概要
○領土区分
ユークレイは貴族支配国家であり、貴族領主が各々所有する領土を治めています。領土は王家が所有する王領と、領邦国家である公国/候国(州/小州)、および独立伯爵領(準州)に分類されています。
○貴族制度
支配階級であり、非常に強い権限を持っています。領主貴族は1つの自治体を統括する存在であり、一軍の将としても活動します。無領地貴族には官僚として働くものと、騎士として領主貴族に仕えるものがいます。
○政治制度
▼国家
ユークレイは開かれた議会を持たず、行政府とその下に位置する各省庁で政治を運営しています。これらの行政機関に所属する官僚はその殆どが貴族で、民衆の意見が非常に反映しにくい制度となっています。
▼地方
地方自治体の領主には、領内の政治制度や人事についての決定権が全て委ねられています。しかし、殆どの地方では国家制度とほぼ似たような構造を取っており、貴族領主(もしくはその指名者)が州知事もしくは市長といった自治体の最高責任者となり、その下部に行政組織が整備されています。なお、領邦国家は憲法以外の法律を州法や自治法として定めることが可能です。
○軍事
王国軍として国家君主に属する組織となります。エルモア地方の中では強力な軍事力を誇っており、戦車などの最新兵器も一部の部隊では導入されております。また、ライヒスデールとの国境付近に駐留する部隊は、実戦経験もそれなりに積んでいます。
王国軍の構成は大きく2つに分類することが出来ます。1つは地方軍と呼ばれる各領主が統括する領地単位の軍であり、11の大行政区を単位として方面管区が分けられています。もう1つは王領軍と呼ばれるもので、君主の自由権限で指揮をとることが可能な、王家直属の常備軍となります。これは国王および王家に連なる家系の所有する軍に、委任領地を持つ官僚などの兵を加えたもので、傭兵隊も含めて国内軍の半数近くが王領軍で占められています。地方軍とは異なり、王領軍は訓練された常備兵からなる統率のとれた部隊であり、実際にライヒスデールとの戦闘で成果を挙げています。
○警察
行政機関に属する警察庁が警察組織を統轄しています。警察庁は国家警察として機能し、その下部組織として自治体警察が各地域に配備されています。中心となる国家警察は、州警察などの下部の組織に対して監査・粛正を行う権限を持ちます。警察組織は通常の形態で、警察署の中にいくつかの部署があり、刑事や警察官が業務を担当します。警察組織に務める場合は、警察学校で訓練を受けなければなりません。
なお、ユークレイには警務法官という特殊な立場の警察官がいます。これは聖堂騎士のうち警察に出向して働く者で、通常の業務は警察官とほぼ同様ですが、立場は独立しています。警察官としては位が高く、下位の警察官を率いて捜査を行う立場にあります。と同時に、内部の監査役としても機能しております。
○司法
行政府の下に置かれる法務庁が司法権限を持ち、全体は法教会が統括しています。法務庁で働く官僚や職員の多くは聖職者ではありませんが、上層部や裁判官といった役職には聖職者が多数配属されています。また、法務庁長官は慣習的に法教会の枢機卿が就くことになっています。
裁判所は最高裁判所(国家)、上級裁判所(州/小州/準州)、下級裁判所(地域自治体)の順に体系的に整備されています。裁判の進行方法は現実世界とほぼ同じ方式で行われ、それぞれ控訴・上告を行うことも出来ます。ただし、最高裁までの上告はあまり行われず、上級裁判所で最終判決が下されることが殆どです。
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行政区分
○基本制度
ユークレイの国内は便宜上11の地方に分割されており、これを大行政区として扱っています。しかし、これは警察や軍の管区などを決定するための区割りでしかなく、実際の政治に関しては各領地を治める領主に任されています。
地方自治体として認められている領地には、領邦国家である公爵領(公国)および侯爵領(候国)と、独立伯爵領があり、それぞれ州、小州、準州という小行政区に分類されます。なお、公爵領や公爵領を分割統治している伯爵の領地は、独立伯爵領としては扱われません。
▼地方行政
地方自治体の領主には、領内の政治制度や人事についての決定権が全て委ねられています。しかし、殆どの地方では国家制度とほぼ似たような構造を取っており、貴族領主(もしくはその指名者)が州知事もしくは市長といった自治体の最高責任者となり、その下部に行政組織が整備されています。また、領邦国家は憲法以外の法律を州法や自治法として定めることが可能です。
ただし、領主が全てを自由に定める権利を持つわけではなく、国家が定めた基本方針に従って領内政治を運営しなければなりません。たとえば、各領地が国家に治める税は王国政府によって組織された税制委員会が決定しますし、警察機関も国家警察の指導・監督のもとに活動を行うことになります。また、司法組織は法教会の手によって運営されますので、そう簡単に不正がまかり通ることはありません。
領地運営に大きな問題があり、それが国益に反すると判断されれば国家の監査が入り、下手をすれば領地没収ということにもなりかねません。貴族は民衆に対しては強い権限を持ちながらも、王家よりは権力を押さえられた存在なのです。
▼王領
王都以外にも王家直轄の領地が存在します。この地域は王家の家臣である無領地貴族が管理しており、その他の領地と同等の扱いを受けます。
○自治区域
▼特別自治区
かつてより平民によって自治を得ていた地域の中には、特別自治区として自治権を与えられているものもあります。特別自治区は国家に直属する行政区であり、幾つかの政治的権限は国家が有することになります。
交易を主体としてきた商業都市に、このような自治区が設定されることが多いようです。規模としては市や町といった比較的小さな面積となり、小州など大貴族の領地に匹敵する自治区は存在しません。
自治区の代表は市民から選ばれる民衆の代表であり、議会も平民で構成されておりますが、中には貴族のように振る舞う者もいるようで、地域によっては貴族の領地と大差ない場所も幾つか存在します。
▼半自治領
貴族の領地に含まれる中で、平民の自治が認められている特別区です。市長や町長といった行政長官は平民の中から選出され、議会もすべて平民によって構成されておりますが、領主貴族の承認を得られない場合は、会議の決定は無効とされてしまいます。
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王国政府
○構成
ユークレイは開かれた議会を持たず、行政府とその下に位置する各省庁で政治を運営しています。これらの行政機関に所属する官僚はその殆どが貴族で、民衆の意見が非常に反映しにくい政治制度となっています。
◆ユークレイ/王国政府
国家君主──┬──補佐役──┬──宰相
| └──国政相談役
|
└──行政府──┬──内務省
├──外務省
├──財務省
├──海軍省
├──陸軍省
├──商務省
├──農務省
├──運輸省
├──産業省
├──文部省
├──宮内庁
├──法務庁
├──警察庁
├──首府庁
└──法務監督庁
▼宮内庁
式典等を含めた宮廷行事や爵位相続の手続き、および貴族の懲戒や領内調査などを行う機関です。基本的に、大臣は王家に連なる有力家系から選出されます。▼首府庁
首都の政治の一切を取り仕切る役目で、長官は王家に連なる有力家系から選出されます。▼法務監督庁
法務、警察の各庁に対する監査を行う国王直属の組織です。また、法教会の領地は1つの領土として扱われており、それに対する監査も行います。法教会内部に密偵を送り込むなど、非合法な活動を行っているという噂もあります。
○国家君主
国家の頂点に立つ存在であり、ユークレイでは他の諸侯に比して圧倒的な権力を持ちます。この国では国王と女王の双方が君主と規定されていますが、王家の正統な血を受け継ぐ者が第一君主、そうでない方が第二君主となります。双方とも王家の血筋である場合は、もともとの継承権の高い方が第一君主となります。現在の第一君主はスティート女王で、第二君主はカスティルーンから迎え入れたセルヴィジャール国王となっています。
第二君主は行政会議の一員であり、行政審議に対する評決に1票を投じることができます。第一君主は投票権を持っておりませんが、行政会議で決定された法案に対して拒否権を持っています。しかし、同じ法案に対する拒否権の発動は1度しか行うことが出来ず、再審議で同じ決定が為された場合は拒否することは出来ません。
○補佐役
国家君主に対する助言・補佐を行う2つの役職です。
▼宰相
国家君主に次ぐ存在であり、行政府においては首相としての役目を負います。宰相は他の行政長官とは別方式で選出され、王家より諸侯の意見が強く反映されます。
▼国政相談役
法教会の枢機卿の1人が教会上層部に選ばれてこの任につきます。相談役は王家の個人的な相談相手に過ぎず、各庁長官の人事決定以外については国政に対して何ら権限を持つものではありません。人事そのものについても推薦権を持つのみで、実際の決定は国家君主と宰相が行うことになります。
なお、枢機卿が国政相談役の地位を得ているのは、建国時に交わした密約も関係してのことですが、そのことを知るのは王家と側近、および法教会の上層部のみです。
○運営
ユークレイは国家君主を最高権力者とする王国で、現在は立憲君主国となっています。開かれた議会は持ちませんが、君主の独断で全てが決定されるわけではなく、行政会議によって政治方針が決定され、法案が審議されます。
大臣は選挙を通じて選出され、国家君主により任命されることになります。大臣の下には各省が置かれ、貴族を中心とする官僚がこれに所属しています。個別の政策に対しては、委員会を設置して対応にあたります。ユークレイでは省とは別に幾つかの庁が置かれており、それぞれを国家君主の名の下に任命された長官が指揮しています。
▼行政会議
行政制度は憲法によって保証されたものであり、行政会議の決定に従って国政が執り行われることになります。行政会議に参加できるのは宰相および各大臣職にあるもの、そして国家君主です。各庁の長官はこれに出席する権利を持ちません。
▼法案の審議
開かれた議会を持たないこの国では、法案の審議は行政会議で行われることになります。法案の発議権は、宰相、地方自治体(領主貴族)、および各行政機関が有しております。
▼君主の影響力
第一君主は1つの法案に対して1度だけ拒否権を発動する権利を持ちますが、再審議で同じ決定が為された場合は拒否することは出来ません。この部分だけ取り上げてみれば、君主の権限はそれほど強くないように見えるのですが、大臣の人事には王家の意向が大きく反映されますし、官僚にも王家の姻戚や縁者が多数登用されています。そのため、実際には司法権以外の諸権限の多くに君主の意見が強く反映されるという、前近代的な政治制度となっているのです。
なお、君主の立場も憲法により規定されたものであり、その改正によって現在の地位を追われる可能性もあるのですが、憲法改正には行政会議で4分の3以上の賛同を得る必要があるため、現状では君主の在り方が大きく変わることはまず考えられません。
王家は代々明晰な頭脳の持ち主を排出しており、これまで過剰な独裁体制をとらずに周囲と上手く折り合いをつけてきました。国政の相談役として法教会の枢機卿を宮廷に迎え入れたり、民衆の声を幅広く聞くなど基本的な部分では善政を敷いているために、国内から大きな不満の声が挙がったことはありません。また、地方の政治にも常に目を光らせており、極端な圧制が行われないように気を配ることも決して忘れませんでした。これは必ずしも民衆のことを思ってのことではなく、政権を長期間維持させようという思惑が大半を占めます。
○人事
▼各省大臣
各大臣の選定はユークレイ独自の方法で行います。まず、4年に1度の間隔で、貴族による大臣の選定委員選挙が行われます。大臣は当選した委員たちの間で行われる協議によって選定されるため、これには王家の意向が直接反映されることはありません。
しかし、王家は無領地貴族を多く抱えており、彼らにも選定委員選挙の投票権を与えているため、選定委員には王家の姻戚筋が多数選出されることになります。そのため、最終的には半数以上を王家とその派閥一門が占めるという状態になっています。
▼宰相
行政府首相の役目を負う宰相は、大臣とは全く別個の方式で選ばれます。宰相の選出は全貴族による自由投票で行われますが、これは領地を持つ貴族だけが対象となるので、王家と諸侯との立場が逆転するほぼ唯一の存在となります。実際、現在の宰相であるカルヴァーンは王家のやり方に異議を唱える立場にあり、地方領主たちの強い支持を得ています。
宰相は建国当時から存在する役職ですが、これは王家と諸侯との権力争いにおける妥協の産物です。当然のことながら王家はこれをこころよく思っておらず、自派の大臣に圧力をかけて幾度かこれを廃止、あるいは選挙制度の見直しについての行政会議を開かせていますが、諸侯の激しい反発によってことごとく失敗に終わっています。
▼各庁長官
各庁の長官は国家君主と宰相、そして国政相談役を務める法教会の枢機卿の3者の会議によって選定されます。
○内部問題
宰相を中心とする地方貴族たちは、表立ってではないものの、王家偏重の政治制度に少なからず不満を募らせています。特に他国で市民革命が起こるようになってからは、民衆の政治参加を訴える運動も行われるようになり、選定委員会に民衆代表を加えることも叫ばれています。宰相派は民衆を煽動してこれを推進しようと目論んでおり、王家との間で醜い政治闘争が繰り広げられています。
貴族である宰相派が民衆の政治参加を推進するのは、彼らが鉱産資源を持たない平野部に多くおり、領地に多くの人口を抱えているためです。そのために、彼らは平等を掲げる法教会の教えを利用して、人口比(一定額以上の納税者に限る)によって代表者数を調整するよう提案しています。しかし、鉱産資源を持つ有力貴族の場合は、領地に抱えている人口が平野部ほど多くはありませので、この動きには当然のごとく反発しています。
○派生問題
諸侯が国政に意見を反映できる機会というのは、公的には大臣選定委員の選出以外には存在しません。そのため、4年に一度行われる選挙の時期には、貴族の間の密会が増え、陰では多額の資金が動いています。また、選挙以外では全てが行政会議や行政委員会での協議によって決定されるため、貴族が大臣や官僚に賄賂を送るのも日常茶飯事となります。
こういった状況も含めて、ユークレイの政治というものは、国民にとってはあらゆる意味で密室で行われるものとなります。ですから、一個人が何らかの恩恵に預かろうと考えた場合は、やはり領主や官僚と密接な関係になるしかなく、そのための手段として最も有効なのは賄賂ということになるのです。
このように、現在の政治制度は汚職を誘発するものであり、場合によっては産業や経済の発展を阻害するものにもなりかねません。王家が法教会に強い司法権限を委ねたのは、こういった陰の動きを抑制するための意味合いも持ちます。また、大臣に圧力をかけて自由競争市場への転換を図るなど、国家の将来を見据えた行動を取ることで、王家は現在の状態を維持しているのです。
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王家
王家は主家であるラズフォード家と、その血縁であるヴィルタール家、ミューレンツ家、デモスティリス家、ヘルフフォッド家の4つの公爵家で構成されています。この5つの家系を5大家と呼び、主家の血脈が途絶えた場合には、王位継承者は他の4家から主家に養子に迎えられるというシステムになっています。そのため、いずれの家系から君主が出たとしても姓はラズフォードに改名され、現王朝が打倒されるまではラズフォード朝ユークレイ王国の名は続きます。
主家以外の4家の間に優劣はなく、それぞれの長子だけが王位継承権を同等に有することになります。前国王の遺言状があれば、その決定に従わなければなりませんが、そうでない場合は4家の協議によって君主が選ばれます。なお、主家以外から君主となったのは、ユークレイの歴史の中でもスティート女王ただ1人です。
○君主
▼スティート=ラズフォード女王(37歳)
現在の第一君主であるスティート=ラズフォード女王は、5大家の1つであるヴィルタール家の出身です。22歳の時(聖歴774年)に即位し、現在で37歳となります。凛々しい眉が印象的な女性で、やや吊り上がった切れ長の眼は勝ち気さを思わせます。あまり派手な装いを好みませんが、豪奢にたなびかせたプラチナブロンドの髪は、いつも宝石のようにきらびやかな輝きを放っています。彼女は年齢のわりには外見が若く、皺がわずかにうかがえるようにはなったものの、20代後半ぐらいからそれほど見かけは変わっておりません。
彼女にはカスティルーンの公爵家筋から迎えたセルヴィジャール(44歳)という夫がおります。これは神聖同盟の結束を強めるために行われた婚姻であり、その政治的権限は非常に小さいものです。ナヴァール人の血を引く黒髪の凛々しい美男子ですが、外見とは裏腹に気が弱く決断力に乏しい人物です。彼の日常といえば、狩りに出かけたり宮廷で寵姫と戯れるなどの遊興に費やされるもので、あとはお飾りとして公務に出席するだけの生活を送っています。行政会議での投票も、彼の意見ではなくスティート女王の代理投票という形になります。
それと比較すると、スティート女王は大変な傑物であり、長期的視野に立った流通改革を行うなど、国内政治において幾つもの革新的な事業を展開しています。ここ最近では、ナイセン山岳地帯に出没する不死者の掃討作戦を決行したことが知られており、その成功以来『鉄の女王』と呼ばれるようになりました。この掃討戦は軍隊、警察、法教会、術法協会までを動員した大がかりなもので、この成功によって新たな鉱山を拓くことにも成功しています。
しかし、その一方で悪い噂も絶えない人物でもあり、法教会の上層部と個人的な繋がりがあることは、女王になる以前から国外でも囁かれています。また、不死者掃討戦にも幾つかの裏話があり、これに参加した王領軍が新たな兵器のテストを行っていたという話も、宮廷ではよく噂されているようです。
それから、彼女は王領軍の中に女王銃士隊と呼ばれる近衛隊を抱えていますが、その美貌で銃士隊長を籠絡したとも言われています。というのも、銃士隊長というのは前国王付きの武官長であった男であり、規則ではありませんが主君の退位とともに引退するのが通例でした。しかし、女王の即位からまもなくして銃士隊長へと官職を移し、忠誠心を露わにして献身的に働き続けています。そのような背景があるために、銃士隊長は女王の愛人であると国民は噂しています。銃士隊も隊長と同様の立場の者が多く、人によっては銃士隊全員が女王の囲われ者と噂します。国民の中には「女王が歳をとらないのは、きっと毎晩のように男をくわえ込んでいるからさ」と下品な冗談を飛ばす者もいるほどです。なお、ユークレイのような貴族国家の観念からすれば身分違いの恋は御法度ですから、銃士隊長を指して不義密通を働く不貞の輩という国民も少なくありません。
○王位継承者
スティートとセルヴィジャールの間には2子がおり、彼らと4公爵家の長子の合わせて6名が正統な王位継承者となります。
▼第一王女フィリーダ(11歳/女)
赤毛に近い栗色の髪をもつ、ややぽっちゃりした少女です。大きな瞳は悪戯っぽく輝いており、活発そうな印象を受けます。顔立ちは女王の若い頃によく似ており、将来的には優れて美しい女性に成長することが期待されます。背の高いところは父親に似たようで、同年代の女の子よりははるかかに長身です。本人は口元の大きなホクロを気にしており、いつも白粉で隠しています。
スティートは弟王子に比べてフィリーダの方を可愛がっているようで、最近政治に興味を持ち始めたことも嬉しく思っているようです。そのため、著名な思想家や学者たちを呼び寄せて家庭教師につけ、高度で先進的な教育を学ばせています。
▼第一王子カルウィック(7歳/男)
国王セルヴィジャールの特徴を強く受け継いだ、黒髪の巻き毛と黒い瞳をもつ美少年です。滅多に外へ出ないこととナヴァール人の血が相まって、病的なほど白い肌をしており、そのため宮廷では白雪王子などと呼ばれているようです。
人見知りをする性格で、乳母やフィリーダのスカートにすがりついて、いつもおどおどした目を周りに向けています。両親にはたまにしか会うことはなく、いつも乳母や召使いたちと過ごしているようです。姉にもかまってもらいたいのか、時々勉強している姿を扉の隙間から覗いていますが、叱られることを恐れて部屋の中に入ってゆくことはしません。
○女王銃士隊
スティート女王の即位後に結成された近衛隊で、女王にのみ忠誠を誓う完全な私兵です。正規の部隊員は騎士で構成されていますが、これには女王個人が後に登用した下級貴族出の者も含まれます。また、その従者として働く者には、もともとは貴族の血を受け継いでいない者もいるようです。正規隊員は女王に仕える特別な騎士であり、土地ではなく俸給を直接貰って生活することになります。
彼らは現在では失われつつある騎士道の体現者であり、その美しい剣技と流麗な態度は人々の尊敬の的となっています。そもそもの位置づけは女王の護衛を行う部隊となりますが、密偵のような仕事を行うこともあります。
▼デュア=トレルオ(男/52歳)
銃士隊長。かつては国王付きの武官長であった男で、そのまま銃士隊の隊長の職につきました。謹厳実直で生真面目な性格ですが、融通もきくので部下からの信頼も厚いようです。やや赤毛混じりの金髪で、隆々とした体躯ときれいにそろえられた顎髭が粗野な印象を与えますが、物腰は非常に柔らかく口調も丁寧です。
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宰相派
○宰相
▼カルヴァーン=ディズリアニ(男/46歳)
リュックヘルン地方にあるロディヌール小州を治める侯爵家の出身で、2年前の宰相選挙で地方諸侯の圧倒的な支持を得て当選しました。領主としても非常に有能な人物で、領民からも強く慕われています。
口ひげをたくわえた細身の男で、身長も高いことから非常にやせて見えます。聖歴789年で46歳になりますが、苦労のためか少し白髪が目立つようになっており、実際の年齢よりは少し年かさに見られることが多いようです。少し目尻がたれた小さな目は、いつも微笑んでいるかのような印象を与えますが、近くに寄ればいつも鋭く周囲を見回していることに気づくでしょう。
学問院の大学部を優秀な成績で卒業した傑人で、他国の社会制度や経済についての知見も深く、女王とともに国政をリードする立場にあります。能力にのみ関して言うならば、女王が国内で最も高く評価しているのは実はこの男なのです。しかし、実際には王家の力を削ごうとする地方勢力のトップに立つ者であり、政策の上で女王と対立することも多く、水面下では様々な策謀を働かせています。とはいえ、彼は女王に対抗心を燃やしているわけではなく、常に国民のことを思って行動しています。ですから、国民のためになることであれば、女王の政策であっても協力を惜しみません。逆に、いくら味方であっても、領主個人の私欲を満たすためだけの政策を推進することはないのです。
このような方針を取りながらも、彼はこれまで味方を失うことは殆どありませんでした。というのは、彼は策略を弄して物事を押し進めることを常としており、何かを断るにしても必ず誰もが納得できるような理由を用意しますし、僅かながらでも代替となる利益を提供して、自分への信頼が揺らがないように画策するのです。しかし、これはカルヴァーンの持つほんの一面でしかありません。彼は無能ゆえに自分の側を離れる者は、国益に反する者として簡単に見限ってしまい、辛辣で容赦のないやり方で追い落とします。そのためには法に反する手段を用いることも厭わず、私設の密偵組織なども駆使して徹底的にやりこめてしまうのです。カルヴァーンのことをよく知る者は、彼を良心の策士と呼びます。口調は穏やかで態度はいつも紳士的な彼ですが、宮廷では誰も彼の前で油断することはないのです。
なお、カルヴァーンは現在の国家制度では、いずれ先進諸国から大きな遅れを取ることになると予見しており、民衆の意見を広く採り入れるための議会や、血筋によらない能力主義的な社会を作り上げることを望んでいます。しかし、諸侯の中にはわずかな例外を除いてこれに賛同する者はいないことを彼は知っており、表向きにはそのようなことを口には出しません。かといって何もせず状況を見守っているわけではなく、自分の一族の者や部下をペトラーシャなどに留学させ、先進的な国家制度を学ばせています。
○親衛隊
宰相の私設護衛隊で、位置づけは領主に所属する軍の部隊の1つとなります。しかし、実際には宰相の手足として働く策謀の実行部隊であり、護衛以外の任務で国内を飛び回ることが多いようです。
宰相に仕える騎士を隊長とし、各班は殆どが平民出の兵士で構成されています。彼らは例外なくカルヴァーンの思想に共鳴する者で、宰相のためならば命をも投げ出す覚悟でいます。
銃士隊とは何かと対立が多く、たまにもめ事を起こす場合もあります。しかし、宰相自身は表立っての抗争を禁じているため、現在のところ女王に罰せられるほどの大事には至っておりません。しかし、それはあくまでも表向きのことで、陰では双方合わせて十名ほどの死者が出ており、両者の対立はこれからなお激しくなってゆくことでしょう。
○闇つらら隊
宰相の私設密偵組織で、親衛隊とは異なり全く非公式の存在です。彼らは宰相家に古くから仕えてきた一族で、暗殺を得意とする者も含まれています。カルヴァーンの側近として働く1人もこの一族の出身であり、血筋を偽って側に仕えているのです。この隊は国外でも密かに活動を行っており、ライヒスデールなどに潜り込んで密偵活動を行ったりしているようです。
○人民十字派
宰相および各領地の平民代表、そして法教会とが手を結んでいる一種の秘密結社であり、完全に非公式の存在です。人民のための政治を手にすることを第一の目的としており、そのために様々な策謀を巡らせています。その行動は非常に地味なもので、計画も5年や10年といった単位で行われる非常に長期的なものが殆どです。
▼ルイズ=オーリン(男/49歳)
法教会の枢機卿で、現在の国政相談役に任命されています。表向きは中立の立場をとりながら、もっともらしいことを言って宰相の意見に対して譲歩を求めたり、人民の利益を守るような政策を推し進めたりしています。しかし、全面的に宰相に協力しているわけではなく、宰相の冷徹なやり方を諫めたり、あるいは密かに妨害するといった行動も取っています。▼ロベット=フォーラー伯爵(男/37歳)
クラスコフ地方の一領主で、カルヴァーンの古くからの親友であり、その思想に共鳴している数少ない人物です。表向きシューベルニー自由騎兵団を雇っているのは彼ですが、伯爵である彼の資産だけで部隊を維持することは出来ず、費用の多くをアルフィーエや法教会などに頼っています。そのことに対して疑念を持つ親戚や近隣諸侯も存在しますが、騎兵団の隊長が彼の古い友人だということもあって、積極的な疑いを持つ者はまだおりません。▼アルフィーエ=ティナシュ子爵(男/25歳)
シューベルニー自由騎兵団の活動資金を出資している貴族で、ラフランシア地方の北部を治めています。血筋的にはフォーラーのはとこに当たり、その縁で人民十字派に加担することになりました。
子爵の血筋としては珍しく、大学で文系の学問を修めた後に改めて学問院に入り直し、理学や工学について学んでいる変わり者です。正義の味方を目指しているらしく、人民十字派として活動しているのも見返りを期待しての行為ではないようです。しかし、(シューベルニー自由騎兵団に対する出資について)なぜ自分の存在を秘密にしているのかと部下が尋ねると、「いやあ、正体を知られていないほうが格好いいじゃないですか」と答えたことから、単なる道楽ではないかという可能性も拭いきれません。▼パトリック=モラール(男/45歳)
カルヴァーンの学問院時代の同級生の1人で、宰相の義理の弟に当たる人物です。学問院を卒業した後はカルヴァーンの援助によってペトラーシャへと留学し、当地の政治制度や経済を学んで戻ってきました。その後はしばらく宰相の側近として働き、8年前からロディヌール小州の知事を務めています。しかし、カルヴァーンの意思を反映するだけのお飾りではなく、領民の声をよく聞いた上で独自の判断を下すことが出来る優秀な人物で、カルヴァーンも彼のことを完全に信頼しており、領地運営の殆ど全てを任せきっています。真面目で勤勉な性格で、領内の人気も非常に高いようです。▼シューベルニー自由騎兵団
多塔戦車などの新型兵器を駆る近代戦術のプロで、傭兵としてライヒスデールとの戦いに参戦しています。その実力は国外からも一目置かれており、実際にライヒスデール軍の部隊を退けたこともあります。
様々な新兵器を繰り出してくるので、軍の秘密部隊ではないかと噂されていたこともありますが、あまりに目立ち過ぎるためにその意見は早々に消えていきました。あえて存在を秘匿しないというのはアルフィーエの提案だったのですが、それが当たったのは計算なのか偶然なのか未だはっきりしておりません。なお、この部隊に新型の兵器を提供しているのは学問院で、整備には学問院の技術者の他に、アルフィーエが経営する工房の技師たちが駆り出されています。
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軍事
○軍隊
王国軍として国家君主に属する組織となります。エルモア地方の中では強力な軍事力を誇っており、戦車などの最新兵器も一部の部隊では導入されております。また、ライヒスデールとの国境付近に駐留する部隊は、実戦経験もそれなりに積んでいます。
▼指揮系統
軍隊は国家君主に属する組織であると憲法で規定されており、戦時には国王から指揮権を委任された海軍大臣と陸軍大臣によって、軍隊の諸行動が指揮・運営されることになります。ただし、王領軍については君主が直接指揮をとっています。
○組織構成
▼地方軍
陸軍は11の大行政区を単位として管区が分けられていますが、この方面軍と呼ばれる単位で実際に活動を行うのは戦時のみで、平時には領地を単位とする地方軍(地方領邦軍/師団規模)ごとに独自の活動を行っています。というよりは、領地単位で軍隊が結成されるのが元々の形式であり、方面軍というのは同じ大行政区にまとめられた軍隊の寄せ集めでしかないのです。
領地同士の足並みが揃えばよいのですが、方面軍はあくまでも土地の単位で区切っただけのものであり、中には同じ軍団に配属されながらも、反目しあう一族も存在しました。そのため、一時期は領地の配置換えを頻繁に行うなどの対応を強いられましたが、これには諸侯からの不平の声も多く、また、時代とともに変わる宮廷の情勢に対応できるものではありませんでした。
▼王領軍
こういった理由から、地方軍とは別個に王家直属の王領軍が組織され、君主の自由権限でこれを指揮することが可能となっています。これは国王および王家に連なる家系の所有する軍に、委任領地を持つ官僚などの兵を加えたもので、傭兵隊も含めて国内軍の半数近くが王領軍で占められています。王領軍は地方軍とは全く別の管区と扱われており、王領と各地方にいる王族の領地を駐屯地としています。
▼裏事情
各地方に配置されている王領軍は、必ずしも外敵に備えているわけではなく、内乱を阻止するための監視の役割も担っています。そのため、それぞれの地方には必ず有力な王家の一族が加わっており、王領軍の指揮を任されています。
○兵士
▼将校
各領地の地方軍を指揮するのは、それぞれの領主あるいはその一族から輩出された将校たちになります。陸軍大臣は王領軍を除く各方面軍の最高指揮官の決定権を有しているのですが、彼らが実際に行う人事は任命だけで、実際に方面軍を統括する将校は各地方の有力貴族の間の話し合いで決められています。
とはいえ、方面軍の単位で活動させようとしても、派閥が分かれている地方ではそれは不可能事であり、実際には一族や派閥の単位で軍を編成しなければなりません。歴代の陸軍大臣は常にこの件で頭を悩ませてきましたが、それは現在に至っても解決されない問題として残っているのです。
▼騎士
無領地貴族のうち、軍に所属するのが騎士と呼ばれる存在です。彼らは各領主に仕えており、俸給を貰って生活しています。多くは将校として部隊を率いるのですが、特に信頼の厚い者は身辺の警護を任されることが多いようです。
▼一般兵士
ユークレイでは軍制の近代化が少しずつ進められており、王領軍では訓練された職業軍人が軍の主力を担うようになっています。
しかし、地方軍は一定数の常備兵の確保と、有事の際に規定された兵数を供出することが義務づけられているだけで、全てが職業兵士というわけではありません。常備軍は総兵力というわけではなく、この他に各領主は戦時徴兵を行ったり、傭兵を独自に雇い入れることが出来ます。最終的に求められる人数を出兵させることが出来れば、領主は義務を果たしたことになるわけです。常備軍を維持するには資金が必要であり、それは各領主が抱える負担となるため、戦時のみ兵数を揃えようとする領主も少なくありません。そのため、二重の意味で地方軍は弱体化する傾向にあるわけです。
○軍事情勢
カスティルーン、ペトラーシャと神聖同盟を結成して、ライヒスデールとフレイディオンの軍事同盟に対抗していますが、それが逆に他国の干渉をまねく結果になっています。近年は霊石鉱田を狙うライヒスデールとの局地戦が激しくなっており、リュックヘルン地方とクラスコフ地方の軍隊が国境付近の要塞に駐屯している状態です。現在は小競り合い程度の戦いで済んでおりますが、いずれ本格的な戦闘へと突入すると見られています。
○国家関係
▼友好国
カスティルーン、ペトラーシャとは神聖同盟を締結しており、非常に親しい間柄となります。王家同士には血縁関係もあります。
▼敵対国
カイテインの支配から独立した地域で、幾度も戦いを繰り返しています。ライヒスデールとは国境紛争を行っている最中で、その同盟国であるフレイディオンとも敵対関係にあります。
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警察
○警察機構
行政機関に属する警察庁が警察組織を統轄しています。警察庁は国家警察として機能し、その下部組織として州警察や小州警察が各地域に配備されています。
中心となる国家警察は、州警察などの下部の組織に対して監査・粛正を行う権限を持ちます。警察組織は通常の形態で、警察署の中にいくつかの部署があり、刑事や警察官が業務を担当します。警察組織に務める場合は、警察学校で訓練を受けなければなりません。
▼国家警察
全警察組織に対して指揮監督を行う部署で、首都に庁舎が存在します。基本的に現場での捜査は担当しませんが、広域捜査部は複数の州をまたがる犯罪の捜査を専門に行います。
▼自治体警察
州/小州/準州の警察業務を監督します。また、広域の犯罪を取り扱ったり、応援要請があった場合は地域に出向いて業務を手伝います。
各地方自治体の警察は幾つかの市・町・地方の警察を統括しています。市警察はさらに地域警察や街区警察といった小さな部署を管理します。地方警察は市や町に含まれない地域(群や島など)を管理する部署となります。形式的には市警察と同等の立場にありますが、実際には地方警察の方が立場は低いようです。
▼首都警察
州警にあたる大きな組織で、首都周辺の警察業務を取り扱います。首都に存在する重要施設などの警護も首都警察の担当です。
○警務法官
聖堂騎士のうち警察に出向して働く、特殊な立場の警察官です。通常の業務は警察官とほぼ同様ですが、立場は独立しています。警察官としては位が高く、下位の警察官を率いて捜査を行う立場にあります。と同時に、内部の監査役としても機能しております。
○特殊な部署
▼鉄道警察
三国鉄道の敷地および車内での事件・事故を担当する部署です。
▼広域捜査部
複数の州や小州にまたがって犯罪をおかした者を担当する刑事です。これは国家警察に所属する部署となりますが、出向先では嫌われることが多く、協力を得られないことも少なくありません。そのため、警務法官がこの任務を担当することも多いようです。
▼特別機動部
いわゆる機動隊のような役目を果たす部署で、警務法官が率いる武装警官たちで形成されています。変異現象による犠牲者を救ったり、あるいは暴動を鎮圧したりといった仕事をこなしたりします。
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司法
○法務庁
国家君主の下に所属する組織ですが、全体は法教会が統括しています。法務庁で働く官僚や職員の多くは聖職者ではありませんが、上層部や裁判官といった役職には聖職者が多数配属されています。
▼長官
他の行政機関のトップはすべて貴族が占めていますが、法務庁長官だけは慣習的に法教会の枢機卿が就くことになっています。
▼神聖法官
裁判官として活動する聖職者で、神官長以上の階級の者が就くことができます。特に公正さを必要とされる職業であり、地位や権力といったものにも惑わされることはありません。業務内容は一般の裁判官と同様で、普段も裁判所に勤務することになります。
○裁判所
最高裁判所(国家)、上級裁判所(州/小州/準州)、下級裁判所(地域自治体)の順に裁判所が体系的に整備されています。裁判の進行方法は現実世界とほぼ同じ方式で行われ、それぞれ控訴・上告を行うことも出来ます。ただし、最高裁までの上告はあまり行われず、上級裁判所で最終判決が下されることが殆どです。
○法務監督庁
法務、警察の各庁に対する監査を行う国王直属の組織です。また、法教会の領地は1つの領土として扱われており、それに対する監査も行います。法教会内部に密偵を送り込むなど、非合法な活動を行っているという噂もあります。
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