カイテイン帝国


 


○自然

 エルモア地方では最大の面積をほこる国家で、北低南高の国土をもっています。南方には変異現象によって現れた、『エトワルト海』とよばれる世界最大の湖があります。東方は『凍土結界』とも呼ばれる『アイル山脈』に面しており、まともな方法ではこれを越えることはできません。
 エトワルト海北岸の緯度までは温暖で、冬期でも気温は5℃程度あります。この付近は乾燥地帯で、これより以北は冷帯および亜寒帯の気候となります。北部はおもに針葉樹林に囲まれており、気温も真夏でも10℃後半くらいにとどまります。このため農業では寒麦などの麦類と雪ジャガイモが栽培される他は、特に目だった産物はありません。それに比べて鉱産物は豊富で、特に鉄山が西部に集中して存在します。国土の南東地域には平原が広がっており、麦類の生産とともに、名馬の産地として知られています。
 この国は港らしい港をもっておりません。海に面していないわけではありませんが、北部は『流氷海域』とも呼ばれる年間を通じて流氷に閉ざされた海で、南部はエトワルト海周辺の変異植物帯と山脈によって阻まれているため、海への道を持たないのです。


○変異

 変異の激しい地区は、東部のアイル山脈とエトワルト海周辺です。アイル山脈周辺での激しい変異は、この地が凍土結界と呼ばれる原因をつくった、『水晶鏡』とも呼ばれる永久氷壁です。高さ数十mもある水晶の柱を核として、氷の壁が鏡面のごとく完全な平面をつくりあげているのです。しかも、この壁はカイテインの東面を完全に覆っており、東方との交通をかたく拒んでいます。また、氷壁の向こう側には竜が多数徘徊しているため、壁を抜けることはできても東方にたどり着くことはまず不可能でしょう。
 エトワルト海の変異は生物の変異です。ここに住む生物はその生涯において『個体進化』を繰り返し、1秒ごとに変異を起こして存在自体を違うものに変えてゆきます。原因は湖水にあるようであり、周囲の植物の変異も恐ろしいものです。この地域は怪物も頻繁に出現することから、人々は決して近づこうとはしません。数年前に一度だけ調査団が組織されましたが、生還したのは1人だけで、その彼も精神崩壊を起こしていました。しかし、彼が持ち帰った荷物の中に、たった1つ未知の機械が含まれていたことから、ここには旧文明の未踏の遺跡があると考えられています。これに対して、軍部は何らかの計画をたてているようです。


○略史

 前聖暦792年に、大帝『カイラス=エルシュ=カイテイン』によって、エルモア東部地域が平定されました。そして前聖暦765年にはカイラス2世の手によって、カイテイン帝国が建国されることとなりました。
 この国家は、西方の農民集落(スレイラール人)と東方騎馬民族(キタン人)が結合することによって成立しました。このうち、変異体たちと戦う力をもった有力な騎馬民族が後に貴族となり、封建制度国家となりました。
 前聖暦493年にスレイラール人の一部が隣国カスティルーンと同盟を結び、ユークレイ国として独立して以来は、比較的内部の闘争が少ない国でした。しかし聖暦281年になって、『大魔戦争』と呼ばれる国内紛争が勃発します。悪魔にそそのかされた一貴族が起こした内乱は20年あまり続き、これによってカイテインは弱体化することになりました。これより、法の瓦解時代と呼ばれる長い低迷期に突入し、制度の建て直しに長い時間を費やすことになりました。
 国内の状況が回復して以後も、地理的条件による国力の低さから、自ら他国に対して戦争を起こすことは殆どありませんでした。戦争らしいものといえば、ペトラーシャ継承戦争に出兵したことと、西方の鉱山地域に関するユークレイとの小規模な国境紛争くらいのもので、多くの人々は戦乱を体験せずに過ごしてきました。そのため大規模な人口の減少もなく、非常に安定した発展を遂げた国ともいえるでしょう。現在では霊子機関の導入によって多方面での開発が進み、その人口に支えられる国力はあなどれないものとなっています。


○制度

 前近代的封建制度による専制政治が行なわれています。『皇帝ハルネス2世』を頂点とし、国の実権を握っているのは貴族たちです。近代産業のあまり発達していないこの国では、貴族の持つ力はいまだ強く、平民が政治に口をはさむことは殆どできず、せいぜい陳情書という形で領主に意見を提出するのが精一杯です。
 軍隊は各貴族の指揮下にあり、領主の権限でこれを動かすことができます。対して、司法組織は国内改革で統一され、警察も皇帝の管轄下に置かれています。このため、昔はよくあった領主の無法行為も起こりにくくなりました。

・貴族:支配階級。非常に強い権力を持っています。
・騎士:各貴族に属しており、軍人として活動しています。
・軍隊:各領主貴族が統括しています。
・司法:皇帝の名の下に裁判が行われます。
・警察:皇帝の管轄下に置かれています。


○現況

 野心的な現皇帝ハルネス2世は、『新大陸エスティリオ』への参入をもくろみ、その足掛かりとなる港を得るためにルワール大公国との交戦を準備中です。眠れる大国カイテインの『南方政策』は各国の恐れるところであり、いざ実行された際には、おそらく各国が阻止をはかることは必至となるでしょう。
 一方、工業資本家が徐々に台頭してくるにつれて、下層の国民(小作農民や都市工業労働者)の不満がつのりつつあります。その不満に、交戦前の特務労役や徴兵制が拍車をかけているようです。


○国家関係

・友好国:なし
・敵対国:ルワール大公国、ユークレイ、カスティルーン、ペトラーシャ


○首都:ネルイール

 カイテイン最大の都市です。街の中央には皇帝の住む宮殿があり、その前の広場には大帝カイラスの銅像が立っています。


○民族

・スレイラール人(西方民族)
 プラチナブロンドの髪に碧眼の白人です。

・キタン人(東方騎馬民族)
 黒髪に黒い瞳の白人です。

ハーフリング(南西一部地域)
 人間の半分ほどの背丈しかない亜人種です。
 南西に広がる草原に点在するように集落が置かれています。


○宗教

 西方人民の多くは聖母教会を信仰しています。これは西部の都市『フィスホーン』に中央教会である『夜の聖ファナ』教会が存在するためです。ただし、ハルネス2世の祖父にあたるハルネス1世より3代は、聖母教会の霊子機関の導入に反対する意見を疎み、その地位を低いものとしています。そしてここ50年の間に、その力は皇帝や貴族たちによって弱められ、国政への発言力もほぼないものとされてしまいました。


○要所

・クレイヴ山脈
 年を通じて雪が消えることのない山脈で、渓谷が多いのが特徴です。麓には温泉街があり、観光地としても有名です。

・エトワルト海
 そのあまりの大きさから海と呼ばれていますが、実際は淡水湖です。この付近は個体進化と呼ばれる変異が起こるため、人々は決して近づこうとはしません。

・アイル山脈
 凍土結界とも呼ばれる峻険なその峰は、東方への交通をかたく拒んでいます。

・シルバーロード
 ミルメルヴァとフィスフォーンを結ぶ街道です。ここには鉄鉱石の小さな欠片が落ちており、それが陽の光を浴びてキラキラと輝いていることから、このように呼ばれています。

・流氷海域
 北方に広がる年間を通じて流氷に閉ざされた海で、流氷の上にはアザラシがたくさん生息しています。


○産物

 カリウス(蒸留酒)、寒麦、雪ジャガイモ、ライ麦、小麦、テンサイ、木材(ラディオラ杉)、家具、鉄、銅


○文化・生活

 東側と西側では民族系統が異なるため、住人の性格は多少違っていて、東にゆくにつれ閉鎖的で気難しい人が増えてゆきます。これは東には農村地帯が広がっていること、そして東方との交通がないという理由から、閉鎖的な文化になりがちであるためです。
 この国の冬は厳しく、そのほとんどを屋内で過ごします。人々はこの時期を冬ごもりといい、地方の村などでは春までそのまま家の中で暮らす人もいます。そのため、秋には冬ごもりの準備で忙しくなり、最も活気のある季節となるようです。彼らは冬ごもりの間、雪の中に野菜や薪を保存しておく習慣があり、必要になれば外に出てこれを掘り出します。
 このような習慣があるためか、彼らは冬の退屈な時をともに過ごす家具に対してこだわりを持っており、先祖代々つたえられてきた家具を非常に大切にしています。特にラディオラ杉製の丈夫で美しい木目の家具は他国でも人気の的で、数多く輸出されています。この国では、娘が嫁ぐ時は必ず家具を1つ持参する習慣があります。


○食事

 寒い土地柄ゆえに住人は非常に酒好きで、カリウスというアルコール度の高い蒸留酒を好んで飲みます。主食は黒パンやショウガパンなどで、おかずにはシチューや蒸しものなど暖かいものを好んで食べます。
 この国ではクルレットというパンをよく食べます。これは冬でも野外に出て狩りをする人が、寒い中でも片手で簡単に食べられるように工夫した食べ物で、ソーセージのまわりにパン生地をねじるように巻いて、それを串にさして炭火で焼くというものです。


○組織・集団

・皇帝騎剣隊
 皇帝の近衛隊です。特に『九連星』と呼ばれる皇帝の側近たちは、国外にも広く名を知られています。

・孤高の鷲組合
 アザラシ漁師たちの組合で、組合員の船は鷲を意匠化した旗を掲げています。

・グラムサイト村
 エトワルト海付近にある悪魔崇拝者たちの村です。かつての大魔戦争を引き起こした貴族の末裔が隠れ住んでいます。グラムサイトという悪魔を崇めているようです。

・ハイエット族
 主に東南部を放浪している遊牧民です。美しい絨毯をつくることで知られています。


○人物

・皇帝ハルネス2世   48歳  男
 現在の皇帝であり、自らルワールへの侵攻を計画した非常に野心的な人物です。

・ラファエーリュ=ミラルファ   24歳  男
 探検家で、エトワルト海への探索を予定しています。一緒に旅に出る仲間をつのっているのですが、現在のところは誰も集まっていないようです。勇気と無謀を取り違えているような部分があり、実現不可能と思われることを平気で口にします。

・アトレイア=ファーネル子爵   42歳  男
 ヴァルハインの一帯を支配している貴族であり、ファーネル家の当主です。非常に嫉妬深い性格で、弟と妻の関係を疑って、妻を塔に幽閉してしまったほどです。姿をくらました弟の行方を探していますが、未だにその消息は不明のようです。

・シーゼル=ファーネル子爵婦人   31歳  女
 アトレイアの妻で、盲目の貴婦人です。義弟アスラーンとの不義の濡れ衣を着せられ、夫に目を抉られ塔に閉じ込められています。

・アスラーン=ファーネル男爵   34歳  男
 優秀すぎたために兄アトレイアに疎まれた弟で、それが領地の乱れとなることを恐れて出奔しました。しかし、義姉シーゼルが塔に閉じ込められたことを知り、再び領地に戻ってきたとの噂があります。

・フランチェスカ   18歳  女
 悪魔をみごもりし少女。グラムサイト村の巫女であり、暗黒の予言を悪魔から授かる役目を負っています。昨年、父親もいないのに子供を身ごもったことから、黒き母と呼ばれ崇められるようになりました。お腹の子供は順調に育っており、あと半年もすればこの世に生を受けることとなるでしょう。

・シレーヌ=サイエルト   27歳  女
 もとは娼婦だったのですが後に信仰に目覚め、現在はレオグライドの教会に務めています。彼女の過去を知る者は「不浄なる乙女」といって彼女を揶揄しますが、彼女自身はそれを罰だと考え、甘んじて受けとめています。


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