神と悪魔
聖母教会系の宗教機関では、神は唯一無二にして万能の存在であり、万物を司るものとして崇められています。神は無から世界を創造した創造神であり、神の意志により物質は生成・活動します。神の助力なしで現象は起こり得ず、人々の肉体や魂の活動でさえ同様であるとされています。
神は天界に住んでおり、そこから下界の様子を見守っていると考えられています。天球(宇宙)は神の創造した天幕であり、その向こう側に天界が存在すると聖典では記されています。ゆえに、神と同じ次元にあるもの、あるいはその意思を星幽と呼ぶこともあります。天界は天国によく似た場所として聖典に描かれており、時間にせよ空間にせよ終わりのない所であるとされています。
○天使
天使は神の使いとして人々を見守り、清き魂を持つ者を助けるのだとされています。基本的には天界の住民なのですが、人間の世界に降りてきている者も数多くいると言われています。
彼らは神の意志を代行する者であるとともに、天界の兵卒とも言える存在で、今に至っても悪魔と戦い続けています。大変異現象の影響が時とともにおさまっていったのも、天使が悪魔を倒したからだと考えられているのです。
▼天使質
人間の中にも天使の魂(天使質)を持つ者がいると考えられています。その代表格が使徒や聖者という存在であり、神の子として崇拝の対象となっています。また、天使質を持つとされる人間は、死後に天使として転生を果たし、人間を見守る役を与えられると考えられています。このような考え方を天使転生説と呼んでいます。
○悪魔
悪魔は神を裏切った堕天使であり、神に敵対して人間の魂を穢すことを目的として活動しています。彼らは魔界と呼ばれる異世界に住んでおりますが、人間の世界へも度々あらわれ、悪の伝道者として人々を堕落させて、その魂を魔界へ持ち帰ろうとします。
かつて天使であった彼らが悪魔へと転生する契機となった事件が、魔神ユーカリヲン(アヌカリヲ)が起こした天界での反乱です。彼は仲間の天使をそそのかして、天の大地と呼ばれる平和の楽園を地上に落とし、大勢の人々を死に至らしめたと言われています。ユーカリヲン(アヌカリヲ)はその罪により翼をもがれ、退魔の業火と呼ばれる光で滅ぼされることになりましたが、その際に神を恨んでその創造物である世界に呪いをかけました。それが大変異現象と呼ばれるもので、現在起こっている変異現象も魔神によるものと考えられています。
人間が変異現象の影響を受けた場合、それは悪魔に魂を穢されたことを意味します。しかし、これはその人間が罪を犯したことが原因だと考えられており、魂を清めなければ天国へ行くことが出来ず、永遠に苦しみを味わうことになると教えています。そのため、変異現象の影響を受けたものは神の力をもって浄化する必要があり、聖職者はそのための活動も行っております。
○神託
神や天使たちから送られる啓示のことを神託といいます。神託のうちで最も有名なものがユナスの降臨で、シェアの老女と呼ばれる女性にだけユナスの予言が聞こえたといいます。
神託は魂に語りかけてくる声だといい、天使質を持つ聖なる存在にしか聞こえないと言われています。聖職者はこれを術法によって行うことも出来ますが、それはまだ未熟なために補助的な手段を必要とするのであり、真に心清き者は何もしなくても神と心を通わせることが可能であるとされています。
しかし、神託が聞こえたかどうかは、外部から判断することは出来ません。そのため、重要な神託は教会がその真偽を判別し、そこで認められたものだけが神託として人々に伝えられます。というのは、神託と思われたことが神を装った悪魔の囁きである可能性もあり、実際にそれが原因となった事件が過去に起こっているからです。
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冥界
死者の魂がたどり着く場所を総じて冥界と呼びます。死後は誰もが冥界へ行きますが、そこから先は2つの運命に分かれます。天使はすべての人々の行動や思考を監視しており、その記録に従って神の裁きが行われます。そして、生前に善行を施し徳を積んだ者は天国へ行き、救われぬ魂を持った人間は地獄へと落とされることになります。
○浄空(エトラ)
1つは浄空(エトラ)と呼ばれる地で、一般には天国と言われている場所です。神に祝福された死者は、死んだ後に雲の上で目覚めるといいます。そこには1つの扉があり、その向こうには螺旋階段が続いているのだそうです。螺旋階段の先は雲と薄霧に包まれていてよく見えませんが、しばらく登っているとエトラと呼ばれる場所へと立っていることに気づきます。
エトラは天界に最も近い場所であるといわれる楽園で、清浄な水と美しい草原や花畑に囲まれた安楽の地です。人々はここで穏やかな時間を過ごし、時間が経てば転生して再び人間の世界に降り立つのだといわれています。
○辺土(リンボ)
もう1つの階層は辺土(リンボ)と呼ばれています。これはいわゆる地獄として伝えられている場所で、悪行を積んだ罪人、悪魔に魂を売った反逆者、それから変異現象の餌食になった者などが行く、魔界へと繋がる穢れた大地です。
リンボへ行くことになった死者は、まず漆黒の扉の前で目を覚まします。この扉には、その人物が犯した罪の記録が書かれているといい、それによって行くべき場所が決定されます。扉の中は塔のような石造りの建物で、無限にも続くかと思われる螺旋階段が地下へ向かってのびているのが見えます。最下層と思われる場所には大きな炎が赤々と燃えさかっており、その炎を見たとたん死者はふらふらと誘われるように下へと降りてゆくことになります。
階段を降りてゆくと、いつのまにか1枚の扉が目の前を塞いでいること気づきます。たどり着くべき扉は、犯した悪行の数によって決定されており、罪が重いものほど下の階層へと行くのだそうです。扉の前には黒いフードを来た冥界の案内人がおり、案内人に導かれて中へ入ると、階層ごとに用意された償いの儀式が待ち受けています。いえ、正確には儀式ではなく拷問と呼ぶのに相応しい光景が繰り広げられており、悪魔によって罪業の分だけ1つずつ石盤を背負わされたり、爪をはがされて泣き叫ぶ罪人たちの姿を目の当たりにすることになります。
この拷問に耐え切れば、いつの日か再び人間の世界へと生を受けることができるのですが、耐えきれずに悪魔に泣きついた場合は、下の階層へと落とされることになります。すると、今度はより辛い拷問が待ち受けており、これを繰り返して最下層までたどり着いた時は、最初に見た炎の前に引きずり出されていることに気づくのです。ここまで来た罪人は、炎の中に身を投げ入れるという試練を受けなければなりません。しかし、その熱に耐えることが出来れば、悪魔へと転生することができます。ただし、犯した罪が大したものでなかったり、悪魔になるのに相応しい精神を持ち合わせていない者は、死ぬことも出来ぬまま永劫に炎の中で苦しむ亡霊となってしまうのです。この炎からは常に亡霊たちの怨嗟の声や悲鳴が聞こえて来るので、嘆きの炎と呼ばれています。なお、嘆きの炎は魔界へと通じる門の1つだとも言われています。
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