作業機械
動力機関は様々な工業分野に利用されており、それに応じた機械が次々と生み出されています。たとえば運搬や印刷、あるいは紡績といった作業がありますし、他にもポンプや鎚打ちといったものの動力としても頻繁に利用されています。
○現存する作業機械
今現在のエルモア地方で利用されている作業機械には、以下のようなものが存在します。
掘削機/足踏み式ミシン/歯車式計算機/動力織機/パンチカード式織機/蒸気製粉機/蒸気ハンマー/ロープ巻き上げ機(ウインチ)/プロペラ推進機/蒸気シャベル/ねじ切り旋盤/自動刈り取り機/試作タイプライター
○作業機械の可能性
将来的に作製可能な作業機械は以下の通りです。これはだいたい30年以内に技術的に実現可能になると考えられるもので、中には既に試作品が開発されているものも含まれています。
もっとも、技術だけで発明がなされるわけではありません。必要と発想があって初めて形となるものであり、また、実用化に至るには不断の努力が要されることでしょう。もちろん、現在ある品々に比べると機能は遙かに劣り、実用には耐えられない代物が出来上がる可能性もあります。
クレーン/ブルドーザーなどの重機械/はしご車/ポンプ搭載の消防馬車/動力式ノコギリ/動力旋盤/手回し式蓄音機/階差機関/解析機関/エレベーター/編み物機/機械式脱穀機/内燃機関の実用化/グラビア印刷/ロープウェイ/ベルトコンベア式生産方法/コンバイン/洗濯機/掃除機/芝刈り機
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計算機械
○概要
計算機の理論はわりと古くから存在し、聖歴604年には乗除算も可能な手回し式の歯車計算機が開発されています。しかし、これは精度が悪いために間違いも多く、実用化されるためには時代を待たなければなりませんでした。実際に使用できるレベルになった計算機械が販売されたのは、749年のことになります。
▼用途
手回し計算機は天体の運行を知るための天体表や、航海で船舶の位置を知ための航海表、あるいはその他の数表(単位の換算表)などの作成のために利用されました。他にも大砲の弾道計算といった限定された用途で使われていましたが、一般社会で利用されることはあまり考慮されておりませんでした。強いて挙げるとするならば、税金などの計算をするのがせいぜいでしょう。大きさは旅行鞄くらいで、重量も1人で持ち運べないほど重くはないのですが、移動してまで利用する用途も殆ど見あたりません。
▼開発
これらは未だ精度の面で問題があり、間違った結果を算出する場合があります。また、扱える桁数もそれほど大きくはありませんし、単純な四則計算でしか利用することができません。
しかし、新大陸エスティリオの発見以来、正確な天体表や航海表の作成が最優先事項となっており、高い計算精度が求められるようになりました。そのため、ロンデニアなどの海洋貿易を盛んに行っている国家では、新型機械の開発が精力的に進められています。
○技術と開発
聖歴789年の現在では、新型機械の開発に必要な材料はおよそ出そろっています。ですから、新しい発想をもたらす開発者と優秀な機械職人、そして潤沢な開発資金が揃えば、さほど遠くない未来に優れた計算機械が登場する可能性はあります。なお、これまである技術では、以下のものが歯車式の計算機械に関連します。
▼歯車機巧
機巧人形や時計、あるいはオルゴールなどの歯車機巧です。ただし、精密な計算機械を作製するためには、非常に腕のよい職人が必要となるでしょう。
▼パンチカード機構
パンチカード式の模様織り機の開発は聖歴751年に行われています。この織機はパンチで穴を空けたカードを使用し、縦糸と横糸をどのように置いてゆくのかを決定するための機構が組み込まれています。同様の手法で、計算手順を記録したパンチカードを用いて、機械に計算命令を送ることも可能です。
新しく開発された模様織り機は、もともとセルセティアにあった織機を改良したものです。セルセティア製の織機では、穴の開いた木や竹の薄板を糸でつなぎあわせ、それを読み込むことで糸の組み方を簡単に指定するものでした。改良された新型織機では、それよりもさらに複雑な模様を織ることができます。
これと似た機構に、ストリートオルガンやディスク式オルゴールなどの楽器があります。特定のパターンを刻んだ物品(紙やディスク)を取り替えることで、演奏機構そのものは同じでありながら違う楽曲を演奏できるという点では、これらもパンチカード式の織機と同様の発想といえるものです。
▼蒸気機関/霊子機関
手回し式の計算機では演算に時間がかかりますし、装置が大型化した時には対応できなくなってしまいます。そのため、これらの動力機関を使用することで、高速な計算ができるようになります。なお、計算機械に利用するのであれば、小型で煤煙の出ない霊子機関の方が明らかに向いています。
▼印刷機構
活字式の印刷機械はすでに存在しておりますし、聖歴785年にはタイプライターの試作機も発明されています。これを計算機械と連動させることによって、計算結果を活字で出力することが可能となります。
○新たな計算機械
聖歴789年現在でも発想さえあれば、以下のような計算機械を製造することは不可能ではありません。これらが実用化されれば、機械装置や建築物の設計といった分野も現在より進歩するはずですし、弾道計算なども現在より遙かに高速で行うことができるようになるでしょう。
▼階差機関
階差法を利用した階差機関と呼ばれる計算機械では、方程式を解くことができます。これについては、既に開発に取りかかっている研究者が何人か存在します。
▼解析機関
解析機関は現在あるコンピューターの概念に近いもので、入力、出力、処理(演算)、記憶といった機能を持つ計算機械です。計算手順はパンチカード(あるいはそれに類するもの)などに記録しておき、その命令を読み取って一定の手順で計算を行ないます。
○問題点
▼大きさ
これらは実際に作成するとなれば、現在ある計算機械に比べて遙かに大がかりなものとなるでしょう。5桁程度の計算が出来るものであれば、だいたい卓上に乗る程度の大きさで済みますが、20桁以上ともなればアップライトピアノほどの大きさとなり、2トンを超える重さとなるでしょう。
機械の精度や扱う桁数を落とせば、装置は簡略化することが可能です。とはいえ、実用の計算機械として成立させるためには、現在の技術ではこの2/3程度の大きさにするのが限界でしょう。
▼プログラム
解析機関を完成させるためには、現在のコンピューターと同様に演算方法を体系化して、誰にでもわかるプログラムを組む必要があります。これは設計の根本にも関わることですし、他の人にも理解できる整理された形にならなければ、開発者以外が利用できる機械には成り得ません。これには少なくとも数学を学んでいる必要があり、数年程度の時間をかけて理論を構築しなければならないでしょう。
▼操作
パンチカードの作製も含めて、これらの計算機械の操作には専門の知識が必要となるでしょう。
▼資金
これらを開発するには、人件費を含めて最低でも1億エラン以上の資金が必要となります。もちろん、途中で失敗すれば、さらに予算がかさむことになります。いくら理論が構築できても、資金がなければ作製を断念せざるを得ません。
こういった数々の問題をクリアし、それなりの精度をもった計算を作成するには、少なくとも20年以上の年月が必要でしょう。しかし、よき理解者がいて、政府や研究機関などの援助があるのであれば、これを10年程度に短縮することも決して不可能ではありません。しかし、それでも機械の小型化には相当の年月が必要でしょうし、一般に利用されて大量生産されるようになるには、社会全体の進歩を待たなければならないでしょう。
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撮影機器
○写真
▼技術
写真の発明が誰の手によるものかは明らかではありませんが、今から30年ほど前にその原型が出来上がっていたのは確かです。初期のものは対物顕微鏡のレンズを使用した簡単な機構で、銀板や鍍銀した銅板を使って映像を固着させるものでした。この写真は社会に好意的に受け入れられ、この新たな分野に興味を持った技術者たちが、次々と技術を革新してゆきました。
それから、他の分野に比べても急激に進歩した現在では、紙を使用する紙印画法に変わっており、当初の30分以上も被写体が静止しなければならなかったものから、速いものでは数秒程度で感光するほどに進歩しています。
これから20年ほどの時間があれば、もっと優れた感光剤が開発されるようになり、シャッター速度も1秒以下に短縮することができるでしょう。また、それから10年も経たないうちに、1/10秒以下のシャッター速度で連続写真が撮れる高速度カメラや、セルロイドを用いたフィルムがつくられるようになるはずです。
▼普及
写真は撮影に時間がかかりますし、技術者もどこにでもいるというほど多くはありません。ですから、移動や準備の時間なども考えるとそれほど数をこなせる仕事ではなく、写真1枚の単価もそれなりの金額になってしまいます。そのため、顧客はだいたい市民階級以上で裕福な家庭の者に限られるようです。しかし、あまり裕福ではない家庭の者でも、遠方に出かける前に家族に写真を残したり、あるいは軍人が出征前に両親と一緒の写真を撮りに来るということがあります。
▼カラー
現在の写真はすべてモノクロで、その点では絵画に劣ります。ですから、絵心のある写真屋はモノクロ写真に着色し、カラーにして販売するということも行っています。単価は数倍に跳ね上がりますが、それでも金持ちは気にせず買ってゆくようです。
○映写機
映写機にあたるものもエルモア地方には既に存在します。最初は見せ物小屋で使用されていたターンスコープと呼ばれる装置がはじまりで、手回しで一連の動きを与える絵が描かれた円板を鏡に映して見せるといった簡単な機構のものでした。そして、後にランタンを光源として取り付けるものが考案されて、多数の見物人が同時に見物できる装置へと発展してゆき、現在では絵のかわりに写真も利用されています。
しかし、現在のエルモア地方の写真技術では、連続映像を記録するフィルムカメラは作製することができません。動画写真を見せるための映写機の登場は、写真技術の発展と電気の登場を待たなければならないでしょう。
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娯楽用機械
娯楽用品にも機械式の機巧が取り入れられたものが多数存在します。中には一部の国家だけで限定的に使用されているようなものもあります。
○演奏機械
▼オルゴール
シリンダー式やディスク式のオルゴールは、古くから人々を楽しませてきた機械の1つです。機巧人形に組み込まれることもあり、目に耳に潤いを与えてくれます。コインを入れると踊ったりするような仕組みのオルゴール人形も作製されています。
▼動力式オルガン
長い紙に穴を穿ったパンチカードで楽譜を記し、ふいごによって演奏するストリートオルガンという楽器が存在します。しかし、これは大きなハンドルを手で回して演奏するもので、非常に体力のいる大がかりなものでした。これを動力式にしたものがカルネアに存在し、舞台で演奏する音楽に利用されています。
▼自動演奏機械
ストリートオルガンと同様に、パンチカードに演奏手順を記録しておいて、ハンマーなどを動作させて自動的に楽器を演奏する機械が存在します。パンチカードには、専用の機械を用いて実際の演奏をそのまま記録したものと、演奏せずにロール自体に直接穿孔したものの2種類があります。一般的には前者のものが利用されていますが、後者の方式は人間では演奏できない複雑な楽曲を再生することが可能であるため、これに興味を示している作曲家も少なからず存在します。
現在ではピアノ、バイオリン、アコーディオン、ハープ、打楽器など、さまざまな種類の楽器が自動演奏化されています。大掛かりなものでは自動式カリヨンや、数種類の楽器を組み合わせた自動演奏オーケストラが有名です。また、高速蒸気笛と呼ばれる蒸気機関動力の機械式バグパイプは、その珍しさから人目をひいているようです。
○人形
▼機巧人形
カスティルーンを中心とした大陸中央部では、歯車で動く機巧人形が昔から作製されており、1つの芸術分野として発展しています。一定の動作を繰り返すことしかできませんが、一流の職人の手による精巧な人形は、人間と見まがうような滑らかな動きをします。
▼動力人形
オルゴール人形と同質の機巧人形の1種ですが、大型でゼンマイ以外の動力を用いるものを動力人形といいます。水パイプと水気筒を利用した水力式の人形や、蒸気を利用して歌う蒸気人形など、様々なものが作製されています。特に舞いを踊らせるために作製された舞踏人形と呼ばれるものが人気を博しており、貴族や企業経営者などの富裕層が買い求めるようです。
▼機械操り人形
レバーを操作してポーズを変更したり、一定の動きをさせることが出来る機巧人形が存在します。これを鍵盤楽器と組み合わせて、和音の種類によってポーズを変える人形も作製されています。
○遊具
▼メリーゴーラウンド
ペトラーシャやカスティルーンでは、小型動力である霊子機関を利用したメリーゴーラウンドが作製され、子供たちを楽しませています。
▼動力木馬
走っている馬のように体を動かす動力式の木馬も考案され、一部では娯楽用に使用されています。主に貴族や大金持ちの子供が個人的に楽しむもので、一般では目にすることはない品です。
▼小型鉄道
ユークレイでは霊子機関を搭載したミニチュアの機関車がアトラクション用に開発され、遊園地で子供たちを乗せて走っています。
○その他
▼舞台装置
霊子機関の静粛性を活かして、人間の代わりに舞台装置の動作をさせることもあります。ただし、いくら静かといっても霊子蒸気を出す時に甲高い音を発するので、よほど大がかりな装置を動かす時にしか使用されません。場合によっては舞台から離れた場所に置いて、長いワイヤーで操作する場合もあるようです。
▼ターンスコープ
手回しで一連の動きを与える絵が描かれた円板を鏡に映して見せるもので、1人用の映写機のようなものです。単純な機構で長く楽しめるものではありませんが、子供たちには非常に人気があります。糸をつけて繋いだカードをスリット上で移動させながら巻き取る機構の、長尺のものも考案されたことがありますが、絵を作製する手間がかかりすぎるために、すぐに使われなくなってしまいました。
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