精神秘学


 


 精神秘学の分野は、生命と世界に宿る精神の存在を探求するのが目的です。一口に精神といっても、記憶、思考、自我といった複数の要素を含み、精神の働きとはこれらの複合的な作用がもたらすものです。不可視領域で起こる複合作用の解析を行うわけですから、物理的な分野の探求よりも遙かに研究が遅れているのが現状です。


○精神の構造

 精神に含まれる要素として、記憶、自我、霊魂という3つものが挙げられ、これらは生命に属する場合とそうでない場合とで状態が異なると考えられています。生命に属している場合は、これらの三要素は生命場と呼ばれる場に内包されているのだといいます。そのために肉体を飛び越えて自由に外界と情報を連絡することはできず、肉体は目や耳といった情報収集器官が備えているのだそうです。また、生命場に内包されている状態では、これらは肉体と強く結びついており、生体の作用に強く影響を受けることも知られています。なお、生命場にある時の精神を個体霊魂や生命霊魂と呼んでいます。
 生命場の外部にある精神は、精神の海と呼ばれる領域に属すると言われており、この海に存在する総合的な精神のことを世界霊魂と言います。より正確に表現するならば、個体の精神は世界霊魂の波の上に突き出た1つのうねりでしかなく、下層部分では全ての精神は連続した状態にあると考えられてます。世界霊魂のことを宇宙精神や根源精神と呼ぶ場合もあります。
 世界霊魂と個体霊魂は1つの境界で隔てられており、この境界のことを精神界面といいます。精神を構成する情報は界面を自由に行き来することができず、そのために個体は自己の精神を保つことができると考えられています。しかし、眠っている間は精神界面が揺らいでしまい、精神の海への行き来が行われやすくなります。これが夢という状態であると考えられており、夢を見ることは世界霊魂の一部と接触する作用であるというのが、精神秘学の分野での古くからの見解です。夢を研究することは世界霊魂の研究でもあり、この領域からより高次の知識や法則を得られるのではないかと考える研究者もいます。


○記憶

 記憶とは生命が保有する情報であり、個の記憶を個層記憶と呼びます。これには2種があり、これらを外層記憶と内層記憶と呼んでいます。内外に分けていますが、これはもちろん物理的な概念とは異なる用法で、一時的に定着する記憶のことを外層記憶と呼び、簡単には忘れないような強い記憶を内層記憶と呼んでいます。記憶の忘却というのは外層から記憶が剥離することによって起こる現象であるといいますが、その機構については一切明かされておらず、あくまでも概念としてのみ伝わっている話です。
 個層記憶とは別個に世界記憶というものが存在し、これは世界霊魂の持つ記憶であるといいます。個層記憶は夢を見ている間に世界記憶に転写され、それが種層記憶や生命記憶といった、種や生命が持つ形質へと転化すると考えられています。つまり、記憶とは形質との結びつきが強いものであり、記憶は最終的に形質そのものに行き着くというわけです。
 なお、錬金術の世界では、テロエラの記憶と呼ばれる記憶物質が知られていますが、これと同質の存在が他の生物から発見されたことはありません。そのため、記憶がいかなる要素から構築されているのかは未だ不明であり、物理的世界とは異なる世界に蓄積される霊的存在であると主張する者もいます。


○自我

 自我も記憶と同様の構造を取っていると考えられています。記憶と少し異なるのは、意識と無意識の概念が絡んでくることで、この概念から内核自我、外核自我といった存在が仮定されています。
 外核自我は表面的な自我であり、性格などに影響を与える領域となります。これに対して内核自我は無意識の領域であり、本能や生命作用に影響を与える重要な部分と考えられています。内核自我は霊性を持つ形質の1つであり、生命の自発的作用そのものが、全て内核自我によってもたらされると規定する研究者が多数を占めます。


○世界の精神

 世界そのものも自我と記憶を持つものであり、それもまた個という概念に含まれる存在です。個の自我に対して世界自我、集合意識というものも規定されており、社会の動きは世界自我の作用であるという者もおり、政治や社会学の分野の研究を同時に行う研究者もいるようです。
 ただし、世界は生命素を持たない存在であるため、世界の精神のことを世界知性と呼ぶのが一般的です。世界知性の研究こそが真実の探求への最短の道であると考える学派も存在しますが、これまでに思うような成果を挙げていないのが実状です。


○精神空間

 現実でいうところの空間とは概念が異なりますが、個の内部にも空間が存在し、精神の要素は全て精神空間に含まれる存在と考えられています。夢はこの顕著な例であり、夢が感覚的情報として生命に届けられるのは、精神空間の存在を証明する要素の1つであるとされています。


○脳と精神

 古くは霊魂こそが精神であるという考えが一般的で、精神の作用のみを追求するのが精神秘学の研究でした。したが、現在では肉体と精神との関連も研究されるようになり、脳に外科手術を施して、その結果から精神との関連を解き明かそうとする者も多いようです。
 また、薬物や香り、あるいは映像といった外的影響が、精神に何らかの作用を引き起こすことも知られており、麻薬や特定パターンの映像を用いた実験なども行われています。


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