メルリィナ


 


○自然

 自由都市カーカバートのあるランカスティア半島を除いて、南部をアリアナ海に面する国です。気候も夏は高温で乾燥、冬は多湿となる典型的なアリアナ海型です。北部はペトラーシャとの国境をルーエンス山脈が走り、そこから徐々に南に向けて国土が低くなってゆきます。南部を流れるリラ川流域には平野がひらけており、大規模な農業地帯が形成されています。


○変異

 『鐘鳴りの刻』と呼ばれる現象が起こります。これは『リビングデッド』の出現が、聖母教会の鐘が5時の刻限を告げる頃から起こるためにこう呼ばれています。これは単なる不死者とは異なる存在で、普通のリビングデッドは破壊されると動かなくなるのに対して、この国で活動する不死者は破壊されても再び復活し、永遠に動き続けるのです。バラバラになったリビングデッドは『不死者のかけら』と呼ばれ、完全に燃やし尽くすか、術法で破壊しなければ滅ぼすことができません。このことから、メルリィナには敬虔な聖母教徒が多く存在します。
 その他の現象として恐れられているのが、『流土』と呼ばれるものです。泥化した土がまるで流砂のように渦を巻いて下に沈んで行くもので、南方でよく起こります。この渦に巻き込まれて帰ってきたものはおりません。気をつけていればそうそう落ちることはありませんが、時には家ごと引きずり込まれる大規模なものを目にすることもあります。


○略史

 ルワール大公国やルクレイドと同じく、旧メルレイン国が継承戦争で3分割されたうちの1国です。
 この国で建国以来の最大の出来事といえば、聖暦622年に始まった『メルリィナ継承戦争』につきるでしょう。この年に王家の血筋が途絶え、ルワール、ルクレイドの国主が継承権を主張したことから、3国間での戦乱が起こりました。この『メルリィナ継承戦争』は12年間続き、ついには聖母教会の介入を招き、中立地帯のカーカバートで会談が行なわれることとなりました。そして締結された条約により、国内の『ヴァレンシア公爵家』から王を出すことで、この不毛な国際紛争はようやく決着をえました。この代償としてルワールは南部地方を取得し、海への道を開きました。一方のルクレイドには北部の鉄山地域を割譲することになりました。
 なお、この会談にはカーカバートの13人委員会の陰謀が働いていたという噂が囁かれています。調停を買って出たカーカバートは、この頃メルリィナと貿易問題で対立していた時期で、戦争自体がメルリィナを弱体化させるためだったという話もあります。国王の死亡原因は心筋梗塞ですが、これは実は暗殺によるものらしいのです。裏の世界ではカーカバートの暗殺者ギルドの存在は有名です。


○制度

 現在は『ヴァレンシア王朝』が続いています。貴族の力が非常に強い国家で、中でも現在の王妃を出した『マルトシュタック公爵家』が勢力を伸ばし、一流貴族の連合である『名士会』を牛耳っています。衆議院(平民)と貴族院の二院で成り立つ議会において、貴族院優位という現状を考えれば、事実上マルトシュタック公爵家が国を動かしているといえます。これに対抗する勢力として『宰相派』がおり、王女の婿間題で対立を深めています。

・貴族:支配階級。非常に強い権力を持っています。
・騎士:各貴族に属しており、軍人として活動しています。
・軍隊:各領主貴族が統括しています。
・司法:領主貴族の権限裁判が行われます。
・警察:領主貴族の管轄下に置かれています。


○現況

 賄賂や陰謀で腐敗した宮廷政治に対して、教会権力がしきりに介入を試みているのが現状です。『主教コーライル』は王室顧問の立場から国王を補佐し、世俗権力の台頭を押えています。しかしマルトシュタック公爵家が率いる名士会の勢力は今もって強大で、宰相派に力を貸すのか、それとも異なる勢力となるのかで今後の政局が大きく変わってゆくことでしょう。
 そのための鍵となるのが王女『ヴィオレッタ』です。姫の婿がマルトシュタック公爵の甥である『ヒルストン侯爵』となるのか、あるいは宰相の息子『ライルファート子爵』となるかで、政局はまるで違ったものとなるでしょう。国王が王妃の叔父であるマルトシュタック公爵の対面を保つのか、それとも長く信頼を置いてきた宰相との友情を選ぶのかが問題なのですが、ここで絡むのが聖母教会の認定です。王族の婚礼は教会の祝福なしで成り立つものではなく、主教コーライルの出方によっては国を割っての戦乱が訪れることになるかもしれません。


○国家関係

・友好国:なし
・敵対国:ルワール大公国、ルクレイド


○首都:エルメアータ

 中央の広場には月の聖ソナタ教会があり、非常に熱心な信者が多く住んでいます。ワインの産地として知られており、郊外には一面のブドウ畑が広がっています。


○民族

・カリス卜人
 白人ですが、赤い巻毛に鳶色の瞳をもちます。


○宗教

 聖母教会が国教です。首都エルメアータに『月の聖ソナタ』教会があります。


○要所

・トルアレン
 パリュウスとルルの間にある金属職人の街です。この土地の地下には炎が沸きあがる水が流れており、この高熱の炎を溶鉱炉がわりに使用しています。

・リラ川
 南部地方を横断する大河で、流域には大規模な田園地帯が広がっています。


○産物

 サリカット馬〈東部産の馬)、米、トウモロコシ、魚、ブドウ、ワイン、木材


○文化・生活

 不死者の存在によって夜間が不自由になる土地柄であることから、この国では家族で遊べるミニゲームのようなものが多く生まれました。エルモア中で行われているブラック・カードというゲームも、この国で原型が生まれています。また、チェスを大規模にしたような、何人もが参加して遊べる国取りゲームなど、他国にはない一風変わった遊びもたくさん考え出されています。
 こういったゲームに使用する駒もまたゲームの歴史とともに発展し、今では芸術の1つとして数えられています。黒曜石を磨いたようなものから、金や銀でつくられたり、あるいは宝石を埋め込んだ財宝とも呼べるような駒まで存在するのですから驚きです。もちろん、一般家庭にこのような贅沢品があるはずもなく、多くは木彫りの駒なのですが、それでもその1つ1つに凝った細工が施されているのが普通です。先祖から受け継がれた古い駒は家宝として扱われ、代々子孫に受け継がれてゆきます。
 ゲームの駒を代表として、この国では木彫りの細工物が多くつくられており、フラワーカービングと呼ばれる木彫りの花や、動物の飾りなどが家中に飾られています。また、箱庭芸術として知られる木彫りの家は、建物や周囲の庭園はもとより家具にさえ細工が施されており、高級品になると本物と寸分違わぬ作りをしている品もあるほどです。貴族の中には、庭をまるごと木彫りのフラワーガーデンにしてしまっている者もいるぐらいです。また、様々な意匠を凝らした木製パイプも芸術として成立しており、紳士の嗜みの1つと考えられています。
 また、これも暗闇に対する恐怖からきているのでしょうが、この国の絵画は光と影を強調するものが多く、光画派と呼ばれています。文化の交流が頻繁になってきた現在では、その独特の技法は他国の画壇にも強い影響を及ぼしています。


○食事

 他の国々とは異なり、米を主食としています。リゾット風にして魚介類をまぜて調理したり、焼き米として煎ったものをそのまま食べたり、あるいは米の粉を引いてミルクを加えて焼いた粉餅と呼ばれるパン状のものが食べられているようです。
 メルリィナで特異なものとしては、サラ豆というデンプン質を多く含む豆の煮汁をにがりで固め、それを発酵させて塩で味をつけたトーニャンという調味料があります。これは熱したチーズのようにとろみがあり、味は味噌によく似ています。メルリィナの料理の多くには、このトーニャンが入ります。
 この他にあまり他国では見られないものに、カタツムリ料理があります。リゾットに入れたり、トーニャンで煮込んだりすると、非常に美味しく食べられます。


○組織・集団

・鉄翼騎士隊
 戦場を駆る馬のはやさから、鉄翼の名で呼ばれる騎士団です。良馬で知られるサリカット馬のみで構成されています。

・早馬組織
 伝令士たちの組合で、サリカット馬を使っています。国の全土に中継地があり、馬を交換しながら手紙や荷物を運びます。


○人物

・国王ラル4世   48歳  男
 争いごとを好まない優しい人物なのですが、そのことが国内をより混乱させているようです。現在は王女の婿問題で頭を悩ませています。以前より心臓を患っているのですが、最近は心労から特に頻繁に発作を起こしがちです。

・王女ヴィオレッタ   16歳  女
 いつもおどおどとした感じの可憐な美少女で、姫という言葉がよく似合います。まだ結婚という言葉がぴんとこないようで、普段はぼんやりと花を眺めて過ごしています。

・マルトシュタック公爵   59歳  男
 名士会の中でも最大の勢力を誇る貴族で、その財力は国王と比べても遜色ないほどです。マーテルロー付近を治めており、漁業、米、国外貿易といった3つの柱で、これからも力を増してゆくのは間違いありません。

・宰相ロゼストエンド   55歳  男
 現国王の元で11年間務めている人物で、名士会に対する唯一の歯止めとなっています。おおむね良識の徒ということができ、民衆には人気があります。

・主教コーライル   52歳  男
 いつも笑顔を崩さない柔和な表情をしていますが、決して自分の主張を曲げようとはしません。術法の達人としても名を知られています。

・ガルフォ=ルファード男爵   36歳  男
 リューディア付近を牛耳る裏組合の長で、本当に男爵の爵位をもっています。この組合は、もともとは先祖代々の情報網の1つだった隠密集団が裏組合に転じたものです。ツバキ油でととのえた口ひげが自慢のきざな男で、先祖たちのような強引な真似を好まず、スマートなやり方を好みます。

・ヒルストン候爵   31歳  男
 マルトシュタック公爵の甥であたる青年で、王女の婿の筆頭候補です。能力的には凡庸で、可もなく不可もなくといったところでしょう。

・ライルファート子爵   22歳  男
 宰相の息子で、王女の婿の候補者の1人です。父親の優秀な面を受け継いでおり、時には非凡な才能を覗かせることもあるのですが、なにぶん若さゆえに経験が不足しており、マルトシュタック公爵に対抗するには役者不足といった感があります。


先頭へ