現在はエルモア地方のいずれの国家にも支配されていない土地で、原住民による国家、都市、集落が形成されています。しかし、大規模な集落も含めて、植民地軍の脅威となるほどの力を持った存在は殆どなく、都市と呼べるような場所が幾つか点在している程度となります。
○マルクトハーム共和国(D-1)
レオール山脈の東に広がるニココ平野にある国家です。主要な構成民族は旧バンデミア王国の末裔であるバウンシャ系赤人ですが、現在は密林奥地や山岳地帯に住んでいた現地部族や、北部の植民都市から逃れてきた奴隷もわずかに住んでいます。ロンデニアとの交易によって復興を遂げ、現在も独立国家としての体裁を整えておりますが、基本的には農業、漁業、牧畜といった一次産業を中心とする小都市の連合体に過ぎず、植民地軍の武力に抗する力は持ち合わせておりません。
▼歴史
聖歴280年頃に興った新バンデミア王国によって開墾された土地です。バンデミア王国は、聖歴250年頃まではレオール山脈の西部にあり、密林奥地の山腹に都市をつくって暮らしておりました。しかし、ラガン帝国の侵攻によって住み慣れた場所を離れ、山脈東部に移って新バンデミア王国を建てることになります。
その後、聖歴300年代前半はアニスカグナ地方との交易によって栄えるものの、聖歴380年頃にはラガン帝国によって征服され、植民地とされてしまいます。しかし、聖歴720年代に力の衰えたラガン帝国に対して抵抗運動が起こり、ついに754年にマルクトハーム共和国として独立を果たします。その後、ロンデニアとの交易によって復興を遂げ、現在も独立国家として存在しています。
○ロゴン=ロゴナ/ロゴナ自由自治区(D-2)
D-2地域の平野部に存在する独立自治区で、もともとはラガン帝国の保護領である自治地域の1つでした。しかし、冒涜の王と呼ばれる怪物の出現によって、多くの命が失われ衰退してしまいます。その復興を試みている間に、この地に逃れて来た帝国兵の残党が武力で街を占拠するのですが、これに怒った市民が蜂起して自治権を取りかえします。それ以降、この地域は独立状態を維持し続け、現在もラシャン川沿いにあるロゴナ市を中心に、幾つかの部族・集団が政治共同体をつくって、人々の権利と自由を守り続けています。
▼ロゴナ市
ラシャン川とタルコー川が合流する地点にある小都市です。自由自治区の首都機能を持つ場所で、部族や地区の小集団が集まる会議場があります。また、河川沿いには自由市場が置かれており、周辺地区からも大勢の人が集まって取り引きを行なっています。
この都市は自治独立を守るため、外敵に対する防御を考えた構造となっています。市壁と呼べるほどの防御機構はありませんが、街の北部にある砦は防塁と掘で囲われておりますし、住宅街には狭い道が格子状にはり巡らされており、敵が迷いやすいように設計されています。
一般住宅の多くは、日干しレンガを積んだ上に漆喰を塗ったもので、分厚い扉を1つだけ備えております。これらは殆ど同じような外観で、高さのそろった四角い建物が一列に並んでいます。これは防御の目的だけでなく、地区に置かれている拠点倉庫を目立たなくする工夫でもあります。
拠点倉庫というのは武器や食料などが保管してある建物で、一般の住宅の中に紛れて設置されています。倉庫の壁は石で組まれた丈夫なもので、周辺住民はこれを砦として侵略者と戦うことが出来ますし、地区にある幾つかの住宅から、地下トンネルを通じて移動することも可能となっています。また、建物の高さが揃えてあるので、いざという時は屋上や窓に板を渡して、そこから建物を渡って逃げることも出来ます。
▼南侵
ロゴナ市がこのような防衛機能を備えているのは、エルモア地方の国家が南侵を目論む可能性があるためです。
今から11年前の聖歴778年のことですが、エリスファリアはこの地への侵攻を計画し、派兵の準備を整えておりました。この計画はエリスファリア領で暗殺事件が起こり、領内の反政府勢力の取り締まりを行なうために中止されるのですが、都市の人々の危機感を煽るには十分な出来事でした。
ロゴン=ロゴナ側がこの動きを知ったのは、エリスファリアの不当な侵略からの保護という名目で、カルネア領から対エリスファリア同盟を締結するための書状が届いたからです。しかし、当然のことながらカルネアも侵攻を意図していたのは明白で、ロゴン=ロゴナは同盟締結を拒絶しています。なお、この時にカルネアが単独での侵略を控えたのは、2年前に既に本国は南北に分裂していたことと、ルワール・ロンデニアといった周辺国家の介入を恐れたためです。
再びこの地区が危機に晒されるのは、ペルソニア調停会議が開かれる前年の聖歴786年のことです。この時、条約の締結前に領土を拡張しようと、エリスファリアは軍隊と使者を率いてロゴナ市を訪れ、植民地となるよう勧告を行ないました。しかし、カルネア軍は再びロゴン=ロゴナの保護を名目に派兵し、南侵を妨げようとします。この時は両軍退かず、双方の軍隊間で小競り合いが生じるのですが、11年前の教訓から武装を整えていたロゴン=ロゴナは、その混乱をついて両軍を撤退させることに成功します。
これは知られていない事実ですが、この時のロゴン=ロゴナには、マルクトハーム共和国(D-1)を通じてロンデニア武器が流れていました。というのは、山岳地帯に挟まれたこの地域は、南部への侵略を果たすための足掛かりとなる土地で、どの国家も自国の支配下に置きたがっているからです。しかし、元より敵対国家の多いロンデニアが直接動いた場合、その他の勢力の介入を招くことにもなりかねず、ペルソニア調停会議の締結が危うくなる可能性もありました。ですから、背後支援という形で独立を守らせ、他国による侵略を妨害したわけです。
余談ですが、この戦いの最中にロゴン=ロゴナを裏切り、カルネア側に協力した集団が存在します。彼らはラガンの末裔である黄人集団で、自治区の代表を勝手に名乗り、カルネアとの同盟締結の書状に調印しています。この事実をもって、カルネアはこの地区を自国の保護領だと主張しましたが、調停会議でその主張は受け入れられず、現在も独立した自治集団という位置付けになっています。
○セラ・ティフォーシュ(D-3)
カヤメ高地から流れるペール川の下流域にある小都市で、赤人、黄人、およびその混血民が暮らしています。もともとはラガンの植民都市の1つでしたが、D-1地域にあった新バンデミア王国の反乱に乗じて、聖歴748年に独立を果たします。これを主導したのはラガン出身の植民地総督であり、独立後も現地民の支持を得て代表を務めました。その後、現地赤人と外来の黄人は、民族や思想の違いから生じる諸処の問題を抱えながらも、努力しながら融和の道を歩もうとしてきました。
このような経緯で誕生した複合集団であるため、文化や思想について多様性を認めざるを得ず、非常に混沌とした社会が形成されつつあります。その一方で、政治方面では人種的な片寄りや宗教色を徹底的に排し、可能な限り平等で偏見のない状態を維持しなければならず、議員や官僚は全体を重んじる公人であることが強く求められます。しかし、強引にでも物事を進める必要がある時に、行き過ぎた公平性が邪魔になる場合がありますし、公私の在り方が極端に乖離した現状を好ましくないと考える者は多く、統一されたナショナリズムを求める声も挙がっています。
▼勇者の丘
過去にもラガンに対する独立運動は散発的に起こっておりましたが、それらは地域的な少数者の反乱で終わっていました。しかし、こういった革命家たちの活動が、隷属意識に支配されていた植民地の人々の心を変え、独立を勝ち取ることに繋がったのです。都市の郊外にあるこの丘の上には、彼ら先駆者の英霊や戦いで命を失った者たちを弔う墓標が置かれており、毎年の独立記念日には記念碑の前で式典が行なわれます。
▼ミ・ナの塔
街のあちこちにそびえ立つ石製の塔で、独立戦争時にラガンの侵攻に備えて建てられたものです。これは物見の塔であると同時に、民族・集団ごとに結成された戦闘部隊の詰め所として使われたもので、石造りの頑丈な建物の上に造られています。
現在は下の建物部分が改築され、公的機関の施設として利用されています。なお、緊急時に一目で見分けがつくように、警察は白、消防は赤といった具合に塗られていますが、防衛上の都合から軍の建物は色分けなされておりません。
○ゼ・ギネアの民(D-4)
マホロイと呼ばれる地域(D-4)には精霊を信仰する部族が隠れ住んでおり、豊かな自然に支えられながら、原始的な狩猟採取の生活を営んでいます。古くからこの地に居る部族だけでなく、北方の植民地から逃げて来た者たちも住み着いておりますが、彼らは互いの縄張りを踏み荒らさないよう注意して生活しています。これは冒涜の王によるラガン植民地の崩壊後、外部から急激に放浪民が流入したことで争いが起こり、多くの犠牲者が出てしまったためです。その後、この地に住む部族・集落の代表が集まり、互いの縄張りに対する不可侵条約と、外敵に協力して立ち向かうための同盟関係を結び、再び平和な生活が訪れました。この時に交わした約束のことを『ゼ・ギネアの誓い』といい、参加した部族全体のことを『ゼ・ギネアの民』と呼びます。
しかし、これによって新たな移住者を受け入れる余地がなくなり、もともと友好的に暮らして来た森の民は、外来者に対して排他的な集団へと変わってしまいました。また、彼らに受け入れられなかった人々が、メルセラーノ川の河口付近に新たな集落を作って住み着くようになったのですが、熱帯雨林を伐採して開墾を行なったため、周辺の自然環境に大きなダメージを与えています。
▼ゼ・ギネアの木
メルセラーノ川が発するラナン湖のほとりには、ひときわ大きな霊木が立っています。これは樹齢3000年を超えると伝えられている巨木で、同じ種類の木は他には存在しないのだそうです。
『ゼ・ギネアの誓い』はこの根元で交わされたもので、平和の木、友好のシンボルとして地域全体で大事に守られています。また、ここは会合の地でもあり、交流を深めるための宴を開いたり何か相談を行なう際には、この木の根元に集結する決まりになっています。
○砂漠周辺(D-5/D-6)
▼円穴集落
岩砂漠や礫砂漠に見られる建築様式で、窪地の斜面を真直ぐに縦に削り取り、その壁面に横穴を掘った集合住宅です。これは風避けと暑さ対策のための工夫で、砂地の近くでは殆ど見られません。
3〜8家族ほどが暮らす集落が一般的で、大きいものでも12〜15家族程度となります。しかし、クレーターのような巨大な穴に、さらに複数の縦穴を掘って建設した円穴都市の遺跡が見つかっているため、他にもこのような大集落が存在する可能性もあります。
▼ポルトナ
ティトナ砂漠の南の入り口にある隠れ里のような街で、その存在は殆ど外部の者には知られておりません。ここに辿り着くためには、隠れ谷と呼ばれる迷路のような崖地を通り抜ける必要があります。街は数十mほどの高さのある崖の合間につくられており、分厚い石の扉が備え付けられた大きな門の向う側に、石窟建築や岩にへばりつくようにして建てられた家々が並んでいます。岩石地帯の奥にあるためか、街に砂は殆ど入り込んでおりませんが、嵐や竜巻きによって巻き上げられた砂が降り積もることがあるようです。
◇無人都市キトエバ
隠れ谷の奥地には、ポルトナと殆ど同じ配置でつくられた無人の街が隠されています。この場所は墓所として使われており、ポルトナの住民が死んだ時はキトエバにある家に葬られ、そこでミイラとなってやがて朽ち果ててゆきます。つまり、キトエバは死者の住む街であり、住居などの用途で利用されることはありません。
○カダルーヤ(D-6)
メルニケ川の中流域にある都市で、緩やかな起伏のある丘陵地に位置しています。都市の中心部は4つの丘に囲まれた1番高い丘の上にあり、傾斜地の間を抜ける曲がりくねった道をのぼってゆくと、白い外壁で守られた街が見えてきます。現在は周辺の丘や麓の方にも市街地が広がっていますが、もともとこれらの場所に建物は存在していなかったようで、外部から守りやすい地形を選んで都市を建設したことがうかがえます。
ここはD・E・G地域を結ぶ交易都市として、おそらく前聖歴よりも前から栄えていたようですが、いつの頃からか南方との交易が途絶えるようになり、次第にその役割を失って廃れてゆきました。ちなみに、街の図書館には古い記録も幾つか残されているようですが、南のG地域に関する詳しい事情は記されておりません。
この都市の人口が再び増加するのは、聖歴709年に冒涜の王と呼ばれる怪物が現われ、ダート・ストーン(A-10)を中心に人々の移動が起こったためです。この際に北部から多くの避難民が流入したり、マホロイ(D-4)に逃げ込んだ人々と原住民との間で争いが起こり、その地を離れた者が住み着くようになったため、街はかつての活気を取り戻すようになります。こういった事情から、住民の人種や民族構成は多様性に富んでおり、様々なタイプの混血民も多く住んでいます。しかし、文化や民族が完全に混じりあっているわけではなく、外来の民は幾つかの系統に分かれて、都市外の丘陵地に移民街を形成して暮らしているようです。
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