状況
○近代教育制度
基本的な学校制度や教育期間は現実世界のものと大差ありません。初等学校は6年間(下級学年と上級学年で分割)で、卒業は12歳になります。中等学校は12歳から15歳までの3年、高等学校も15歳から18歳までの3年間です。大学校は4年制が一般的で、助手や研究生として研究室や講座に残ることもできます。
このような近代的な教育制度が成立できたのは、近代教育の父と呼ばれるアーシュリア=クリスィンの功績があってこそです。貴族の出自であった彼がどのような理由で学校教育制度の改革に生涯を捧げたのかは知られていませんが、彼の理念は現在では多くの人々に受け入れられ、貴族支配制度から脱却した先進国家の多くで、貧しい家庭の子供たちも教育を受ける権利を手に入れることができました。これは各宗教組織の協力と、科学技術の向上にともなって社会がそれを使いこなす学力を要求しはじめたという事実があってこそです。
彼はエルモア中の子供たちが公平な教育を受けることができる環境をつくりあげようと尽力したのですが、志半ばにして死ぬことになります。54歳の夏のことでした。嫌な話をするようですが、彼の死には不審な点が多く残っています。彼の業績は確かに立派なものですが、それが全ての人に受け入れられていたわけではありませんでした。特に晩年の奴隷制度に反発する言動には、領主貴族や政治家たちだけでなく、一般市民の中からも批判の声が上がっていたことを付け加えておきます。
○学校の種類
エルモア地方で学校と呼ばれるものには、通常の初等学校、中等学校、高等学校、大学校の他に、神大学、学問院、専門学校、兵学校、魔術学校などといったものがあります。現実との差違は、初等学校を除いて無償教育(授業料のみ)ではないということです。普通の子供たちは中等学校以上には行かずに、何らかの職業についたり専門学校(私塾なども含む)に入ることになります。兵士になるものは兵学校へ、職人を目指すものは職業組合の親方のもとで修行をするといった具合です。
▼家庭教師
上流階級や富裕階級の家庭では、家庭教師を雇って子供の教育を行うのが普通です。家庭教師は一般教育はもちろんのこと、躾や礼儀作法まで担当することがあります。大都市では需要も多い職業なので、家庭教師の職を斡旋する家庭教師協会なども存在します。
○飛び級
エルモア地方の学校では、基本的に何処の国家でも飛び級制度が認められています。成績優秀な生徒は学年や課程を飛ばして、短期間で進級・進学することが出来ます。また、基本的に学力がその学校のレベルに達していれば入学できるため、家庭学習だけでも試験に受かれば進学することは可能です。
○学校教育の現状
▼初等学校
教育の必要性は多くの人々が理解しておりますが、それは生活に優先するものではありません。貧しい家庭の子供たちは初等学校にすら通わず、家の仕事を手伝ったり、どこかの店や貴族の屋敷などで働きます。このように各家庭の事情もあるため、子供たちが学校に通うことを強制されたりはしません。また、こういった事情を考慮して、村では授業時間の短縮などの措置が行われています。
先進国家では授業料を無償とする国もありますが、貴族領主制度が残っている国家では、無償教育が行われていないところも存在します。また、設備利用費を支払う必要があったり教科書を自費で購入しなければならないため、子供を学校に通わせない親も少なくはありません。
授業料の無料化については宗教機関の協力があって成立しているもので、教会施設を教室として貸し出したり、聖職者が教師を務めることで経費の削減が行われています。また、宗教機関を通じて教育機関への教科書、筆記用具の寄付が行われたり、バザーの収益金を教育費の補填に充てたりしている地域も多いようです。
▼その他の学校
中等学校以上の学校は、公立であっても入学金や授業料は必ずおさめなければなりませんので、通えるのはごく一部の子供だけです。ただし、成績のよい者には奨学金が出る国もあります。ルクレイド国がそのよい例で、真に優れた成績の者は、学費は全額免除ということになります(ただし、卒業後は国家機関に就職しなければなりません)。高等学校以上に進む者は、技術者や医者、弁護士などの限られた職業を目指す人々です。かなり上流の家庭に生まれた者か、そうでなければ奨学生に限られます。
▼変化
昔は都市でも専門職につくものが多く、普通教育を受け続けるものは非常に少ない状態でしたが、近年では会社形態の組織が増えたり、新聞記者のように文字を知っている必要がある職も多くなっているので、徐々に普通教育が浸透しているようです。
なお、地域によっては、あまり学校に来ることができない子供たちのために日曜学校を開いたり、働きながら学びたい大人のための夜学がある場合もあります。夜学はだいたい午後8時以降から行われています。ただし、ボランティアでこういった仕事を引き受ける献身的な人がいなければ、人件費などの関係から大きな町や都市に限られてしまいます。
それから、統治制度によって教育の普及の程度に差が出る場合があります。特に昔ながらの領主が存在する国家では、民衆に余計な知恵がつくのを恐れて、領主自らがあえて進歩的な教育制度の普及を妨げることもあるのです。しかし、それでは時代の変化についてゆけなくなるのは明白であるため、こういった地域でも新しく学校が建設されるようになっています。
▼制度変化との関連
近代教育の普及は幾つかの制度変化とも関係があります。たとえば、基礎的な教育は産業社会に不可欠のものでもありますが、同時に学校教育は工場での労働環境に必要なものを教えてくれます。集団生活を学ぶことは、工場での機械的な流れ作業をこなすための練習ともなりますし、軍の規律を守ったり上官の命令に従うといった制度にも適応するものです。
資本家の中にも学校制度普及のために寄付を行うものがいたり、国家も積極的にこれを推進したりするのは、必ずしも子供のためを思ってのことではなく、こういった現実があるということも覚えておいて下さい。
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一般学校
一般学校は、初等学校、中等学校、高等学校、大学校に分類されます。教育機関を統括するのは国家および地方の自治体ですが、管理はそれらが行なっているとは限りません。初等学校の場合、特に地方の村などでは教会が代行したり、村の者が交替で教師の役をつとめることもあります。
○初等学校
先進国家の場合、通常は授業料負担なしで学校へ通うことが出来ます。貴族制度を敷く国家でも、宗教機関が学校を開いている場合に限り無償で教育を受けられますが、資格を得た教師を雇っている都市の学校は全て自己負担となります。
子供たちはここで読み書きや計算、社会や科学といったものの基礎を勉強することができますが、絶対に通わなければならないというわけではありません。
▼都市
都市の場合は商人の子供も多いため、読み書きや計算が必要とされ、村などに比べてかなりの子供が学校に通っています。また、校舎や設備、教師の人数などは揃えられており、きちんとした教育環境が整備されています。ただし、下層労働者の子供やストリートチルドレン(都市浮浪児)などは、初等学校に通うことは殆どありません。奴隷の子供は言うまでもないでしょう。
▼田舎
田舎では教育の普及が遅れており、いい家庭の子供でなければ、出席率が悪い方がむしろ当たり前となっています。収穫期などはもちろん、洗濯や子守りといった家の手伝いのために学校を休むことも珍しくはありません。こういった状況から、田舎では教育内容も遅れておりますし、小さな町や村では専用の建物がないばかりか、教師も聖職者や上級生などが代行しているのが現状です。
▼分割制度
エルモア地方の人口の1/3は貧困層であり、10歳以上の子供は何らかの仕事に携わっているのが普通です。そのため、初等学校は下級学年と上級学年に分けられており、中等学校へ通わない子供は、下級学年までの教育を終えれば卒業することができます。下級学年は3〜4年制となり、国家や地域によって年数は異なっております。
分割制度を採る国家の方が多く、6年間で一貫した教育を行う国家は少数派となります。なお、下級学年しか整備されていない学校は、一般には幼年学校と呼ばれています。特に辺境域や農村地帯では、幼年学校しか置かれていないことが多いようです。
▼移動教師
学校が整備されていない辺境域では、教師が生徒のもとに訪れて授業を行う場合があります。一般にはこのような教師を移動教師と呼んでいます。なお、特に山間部は移動が困難で危険も多く、一般の教師はこのように土地に行きたがらないため、聖職者がこの任に就くことが多くなります。また、北方の国家では冬季は移動できない場合も多く、冬の間は授業が全休となることも珍しくはありません。
○中等/高等学校
中等学校では更に進んだ教育を受けることができますが、授業料も含めて全てが有償となります。都市でも一部の者しか中等学校へは進まず、殆どの子供は家業を手伝ったり専門学校に入学したり、あるいは職業組合に所属して親方のもとで修業に励むことになります。
ですから、初等学校に比べて規模は小さくなり、生徒数もぐんと減ります。殆どが都市にしか存在せず、あっても街に1〜2校となります。高等学校も同じような状況で、一握りの人間しか進学することは出来ません。貧しい家庭の子供が高い教育を受けるには、良い成績を取って奨学生となるしかないでしょう。
○大学校
大学校は選ばれた一部の優秀な人間のみが入学できる場所で、1年に数百万エランの学費がかかります。そのため、大学まで進む者の多くは富裕階級以上の家庭の子弟で、上流階級のステータスシンボルのような存在となっています。学校数も少なく、1つの国家に数校程度しか存在しません。卒業者の多くはその学問における最先端の職につきます。たとえば霊子機関の研究者といった具合です。なお、高等学校を卒業しなくても大学校を受験することは可能で、大学校の生徒の中には15歳くらいの者も存在します。
▼付属大学
国立校や一部の私立校だけでなく、宗教機関に付属する大学も存在します。聖母教会が営むものは『神大学』で、法教会が営むものは『学問院』と呼ばれています。どちらも都市にある中心の教会に付属しており、神学徒以上の聖職者であれば無償で教育を受けられます。
▼付属機関
大学院が併設されている場合は、院生として研究室に残って研究することができます。大学院は博士課程しか存在せず、修士課程はありません。
博士課程は最短2年で卒業することが出来ますが、卒業期限は決まっておらず、授業料と設備費さえ払っていれば、いつまででも学生として居残ることが可能です。幾つかの論文が審査に通れば、博士として卒業することができます。
▼図書館
大学校には大きな図書館があり、市民にも閲覧が許されている場合が多いようです。ただし、受け付けで入館許可を得なければなりません。
○代替校
専門学校の一種ですが、卒業すれば初等学校や中等学校と同等の教育を受けたと認められる専門校が存在します。兵学校や、音楽学校、魔術学校などがこれに当たり、生徒は一般教育と同時に専門教育を学ぶことになります。
○特殊公立校
初等学校、中等学校、高等学校に相当する学校ですが、国家や州などによって独自のカリキュラムが設けられています。たとえば、上流階級の子弟を集めて政治や社会学を学ばせる上流学校や、国外の優れた技術を習得させるための人材育成校などが存在します。
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職業学校
○職業訓練校
工業学校、農業学校、土木学校、技術学校、法律学校、船舶学校、航海学校、建築学校、美術学校、音楽学校などがあり、それぞれ職業に必要な専門教育を行っています。こういった学校は多くが公立で、私立の場合でも援助金を受けていることが多いようです。
○医学校
医療に関する専門教育を行う学校で、就学期間は5年となります。中等学校を卒業した後に試験を受けることが出来ますが、一握りの優秀な者しか入学することは出来ません。当然のことながら、入学金や授業料も高額となります。
○兵学校
兵学校は一般校と士官学校があります。一般校は6歳からの初等学校を兼ねる一次兵学校と、12歳以上の生徒のための二次兵学校があります。それぞれ6年、3年という期間はありますが、戦時には基礎だけ叩き込まれて前線に送り出されることも珍しくありません。ひどい時には、戦場で教育を行なうといった具合です。士官学校は15歳以上のもので、最低3年は教育を受けます。貴族など上流階級の子弟が多くいます。
○魔術学校
術法協会が開いている学校で、術法だけではなく一般教育も行っています。いわば、術法も教える私立の学校といった存在です。一般に知られているのは協会本部のあるルクレイドの魔術学校ですが、他にも術法が盛んな(科学的には後進的な)国家では、このような学校が存在しています。通常、一般の協会員は15歳以上でなければ術を教えて貰うことができませんが、魔術学校では例外的に、中等部から術法教育を行っています。ただし、学外での術の使用は禁じられていますし、決められた時間以外に術を発動することは校則違反となり、厳しく処罰されることになります。
この学校に入学する生徒は、将来的には術法協会の職員として働くことが期待されます。そのため、協会職員になった場合は奨学金の返還が免除されるのが普通です。しかし、協会の中枢で働くためには、術法だけではなく一般教育にも高い能力が要求されます。
○その他の専門学校
専門学校には年齢制限はなく、かなり限定的ですが実用に役立つ専門技術を身につけることができます。こういったところは職業組合の管轄下にあることが多いので、生徒の進路はほぼ決まっているようなものです。組合に属することがわかっているため、授業料には一応の規定はあっても、誰か親方のもとについて下働きをすることで免除されるのが普通です。
以上のように、この世界の人々は自分の目指す職業のために学校に通い、専門的な技術や知識を身に付けるものが多く、普通学校に長く通うものは少数派であるということを覚えておいてください。特に農村や小さな街など、都市部から離れるほどその傾向は顕著になります。
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