治安状況

概説治安


 

概説


○犯罪状況の推移

 聖暦789年現在のエルモア地方では、どの国家にも自治体が設立した警察機構が存在しています。しかし、人数や対応は十分とはいえず、絶えずどこかで犯罪行為が繰り返されています。田舎では駐在員が1人しかいなかったり、あるいは自警団が犯罪防止につとめている場合も珍しくはありません。逆に大都市では増加する人口に対応できず、事件に対して常に後手に回らざるを得ない状況です。


・犯罪形態の変化
 かつては食べ物に窮した者の無計画な犯行や、山賊や脱走兵などの大規模な徒党を組む武装集団による強盗、あるいは裏組合のような犯罪組織による盗難事件というものが主流でした。裏組合のような犯罪者の組織化というのは、犯罪を効率的に行うためだけでなく、警察当局の手から逃れるという目的があって行われたものです。組織に敵対できるのは、同等かそれ以上の能力を持った組織に限られます。ですから、山賊や海賊といった集団が徐々に減少したのは、必然といってよい流れなのです。しかし、裏組合の場合は社会に真っ向から武力で敵対したのではなく、都市の暗部にまぎれることで身を隠してきた集団です。また、彼らは過剰に奪い取ることをせず、一般人に暴力を加えることもなるべく控え、社会とは一応の折り合いをつけながら活動してきました。そういった配慮が彼らをここまで生き残らせてきたのです。
 しかし、大都市では人口が急激に増加したことと、社会体制の変革がもたらした経済格差によって、都市の暗部にまぎれて悪事を働く個人犯罪者が増加しつつあります。こういった人々は元々は農村から流れてきた農民たちであり、都市の裏社会の事情など知る由もありません。また、こういった場所ではギャングの台頭によって、裏組合の力が急速に衰えているのが現状です。

・犯罪の個人化
 こういった状況は犯罪の個人化を進ませ、潜在している犯罪数は人口の増加を考慮に入れたとしても、裏組合が目を光らせていた時代よりも遙かに増加していると言われています。また、経済や流通状況は変化にともない、詐欺事件なども増えておりますし、交通改革による移動力の向上によって、広域での犯罪も多く行われるようになっています。犯罪の種類は多様化し、社会の変化に対応した知能犯も増えてきております。そのため、新しい法整備や警察の組織改革も検討されていますが、いずれの国家でも計画は立ち遅れているのが現状です。


○犯罪者数

 人口の増加とともに犯罪者数も増加の一途をたどっています。犯罪の多い大都市では、人口1万人あたりにつき100人以上の人間が検挙されています。潜在的な犯罪者はその数倍であろうと警察は推測しています。
 犯罪者のほとんどの割合を占めるのは貧困層の人間です。多くは新しく都市に移住した人々のうち、職にあぶれて仕方なく犯罪に手を出したり、あるいは貧困層に生まれてやむを得ずに盗みを行うといったパターンであり、知識人などの犯罪は少数です。実際、逮捕者のうち高度な教育を受けているのは1%にも満たず、多くはきちんとした教育を受けていないために、字もまともに読めないような人々なのです。このような風潮からも教育は重要と考えられ、服役者への基礎教育を行う監獄も存在します。


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治安


○治安の悪い場所

・大都市
 大都市では人口の過剰流入により、個人の動向を把握するのは不可能といっていい状態です。新しく都市に移り住んだ者の中には、身元や素性が明らかではない人間も多く含まれています。そして、こういった人々の大部分は経済的弱者であり、犯罪に走りやすい傾向にあります。
 もちろん貧困層に限らず、都市には犯罪を行うには色々と都合のよいことが多いものです。人が集まるということは金銭と物品が集まるということでもあり、それを欲する者も多いということでもあります。また、人口が何十万と存在する都市での人捜しは困難をきわめます。人が隠れるには人に紛れるのが最もよい方法であり、都市は格好の隠れ家となるのです。
 なお、犯罪の起こりやすい大都市では最低でも週に1回は殺人事件が起こります。窃盗などの小さな犯罪は数え上げればきりがないほどです。こういった犯罪に対処するには、現行の警察組織では人員が不足しており、未解決の事件が山積みとなっています。
 
・貧民街
 貧民街に住んでいるのは、経済的弱者、前科者、犯罪者、乞食、ストリートチルドレン(都市浮浪児)、自由奴隷、そして娼婦といった身分の低い者です。彼らの多くは日々の糧を得ることが第一と考えており、そのためには法を犯すことも厭わないのです。
 貧民街の住民は戸籍に登録されていないのがむしろ普通であり、住民を把握している者は殆どいないといっていい状況にあります。貧民街でアパートを借りるにしても、家賃さえきちん払ってくれるのであれば、大家はいちいち素性を問うことはしません。日毎に宿を変える者もあれば、逃げ出すのも日常茶飯事といった具合で、このような場所で人を捜すのは非常に困難となります。
 それから、貧民街は大通りと違って、ガス灯のような明かりが存在しません。ですから、犯罪を行うには格好の舞台となるのです。実際、夜の貧民街で余所者が犯罪に遭っても、むしろ襲われた方が愚かだと言われるくらいなのです。
 
・歓楽街
 歓楽街も犯罪の多く起こる場所です。素性の知れない人間が集まるという点では、貧民街とはさほど変わるところはありませんし、昔からこのような場所は裏組合が縄張りとしていたりするのです。近年ではギャングなどの暴力団が歓楽街を牛耳っていることもあり、裏では多額の金銭が動いています。また、裏通りでは麻薬や盗品の売買が行われている場合もあります。
 
・戦争/反乱
 戦争の後は政府も正常に機能しておらず、警察機構の働きを期待できないのが通例です。ですから非常に治安が悪く、一般人でも当たり前のように犯罪行為に手を染めてしまうのです。ユノスやエストルークといった国家では、近年に戦争や内乱が起こり、現在でもあまり治安のよくない状態です。こういう土地では、傭兵や脱走兵が山賊まがいの行為を繰り返していることもありますし、汚職や賄賂によって利益を上げる企業家や政治家も多いものです。
 また、現在ではルワール大公国の南部で、黄人による反乱が起こっています。それから、ソファイア南部で起こっている州権強化運動も、いずれ大規模な暴動に発展するものと見られています。
 市民レベルの犯罪には、頼りにならない自治体の代わりに、自警団を結成して対応している土地も多いようです。しかし犯罪の抑止力となるはずが、過剰な勢力となり逆に事件を引き起こしたりすることもあります。
 
・田舎
 田舎や辺境の地では、派遣される警官の数も少なく、自治体の力というのは殆ど期待できません。何か事件があってから、初めて中央から捜査員が派遣されてくるという具合です。しかし、田舎では近隣の住民同士が、犯罪に対して目を光らせていますし、自警団が結成されている場合も多くなります。
 田舎で怖いのは、逆に共同体の仲間意識が強く、その内部で犯罪を隠蔽したりする場合があることです。特に為政者や有力者が権勢を振るっている地域では、その傾向が特に顕著となり、一種の治外法権的な空間がつくられることがあります。
 
・街道
 監視の目が途切れがちな街道では、ときどき旅行者や荷馬車を狙った強盗事件などが起こります。かつてほどではありませんが、治安が悪い地域では脱走兵や山賊といった武装集団に遭遇することもあるようです。


○武器の携帯

 どの国家でも、所有そのものには法的な制限はありません。というのは、エルモア地方には変異によって生まれた強力な怪物が存在しており、そのための自衛力として武器を携帯することは、一般的に認められているからです。むしろ、警察などの武装の方が貧弱な地域も存在します。
 このことが犯罪を助長しているというのは1つの事実です。とはいえ、町中でも怪物が出没することもあるので、簡単にこれを規制してしまうわけにはゆきません。警察や自治体でも、この問題には非常に頭を痛めているのですが、具体的な対策は何も立てられていないのが現状です。


○明かりと治安

 一部の先進国家では、大通りにガス燈が設置されるようになっています。しかし、裏通りでは店先に吊り下げたランプや蝋燭がせいぜいですし、全体でいえば明かりがない場所の方が多いのです。後進国では大通りでさえランプの明かりしか提供されない有様です。そのため、夜間の治安というのは、大きな通りや上流階級の住む地区くらいしか保証されないのです。
 なお、術法でも明かりをつけることができますが、人件費が非常にかかります。客寄せが目的か、よほどの金持ちでなければ常備できるものではありません。唯一の例外はユナスフィール教国の首都アリア=ステアくらいのもので、大方の都市の夜は未だ闇に包まれたままなのです。


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