○自然
北部はルーエンス山脈の西端にかかっており、フィムール川の源流となっています。国土全体がアリアナ海型の気候です。中部以南は平野が広がっており、トウモロコシの栽培や牧畜が行われています。土地の5分の1ほどはフォリル半島に存在しますが、その突端はユナスフィール教国となっています。
○変異
『夢魔現象』と呼ばれるものが有名です。その土地で起こった過去の悲劇などの、生き物の強い思いを夢に見るというものです。これは『残留思念』と呼ばれる現象の一種で、これは不死者が活動する原因ともなるものですが、この地域では全ての残留思念が夢に現われます。不死者が出現しない代わりに、夢の中で恐怖を思い知らねばならないのです。
残留思念によって引きずり込まれる夢の世界を『夢界』(ドリームランド)といい、ここではいかなる不可思議なことでも現実となって起こり得ます。無事に戻ってこれた者でも、多くは精神に何らかの異常をきたしているのが普通です。
この現象は国の全土で起こるもので、西に進むほど頻繁に起こるようになります。この現象のため、ルクレイドには夢系や精神操作系の術法師が多く存在します。『夢使い』と呼ばれる者は、特にこの現象のエキスパートとして尊敬を得ています。
○略史
ルワール、メルリィナと同じく、旧『メルレイン国』が継承戦争で3分割されたうちの1国です。
この国は聖暦622年に始まった『メルリィナ継承戦争』に参戦し、メルリィナ国内から王を出す代わりに、北部の鉄山地域を譲渡されることとなりました。こうして国力は増強されたものの、この地域の利権を巡って貴族たちが争い、国内は乱れることとなりました。そしてついに聖暦757年、ルクレイドで共和主義派による革命が起こります。
他国の人権革命の影響を受けたこの『5月革命』により、王制は打倒されることとなりました。革命政権は共和主義でしたが、フレイディオンの急進的共和主義革命の失敗を見ていたので、性急な改革は行なわずに、徐々にその理念を浸透させてゆきました。まず彼らは封建制度の解体から始め、貴族が所有していた土地を貧農に分け与えました(農民の保守化を恐れ、最初は共同地という形で分配されました)。これにより、貧富の差はなるべく平均化される方向に進みました。
革命後期には、カーカバートの銀行に預けていた財産を頼って逃亡した貴族が多くいたのですが、革命政権はカーカバートと密約を交わして、逃亡貴族の銀行窓口を停止して財産を没収しました。急激な財産分配によるインフレーションヘの恐れから、その没収財産は国内の改革に向けられ、強力な物価統制などが行なわれました。
聖母教会の教えに基づく国家であったため、工業革命からは取り残されていましたが、そのことが革命後の農民階級と市民階扱の分裂を妨げ、結果的に革命を成功に結びつけることになったようです。
○制度
上下二院の立法府と、首相と10人の総裁からなる行政府によって国政が行なわれます。軍部は行政府に、司法権は司法府に属する近代的な三権分立体制がとられており、現在のところはうまく機能しているようです。選挙制については最も進んだ国で、全成人国民による普通選挙が実施されています(聖母教会の影響があるため、女性差別は存在しない)。
・貴族:存在しません。
・騎士:存在しません。
・軍隊:行政府に属する組織です。
・司法:司法府によって裁判が行われます。
・警察:行政府に属する組織です。
○現況
革命が起こって32年たった現在ですが、まだまだ国内が安定しているとはいいがたい状況です。しかし革命政権は慎重派が多く、ゆっくりと政治形態を模索しながら体制を徐々に強固にしています。こういった現政権に対して、旧王権派の残党がテロ活動をしたり、過激な改革派が独立州を確立しようとして活動したりと、まだまだ国内には問題が山積しています。また、政府を樹立する際に活躍した学識者たちが民衆に与える影響も大きく、政府はそれらへの対応にも四苦八苦している状況です。
それから、最近になって、フレイディオンの『軍人皇帝アルザフ』が台頭してきたため、徴兵制を導入することとなりました。しかし、それに対する不満の声も大きく、政権の維持には行政府も苦労しているようです。
○国家関係
・友好国:ユナスフィール教国
・敵対国:ルワール大公国、メルリィナ。敵対しているわけではありませんが、フレイディオンの軍事政権に対する不安があります。
○首都:リルト
5月革命以後に新しく遷都された都です。商業都市として栄えた場所で、現在も交易の中心地として機能しています。
○民族
・カリスト人
白人で、赤い巻毛に鳶色の瞳をもちます。
○宗教
聖母教会を信奉しています。ウェスト=ギーナには『雲の聖サラーシャ』教会があり、敬曳な信者が多く存在します。
ユナスフィール教国へ巡礼に行く者は多く、国境の街ソンムは毎年にぎわいをみせます。街道筋には一定距離ごとに修道院が建っており、旅人を暖かく迎えてくれます。
○要所
・フィムール川
フーレントから首都リルトに向かって流れている川で、この国の産業の根幹となっています。鉱物資源は全てこの川を通って運ばれてきます。・愚人村
非抵抗主義を貫いたまま死んでいった人々の村です。しばらくは完全に無人となっていましたが、現在はひそかに旧王権派が隠れ住んでいます。
○産物
霊石、鉄、石炭、柑橘類、麻、トウモロコシ、ヒマワリ、ゴマ
○文化・生活
喪に服した人があまりにも多かったために『黒服の十年』とまでいわれた、革命後の混迷期はようやく終わりを告げ、人々の生活もかつての落ちつきを取り戻しつつあります。革命を成功させたのも術法師たちの力があったからであり、革命後の混乱を押さえるために役立ったのもまた術法です。この国は典型的な術法国家といえるでしょう。
ルクレイドには『術法協会』の本部があり、術法協会が経営する魔術学校が存在します。ここでは高度な術法教育が行なわれており、大勢の優秀な術法師たちを輩出しています。魔術学校は術法を教えるとともに、一般教育も行っています。つまり、術法も教える私立の学校といった存在で、能力主義的な人材育成を主としています。この学校では、中等部の3年まで無償で教育を受けることができます。これは国家の保護があって成立する制度であり、革命による混乱が続いていた時代には政府の補助金が打ち切られていたのですが、最近になってようやくこの制度は復活し、充実した教育を行うことができるようになりました。魔術学校は奨学生制度も整っており、9年間の成績が優秀であると認められたものは、更に3年間の授業を無償で受けることができます。成績判定は3年単位で行われ、優秀な成績を取り続ける限り奨学金を受け取ることが可能です。
霊子機関などの高度な科学技術が導入されるようになると、社会は高度な知識を必要とするようになりました。こういった背景のもとで、政府は他国に先駆けて9年の無償教育制度を公立の学校でも実施することを計画しています。
このような高度な学校教育制度が受け入れられるようになったのは、近代教育の父と呼ばれる『アーシュリア=クリスィン』の努力があったからです。彼は貴族の出自であったのですが、その生涯を教育制度の改革に費やし、現在ではエルモア中で彼の思想が受け入れられるようになりました。
○食事
ヒマワリ、ゴマ、トウモロコシといったものがよく料理に使われています。料理に使われる油は、このうちのどれかから抽出されたもので、ヒマワリ油が特に好まれています。
主食はトウモロコシで、コーンフレークのように薄く焼いたものや、トウモロコシの粉をといて蒸したパンなどが食べられます。トウモロコシの粉とチーズ、にんじん、ハーブ、パセリをまぜて煮込んだスープや、トウモロコシの粉でつくったドーナツなどもよく食卓に上がります。
また、南部では辛いものが好まれる傾向にあり、料理には唐辛子や山椒をたっぷりかけるのが一般的です。
○組織・集団
・ルクレイド純粋派
革命前の王権の正当性を説き、旧制度の復活を掲げる集団です。旧貴族の残党からなり、ひそかに武力を蓄えてクーデターを企んでいます。・クライングシープ
革命政権を支援したプロの戦闘集団で、現在は陸軍に組み込まれています。中には術法師もおり、特にゲリラ戦を得意としていました。・術法協会
各国にまたがる術法師たちの組合で、首都リルトにその本拠地があります。術法協会が開設した魔術学校は、優秀な術法師たちを多く輩出しています。・百科新派
啓蒙思想家の集まりで、現政権の成立に多大なる影響を与えました。この中の何人かは大臣として国政に携わっています。・ルクレイド義勇軍
外国の啓蒙思想家たちが、国内の農民層に呼びかけて結成した軍隊です。革命軍の主力となった軍ですが、現在は解散しています。しかし、もしまた国内に乱れが生じれば再結成されるかもしれません。
○人物
・術匠マークス 76歳 男
現在のエルモア地方では最高の技量を持つと言われる術法師で、術法協会の長でもあります。穏和な性格であり、人々の平和のために術法が使われることを深く願っています。・レヴィン(故) 男
エルモア最強と讃えられた術法師で、革命軍の勝利に貢献した人物です。しかし、寄る年波には勝てず、昨年の末に102年の生涯を閉じました。マークスの師匠でもあった男です。・レヴィンズチルドレン
最強魔道士レヴィンの最後の弟子だった7人のことをいいます。彼らはみな術法協会のメンバーとして働いており、それぞれが高度な術法を使いこなします。・カナリー=クロナノミカ 21歳 女
魔術学校の受け付け嬢をしていますが、レヴィンズ・チルドレンの1人であり、情報系や知識系魔術のエキスパートです。・ルナック=ディアフィン 51歳 男
一族の復興を望むかつての騎士ですが、現在は農民の1人としてクワを振るっています。息子がいじめられているのを見て心を痛めていますが、何をしてやることもできず、ひたすら我が身のふがいなさを呪っています。・セイア=トゥエル 42歳 女
革命の混乱にまぎれて、義弟に夫を殺された女性です。かつての夫の名であるダーランドを名乗り、復讐のためだけに生きています。・赤い髪のジュリア 26歳 女
精神操作系の術法を駆使する裏組合の暗殺者ですが、普段は酒場の踊り子に扮しています。炎にもたとえられる真紅の髪が印象的で、アクセサリーなども好んで赤系統の色のものをつけています。・夢見人ヨルン=ウォレン 17歳 男
夢使いであり、心の癒し手としても有名です。その腕前もさることながら、女性にも見紛うほどの美貌で評判になっています。・スイレン(故) 女
不戦自衛主義、無抵抗主義を唱えて領主に反抗したのですが、結局は処刑に合ってしまいました。死刑の公開が行われなくなってから久しぶりに公開処刑された人物で、信仰の死を嘆きながら最後の階段を登ってゆきました。この事件は『公開死刑執行』という書物に詳しく書かれています。・リューラ=ミュン=アルカリア 28歳 女
かつての貴族の娘で、落ちぶれた今は自分の身を売って生活しています。現政権には深い恨みを抱いており、旧貴族派のスパイとして活動しています。
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