○自然
ブルム内海に接する国で、大部分は平地です。国中央部をユマ川が流れ、その流域は豊かな穀倉地帯を形成しています。国土の大半は温帯に属しており、海岸部は夏に涼しく冬は温和という過ごしやすい土地ですが、中央部は大陸性の気候となり、冬は寒さが厳しく夏は暑いという状態に変わります。
○変異
『絶対変異地帯』が南西にひかえており、そこに近づくにつれて変異は多く現われます。絶対変異地帯を囲んで、フレイディオン、エストルーク、ユノスの変異は共通しており、単純に『変異現象』あるいは『変化現象』と呼ばれます。その名が表わす通り、物質の構造や種が変化する現象で、この国では特に物質構成が変化する変化現象の方が多く起こるようです。たとえば南西部には石の森が広がり、黄金の角をもつ黄金鹿やゼリー状物質に変化した草などが見られます。また、巨大化して強力になった生物や、逆に考えられないほど縮小化して、手の平に乗るような狼などを見かけることもあります。絶対変異地帯の近くには、まともな人間は決して近づこうとはしませんが、運良く銀の塊と化した木や動物や岩を見つけて大金持ちになった者もおり、冒険者の中にはこの地域を狙う者も多くいます。
○略史
古くはイーフォン皇国の支配地であった土地ですが、その滅亡によって没落貴族たちによる連邦制国家が誕生し、その支配が長く続くこととなりました。しかし、結局は領主同士の足並みが揃わなくなり、連合体制は崩壊することとなります。そして聖暦662年には、連邦最大の領地を支配していたファンク家がこの地を平定し、フレイディオン王国が誕生することになりました。
しかし王国は、内乱後の国内をうまくまとめることができず、中産階級の台頭を許すこととなりました。そしてついに聖暦719年に、『緑葉革命』が起こることとなります。これは大変異以後のエルモア地方では初の市民革命であり、後にルクレイドやエストルークで起こる市民革命にも影響する重大な事件となりました。
これを緑葉革命と呼ぶのは、革命に参加した人々がこの地に生える『メリーメラント』という雑草を胸にさしていたからです。この草は茎を食用とすることができ、民衆はこれを噛んで飢えをしのいでまで戦ったのです。フレイディオンの国旗には意匠化されたこの草の葉が中央に配置されており、『メリーメラント・フラッグ』と呼ばれています。
しかし、この革命は中産階級といわれる都市の市民が中心となって行なわれたものであり、後には農民階級との意見の食い違いが起こり、国内に乱れが生じました。このため軍事による社会秩序の回復が望まれ、先代の軍人皇帝『カヴァリア』の独裁を許すこととなりました。
その後、しばらくはカヴァリアの治世が続いていたのですが、ここでフレイディオン最大の醜聞と呼ばれる事件が起こります。聖暦761年にカヴァリアは何者かに暗殺されてしまうのですが(カーカバートの暗殺ギルドの仕業と噂されています)、その息子であり将軍でもあった『カヴァリア2世』は国内の混乱をさけるために、影で仕えていた『黄金十字秘協会』にカヴァリアの複製体(レプリカント)をつくらせ、その死を隠蔽しようと工作したのです。これを告発したのが、カヴァリアの右腕とも呼ばれていた現在の皇帝『アルザフ』です。この事件は『レプリカント・スキャンダル』と呼ばれ、国内外で大問題となりました。結局、カヴァリア2世は失脚に追い込まれ、アルザフが次の軍人皇帝の地位につくことになりました。
○制度
アルザフによって『総統政府』が樹立され、自ら『総統』に就任して独裁権を握りました。立法、司法、行政の全権が総統1人に掌握されています。
・貴族:存在しません。
・騎士:存在しません。
・軍隊:総統に属する近代的な軍隊です。
・司法:総統の名の下に裁判が行われます。
・警察:総統の管轄下に置かれています。
○現況
現在はライヒスデールと軍事同盟を組み、ユークレイとの交戦を支援しています。この軍事同盟は各国の反感を買い、近いうちにこれに対する大同盟が結成される動きもあります。それに対抗するかのように、アルザフはカイテインとの同盟を結ばうとしており、『三国軍事同盟』による新大陸進出をもくろんでいます。
カヴァリアやアルザフの政治は、独裁政権とはいえ私欲を追求するものではなく、あくまでも国益を念頭に置いているため、これまで国内の批判はそれほどでもありませんでした。しかし、国際的に批判の多いカイテインを支援する動きに対しては反対意見も現れつつあります。特に総統政府の中に『良識の筆』派という集団がつくられ、総統に対して政策の修正を熱心に訴えています。
○国家関係
・友好国:ライヒスデール
・敵対国:ユークレイ、カスティルーン、ペトラーシャ、ロンデニア(通商問題)
○首都:フィ=レザール
街の中央をユマ川が流れる美しい街で、周囲には大耕作地帯が広がっています。周囲の土地は良質で、秋には黄金色の波が地平線まで連なります。
○民族
・セナイア人
小麦色の肌に金髪、碧眼の白人です。・アデン人(黒人)
黒髪に黒い瞳の黒人です。
○宗教
主に変異現象の多い南部地方で聖母教会が熱心に信奉されています。これは南部の都市レアニースに、中央教会である『星の聖カトレーユ』教会があるためです。しかし、緑葉革命以後はその権威も薄れ、国政への発言権はなくなってしまいました。
○要所
・ユマ川
国の中央部を南北に貫流する大河で、この国の発展を支える重要な水源です。・天使の樹
レアニースの中央にある純白のニレの木です。幹の下の方に天使が翼を広げているように見える模様あり、これにまつわる神話も残っています。・日輪畑
決して落ちない光といわれる小さな太陽が上空に灯っている場所で、絶対変異地帯の近くにあります。ここは植物がまったく育たず、ひび割れた地面だけしか見ることができません。
○産物
ワイン、ブドウ、小麦、大麦、トウモロコシ、石炭、翠泡石
○文化・生活
この国はもとより有数の農業大国であり、良質の麦類やブドウがとれることで有名です。また、東部の山地から切り出される『翠泡石』は非常に石質が良く、都市の街並みはきれいな石畳で完全に舗装されています。翠泡石はその名が表すように泡のような白い斑紋を含んだ緑色の岩石で、都市は日差しを受けるとキラキラとした淡いグリーンの輝きに包まれます。まるで森を透かして陽を浴びるように感じることから、人々は都市の空気をエアグリーン色と表現しています。
フレイディオンは石を材料とした工芸が盛んです。家の壁面には様々な装飾が彫り込まれており、屋根の上には家を守護する見張りとして彫像が置かれていたりします。人々は美しい街並みに誇りをもっており、首都フィレザールはエルモアで最も美しい街であると自負しています。
石畳が整備されていることから古来より交通状況が非常によく、それがまた商業を発展させる基盤にもなりました。こういったことから、昔から人々の暮らしは馬と密接な関係があり、血統のいい馬を揃えることが権力の象徴でもありました。現在では貴族制度が解体されましたが、そのような習慣は産業資本家によって受け継がれ、競馬で持ち馬が勝つことは事業の成功に次ぐ(あるいはそれ以上の)喜びなのです。また、この国独特の競技としてチャリオット・レースというのがあります。これはいわば妨害ありの競馬といったもので、馬に引かせた車輪付きの台座の上に競技者が乗り込み、互いの邪魔をしながら着順を競います。
○食事
フレイディオンの食生活の特徴としてあげられるのは、ワイン好きということでしょう。食事の時には必ず料理と一緒に食卓に出されますし、ちょっと手のこんだ料理には必ずワインベースのソースが使われます。ワインソースの兎肉蒸しやアサリの白ワイン蒸しといった料理もありますし、ワイン酢もよく使われます。
フレイディオン自慢のワインといえばウィルクでつくられる『ウィルクワイン』です。これはペトラーシャのメルセンワインとともに、最高級のブランドとして知られています。
○組織・集団
・夜の六分儀
ロンブレンの街を中心として活動している啓蒙思想家たちの集団で、現政権の独裁体制に不満を抱いています。影で政府を批判する新聞などを発行しており、時にはメンバーが投獄されることもあるようです。・伝書鳩組合
伝書鳩を飼い慣らして伝令役としており、その連絡網は国中を余すところなく覆っています。緑葉革命の際に活躍したことから、この国では鳩を平和の使者として大事にしています。・深緑騎士団
革命時の戦士団で、現在は陸軍の主力部隊となっています。・野狐隊
天才戦略家と呼ばれるレンラディオンが率いる陸軍の部隊で、傭兵上がりの癖のある人物たちが集まっています。
○人物
・皇帝アルザフ 68歳 男
先皇帝カヴァリアの右腕と呼ばれていた軍人皇帝で、強固な独裁体制をつくりあげています。30年近く政権を維持してきた手腕は見事なのですが、何でも1人で行ってしまうために部下が育たず、後継者問題で悩んでいます。最近になって総統政府の中に『良識の筆』派という集団がつくられ、彼に対して意見をするようになりましたが、むしろそのことに対しては喜んでいるようにも見受けられます。・トリッシュ=ムークナント 22歳 女
ウィルクの恋人と呼ばれる女優で、皇帝も観劇に訪れたほどの美貌の持ち主です。本人は大劇場でオペラを歌うことを夢見ていますが、死んだ父親の借金を返すまではウィルクを離れられないという境遇にあります。・ファルス=ラインハール 24歳 男
底抜けに陽気な青年で、普段は男娼を装って生活していますが、夜になると怪盗としてフィレザールの街を飛び回ります。現政権を小馬鹿にするような行動を繰り返しており、皇帝の椅子の足を1本だけ盗んだり、皇帝の肖像画の上に革命憲章の全文をびっしりと書き込んだりといった、およそ悪戯じみた行いをしています。・デュリオ=カルフィン 14歳 男
まだ少年でありながら戦場から幾度も生還を果たしている、幼き老戦士とも呼ばれる傭兵です。天才的な術法師でもあり、特に炎系の術法を得意としているようです。しかし、派手な術法を使うわりには性格はいたって物静かで、とても戦いをするようには見えません。傭兵だった父親の行方を探していますが、いまだに見つかっていません。そして目的が果たされるまで、彼は戦い続けることになるのでしょう。・野狐レンラディオン 42歳 男
用兵の天才として知られていますが、性格に問題があるため海軍から飛ばされ、現在は戦いのほとんどない陸軍に所属しています。軍功にそぐわない中尉の地位にとどまっていますが、本人はまったく気にしていないようです。野狐のあだ名の通り、いかに相手をうまく引っかけるかということに全力をつくし、素直に勝つような戦い方を絶対にしません。・アルト=リーネル 15歳 女
少年合唱団の一員であり、そのボーイソプラノの美しさは天使のようだと評判です。彼は現在でこそ男装の少女として生きていますが、1年前までは普通の少年だったのです。そのことを知られると異端扱いされかねないため、彼女は懸命に自分の性別を隠していますが、今のままでは秘密がばれるのも時間の問題でしょう。永遠に天使の歌声を持つ少年など、決しているはずがないのですから……。・ラビル=ルイス 26歳 男
爆発物をつかう解体屋で、現在はライソームで翠泡石を掘り出す仕事をしています。爆発を芸術と考えており、周囲に被害を及ぼさず、いかに美しく爆破を起こすかをテーマに日夜研究に励んでいます。
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