基本構造
○発展
心霊秘学の分野はここ10年ほどの間に急速な変化を遂げました。それは心霊機械と呼ばれる一連の機械の登場によります。これらはイデルス=ホルニヴィースと名乗る錬金術師によってもたらされた技術であり、元素秘学の分野で発見された新たな物質を用いて作製されるものです。その中枢を担うのが心霊コイルと呼ばれる回路で、霊子金属を材料として構成されています。
しかし、これを発見したイデルスは後に姿を消しており、その研究の成果は設計図と一部のメモのみとなってしまいました。彼女はそもそもの素性があまり知られていない人物であり、天涯孤独の身の上であったといいます。組織にも属しておらず、弟子もないまま1人で研究を続けていたようで、それゆえに行方に関する手がかりも存在しません。もっとも、錬金術師はそのような個人的な事情を気にする人々ではなく、あくまでも技術を追求することに情熱を傾けているようです。
○心霊コイル
数種類の霊子金属で構成される回路で、円盤状の基盤の上に霊子金属を溶かして模様を描き、それに霊子を通過させることで起動させます。この中心に配置されるのが心霊錬金鎖と呼ばれる真金のコイルであることから、この基盤のことを心霊コイルと呼んでいます。この他に、周辺機器との連結には血鋼線と呼ばれる人間の血液と生命金属を合成した金属線を用いるなど、心霊コイルには心霊秘学に独特の金属を多種必要とします。錬金術の世界では、こういった特殊金属群を心霊金属と呼ぶ場合もあります。
○霊道管と霊柩
冥界と現実世界を繋ぐ道を形成するための機器であり、心霊コイルに直接連結する部分です。硝子霊管と呼ばれる複雑に折り曲げられたパイプを誘導路とし、その出口には霊水を浸した大型の密閉硝子容器が備え付けられています。この硝子容器を霊柩と呼び、この場所で降霊などの霊媒現象が観察されます。これに満たされる霊水には、心霊秘学の用語で人工妖媒と呼ばれる、人間の脳から抽出した数々の化学物質と薬剤を混ぜた混合溶液が添加されており、全体として紫がかった光を放っています。
○機刻
心霊機械を真に回路たらしめる要素は、霊体金属に刻まれた数々の微細な紋様だと考えられています。実際、心霊機械を起動した時には、これらの模様は霊子物質と同じように青白い光を放ちます。心霊秘学の分野では、この光の軌跡のことを霊光図面と呼んでいます。
霊柩も単なる硝子のみで構成されているわけでなく、硝子筒の上下には模様を刻み込んだ円盤を配し、その間に細い霊体金属線を張り巡らせています。そして、金属線にも幾つかの彫り込みを入れなければ、装置を正しく働かせることはできません。これらの模様を彫る作業のことを機刻と呼び、心霊機械の機能はこの機刻のパターンに依存します。しかし、研究機関もわずか2年という短さゆえに、機刻パターンがどのような法則によって決定されているのかは明らかにはなっていません。そのため、イデルスが残した図面通りに彫り込むのでなければ、全くの手探りで実験を試みなければなりません。
○霊刻盤
心霊機械は様々な機能を与えうると考えていますが、そのためには霊刻盤と呼ばれる構成部品にも機刻作業を施さなければなりません。霊刻盤の模様は基本部分に施すものとは異なり、樹木の枝のようなパターンが多くなります。そのためパターンのことを心霊樹型と言い、全体を指して契刻樹という呼び方をすることがあります。
○観測装置
装置の状態を観測するために用いられるのが、元素秘学の分野からもたらされた変性トルマリンで、これに振り子石をパズル状に組み込んで使用します。この石は霊魂が周囲に存在する時に微妙な振動を発するので、これを霊刻盤に血鋼線に吊すことで、心霊振り子と呼ばれる測定機器として扱うことができます。
金属の種類や重りに刻むパターンを変えることで、霊魂の存在の有無や種類、あるいは念の強さや属性といった要素を知ることが可能となります。これらは霊濃度、霊圧、霊格といったパラメータとして扱われています。しかし、精度がそれほど高いものではないので、得られた数値はあくまでも参考値程度のものでしかありません。とはいえ、その他の測定手段となると術法以外には存在しないため、殆ど全ての霊子機械には心霊振り子が設置されています。
○装置の起動
動力源として利用するのは霊子機関であり、これにより霊道管内の流体を循環させます。次に霊子機関の基盤を流用した回路を通じて、種々の霊体金属に霊子を流し、同時に雷雲機関を用いて通電を行います。無事に起動すれば、霊柩の内部に磁場の乱れが観察され、黒雲のような濃密な暗黒粒子と青白い発光が生じます。
それぞれの機能は祈祷盤と呼ばれる霊子金属製の薄板上で制御します。これは霊刻盤の上部に数cmの隙間を開けて取り付けられます。祈祷盤には金属レバーが組み込まれており、この動きに従って霊刻盤の溝上をレバーの基部がなぞってゆきます。レバーの操作には複雑な運指が要求されます。操作に成功するためには、錬金手技【心霊秘学】の判定に成功する必要があります。
○事故
心霊機械の制御に失敗した場合は、無差別に多数の霊魂を召還したり、呪詛効果を引き起こしたりすることが知られています。このような状態を死魂饗宴と呼び、ほとんどの場合は最低でも1人の人命が失われない限り、事態を収拾することはできません。何の対策もなく作業を行った場合は、作業を行った錬金術師が取り殺されてしまうことになるでしょう。なお、これは錬金手技【心霊秘学】の判定で致命的失敗を出した場合にしか起こりません。
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心霊機械の種類
○召霊機械
霊魂を霊柩に召還することができます。しかし、呼び集める霊を選択することはできず、無差別に召還が行われることになります。また、一般に知られている霊ではなく、雑霊や分霊、あるいは前世体と呼ばれる、特に現実世界への干渉力を持たない霊が呼ばれることが殆どです。
召還された霊は、機械が起動している間は霊柩の外に出ることはできません。しかし、運転が停止すると場が保てなくなり、霊は自由に活動できるようになります。
・前生体
死者の記憶のみであり、多くはうわごとのように特定の言葉を繰り返すだけです。まれに意味のある情報を得ることもできますが、かなりの運が必要とされるでしょう。・雑霊
群衆霊ともいい、雑多な意識の集合体です。それ自体では現実の存在に干渉することはできませんが、まれに強力な意識を核とした1体の霊魂に変化することがあります。この状態を合体霊と呼び、死霊相当の力を持っています。・分霊
霊媒物質に憑依していない状態の、意識のみの霊魂です。本体はもやもやとした白い煙のように見え、外界に影響を及ぼす力を持ちませんが、会話を行うことだけは可能となります。なお、霊媒物質を添加すれば完全な形の霊魂へと変化します。
○霊魂圧縮機械
霊柩に召還した雑多な霊を捕獲し、霊体硝子と呼ばれる鉱石へと圧縮することができます。なお、霊体硝子というのは総称であり、これは霊の種類によって性質を変えます。雑霊の多くは火刑薔薇と呼ばれる、薔薇によく似た形の真紅の鉱石へと変化します。なぜこのような名がついたのかというと、これに耳を近づけると唸るような低い音が鳴り響き、それが霊の苦しみの声であるかのように聞こえるからです。
捕獲に失敗した場合は、霊は群青液漿という液体となり、霊液と混ざり合って見えなくなってしまいます。この状態で霊液を使い続けると、機械に何らかの支障をきたすことが多いので、霊液をすべて入れ替えなければなりません。
○自動書記機械
タイプライターと心霊振り子との連結によって、霊の言葉を記録することができます。しかし、必ずしも正確な文章として記録されるわけではなく、全く意味不明の文字の羅列となって表現されることもあります。しかし、断片的にであれば意味の通る文章が出て来ますし、意味が通らないと思われている文字の中にも、実は重要な内容が隠されているのではないかと指摘する者もいます。
なお、錬金術師の中には、文字数が不足していたり概念にない単語を表記しようとするために、このような現象が起こるのではないかと考え、心霊言語と呼ばれる独自の言語体系を構築しようとする者もいます。
○心霊歯車
霊界磁石と呼ばれる鉱石と霊体金属を材料とした歯車機械で、霊魂の感情の動きに連動して回転運動を行います。これを人形機巧と組み合わせることで、見えない霊の動きを再現することができます。
○心霊オルゴール
霊を召還した際に、オルゴールディスクに心霊振り子の動きを記録し、それを音楽として再生する機械です。これによって、本来は唸り声のようにしか聞こえない音を、意味のある言語へと変換することができます。しかし、変換公式がまだ不完全であるため、より翻訳精度を上げるための研究が必要となります。
○心霊写真機
霊媒物質を塗布した銀板を使用する写真機で、霊体の生前の姿を映し出す機械だと言われています。しかし、実際にそれが生前のものであるかは明らかではありません。なお、通常の写真機械よりも撮影に時間を要し、多くの場合は1時間ほど露光を行わなければなりません。
○心霊オルガン
霊体金属をパイプの材質に用い、空気のかわりに霊液を震動させるパイプオルガンです。これを用いて心霊オルゴールから得られた楽譜を演奏すると、連結した霊柩の中に添加した霊媒物質の外形を変化させ、霊魂の願いを形状として示すことが可能となります。
かつて一度だけ、霊媒物質が天使の姿へと変化しようとしたことがありますが、すぐに崩れ落ちて消えてしまったと報告されています。これは使用した霊媒物質が瘴気の属性を持つためであり、この装置は異界霊魂を召還する機能を備えているのではないかという説が上がっています。そのため、装置の発明者であるホスフォラス=エディンは、これを改良した天使召還機械の作製に取り組んでいます。
○霊界通信機
生命螺子図面と呼ばれる精神秘学の技術を併用するもので、心霊機械によって得られた情報を人間の脳へと送り込みます。これによって、人間を介して霊界とコンタクトを取ることができるようになりますが、殆どの場合は霊魂の意識に精神が汚染され、憑依に似た状態に陥ってしまいます。これは正式な憑依現象ではなく、精神パターンのみを引き継ぐ限定的な作用となり、特殊能力などの霊の能力を発揮することはできません。
○霊道光路
霊界への門を開く装置だといいますが、正式に学会で報告されたことはありません。それは実験の失敗によって、実験者であるトリエサドゥラルの存在が消滅してしまったからです。辛うじて逃げ出した弟子の言葉によれば、霊道と思われる空間との連結に成功した直後に、装置が数カ所で火花を散らして停止し、霊柩に生じた空間のほころびが急激に広がりました。そして、トリエサドゥラルは這い出てきた漆黒の手に引きずり込まれ、悲鳴を残して消えていったのだといいます。恐れをなした弟子が飛び出し、しばらく後に実験室に戻ってみると、部屋の壁ごと空間が球形に削り取られ、そこに存在していた全てのものが消滅していたそうです。研究室の惨状は確認されたものの、装置によって繋がった空間が果たして霊道だったのかは、今だに明らかにはなっておりません。
○その他の産物
その他の心霊機械によってもたらされた産物および生産技術です。
・霊界磁石
霊媒物質の吸引や霊魂の引き寄せを行うことができる鉱石で、心霊歯車の材料の一部としても使用されています。これはノジエル鉱石に専用の心霊機械で霊子エネルギーを付与しながら、霊魂の圧縮に失敗した際に得られる群青液漿を塗沫することで精製されます。作製には月の運動の影響を受けるので、1か月に一度しかチャンスがありません。
これに通電することで霊媒物質を引き寄せる効果を発揮しますが、基本的に属性が瘴気のものしか吸い付けることができないようです。・霊眼
トマリクペレナの蒼幻水珠と呼ばれる青白い輝きを放つ鉱石です。これは群青液漿を高圧高温の条件下で結晶化させたものです。これに霊子を通過させると、霊魂が近づいた時に猫の目のような黒いスリットが中央にあらわれ、そこから白い輝きを放ちます。しかし、この性質が維持されるのはせいぜい半日ほどで、また、繰り返し使用するうちに劣化してボロボロに砕けてしまいます。・霊界塗料
霊媒物質に合成染料を混ぜて塗料化したもので、精製された物質をタイソホイアの銀月塗料と呼びます。これは月の波動に影響を受けて銀色の光を放つ性質を持つもので、天体の動きを示すための機器に使用されます。この塗料の発見によって、より効率よく実験を行うことができるようになり、錬金術の分野全体に大きな影響を与えております。・降霊肉媒
疑似生命体の素材となる疑似生命物質で、霊媒物質から変換することで生成されます。しかし、原料となる霊媒物質は霊界磁石によって得られたものであり、属性は全て瘴気となります。
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