおむね優秀と呼べるもので、工業や科学技術の発展にも目を向けた政策を展開しております。この方針は祖父および父から受け継いだものであるため、決して目新しさを感じさせませんが、鉄道やガス灯の導入、そして鉱山開発などにおいて一定の成果をあげており、方策の正しさを結果として示しています。しかし、彼は結果を急ぎすぎる傾向があり、幾つかの事業を失敗に終わらせたりもしています。これは頑固でひたむきな気性が裏目に出たためですが、彼に対して強く意見を述べる者が殆どいないがゆえの結果ともいえます。皇帝の発言権が強いことも1つの要因ですが、大方の人間は皇帝の怒りに触れることを恐れて口をつぐんでしまうのです。彼は滅多に怒りを表に見せることはないのですが、ひとたび逆鱗に触れた場合は、その苛烈な恫喝の声は宮殿中に響き渡るといいます。皇帝に意見できるのは弟であるレイドールと皇妃ロザリンデ、そして護衛でもあり側近としても特別に信用を置かれている九連星の1人、ジェフロー=ファヴロニーズだけです。ファヴロニーズは騎士の身分ではありますが、皇帝の護衛兼学友として幼少より一緒に宮廷で生活した仲であり、私的な場面ではいまでも無二の親友として付き合っています。
皇帝はこの年齢にして日々の鍛錬を欠かさず立派な体躯を維持していますが、これは彼の家庭教師であったブレッカース大佐の影響です。彼は幼い頃より剣や乗馬の訓練を積んでいるため、今でも相当の腕前であるようです。また、軍事的な才能にも素晴らしいものを見せ、チェスなどのゲームでは将軍や戦略家たちにも滅多に負けることはありません。これは実践での勝利ではないため、そのことをして机上の大英雄と揶揄するものもおりますが、そういう彼らも実際の戦場での指揮経験があるわけではないため、ただの負け惜しみに過ぎません。
このような才を持つ皇帝が、実際の軍事政策に対して興味を示さないわけはありません。外海への野心を常々抱いてきた彼は、国外市場の獲得のみならず新大陸エスティリオへの参入をも夢見ており、その足掛かりとなる港を得るためにルワール大公国との交戦を準備させています。しかし、交戦前の特務労役や徴兵に労働力が割かれることに対して、農民層を中心とした国民の間から不満の声が挙がっています。また、チェンバレン公爵を筆頭とした反皇帝派の邦国領主たちの中にも、こういった声を理由に出陣に反発しています。しかし、それはあくまでも長期的な展望を視野に入れたものではなく、皇帝権の助長に対する反動という近視眼的な発想に根ざしたものでしかありません。そのため、彼らの意見は逆に皇帝の意志を強固にするのみで、遠征を内部から押しとどめる力になり得ていないのが現状です。
○皇帝府
皇帝の代理として皇帝権を行使する権限を持つ政府の公的部署で、皇帝および直系皇家のみに仕える機関です。かつては皇帝の私的な事務処理機関だったのですが、皇帝に多くの政治的権限が与えられるに至って、政府官僚として扱われるようになりました。その後、皇帝府には護衛や生活の世話役、または教育係などが加えられ、皇帝一家の生活と政治的行務に関わる一切の役割を受け持つ現在の組織形態へと姿を変えています。
▼構成
皇帝府は皇帝の代理として府外の仕事を受け持つ外府と、皇帝の補佐を行う内府の2つに分かれており、それぞれを外府長官と内府長官が統括しています。
▼人選
皇帝府の人員の選択権は皇帝にあるため、その殆どが自身の血族や古くから仕える家臣の一族となります。
▼官職
◇代議官
皇帝代理の立法議員および参議官として、立法・行政に関係する職務を執行します。任期や皇帝権の代理行使については、その都度皇帝からの委任状を得る必要があります。◇補佐官
皇帝の公務を補佐する役職で、代議官のように公式の場で皇帝の代理を務めることは出来ません。◇送儀官
皇帝と各機関や自治体の間で文書を伝送する役職です。◇式典官
式典などの宮内行事を取りまとめる役目です。◇護衛官
皇家一族やその所有する屋敷などの護衛を行う役目です。皇家に仕える騎士が指揮を受け持ちます。◇皇帝騎剣隊
正式名称を皇家特別護衛騎剣隊といい、スペシャルソーズとも呼ばれる特別な近衛騎士隊です。彼らは皇帝府に所属する護衛隊の一員であると同時に、皇帝の私的な騎士でもあります。特に九連星と呼ばれる皇帝の側近たちは、国外にも広く名を知られています。
○皇帝使節団
今年の秋に皇帝が計画しているフレイディオン、ライヒスデールへの訪問使節団であり、皇帝自らが赴く予定となっています。使節団の表向きの目的は大陸の緊張緩和のための平和会談とされ、また、工場や造船所などの工業関係の施設見学や、ライヒスデールへ留学中の皇帝の息子ユリシーズに会うことも理由の1つとされていますが、真の目的は両国との軍事同盟の締結です。
その道中でペトラーシャを通過するため、ペトラーシャ国王を表敬訪問することにもなっておりますが、その来訪を喜ぶペトラーシャ国民は1人として存在しません。ペトラーシャはルワールへの抗戦が始まれば、その同盟国として矢面に立つ可能性もある国家であり、同時にライヒスデールと抗戦しているユークレイと古くから同盟を結んでもいるからです。しかし、皇帝の真意を予想しながらも、両国の関係を悪化させないためには断るわけにもゆかず、国王や政府高官たちは招かれざる客と冷たい宴をともにして、敵国へとにこやかに送り出す結果となるでしょう。
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軍事
○軍隊
カイテイン帝国軍は、各領主(皇帝領を含む)の保持する兵士と、帝国自治領から徴集される民兵で構成されています。各軍は自治体単位で地方管区軍としてまとめられており、それぞれの指揮権は各領主もしくは地方長官に与えられます。帝国軍全体としての統帥権は皇帝が持ちますが、平時は軍務省に貸与されているため、実際の軍事計画を立案・進行するのは軍務参議会であり、軍務参議長が全体の指揮を受け持つ形となります。
▼陸軍
カイテインは移動ルートとして有効な海を持たないため、海軍を保有しておりません。河川などを利用する場合でも、陸軍の1部隊として水兵隊を構成することになります。珍しいところでは、北方領地に氷上兵隊という部隊が存在し、氷上船を利用して流氷海域の警備を行いますが、存在意義はないに等しく、他の部隊からいつも揶揄されています。
○兵制
カイテイン軍は常備軍ですが、兵制は領地によって異なっていても構わず、各領主は規定された兵数を揃えていれば義務を果たしたことになります。そのため、必ずしも訓練された兵を有しているとは限らず、式典の時や有事にのみ農兵をかき集めることで、義務を果たそうと考える領主貴族も存在します。
それでは近代兵装を備えた他国の常備軍に抗することは難しいため、皇帝は志願兵を主体に構成される強力な常備軍の整備に力を注いでいますが、資金をはじめとする様々な問題があるため、不足の兵力については現在のところ傭兵で補うしか手はないようです。しかし結局のところ、旧式の装備しか持たない帝国の軍事力は、兵員の増強をもってしても容易に穴埋めできるものではなく、この観点からもライヒスデールやフレイディオンとの同盟締結を急いでいます。
▼献上兵
強力な常備国家軍の設立を目的として取り入れられた制度で、各領地から帝国へと兵士を貸し出し、その兵を国費で賄うというものです。献上兵の殆どは開拓兵として扱われ、地方の自治領に派遣されることになります。
献上兵は一定の期限付きで貸し出されるもので、領主の要請があっても期間内であれば国元へ戻す必要はありません。しかし、献上兵を出したことに対する代償として、各領地の供出する軍費や兵数が軽減されますし、生活の保証および教育が無償で行われることにより、献上兵士にも幾つかのメリットがあります。
○兵士
▼将校
将校として隊を指揮するのは、領主貴族とその一族を中心とした貴族層、および彼らに仕える騎士が中心となります。この他にも才能を買われて、下の身分から下士官として登用される場合もありますが、高い位へとのぼりつめることは殆どありません。
▼騎士
無領地貴族であり、領主貴族に仕えて俸給を受け取っている軍人です。多くは将校として部隊を率いるのですが、特に信頼の厚い者は身辺の警護を任されたりすることもあります。
▼一般兵
平時に徴集される民兵で、一定期間の訓練を受けた後は予備役となります。
▼戦時徴集兵
戦時に徴兵として召集されるもので、農民層が中心となります。現在もルワール大公国遠征のために徴兵が行われたり、ルワールに接する領内では砦建設のための特務労役が課されておりますが、これに対して下層市民の不満が鬱積しているようです。
▼皇帝近衛兵
皇帝領を中心に常備されている職業軍人であり、帝国軍の主力となります。民間からの志願兵の他に、無領地貴族や没落した貴族なども多く含まれています。
○軍事情勢
現在カイテイン国内での最大の問題は、ルワール大公国への進出についてです。これは新大陸エスティリオへの参入や余剰穀物の輸出を目的としたもので、そのための足がかりとなる港を得るためにルワール大公国が必要なのです。
この計画のことを南方政策と呼びますが、これが必ずしも国内の支持を得ているわけではなく、地方領主の中には皇帝派に反発する動きも見られます。ルワール大公国は黄人の反乱という大きな問題を国内に抱えており、自国の戦力のみで大国カイテインの武力侵攻を止める力はありません。しかし、ルワール大公国への侵略は他国の干渉を招くことは間違いなく、特にロンデニアに対する警戒の声は大きく、皇帝派もこれを無視することは出来ません。というのは、カイテインは海を持たないことから海戦の経験が一切なく、いざ港を得ても最強の海軍国家ロンデニアに封じ込められてしまう可能性もあるからです。
また、カイテインは科学的にも遅れており、兵装も周辺国家に比べて貧弱です。神聖同盟3国(ユークレイ、カスティルーン、ペトラーシャ)とは殆ど交易がなく、ほぼ唯一のルートであるルワールとの抗戦ということで、いずれからも武器が輸入される可能性はありません。こういった理由からも、先進国家の代表的存在であるロンデニアの軍事力は脅威であり、何らかの対策を考えないわけにはゆかないのです。
そのため、皇帝はライヒスデールおよびフレイディオンとの同盟を考えており、今秋に両国へと赴く計画を立てております。この2国を選択したのは、ルワールとの抗戦が始まれば矢面に立つ可能性もある神聖同盟と敵対しているのが何よりの理由です。この他にも、隣国エリスファリアとは関係がよくないことや、ルワールと不仲にあるメルリィナは戦力としてあまり期待できないといった事情があります。皇帝の両国への訪問は、表向きは工場や造船所などの工業関係の施設の見学などを目的とした皇帝使節団としての訪問ですが、最大の目的は軍事同盟の締結に他なりません。また、カイテイン軍は長く他国との戦争を経験しておらず、実戦での指揮官の能力も問題視されることから、両国の士官学校に身内を含む将校たちを留学させ、近代兵法を学ばせる心づもりでいるようです。
○国家関係
▼友好国
現在のところは、友好国と呼べる親しい国家はありません。ただし、近い将来にはライヒスデールおよびフレイディオンとの軍事同盟が締結される予定です。
▼敵対国
ユークレイとは古くから敵対しており、現在でも殆ど国交がありません。また、ユークレイと神聖同盟を締結しているカスティルーンおよびペトラーシャも、潜在的な敵国と呼べる存在です。ただし、ペトラーシャとは交易も行われており、表向きの敵対関係にはありません。それから、侵攻を計画しているルワール大公国と、ルワールと親交の深いロンデニアも、カイテインに対して警戒している国家となります。
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警察
○警察機構
内務省に属する警務局が警察組織を統轄しています。警務局は国家警察として機能し、その下部組織として州警察などが各地域に配備されています。
領邦国家および独立伯爵領に設置される警察組織は領主の指揮下に入っているため、完全に中央行政主導の組織というわけではありません。中心となる国家警察は、州警察などの下部の組織に対して監査・粛正を行う権限を持ちますが、皇帝領や帝国自治領とは異なり、各貴族領地に対して皇帝や警務局が過剰に干渉を行うことはありません。そのため、地方領主が警察と手を組んで不正を働くことは容易であり、水面下で大きな犯罪が行われることも少なくはないようです。これに対する監査を行う権限を持つのは司法省となりますが、将来的なことも含めて各貴族との関係を考慮すると、よほど確実な証拠でもなければ強制査察を試みるのは難しいでしょう。
組織体系は通常の形態で、警察署の中にいくつかの部署があり、刑事や警察官が業務を担当します。警察組織に務める場合は、警察学校で訓練を受けなければなりません。
○管轄
▼国家警察
全警察組織に対して指揮監督を行う部署で、首都に庁舎が存在します。基本的に現場での捜査は担当しませんが、複数の自治体をまたがるような犯罪の捜査には広域捜査官が出向きますし、秘密警察は政治犯などを対象とした捜査を専門に行います。
▼自治体警察
各邦国、独立伯爵領、帝国自治領の警察業務を監督します。また、広域の犯罪を取り扱ったり、応援要請があった場合は地域に出向いて業務を手伝います。州警察や小州警察は幾つかの市警察を統括しており、市警察はさらに地域警察や街区警察といった小さな部署を管理しています。
▼首都警察
州警にあたる大きな組織で、首都周辺の警察業務を取り扱います。首都に存在する重要施設などの警護も首都警察の担当です。
○特殊な部署
▼内務警察軍
警務局には農民暴動などの対策部署として、内務警察軍という特殊な地方警備組織が整備されております。その業務の殆どは軍隊と同一のもので、階級も警察少佐などという具合に名付けられていますが、軍とは全く異なる機関です。
命令はすべて国家から発せられ、地方自治体には一切の権限を与えられていないため、各自治体に対する監視・威圧の役割をも担う部隊となります。内務警察軍が設置されるのは、諸侯への配慮から皇帝の直轄領地および帝国自治領に限られますが、このような組織が付近にあることを警戒する領主貴族が大半を占めます。
この制度が認められているのは、現在の帝国制度の成立期に起こった幾つかの地方反乱の鎮圧に対して、非常に有効に機能したためです。しかし、現在は内乱の数も非常に少なくなっているため、組織そのものの見直しを迫る諸侯もあらわれはじめています。
▼広域捜査部
国家警察直属の部署で、複数の自治体にまたがるような犯罪の捜査に出向きます。捜査官は各自治体警察へ出向して調査に当たることになりますが、出向先で協力が得られないこともよくあります。
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司法
○法務省
行政府の1つに組み込まれている組織であり、永世最高参議長である皇帝の名の下に裁判が行われることになります。
カイテインではまだ三権が分立されていないため、行政府自体の不正をとどめる機構が存在せず、そのことが国家を悪い方向へと進ませることもあります。法務省は他の省や地方自治体に対する監査権限を持ちますが、これが有効に機能するのは皇帝の管轄下にある皇帝領および帝国自治領についてだけとなります。領邦国家や独立伯爵領では、法務省官僚への賄賂によって不正が見逃されることも多々あり、皇帝が頭を痛める1つの原因ともなっています。
しかし、古くは裁判記録の調査さえ容易ではなく、数多くの犯罪が闇に隠蔽されていたようです。領民への暴行の結果による傷害致死などは日常茶飯事のように起こり、なおかつ大半の事件が無罪とされていたようです。また、領主が美しい娘を集めてハーレムのようなものを作った例もあり、それに比べれば定例監査が行われるようになっただけましと言えるかもしれません。
○裁判所
裁判所は州などの自治体ごとに分けられており、それぞれに上級裁判所(州/小州/準州)、下級裁判所(地域自治体)の2つが設置されています。この上に帝国最高裁判所が存在しますが、これは自治体や政府機関が帝国法に反していないかどうかについて判決を下すもので、一般市民に対する裁判が行われることはありません。
裁判の進行方法は現実世界とほぼ同じ方式で行われ、判決に不服があれば控訴を行うことも出来ますが、邦国内では不正裁判がまかり通ることが多いのが実状で、だいたいの場合は社会的身分が高い方が勝利すると考えてよいでしょう。これを覆すにはよほど確実な証拠を握っていなければなりません。
▼自治体間の争訟
自治体間の争訟を扱う権利を有するのは、立法院の第一会議となります。この場合は司法参議長が審問官および議長として会議を取りまとめる役となり、皇帝が最高裁判官となって判決を下します。▼貴族裁判
領主貴族の犯罪を裁くことが出来るのは帝国最高裁判所のみとなります。しかし、刑の執行書に皇帝が署名しなければ、貴族には刑を下すことは出来ません。ただし、これは最高裁判所の裁定を覆すことを意味するわけではなく、署名が行われるまでの間は執行猶予処分ということになります。
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