奴隷制度

概説位置づけ


 

概説


 エルモア地方では、基本的に奴隷制度は公認されています。奴隷とされているのは、『黒人』と『赤人』の2つの人種です。


○人種

▼黒人
 黒人はその名の通り、肌や髪や瞳の色が黒く、白人とは異なる文化を築いていました。元来ペルソニア大陸に住んでいたのですが、白人たちによってエルモア地方に連れ出され、奴隷として使役されるようになりました。農場や鉱山などでの肉体労働や召使いのような仕事など、様々な目的で労働を強制されています。


▼赤人
 褐色あるいは赤銅色の肌と、赤みがかった髪や瞳を持つ人種です。エルモア地方の北方、もしくはペルソニア大陸に住んでおり、多くは奴隷や下層市民として扱われています。
 
◇言語
 黒人と白人の言葉は大きく異なりますが、エルモア地方に住む赤人は、赤人語と呼ばれる黒人と白人の中間的な言語を話します。そのため黒人と白人の間にたつ通訳としての役目を負い、ごく自然に奴隷頭として監督役の地位を得るに至りました。なお、ペルソニアに住む殆どの赤人はペルソニア語(黒人語)かエルモア共通語を話すため、奴隷頭になることはありません。

◇鑑賞奴隷
 現在では奴隷制度が成立してから何世代もの時を経ているため、黒人奴隷の子供たちでも共通語しか話せないような者も多くおり、赤人が言語の面で優遇されることは少なくなっています。しかし奴隷頭としての役割以外にも、黒人より優位に扱われることがあります。これは赤人が美しさにおいて他人種より秀でているためで、赤人の鑑賞奴隷をもつことは貴族のステータスシンボルともなっているからです。もちろんこれは名誉なことではなく、多くの奴隷のように奴隷の中からとはいえ、好きな相手を選ぶ権利さえも奪われてしまうことになります。


○奴隷貿易

 ペルソニアの原住民が奴隷としてエルモア地方に輸出されたのは、聖歴450年代になってからのことです。それ以前にも非征服民を奴隷として使役することは珍しくはありませんでしたが、これ以降はエルモア地方にも公的に奴隷制度が広まってゆくことになります。


▼売買
 奴隷は一般に競り市のような形で売買されます。多くの場合は、奴隷商人がペルソニア大陸の原住民をとらえて船で運び、奴隷市と呼ばれる市場で買い手と直接取り引きを行います。もちろん、奴隷の側に主人を選ぶ権利はありませんし、家族がいても強引に引き離されて、別々に売られてゆくこともあります。
 1度どこかに買われていっても、主人に反抗したために再び市場に出される場合もあります。奴隷の健康状態は歯で見分けることが多いのですが、チェックの際には背中も確認します。これは鞭で打たれた痕を見るためで、きれいな体の者ほど従順でよい奴隷だと考えられています。


先頭へ

 

奴隷の位置づけ


○権利・待遇

 奴隷は主人の所持品の1つであり、殆どの国家では人権は認められておりません。奴隷からは全ての権利が奪われ、いわれのない差別を受けるわけですから、その点ではこの世の誰よりも不幸な環境に置かれているといっても過言ではないでしょう。


▼待遇
 奴隷という響きから、その労働は非常に過酷なものというような印象を受けますが、安くはない金額を支払うわけですから、思っているほどひどい扱いを受けるわけではありません。むしろ一部の下層市民のほうが厳しい生活状況にあるようです。ただし、逃げ出されてしまっては大損ですから、地域や雇い主によっては足に鎖をつけて働かせることもあります。


▼その他

◇登録
 戸籍には登録されず、財産目録として記載されることになります。

◇怪我
 所持品として扱われるので、もし奴隷が傷つけられたとしても、当人ではなく主人に賠償がなされるものであると考えられています。また、国家によっても変化しますが、主人が奴隷を傷つけたとしても罪に問われないのが普通となります。

◇治療
 病気や怪我になったとしても、医者に診てもらえるとは限りません。だいたいは値段との相談となり、新しく奴隷を購入した方が安い場合は、どのような状態になったとしても放っておかれるのが普通です。老人の場合は特に放置される傾向にあります。

◇食事
 屋敷で働くような奴隷は、使用人とさほど変わらないようなものか、食事の余りなどが与えられます。しかし、農場や鉱山で働く奴隷の食事は粗末で、薄いオートミールやくず野菜が主で、たまにちょっとした塩漬け肉などがつく程度です。ひどいところでは、家畜の飼料とほぼ変わらないような、最低限の食事しか与えられません。

◇恋愛・出産
 子供ができた女性は労働力が低下するため、奴隷同士の恋愛は基本的に禁止されています。奴隷の子供を労働力になるまで育てるよりは、新たに買ってきた方が安くつくのです。


○国家

 奴隷は殆ど全ての国で容認されていますが、特に数多く存在する国は、カルネア、エリスファリア、ロンデニアです。これらに共通する点は、先進的な科学技術を積極的に推進していることです。科学の発達の功罪ともいえますが、大量輸送が可能になったということは、奴隷を大量に輸送できるということでもあるのです。
 なお、法教会を信奉する国々では、異端や変異体以外のものを差別することはありません。ですから奴隷制度も存在しませんし、他国の奴隷制度に対しても否定的な見解を示しています。また、ルワール大公国の黄人の独立運動を支援したりといった活動も行っています。なお、聖母教会では奴隷問題についての正式な見解は避けているようです。


○解放

▼社会状況
 科学の発達と植民地の拡大によって増加した奴隷ですが、今ではこれが思わぬ弊害を引き起こしています。たとえばカルネアですが、奴隷問題だけが原因ではありませんが、昨年の夏に起きた逃亡奴隷の虐殺事件が発端となり、南北間での内戦に突入しています。また、ロンデニアの領土ファイン=ファウンドでは、奴隷たちの地下組織が近いうちに反乱を起こす計画を立てているようです。教育の普及や貴族制度の崩壊に伴い、人民は人権や平等というものを意識するようになっています。それは奴隷制度においても決して例外ではないのです。


▼コスト
 先進国家では低賃金の労働者が増えており、わざわざペルソニア大陸から奴隷を輸入して働かせるというのは、コスト面において割に合わなくなりつつあります。しかし、このような事情があるにもかかわらず、奴隷制度は現在も維持されたままです。これは単に奴隷が安い労働力だというだけではなく、怪物や変異現象の危険がある辺境地の開拓など、誰も引き受けない危険な作業を行なわせる目的があってのことです。
 特に聖歴700年代に入って、エルモア地方の国家が多くのペルソニア植民地を手に入れてからは、以前よりも危険で過酷な労働に奴隷が用いられるケースが増えています。これは奴隷が大量に輸入されるようになって価格が下がったことと、ペルソニアで大規模な辺境開拓が行なわれるようになったことが原因です。
 植民地の開拓事業は国家が主導する一大プロジェクトであり、奴隷制度を撤廃することは国益を損なうことになるため、容易にこれを廃止することは出来ません。このような事情があるため、労働者の賃金がいかに安くなったとしても、奴隷制度が完全に撤廃されるとは限らないのです。


▼逃亡
 逃亡した奴隷は犯罪者扱いとなり、指名手配されるのが一般的な対応です。もともと人権がないわけですから犯罪というわけではなく、法的に罰を受けるわけではありません。しかし、引き戻された奴隷への仕打ちはひどいもので、法に罰せられた方がどんなに楽かと思われるほどです。このような奴隷は二度と逃げないように焼き印を押されたり、何日も絶食状態で鞭を打たれるなどして、死に至ることも珍しくはないのです。
 現在はかつてよりも逃亡奴隷が増加しています。これは社会の認識の変化のほかに、都市の形成が大きな一因となっています。昔は奴隷が逃亡しても、その途中で変異体に襲われることが多く、生き延びることは殆ど不可能でした。また、町に逃げたとしても目立ち過ぎ、山賊などの犯罪者になるにもろくな武器もなく、見せしめとして討伐されるのが普通でした。しかし、現在は都市周辺の変異体も少なくなっておりますし、大都市の貧民街に逃げ込むことが出来るため、生きるだけであれば昔よりも随分と楽になっています。


○自由奴隷

 なお、かつて奴隷だった者が、逃亡や解放によって自由な身分になることがあります。このような人間を一般に『自由奴隷』と呼びます。彼らの多くはカルネアの北部におり、普通の市民とともに生活しています。しかし、人権を得たからといってすぐに待遇がよくなるというわけではなく、一部ではいまだ彼らを蔑視する傾向もあります。また、まともな教育を受けていないことから、肉体労働に従事する下層市民として生活する場合が殆どです。なお、カルネアでは奴隷解放戦争へ志願兵として参加する者も多いようです。


○その他の用語

▼サヴォイ
 奴隷階級の者をこう呼んで蔑みます。もとはペルソニア大陸で使われていたラガン帝国の言葉です。

▼奴隷の焼き印
 奴隷は所有されている印として、肩や背中に焼き印を押される場合があります。

▼レッド(複数形はレッズ)
 レプラッド人から転じた赤人の蔑称です。赤人は自らを赤い角と呼んでいます。


 以上のように、奴隷制度は今まさに転機を迎えており、宗教組織の在り方をも加えて、最も論じられなければならない問題の1つになっています。願わくば、亜人や変異の影響によって虐げられている全ての存在も含めて、平等に生きてゆける世の中になって欲しいものです。


先頭へ

 


概説位置づけ