(A)北東部/地域 


 


○地勢・気候

 ペルソニア北東部域は亜熱帯から熱帯に属しています。この地域は海から吹く風によって湿潤な気候となり、気温、雨量ともに安定しています。夜間を除いて、気温は1年を通じて20℃を下回ることはなく、平均気温は25度近くになります。
 もともとこの一帯は熱帯雨林や草原などが広がっていた場所で、野生の動物が多く見られました。しかし、前聖歴には既に赤人たちが移住し、ラシャン川やザップ川といった大河の下流域に農地が開墾されるようになります。そして、聖歴に入ってラガン帝国の植民地になると、さらに南へと開拓は進められ、それまでの大自然の景観は殆ど失われてしまいました。
 河川の上流域(D地域)では、まだ未開発の草原や密林が多く存在しますが、こういった場所でも少しずつ木材の伐採や焼き畑による耕作地の拡大が行われ、大規模な農場が開かれるようになっています。しかし、密林の奥地になると河川も急で、少し進むと幾つもの大きな滝に遭遇するので、舟での移動もままなりません。猛獣や変異体も多く出現することから、かつて探険に出かけた人のほとんどが逃げ帰るか、2度と戻って来なかったかのどちらかです。


○地図

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○要所

▼レオール山脈(A-6/D-1)
 北は標高1500〜2000mほどの山々が連なる山脈で、北端はミルナ台地と呼ばれる緩やかな斜面になっています。中央付近は標高2500mを超える山々があらわれ、最高峰は3200mほどになります。南はカヤメ高地と呼ばれる平らな地形で、鬼族が住み着いているため人間が足を踏み入れることは滅多になく、野生動物も数多く生息しています。
 
◇ミルナ台地
 アニム川の上流域に広がる台地で、平野部まで緩やかな傾斜が続いています。かつてこの周辺は熱帯雨林でしたが、農地開墾のために森林は伐採されてしまい、現在では商品作物の栽培が行なわれています。


▼エバー・グリーン(A-6/A-7)
 レオール山脈の麓に広がる密林地帯のことを、ラガン帝国の人々は古くからこう呼んでおりました。しかし、現在は森林の伐採が進んで、山脈北端のミルナ台地は開けた緩斜面となり、コーヒー、香辛料、パルプ材などの栽培が行なわれています。


▼クシュフォール平野(A-1)
 レオール山脈に水源を持つアニム川とザップ川の下流域は、クシュフォールという名で呼ばれています。これは空白期の頃に存在したといわれる王国から伝わる、肥沃な大地という意味を持つ言葉で、この一帯は古くから一大耕作地として栄えておりました。ロンデニアの入植が進んだ現在では、綿、サトウキビ、タバコといった商品作物の大農場が経営されています。


▼大ラシャン(A-2/A-7)
 ラシャン川の下流域を示す言葉であると同時に、その一帯の平野の名としても用いられています。北東部で最も栄えた地域であり、ラガン帝国時代には穀倉地帯としてペルソニア植民地の食料生産を支えておりましたが、現在はカルネアの支配下に置かれており、綿などの商品作物の生産が中心となっています。
 
◇ラシャン川
 ラシャン川はペルソニア中東部(D地域)から流れる大河川で、源ラシャンと呼ばれる長河川とエルテ川が合流した部分から、大ラシャン川と呼ばれます。

◇クトラ運河
  大ラシャン川の中流域からはクトラ運河が引かれており、北西に広がる耕作地帯を潤しています。


▼クテルム湿地(A-3)
 ルワール植民地(A-3)のちょうど中央辺りにあらわれる湿地で、平原の一部から定期的に水がしみ出し、周辺には幾つもの浅い池が生まれます。この辺りはラシャン川とロナ川の伏流水がちょうどぶつかる地点で、これらの河川が増水した時に揚水現象が起こるものと考えられています。
 
◇奈落の壷
 湿地帯が出来る辺りに時々見られる、小さいものはおよそ直径10cm、大きいもので70〜80cmほどになる縦穴のことです。これはいわゆる底なしの泉になっており、中を覗き込んでも真っ暗で、どこまで先が続いているのかわかりません。増水期には井戸のように水が沸き出し、時には出口から水が噴き上がるほどの勢いとなりますが、それ以外の時期は自然の落とし穴となるため、周辺の住民はなるべく近づかないようにしています。


▼海中遺跡群(A-3)
 ルワール植民地(A-3)の沖合いには石造建造物が幾つも沈んでおり、少し潜ると円柱や階段などの遺跡が目視できます。これはラガン帝国に征服されたドゥモア王国が造った建物のようで、この地域に伝わる民間伝承やラガン帝国が残した記録から、祭祀場として使われていた施設だと考えられていますが、正確なところはまだわかっておりません。というのは、本来ならば存在するはずの聖獣の巨像や、頂上にあるはずの祭壇が失われているためで、建造途中に島が沈んでしまったという説が有力です。
 祭祀場らしき施設の周囲には、窓穴のついた不思議な形の小建築物が幾つも並んでおり、これらは良い魚礁となっています。そのため、周辺ではいつも魚食性の鳥が上空を飛び回り、その下では地元の漁師たちが漁に励んでいます。


▼海賊島(A-3/A-4)
 A-3〜A-4地域の沿岸部には幾つもの小島が浮かんでおり、潮目が複雑になっています。この島々のどこかに海賊のアジトが存在し、付近を航行する商船を狙っています。しかし、エリスファリア軍船が海賊を見逃したという目撃談や、カーカバートの船を襲わないという話があることから、エリスファリアの私掠船だと考えられています。


▼双子海域(A-3/A-4)
 海賊島(A-3/A-4)とエリスファリア植民地(A-4)の間には、2つの大きな渦巻きが発生する海域があります。この渦を発生させる原因となっているのは、塔のように海中から突き出た2本の高い岩で、これは双子岩と呼ばれています。渦巻きがつくり出す流れは複雑にからみ合い、不思議な形の潮流を不規則に発生させるため、船乗りは沖合いを遠回りして航行しなければなりません。これは自然界では発生するはずのない流れだと言われており、周辺地域では変異現象の1種ではないかと考えられています。なお、この付近を半透明の巨大魚が泳いでいる姿を見たという目撃談が、昔から周辺海域の各地に残っており、これが渦を発生させる原因だとする説もあります。


▼マ・バンバ遺跡(A-5)
 聖歴720年代にワーズ山脈の北東部で発見されたもので、大量の岩石や土砂に埋まっていたドゥモア王国時代の遺構です。この遺跡の存在が明らかになったのはまったくの偶然で、地震によって山腹の土砂の一部が崩れ、その隙間から石碑の先端がわずかに露出しているのを、近くの炭坑で働くエリスファリア植民地の鉱夫に発見されました。これが現在、オルシア市の凱旋門広場に戦勝記念碑として飾られているマ・バンバ石碑で、フォークト博士が率いる調査隊が掘り出してみると、巨石建造物の一部であることが判明しました。
 周辺部族の言い伝えなども含めて最終的にわかったことは、これはドゥモア王国時代につくられた聖獣信仰者の神殿らしいのですが、ラガン帝国が侵攻を開始する直前(聖歴90年代頃)に起こった大地震によって、大量の土砂や岩石の中に埋もれてしまったようです。その後、ドゥモア王国はラガンの支配下に置かれてしまうのですが、彼らが神殿が破壊されることを恐れてこれを秘匿したため、発掘される日までは現地の聖獣信仰者たちにも、伝承の中で語り継がれるだけの幻の存在だったようです。
 発掘されたのは神殿だけでなく、それを守護するための聖職者や戦士たちの住居、彼らが日用品として使っていた器や武具、そして祭祀で用いられていたと思われる仮面なども一緒に見つかっています。これらの発掘品はオルシア市(エーゼル準州の州都)にある古代史博物館に収められておりますが、ルワールの支配時代に紛失したものや、エリスファリア本国に持ち帰る途中で船が沈没するなどして、散逸した品も少なくありません。また、聖歴750年前後の戦乱期には遺跡の管理体制が整わず、自然現象や盗掘によって破損したり、幾度か発生した地震で再び埋没した区画も存在します。


▼サザ草原(A-8/D-2)
 短茎の草本類が生える見晴しのよい草原地帯で、数多くの野生動物が生息しています。北部はエリスファリア王国の領地であり、狩猟場としても知られています。


▼コロール高原(A-9)
 ラムティア山地から北部へ向かって緩やかに下る低斜面で、かつては原住民たちの牧草地として利用されておりました。温暖で過ごしやすい気候であることから、現在は北半分までが開拓されており、幾つかの町が置かれています。
 
◇メノッサ川
 ラムティア山脈の北部に端を発し、コロール高原を通ってロナ川に注ぐ河川です。


▼モコナ山(A-9)
 ラムティア山地の北端に位置する山で、ここからメノッサ川の源流が発しています。きれいに高さの揃った3つの峰先が東西に連なっているため、トライデント山あるいは銛山と呼ぶのが一般的です。この山には幾つもの坑道が掘られており、鉄、銅、亜鉛などの鉱石が採掘されています。


▼屍平原/テシュオン(A-9)
 コロール高原の麓に広がる平地には、赤茶けた泥の沼地が広がる土地があります。ここはかつて冒涜の王と呼ばれた怪物をラガン兵が迎え撃った場所なのですが、その半数は不死者に変えられてしまい、残りの半数はかつて味方だった不死者に殺されてしまいました。彼らの死地となった場所には、乾燥することのない湿泥が堆積しており、絶えることなくガスの泡をぶくぶくと吹き出しています。
 聖職者でさえ浄化を諦めたというこの場所には、今もって誰も近づくことはありません。というのは、この忌わしい沼地の底には、冒涜の王やその落とし子が生み出した、肉だまりや屍肉塊といったアンデッドたちが眠っているからです。彼らは生者が近づくと活動を開始し、沼地に引きずり込んで仲間へと変えてしまいます。


▼ダートストーン/魔岩地帯(A-10)
 ラムティア山地の北西部にある奇岩地帯のことで、『冒涜の王』と呼ばれる異形の怪物の出現によって出来たものです。当時、この辺りには幾つものラガン帝国の鉱山があり、新たな鉱脈も発見されていたのですが、現在は誰も近寄らない土地となっています。
 
◇魔穴回廊
 冒涜の王が発見された遺跡に繋がる鉱窟のことで、ダートストーンの奥地にあります。もともとアリの巣のように複雑に入り組んだ大坑道があった場所ですが、さらに冒涜の王が掘り崩した穴と積み重なった瓦礫によって、巨大な迷宮が形成されています。坑道の一部は自然の洞穴にも繋がっており、ドウクツアリと呼ばれる巨大アリの群れによって、北部や西部の斜面にも抜け穴が出来ていると言われています。

◇降魔石窟
 冒涜の王が眠っていた遺跡で、採鉱によって魔穴回廊から偶然に繋がったものです。発見者や調査に訪れた者が尽く怪物の餌食になってしまった上に、この巨大な怪物が外に出る際に坑道が崩され、現在では完全に埋まってしまっています。平らな壁面で囲われた空洞の中に、巨石建造物が存在したことは間違いないようですが、詳細な調査が行なわれる前に怪物が活動を開始したため、素性も含めて一切が闇の中となっています。

◇腐肉の巣
 岩山の間を通って流れる川が干上がり、自然に出来た迷路のような道を進むと、浅いすり鉢状になっている地形に出くわします。これはかつて湖があった場所だと言われておりますが、この斜面には冒涜の王によって穿たれた無数の穴が残っており、中には肉だまりや屍肉塊といった不死者が隠れています。それだけでも十分に危険な場所なのですが、付近の森では無惨に引き裂かれた動物の死体が見つかることがあり、不死者以外の大型の獣が住んでいることは間違いないようです。麓に住む者の間では、不死者を喰らって永遠の命を得た獣が住んでいるという、不確かな噂が流れています。

◇悪魔の食卓
 北西の斜面に大きく張り出している、テーブル状の巨大な一枚岩のことで、多くのラガン兵が冒涜の王に喰われた忌わしい場所です。血を吸った岩の上には奇怪な植物が根を張り巡らせ、大きく捻れ曲がった幹を持つ木が互いに絡み合いながら枝を伸ばし、奇妙な迷路を形成しています。
 付近には多くの洞窟が存在しており、中には赤や紫の霧を吹き出すものも存在するようです。この霧には幻覚作用があるという噂や、生物の体に変異を引き起こすという話も伝わっていますが、真偽のほどはわかっておりません。しかし、この一帯には奇怪な姿をした動植物が生息しており、他の地域では見られない固有種も多数含まれていることから、それらの噂は真実として人々に受け止められています。


▼墓標都市メレジア(A-10)
 ラムティア山地の西麓にある長い洞窟を下ってゆくと、やがて地底都市へと辿り着きます。しかし、そこは死者のための街で、中央に建てられた地下神殿の回りには、無数の墓標が立ち並んでいるのだそうです。
 この都市を建造した人々は独自の装飾文化を持つ集団だったようで、中にある構造物や装飾模様は殆どが円や曲線で出来ています。円形の祭壇の周囲には巨大な円柱が均等に並んでおり、床には曲線で構成された魔法陣が描かれておりました。また、墓石も円柱に文字が刻まれたもので、神殿から放射状に広がるように置かれています。
 しかし、この遺跡が本当に存在するのかは誰も確認しておりません。というのは、発見してからさほど経っていない時期に、少し離れたダートストーンという場所から冒涜の王が出現したからです。ラガン植民地に残されていた詳細な記録資料と、探検隊が持ち帰ったとされる出土品の数々から、その報告は本物だと考えられています。しかし、不死者や奇怪な怪物が出没する不浄に地に足を踏み入れるのは困難であるため、やがてこの巨大な墓地は永遠の眠りについたまま忘れ去られてしまうのかもしれません。


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