一般的事情
警察組織の殆どは資金不足で、頻発する様々な事件に対応しきれていない状況にあります。都市人口は年々肥大する一方なのに、増強される人員は決して多いとはいえませんし、田舎の地域警察は増員される気配すらないといった状況です。
○汚職
上層部の腐敗や汚職もまれなことではなく、自治体の為政者と手を結んで、さまざまな不正を働いていることは珍しくありません。もちろん、組織の下部にいる人間でも、ごくわずかの賄賂に屈して犯罪を見逃してしまうこともあるのです。特に中央から離れるにつれて、警察官の不正が目立つようになります。用心棒代と称して商店から金をせびるような者もいますし、裏組合と手を組む者までいる始末です。特に貴族領主が警察組織を統括している幾つかの国家では、この傾向が特に強くなります。
それから、近年では自動車などの乗用機械を利用した犯罪も少しずつ増加しており、設備投資といったものも検討されるようになっています。しかし、そういった機械は取り扱いにも専門的な知識が必要だったり、維持にも多額の費用を要するため、そこまで資金が回る状況ではないようです。これには上層部の汚職も拍車をかけており、逆に設備増強の機会を利用して、公金の着服を狙う者も上層部には少なからずいるようです。
○人員育成
こうした警察官の職務意識の低下というのは、警察学校制度の導入により少しずつ改善されつつあります。しかし、都市では増員を優先するあまり採用基準を甘くしてしまい、以前よりは若干ましとはいえ、質の低い警察官を増加させる原因ともなっています。
優秀な警察官の育成には時間がかかりますし、それに要する資金も少なからずかかります。しかし、近年では犯罪も多様化しており、法律のみならず広範な知識が必要とされる場面も少なくありません。そのため、警察学校制度そのものには批判はそれほど集まらず、おおむね認められている状況にあります。
○臨時警察官制度
現実の犯罪に対応できないのでは、いくら優秀な警官がいてもどうにもなりません。ですから、足りない人員はその都度増強するといった形式になってゆきます。それが臨時警察官制度であり、これによって採用された者は一般的に保安官と呼ばれています。辺境など中央から離れた場合は、保安官しか駐在していないこともあります。
これは一部では確かに有効に機能しているのですが、保安官は何の訓練も受けていない一般人なので、質の低下を招くことは否めません。また、賃金が安いためか、保安官の汚職は一般警察官よりも格段に多く、やり口においてもギャングと大差ない者すら存在します。逆に言えば、そのようなチンピラに頼らなければ治安が保てない地域があるということで、こういった場所では特に現状の改善が強く叫ばれています。
○民間
警察組織の汚職というのは、あらゆるレベルで害をもたらしており、組織体制の改善を試みる自治体も少しずつ現われはじめています。そして、自治体個別の警察制度ではなく、行政が全体を統括・監視する新しい時代の警察組織が、幾つもの国家で既に導入されています。とはいえ、為政者が率先して汚職を行っている状況ですから、これも効果を挙げているとは言い難い状況にあります。
そのため、場合によっては探偵や何でも屋といった民間人に頼らざるを得ないこともあり、彼らが存在し得る理由ともなっています。最近では無能な刑事の代わりに、颯爽と事件を解決する私立探偵も現われ、民衆の人気を集めています。特にロンデニアのラングリット=バイター氏は他国でも有名で、彼の手記は788年のベストセラーとなっています。また、住民の味方となる怪盗に向けて拍手を送るのも、このような現状があってのことなのです。
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裏事情
汚職を行っている側としては、住民に愛想をつかされない程度に機能し、かつ資金が適度に余る状況が望ましいのです。そのため、軍や優秀な民間組織に警察権が移行せず、過度に民間人や教会に頼らない状況を作り上げる必要があります。
軍と警察を指揮する組織が別個である場合には、特に軍に対する反発心は強いようです。軍隊に対して出動を頻繁に要請すれば借りをつくることになりますし、余計に権力を与えることになるというのが表向きの理由です。しかし、実際には軍に予算が回ってしまえば、自分たちが甘い汁を吸うことができなくなる、というのが上層部の本音のようです。軍は民間組織と異なり、賄賂や不正の見逃しを行うことで抱き込むことができないのです。
また、聖母教会の聖職者が色々と犯罪がらみの事件で功績を残すこともあります。しかし、警察が無能で何もしてくれないとして、他にも頼りになる存在があるとするならば、誰が警察に資金を提供するのでしょう?
こういった事情から、警察の上層部は警察学校という養成機関を設立することを計画しました。これにより、新しい時代の犯罪にも対応できる人員を養成すると同時に、養成資金の一部を着服することもできるのです。
しかし、1人にかかる養成コストが上昇するため、他の部分で埋め合わせをしなければならなくなりました。そこで目をつけたのが、何でも屋などと呼ばれる職業人です。犯人逮捕に協力したという名目で報奨金を出せば、無能な警察官を雇い続けるよりは効率的と考えたのです。なぜなら、成果に対して賃金を支払うということは、支払った分の効果は確実にあるわけです。また、犯罪が多い都市では、警察官の殉職によって遺族に見舞金を出さねばならないこともありますが、一般市民に見舞金を払う必要はありません。
こうして報奨金制度が生まれましたが、そのままでは聖職者などが手柄を立てるのと全く意味は変わりません。そこで上層部の人間は、資金を支払って手柄を警察のものとする制度を考え出したのです。それが臨時警察官制度というものです。後に、逮捕後に日付を戻して臨時警察官を登録するといった不正も行われるようになり、彼らの付け入る隙はますます広がりました。というのは、一般市民には逮捕権も捜査権も与えられていないため、場合によってはそれ自体が犯罪となってしまうからです。警察の人間は犯罪行為を見逃してやる代わりに、報奨金の一部を受け取るという方法で私腹を肥やす術を身につけました。もし見返りがなければ、その人間を逮捕して後悔させてやればよいのです。法的には何も問題ありません。
これらの構造は警察組織のさらなる腐敗を生み出しましたが、犯罪に対する効果という意味では、当初の期待以上に機能を果たしています。ですから、誰かが明るみにしようとしない限りは、これらの制度は現状のまま続いてゆくでしょう。
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