展開の調整
これまでの過程で、シナリオの作成は一通り終了しました。しかし、これでシナリオが完成というわけではありません。
GMは少し時間を置いてから、今度はプレイヤーやPCの視点からシナリオを見直す作業をしてみましょう。場合によっては何か設定し忘れている箇所があるかもしれませんし、矛盾に気づくかもしれません。
○課題と対策
どのような方針を立て、どのような対策を練ることでシナリオの課題を解決できるのかを、もう1度プレイヤーの視点で考えてみましょう。
▼目的の把握
シナリオの課題について、どの程度プレイヤーは把握できるでしょうか? プレイヤーから見て目的がはっきりしないシナリオは、退屈で苦痛なものにしかなりません。いつまで経っても何をするかわからないようでは、熟練したプレイヤーでも困惑することでしょう。
▼絶対的な解法
選択肢の意味を為さないような絶対的有利な解法を用意するべきではありません。逆に、どのような手段を取っても結果が大差ないという選択肢も、プレイヤーに時間を浪費させているのと同じことになります。
▼難解さ
プレイヤーに想像がつかない複雑な謎解きなどは、シナリオの課題として設定するべきではありません。ちょっとしたクイズやパズルを出す場合でも、それが解けないからといって圧倒的に不利な状態になるような展開は控えるべきでしょう。
また、1つ1つは簡単な状況でも、それが幾つか重なると非常に難解なものに見えてしまうものです。GMは自分から見て簡単かどうかではなく、プレイヤーから見てある程度わかりやすい構造にするよう、常に心掛けておくべきです。特に推理シナリオは、簡単だと思う程度でちょうどよいということを覚えておいて下さい。
▼知識の有無
プレイヤーに専門的な知識が必要となるシナリオは作成するべきではありません。もちろん、こういったことは常識で判断できるのですが、この常識というものが実に曖昧なもので、必ずしも万人にとっての常識であるとは限らないのです。特定の情報を知っていることを前提にシナリオの課題や謎を設定する場合は、事前に確認することを忘れないようにして下さい。
これと同様の理由で、何らかのゲームやパズル、あるいは特定の作品を知っていることが前提となるシナリオも、それを知らない人にとっては非常に居心地が悪い状態となりますので、くれぐれも注意して下さい。
▼矛盾
GMは情報や状況設定に矛盾がないようシナリオを作成しなければなりません。また、同時にプレイヤーやPCの視点で見た時に、矛盾が生じていないかを考えてみる必要があります。
仮にシナリオに不備が無くても、情報が断片的に与えられることによって、状況に矛盾があるように受け止められる可能性があります。同様に、情報を入手する順番によっては、同じ状況でも全く違ったものに見える場合もあるでしょう。このような矛盾や誤解を解消することがシナリオの目的であったり、真相を突き止めるためのヒントになっていればよいのですが、いたずらにプレイヤーを混乱させたり、意図しないのにミスディレクションとしての機能を果たすようであっては、ゲームが破綻してしまうことになりかねません。
プレイヤーは最初から全体の状況を把握しているわけではありませんし、シナリオの展開によっては周囲を疑って見なければならないこともあるのです。ですから、情報はなるべくわかりやすい形で提示するようにしましょう。
▼目的の絞り込み
複数の課題を並立して提示したり、イベントを数多くばらまきすぎると、それらに目を奪われて本来の目的を忘れてしまう可能性があります。GMは課題の重要度や解決の優先順位を明らかにし、プレイヤーに過度の負担がかからないよう目的を絞り込んでおくべきです。
▼助力の準備
情報や資源が不足していたり、課題の難度に対してPCの現在の実力が及ばないと判断してしまった場合、一時的にセッションが滞ってしまう可能性があります。GMはこういった場合に、PCの助力となるNPCやヒントを与える必要があります。
▼予備の課題/イベント
プレイヤーやPCにとって課題が簡単すぎたり、思わぬ偶然から問題があっさり解決してしまうことがあります。こういった場合を想定し、予め余分な課題やイベントを準備しておけば、いざという時に役に立ちます。
しかし、対策を行っても予想通りにシナリオが進むとは限りませんので、その場で新たな課題や展開を追加するなどしてセッションを続けることもあるでしょう。こういった非常事態に際しては、分岐のために考えておいたシーンを再構成して利用する、課題をクリアしたことを引き金として新たな問題が起こす、何らかの思惑を持ったNPCを新たに投入して事件を起こす(手に入れた物品を盗む、解決した状況を元に戻してしまう)、などの対策方法が考えられます。また、正直に告白して時間を貰い、シナリオを練り直してから新たに課題に挑戦したり、その場で新たなシナリオを作成したりしてもよいでしょう。
○展開の吟味
▼PCの行動による変化
プレイヤーに分かるかどうかにかかわらず、PCがどのような行動を取っても結果が変わらないというシナリオを設定するべきではありません。また、NPCばかりが活躍したり、あるいは単なる作業を繰り返すだけで終わるシナリオも控えるべきでしょう。TRPGのシナリオは小説ではありませんし、プレイヤーもGMの語りを聞くために参加しているわけではないということを覚えておいて下さい。
▼渡るべき情報
GMの描写や与える情報が、プレイヤーの唯一の判断の拠り所となります。判断をさせるためには、それ以前に判断の根拠となる情報がなければなりません。
シナリオが分岐する可能性能があるポイントで、果たして判断基準となる情報が手に入っているでしょうか? まったく情報がない状態での選択肢は、プレイヤーにとっては何を選んでも正解でもなく、また失敗でもないのです。そのような状況下で行った選択によって状況が悪化したとして、それで納得できるプレイヤーは殆どいないでしょう。それがシナリオの展開やキャラクターの生死に決定的な影響を与える選択肢であればなおさらです。
▼失敗の回復
たった1度の選択ミスや判定の失敗で全てが失敗してしまうのでは、どれだけ熟練したプレイヤーでもシナリオをクリアするのは困難です。もちろん、そういう要素のある選択肢や判定というのは存在しますが、すべてがシビアな条件付けというのではゲームを成立させるのは困難です。そのようなシナリオが繰り返されれば、プレイヤーも疑心暗鬼になって確認に必要以上の時間を費やし、貴重な時間を無駄にしてしまうことにもなりかねません。そうならないために、GMは選択肢を用意したら、失敗時にどうなるのかだけではなく、その回復手段も幾つか考慮しておきましょう。
▼単純作業
TPRGでの行動は単なる作業になってしまってはいけません。戦闘を行うことがただのダイスの振り合いになったり、適当に会話をしていればとりあえず最後まで辿りつけるといったシナリオは、すぐにプレイヤーが飽きてしまうことになるでしょう。
何をするかはプレイヤーの選択であり、それはゲームとして展開に変化をもたらさなければなりません。わざわざ集まったのに単調な作業を繰り返すだけでは、TRPGの楽しみを捨ててしまっていると言っても過言ではありません。たとえば戦闘でも、単に敵を殴って倒せばよいとするのではなく、弱点を探ったり罠に誘い込んだりといった選択肢を用意することができます。創意工夫の余地があり、なおかつそれが楽しみになるような要素を考えてみて下さい。
▼意外性の検討
シナリオに意外などんでん返しを設定するGMも少なくはないでしょう。しかし、意外性というのは納得できなければ荒唐無稽なだけで、プレイヤーに不満をもたらすだけで終わってしまいます。こういった要素はプレイヤーの想像の範囲を超えない程度に設定する必要があります。また、可能性を伏線としてちらつかせておくのも1つの手段です。
▼シナリオの起伏
TRPGのシナリオも、映画や小説と一緒で、ずっと緊張のしっぱなしでは疲れてしまうものです。人間の集中力は長い間続くものではなく、通常は1時間程度が限界と言われております。ちょっとした息抜きの場面を用意したり、情報を整理する時間を準備することで、より集中してゲームを行うことができます。また、気を抜く時間を意図的に設けることで、クライマックスの緊迫感をより増大させる効果もあります。
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数値調整
GMは障害の数値的な面においても、ゲームバランスが取れているか確認しなければなりません。つまり、キャラクターの能力や利用できる資源に対して、障害の難易度や敵の強さが適正であるか検討しておく必要があります。GMはPCがどうやっても乗り越えられないような障害を置いたり、戦闘の出来ないPCの前に凶悪な怪物をいきなり出すような真似をしてはいけないのです。
○難易度
基本的には、評価基準を記した表(難易度表や基本判定値のランク)とキャラクターシートとを見比べてみれば、どの程度の難易度設定をすればよいかがわかります。もちろん、実際に何度かサイコロを振ってみて確かめるのもよいでしょう。特に、シナリオの分岐に関わる判定や戦闘バランスについては、慎重に設定する必要があります。もし、キャラクターが先に出来ている場合は、何度か模擬戦をやってみることをお奨めします。
○突出した能力
このゲームのシステムでは、キャラクター作成の際に数値を割り振って決定する自由が与えられているので、特定の技能レベルを意図して高く設定することが出来ます。
しかし、このような高い判定値に対して、そのまま高い難易度の障害を用意する必要はありません。どこかの数値が高ければ必ず別の数値が低くなりますし、専門的な知識がなければどうにもならない場合もあります。また、他の手段を用いて準備しておかなければ、その技能や能力を活用できないといった仕掛けも考えられます。
要するに、PCに優位な条件をそのまま目の前に出すのではなく、幅広い種類の障害を準備しておけば、自ずとこの問題には対処できることになります。また、これは自動的に各PCの活躍する場面を均等に分配したり、選択肢において特別に有利な条件を設けない、といったことにも繋がります。
○特殊な手段
アンバランスド・ワールドの世界には、術法という特殊な手段が存在します。これも突出した能力と同様に、特別に恐れることはありません。
まず、GMは習得する術法を制限することが出来ますので、使われたくない術法については、予め取らせないという対処法を取ることが出来ます。他にも前述の例と同様に、術法を利用するための前段階として、もしくは術法を利用した後の段階で、何か別の障害を用意してもよいでしょう。たとえば姿を消すことができても、閉鎖された場所には鍵や開錠の技術がなければ入ることはできません。
また、術法は短期決戦には強いのですが、使える回数が決まっていたり耐久値の回復が遅いことから、長期戦には比較的弱い傾向にあります。ですから、あえて術法を利用できる状況を多く盛り込むことで、術法を使わせるタイミングを選択肢として盛り込むことも可能です。
何より、術法にせよ突出した能力にせよ、使って効果がある状況をGMが用意してやらなければ、習得していても意味を為さないものです。絶対的に有利な状況をつくらない、ということさえ念頭に入れておけば、どんな手段を持っているのか予めわかっているわけですから、むしろ対策は立てやすいでしょう。それに、保有している手段の効果が強ければ強いほど油断するのが人間というものですから、それを逆手に取った障害を盛り込んでみるのも面白いでしょう。
○手段/能力の不足
PCたちが課題の解決に必要な手段を持っていない場合、同行するNPCや道具などを用意して、PCたちの手段や能力を補ってやる必要があります。予め使用するキャラクターがわかっている時には、通常このような事態は起こらないのですが、シナリオの方が先に出来ている場合には、こういったことは十分に有り得ます。
しかし、シナリオの傾向を先に告げておいたり、必須となる技能を指定したにもかかわらず、それに見合わないキャラクターを作った場合には、GMの側が譲歩する理由はないでしょう。また、不要と思われる技能にCPをつぎ込み、それで他のことができなくなっていたとしても、そのキャラクターに対しては手加減しなくても構いません。
もちろん、趣味の1つのもない人間の方が珍しいわけですし、キャラクターの特徴づけを否定するわけではありません。しかし、ゲームに参加するためにキャラクターを作成するわけですから、プレイヤーの側も達成すべき目標を忘れ、それを果たせないPCを持ち出してきてはいけないのです。GMはまず参加者にそのことを徹底させて下さい。
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時間調整
ここでは、セッション中の時間管理方法ではなく、シナリオ作成時における時間管理について書いてゆきます。
TRPGでは展開が定められていないために、GMが事前に予期していたよりもセッションが長引くことがよくあります。ゲームを行うことが出来る時間は無限に存在するわけではありませんし、予めセッション時間が定められている場合、シナリオの最後までたどり着くことが出来ずに、尻切れトンボで終わってしまう可能性も少なくありません。こういったことを避けるためにも、GMは事前に時間管理について考えておかなければなりません。
○シナリオの見直し
▼予測
まずは、ここまでに作成したシナリオを見直してみて下さい。そして、シナリオの展開(シーン)ごとにプレイヤーの行動を予想し、それに費やされるだろう時間を仮定します。この時は、ある程度の余裕をもって予測を立ててて下さい。また、あまり細かい単位での予測を行う必要はなく、30分程度の単位で時間を見ておけばよいでしょう。
▼構成
時間の予測を行ったら、次はシナリオの最小構成について考えてみます。つまり、不要な部分を削ぎ落とした、最も核となるシナリオの展開ということです。これを把握しておけば、時間が長引きそうな場合は不要な場面を削り、時間が余りそうな場合は用意しておいたイベントを追加する、といった時間調整が行いやすくなります。同時に、最も遠回りした場合の消費時間を予測し、カットしてもよい場面を考えておけば、最悪の事態に陥った際にも焦らずにすみます。
▼作業時間
解説、キャラクター作成、戦闘、移動など、ある程度決まった行為が行われる場面については、実際にGMがその作業を試してみて、消費する時間を予測してみればよいでしょう。多くの場合は、目安となる時間と作業に参加する人数(NPCも含む)がわかればよいので、シーン全体をシミュレートしなくても構いません。
▼時間配分
個々のシーンにかかる時間を予測したら、次はシーンに配分する時間の調整を行います。この時は、2時間ドラマや映画などが参考となるでしょう。ただし、参考にするのは各シーンに対する時間配分の比率であり、実際にかける時間そのものではないということです。
一般に、TRPGのセッションは、同じストーリーの映像作品などに比べて3倍以上の時間がかかります。また、キャラクターの作成やルールの説明に費やす時間が必要であれば、その分だけ物語にかける時間を削らなければなりません。
○余分な要素
次は、余分に時間がかかりそうな要素をピックアップしてゆき、それぞれの対策を用意します。
▼説明
参加者がゲームシステムに慣れていなければ、ルールや舞台(世界観)の説明を行う必要が生じますし、判定の際にも熟練者に比べて時間が余計にかかることになります。▼思考
推理や行動の選択といったものは、GMが想定するよりも時間を取るものです。これらは初心者ほど時間がかかるというものではありません。熟練者でもシナリオの裏を読み過ぎて情報収集に過度の時間を割いたり、多くの選択肢を思いつくばかりに悩む機会が増える、といったことが起こります。▼会話
TRPGから会話を削ることは出来ません。何か行動するにしても仲間に相談したり、情報を相手に伝えるといった作業が必要となります。会話にかかる時間というのは予測しづらいもので、参加者によっても大きく変動します。
作業時間と同様に、人数が多ければ意見をまとめるのに手間取ったり、会話の機会が増えるためにセッション時間が増大することも考えられます。この他にも、人数が多いほど雑談で時間を取られる可能性も高まるため、参加人数が多い場合には、ゆとりをもったシナリオ構成を心がけなければなりません。▼休憩
人間の集中力には限界がありますので、長時間に及ぶセッションでは全部で30分〜1時間程度の休息が必要となるでしょう。1時間につき5〜10分程度の休息がとれるようであれば理想的です。
○短縮できる要素
▼導入
プレイ時間が短い場合は、まず導入部を短縮することを考えましょう。というのは、事件に参加しないことにはシナリオは始まらないわけで、ゲームに参加することは何らかの導入を受け入れることを意味するからです。▼キャラクターの関係
PCの関係によっては、シナリオの導入を複数用意しなければなりませんし、知り合うためにも時間を割くことになってしまいます。また、パーティを分割したり個人でバラバラに動く場合は、それぞれの時間配分にも気を配らなければならなくなり、様々な情報を扱わなければならないGMが余計に混乱する原因となります。ですから、プレイ時間が決まっていたり、GMの負担を減らすためには、基本的にPCを知り合いとしておくべきです。▼情報の提示
与える情報を簡素化したり、情報収集の場面では会話を省いて判定だけにとどめるなど、幾つかの短縮方法があります。また、NPCの名前や設定、人物関係や位置関係など1回では把握しにくい情報については、予めメモや地図を用意しておいてプレイヤーに渡すことで、いちいち確認する作業を省くことが出来ます。▼作業時間の短縮
時間のかかる判定を繰り返すようなシーンをなるべく省くことも、時間短縮の1つの方法です。特に戦闘は時間がかかる作業ですから、1つのセッションに3回も4回も戦闘シーンを用意するべきではありません。
また、最終的に完遂できるとわかっている作業については、判定を1回行わせて達成値によって消費した時間を判断したり、作業そのものを完全に省いてしまっても構いません。
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最終作業
○シナリオの整理
▼流れの整理
最後に、これまで作成したシナリオの流れをフローチャートなどにまとめます。そして、イベントや必要な情報をシーンごとに分類し、各々の達成条件や分岐点などを確認します。▼データの整理
次はNPCや怪物のデータを整理し、シートなどに記入しておきます。それから、もし必要であれば地図や情報を記したメモを準備したり、説明を要するルールやよく使う表などを抜粋してまとめておいて下さい。
○完成
以上の作業を全て終えれば、シナリオは完成となります。あとは実際にプレイヤーを集めて、セッションを行うだけです。
シナリオの作成作業は慣れないうちは時間がかかりますし、迷ったり悩んだりする点も多々あると思います。しかし、経験を積むことで問題に対処できるようになるはずですし、やがては自分なりのシナリオ作成術を身につけられることでしょう。
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