医療

概説\組織\医療関係者


 

概説


○医療の現状

 この世界には術法という奇跡の力があります。だからといって、それによって医学の発展が妨げられるわけではありません。術法を使うには才能が必要ですし、聖職者は医療にだけ携わっているわけではないのです。大規模な疫病を防ぐためには医学の力が有効ですし、大量の怪我人がでた場合には聖職者の数が間に合わないこともあります(人口の増加がこれに拍車をかけています)。逆に、この時代の医学はまだまだ未発達で、医師の力ではどうにもならないこともあります。そのような怪我や病気は、奇跡の力を借りて治療するという形になります。互いを補い合うような形で存在しているといってよいでしょう。
 しかし、医学者たちにもプライドがあります。いつまでも奇跡の力に頼るつもりはなく、いつの日か科学の力ですべてをの患者を救えるようになることを目指して、日々研究に励んでいるのです。しかし、現在のエルモア地方に横行する科学主義の風潮と相まって、科学的治療法ばかりに固執する医師も決して少なくはありません。やたらと術法を毛嫌いしたり、あるいは遊牧民族たちの薬草知識を頭ごなしに否定したりといった行為を目にすることもあるでしょう。また、新しい発見の魅力に取り憑かれるあまり、新薬の実験で不幸な結果を生み出したりといったことも、悲しいことにこの世界の現実なのです。


○医療技術

 この時代の医学はまだまだ未発達であり、発見されていない事実がまだたくさんあります。血液型というものを知らないため、輸血によって逆に人を殺してしまったり、他にも誤った治療法によって病気を悪化させたりということがよくあるのです。
 とはいえ、科学の発展にともなって様々な治療法が発見され、それが人々の命を救っているのは確かです。まだ発見されたばかりで先進国家でしか行われておりませんが、予防接種が有効であることも知られていますし、免疫のメカニズムを研究している医師もいます。光学顕微鏡も存在しますから、細菌が病原体となりうることもわかっていますし、感染症を予防するために手や手術器具を消毒するのも当たり前のこととして行われています。


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医学組織


 科学的治療法に携わる医師は、必ず医学会に所属することになります。王立医師協会や国立医学会などと様々な呼び名がありますが、その本質は変わりません。医学会に所属するのは、医師には資格制度が存在するからです。医師免許を取得すれば、自動的に医学会のメンバーとなります。
 もっとも、医師免許がなければ治療ができないというわけではありません。聖職者でも医療に長けた者もいますし、無免許で治療を行う在野の医師も存在します。それから、この時代は床屋が医師のかわりをすることがあります。彼らは縫合などの外科的な治療法を身につけており、ちょっとした傷であれば医者ではなく床屋に行くというのが普通の考え方なのです。
 それでは医師免許には何のメリットがあるのでしょうか? 実は医師免許というのは、人体を傷つけてもよいという許可証なのです。手術をするためには人の体を切り開かなければなりません。その結果、失敗して死ぬこともあります。医師免許があればそれは殺人ではありませんが、免許を保持していなければ殺人として訴えられることになるでしょう。聖職者の医療行為が許されているのは、彼らが社会的に特殊な立場にいるからに他なりません。たとえば床屋であれば傷口を縫う以上のことはしません。それ以外の医療行為は彼らの管轄外なのです。
 また、この世界の医師免許は薬剤師免許をも兼ねています。医師は病状に合った薬剤と、それを患者に投与する分量を心得ています。しかし、それを知らない者が薬剤の使用を誤った場合、犯罪行為として扱われてしまうのです。
 勘違いしてはいけないのは、医療ミスはあくまでも医療ミスであり、医師の失敗によって患者を傷つけた場合は、医師はそれに対して責任を取らなければなりません。医師免許は医学会が認める治療法を的確に行うことができるという保証であって、それ以外の治療法によって生じた事態については、学会は一切味方してくれないのです。逆に言えば、医学会全体として認識を誤っている場合(輸血など)には、医師免許は医師を守る楯となります。非常に権威主義的な制度といえますが、これがこの時代の医学の現状なのです。

 なお、医学組織は他分野の科学者や工房のように、技術を秘匿したりすることのない組織です。新しい発見があれば学会誌で報告されますし、それが正式な治療法として認められれば医学書にも記載されます。そのため、特に国家同士で敵対していない限りは盛んに交流が行われています。外国に留学して先進的な医学を学び、その知識や技術を自国に持ち帰るといったことは、この世界では別段珍しいことではないのです。もっとも学会内部では派閥は存在しますし、激しい闘争が行われているのも事実です。それは医学を発展させる要素ではありますが、逆にその進歩を妨げる要素ともなりうるのです。


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医療関係者


 医療に携わる職業にはいくつかの種類があります。


○医師

 医学会に所属する医師たちです。彼らは大学の医学部でその技術を学び、どこかの医院の研修生として経験を積み、それから正式な医師として働くことになります。ただし、田舎では学校を卒業してすぐに医師として働くことも珍しくはありません。
 医師はきちんとした教育を受けている医学者であり、技術だけの存在ではありません。大きな都市の大学であれば、まずは科学的基礎として物理学、生物学、化学といった専門知識を学び、それから基礎医学、専門医学へと進みます。そういったことから、人の命を救う職業というだけでなく、知識人としても人々から尊敬されています。

 大学まで行くのは非常にお金がかかることから、多くは裕福な家庭に生まれた者しか医師になることはできません。そして金銭的に余裕があっても、医師になるには多大なる努力と才能が必要とされるのです。人口が増加している現在においては、医師は不足傾向にあります。また、医師がいない町や村も多いのです。専門分野としては大きく内科、外科に分かれますが、よほど大きな病院でもない限りは、どちらの分野もこなさなければならないのが現状です。


○調合師

 医療に使われる薬物を調合するのが調合師の仕事です。これには、科学的治療法に携わる薬剤師と、民間療法に詳しい薬師の2つがあります。

・薬剤師
 薬剤師は専門の学校で薬物の取り扱いを学んだ者で、医師の処方に従って薬剤を調合し、そして販売する資格を持っています。しかし、あくまでも知識を蓄えているだけであり、経験を必要とする診療や治療が行えるわけではありません。

・薬師
 薬師は在野の医師とでもいうべき存在で、薬剤を調合するだけではなく、内科的知識もあれば外科的な治療も行うことができます。しかし、すべては経験的なものであり、科学的な裏付けはなされておりません。こと薬草に関しては、薬師や遊牧民族の方が、医師や薬剤師よりもずっと詳しいという事実はあるのですが、科学的根拠がないという一点において治療法が否定されたり、その地位は低いものとされたりしています。


○呪医

 術法を使う医療士であり、その他の医療知識にも長けた者を呪医といいます。非常に特殊な存在です。回復系の術法を使える薬師と考えてよいのですが、より確実な治療技術を持っています。多方面の知識や才能が必要とされ、部族や親子の間で細々と受け継がれているようです。しかし、最近では科学的な治療法を学ぶために都市部に移り住んだりする者もいます。


○看護婦

 医療を直接行うわけではありませんが、医療現場で重要な働きをするが看護婦です。看護学校で看護学について学び、医師の作業を適切にサポートします。看護婦の仕事は非常に多岐に渡ります。直接の医療行為以外の作業は、すべて看護婦が行うのです。また、医療現場に勤めることから、基礎的な医学知識にも通じています。肉体労働であることは間違いなく、どちらかといえば低い地位とされていますが、それでも白衣の天使に憧れる少女は後を絶たたないのです。


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