カルネア/概略

基本情報国土変異現象文化・生活奴隷解放戦争人物・集団


 

基本情報


 カルネアは人権革命によって民主主義を勝ち取っており、現在は近代的な政党政治が行われている国家です。国土はエルモア北西部にあるシュトラム半島の北半分を占めており、外洋である西海と内海であるブルム内海に面しています。


・分裂
 現在のカルネアは南北に分裂しており、それぞれが独自の政体として機能しています。北部連邦は他国と対抗するための保護貿易主義と奴隷反対主義で、南部連合は大農場の利を活かして大量に生産した雪綿を主力とする自由貿易主義と奴隷推進主義を唱えています。両政体の間では戦乱が繰り広げられており、この戦いは現在も続いております。

・国号
 正式名称はカルネア連邦共和国となりますが、民衆が自国の新しい主義思想を誇るために、民主主義カルネアもしくは民主国家カルネアという呼び方をする場合もあります。南北の政体を区別して言う場合には、それぞれカルネア北部連邦とカルネア南部連合となります。

・国旗
 カルネアのもともとの国旗は青白青の横縞であり、北部連邦は現在もこれを用いています。南部連合の国旗は青黄青の横縞で、中央に南部加盟州の数だけ輪になった白い星が描かれています。黄色は雪綿の花の色であり、南部を象徴する色となっています。

・貴族
 称号は廃止されておりませんが諸特権は既に失われており、領主という地位も存在しません。一部の貴族は地主や政治家として生き残っておりますが、財産を失って没落した家系も数多くあります。


○現況

 昨年より始まったカルネア奴隷解放戦争は、現在までは南部有利の展開で進んでいます。ただ、昨年8月にあった逃亡奴隷虐殺事件に対する怒りから、黒人を中心とした一般志願兵が急増しており、今夏にも北部では南部へ大侵攻を開始する予定でいます。志願兵の40%が逃亡奴隷であることは、南部の奴隷民に対する虐待ぶりが予想されます。


○民族

・ヴァルネル人
 もともとは現ライヒスデール地方に住んでいた民族ですが、前聖暦150年頃にこの地方へと移住してきました。淡い銀色やプラチナブロンドの美しい髪で、瞳も銀、金、青、緑などの薄い色をしています。白人の中でも特に白い肌をもちます。全国民のうち70%ほどを占めています。

・アデン人(黒人)
 黒髪に黒い瞳の黒人です。奴隷としてペルソニアから連れて来られた人々ですが、北部連邦では解放されています。全国民に占める割合は15%以上となります。

・レプラッド人(赤人)
 赤銅色の肌に鳶色の瞳、赤茶色の髪をもつ人種です。主に北方の植民島フリスタスから連れてこられた者たちで、全国民の5%以下の割合となります。

・スレイラール人
 プラチナブロンドの髪に碧眼の白人で、背はそれほど高くありません。ユークレイ由来の国民で、その殆どが東部に居住しています。全人口に占める割合は5%ほどとなります。

・その他
 フェルメル人やアル人などが南西部にわずかに住んでいます。これらは全てを足しても5%以下にしかなりません。


○宗教

 首都カルネアイスに白夜の奇跡を起こしたとして『暁の聖カルナ』を祀っている中央教会があります。
 近年になって政党政治に変わり、そして産業資本家が政治の舞台に台頭するようになってからは、教会の国政への発言権は皆無といっていいほどにおさえられています。大統領への意見書という形で政策への提言がなされることはありますが、それが政治に反映される時代ではなくなっています。


○科学・教育

 教育水準は高く、農村にも初等学校が整備されています。初等学校は全学年を通じて授業料は無料となります。
 霊子機関もいち早く導入されており、科学技術においてもエルモア屈指の存在です。これはロンデニアとの交流があったことも原因の1つですが、何より繊維産業に力を入れていたことが最大の要因でしょう。現在は内乱のために、産業における技術開発は一時的に停滞しておりますが、繊維産業におけるカルネアの技術はロンデニアに次ぐ存在となっています。


○産物

・農産物
 寒麦、小麦、大麦、燕麦、雪綿、ジャガイモ、雪ジャガイモ、ベリー類、なたね

・鉱産物
 鉄、石炭、霊石、霊水、石油、ニッケル、亜鉛、銅

・その他
 製鉄、綿織物、原木、加工材木、パルプ、魚、岩塩、楽器


○交易

 かつてより海を通じた交易を行ってきた国家で、ペルソニア大陸にも古くから進出しておりました。動力革命にもいち早く対応し、現在は長距離航行が可能な霊子汽船も建造されています。


○交通

 他国と同様に主な交通手段は馬車ですが、産業改革以降は自動車の姿も見られるようになっています。鉄道の敷設も行われており、客車による輸送サービスも始まっています。しかし、主に利用されるのは鉱産物や雪綿を初めとした貨物の輸送であり、貨物車が最も多く見かけられます。また、最近では砲門を装備した軍用列車なども建造されており、南北の争いに用いられているようです。
 なお、西部では雪で線路が埋もれることがあるので、年間の1/3は列車を利用することは出来ません。東部では積雪量は少ないのですが、時期によっては線路が氷結するため、西部と同様に冬季は運行を停止してしまいます。これは路面の維持管理費用の問題であり、利用者が増えれば状況は改善されるかもしれません。


○亜人

・エルフ
 東部のユークレイとの間には大森林と呼ばれる原生林が広がり、その奥地にはエルフと呼ばれる細身で小柄な体格の亜人が生息しています。非常に美しい姿をしており、耳の先が尖っているため、見た目ですぐ人間と区別がつきます。彼らがカルネアの国土に入り込むことはないようで、国境付近でまれに姿が目撃される程度となります。


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国土


○概要

 シュトラム半島の北部に位置し、海洋である西海と内海であるブルム内海に面しています。半島中央部にはシュトラム山脈があり、国土の東西は山々で分断されています。標高4000mを越える山が多く、最高峰は5500m以上あると言われています。
 国家全体としては冷帯から温帯に属していますが、山脈の存在によって東西の気候は大きく違ったものとなります。特に東西で積雪や降雨条件が大きく異なっており、西部は海流の影響から温暖で湿潤な気候となり、東部に比べて積雪量も多くなりますが、山脈から東部の地域では比較的乾燥した気候となります。
 
・北部
 カルネア最北部域は、低木が生えるだけの湿地や凍土など、耕作に向かない場所が多くなります。この辺りではベリー類が多く自生しており、アイスベリーなどの他の地域では見られない種類も存在しています。北西部ではトナカイが棲息しており、毛皮や食用のために飼われている場合もあります。東部にゆけばやや条件が和らぎますが、寒麦や雪ジャガイモといった特別寒さに強い作物しか育てることが出来ません。
 北部の夏は短く、8月の後半からは既に涼しくなり、9月の半ばには木々が紅葉しはじめます。11月に入る頃には既に冬が訪れており、寒い年には朝の気温が零度を下回る場合もあります。
 カルネア北端では、夏の短い期間だけ白夜となります。しかし、完全に太陽が沈まないほどの高緯度ではないため、夜11時前には暗くなり、午前2時過ぎになってから明るくなる程度です。

・南西部
 南からの海流の影響で、年間を通じて気温は比較的暖かくなります。冬でも海水温が5℃程度となり、氷が張ることはありません。しかし、背後に山地があるため雪が多くなり、冬季は住みにくい土地となります。
 この付近では特に漁業が盛んで、タラ、ニシン、サバ、シシャモ、イワシ、カニ漁などの他に、捕鯨なども頻繁に行われています。捕鯨は鯨油を目的としたものだけではなく、赤身をステーキにして食べたり、骨やヒゲも加工品として利用します。

・南東部
 ブルム内海に面する地方は、緯度のわりには温暖で住みやすい土地となります。耕作も盛んに行われており、麦類のほか主要産品である雪綿が作られています。北部の山地一帯は針葉樹林が占めていますが、南部からは針葉樹と照葉樹の混合林が見られるようになります。
 冬は11月の中旬から雪が降り始めますが、海岸部を除けば風も穏やかとなります。粉雪となることが多く、積雪量はそれほどでもありません。


○要所

・シュトラム山脈
 国土の東西を分断している山脈で、この山脈を境に東西では大きく気候が異なります。山脈は地域によって、北シュトラム、中部シュトラム、南シュトラムと分けられています。山脈の南端はアルメア王国の北部まで続いており、この付近は南シュトラムと呼ばれます。北シュトラムと中部シュトラムの間には標高が低い場所があり、わずかに東西の交通が見られますが、それ以外の殆どの地域では山越えを覚悟しなければなりません。

・塩柱洞窟
 遙か昔、カルネア西部の辺りは海底にあったと考えられており、中部シュトラム山脈の付近では岩塩をとることができます。中でも塩柱洞窟と呼ばれるものは有名で、この洞窟に海から潮風が吹きこんできて、それが天井で冷えて落ちてきたのが下で塩の柱になったのだろうといわれています。

・サイフォス川
 北部と南部を分けている川で、シュトラム山脈を源とします。ホールレラント砦のすぐ南に位置しています。


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変異現象


○白金夜

 白金夜と呼ばれる、1年でも数回しか見ることができない現象が起こります。これは空が白金色に輝くというもので、白夜とは違って冬の夜に起こる現象です。これが起こる時には北部一帯の空気が帯電し、金属が触れないほど熱くなったり、静電気がかしこに溜まっていたりということがあります。ひどい時には油に火がついて燃えだしたりするので、この夜に限っては人々は早々に明かりを消すことにしています。もっとも夜空そのものが輝いているので、明かりに困ることはありません。影響が出るのは食事の準備についてで、夜の食事は昼間にまとめてつくったりします。この日に限って多少の手抜きは許されるので、主婦たちはこの日を休暇のつもりで楽しんでいるようです。
 なお、聖カルナが起こした白夜の奇跡とは悪魔たちを滅ぼした光の奇跡のことであり、白金夜現象とは別のものです。


○銀色変異

 大森林に近い場所に位置する遺跡の街エヴァンゼルの周辺では、銀色変異と呼ばれる変異現象が起こります。これは金属化現象ともいい、その名の通り物体が無差別に金属となってしまいます。この辺り一帯の空気は銀色をしており、ねっとりと重く絡みついてくることから水銀の空とも呼ばれます。かつて道だったところは空を目指す銀色の植物に突き破られ、隙間から銀色の土が覗いています。春には銀色の花粉が嵐のように吹き荒れ、時には生物に着生して根をのばすこともあるようです。


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文化・生活


 国家の東西はシュトラム山脈で分断されており、東西の直接的な行き来はあまり見られません。このような地理的要因や歴史的経緯が地域の交流を妨げてきたため、東西ではそれぞれ独自の気風を身につけるに至りました。また、古くは南北でも異なる国家が成立していたため、若干の文化の違いが見られます。
 西部の人間は比較的無口で真面目な人が多いようです。物事には慎重に対処するため、優柔不断と受け止められています。南部は伝統や誇りを重んじる人が多く、考え方は保守的で頑迷です。北部はわりと進歩的な考え方をする人が多くを占めており、実利を優先する傾向があります。


○芸術文化

・音楽
 カルネアの代表的な文化といえば、何よりも音楽があげられるでしょう。この国独特の楽器も多く、カルナホルンと呼ばれる角笛や、蹄鉄から生まれた口弾き琴(マウスハープ)と呼ばれるものなどがあります。また、酒場には必ず歌姫がおりますし、古来の伝承などもそのほとんどが歌で伝えられてきた国なのです。吟遊詩人たちは未だに国中を旅し、昔ながらの歌を披露しています。

・劇団
 オペラ、バレエ、演劇が盛んで種類も多く、国内の至るところに常設劇場が存在します。特にカルネア大歌劇団が有名で、エルモア中でもトップレベルの実力を誇ります。

・戦争と音楽
 この音楽文化は、思わぬところで歴史に関わっています。聖暦655年には人権革命が起こり、王制が打倒されることとなったのですが、この革命側の連絡事項は密かに歌や音楽に織り込まれて伝えられていたのです。こういった史実があるため、南部の奴隷所有者たちは奴隷たちに音楽を禁じています。
 現在の北部では、南部から逃亡を果たして自由黒人となったフォルテという女性歌手が、非常に人気を博しています。その歌の多くは南部の奴隷たちの悲劇や自由への願いをテーマにしたもので、黒人志願兵たちの士気を高めています。また、南部の奴隷たちの間でも禁じられているはずの歌がひそかに歌われており、特に街風ロンドという歌は反奴隷主義の象徴ともなっています。


○食べ物

・ジャガイモ
 主要作物であるジャガイモが家庭料理にはふんだんに使われ、鳥のイモ詰め焼きや、酢漬けのジャガイモなどが好まれます。

・肉類
 高緯度の国家であることから野菜が高い一方、肉類は比較的安価で購入することができます。南部では鳥肉がよく食べられており、鳥肉に油と塩を練りこみ、それをオーブンで焼いて、レバーや野菜をワインで煮込んだソースで食べるという家庭料理が、よく食卓に出されます。
 北部ではトナカイの肉が食べられていますが、羊よりも匂いが強いため、ハーブやベリーで匂いを消したり、コケモモの実で柔らかくするなどの工夫がなされます。すりつぶしたジャガイモと一緒に食べることが多いようです。なお、ベーコンやハムをはじめとした保存食も豊富ですが、国外産のものより塩気がきついようです。

・魚介類
 西部では漁業が盛んなため、タラやニシンといった魚がよく食べられています。南部も沿岸部には漁港があり、ブルム内海で取れる魚が中部まで輸送されます。北部に特徴的な食材は、イワエビという岩場で釣れる大型のエビで、イワエビとカブの薄煮やエビ入りキッシュパイなどの料理があります。

・塩
 岩塩の産地であることから、塩気の多い食事をとります。その反動で高血圧の人が多く、他国に比べて平均寿命がいくらか短いようです。


○その他

・サウナ
 寒い土地柄のせいか、この国ではサウナが好まれています。サウナといっても一般家庭では簡易的なものが殆どで、通常はバケツにハーブなど薬効のあるものを入れてお湯を注ぎ、毛布にバケツごと身を包んで体を温めるという具合になります。

・冬季
 寒さの厳しい季節には祝日が多くなり、学校の冬季休業も夏期に比べて長くとられています。

・防寒具
 デザインよりも防寒機能を重視したコートが多く、襟元まできっちりとガードすることができます。黒や茶色など重い色の、すこし野暮ったい感じのするものを着る人が多いようです。

・スキー
 古くは前聖暦の頃から利用されていると言われ、現在でも趣味や実用のものとして役立っております。山地では競技会も行われておりましたが、ここ数年は戦争の影響から中止されることが殆どです。なお、戦争でスキーが活躍したという記録もあり、人権革命時にもスキー部隊が戦況に影響を与えたと伝えられています。

・防水布
 西部の船乗りと北部の繊維会社が3年前に共同で製作したもので、それまでの防水布と比べて遙かに防水性と耐久性に優れた品です。古くから船乗りは油を塗り込んだ仕事着で雨や寒さをしのいでおりましたが、これは非常に重く硬くなるため、作業効率の観点からは好ましいものではありませんでした。そこで開発されたのが、亜麻の種から取られる亜麻仁油を布に染み込ませ、特殊加工で仕上げを施した防水布です。北部の海軍はこの防水布でつくられた作業服を正式採用しておりますし、国外からも取り引きの話を持ちかけられています。


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奴隷解放戦争


 現在のカルネアは、北部連邦と南部連合の2つの政体に分裂して争っています。


・北部連邦
 カルネア国民党を支持する諸州の連合体で、もともとのカルネア連邦共和国政府と同一のものです。北部は工業化をいち早く進めてきた地域であり、綿織物や製鉄などの加工を主力産業としています。
 カルネア国民党は平民派であり、資本家や都市工業者を中心とする労働者を支持母体とします。彼らは他国の工業製品に対抗するための保護貿易主義と、南部の奴隷制大農場に対する反発から奴隷解放を唱えています。

・南部連合
 民主共和党を支持する南部の連合体です。南部諸州は聖暦775年にカルネア国民党からウェイリンクが大統領として選出された際に、連邦共和国を脱退して南部連合を設立しました。民主共和党は大農場経営者として生き残った旧貴族や、富裕農民などの地主層を支持母体とする党派です。南部の大農場では雪綿と呼ばれる種類の綿花を栽培しており、これを輸出することで利益を得ています。

・中立派
 南西部の諸州は北部連邦に所属しておりますが、その立場は明確にされておらず、現在は南北に対して中立的な態度をとっています。奴隷の解放についても州によって対応が異なっており、未だに奴隷制度を継続している州も存在します。


○奴隷解放戦争

 正式な開戦は聖暦788年8月25日であり、この日に北部連邦は南部連合を反乱軍と見なして、武力による国内平定を目指すことを正式に決定しました。大きな契機となったのは南軍による逃亡奴隷の虐殺事件ですが、それ以前にも幾つかの大きな事件が起こっています。
 
・パム&レリック兄弟の反乱
 南北分離後に南部で起こった黒人奴隷の反乱事件です。主人を殺害したパムとレリックの兄弟が、逃亡途中に数十名の奴隷を集めて反乱を起こし、武器庫に立て籠もって州政府と戦闘を繰り広げました。この時、地主たちが自分の奴隷に逃亡奴隷を射殺するよう命じたため、この反乱は黒人同士の殺し合いという悲劇的な結末で幕を閉じました。

・クラッセンの黒波事件
 逃亡奴隷虐殺事件の直前に、南部のアイアソール州で反奴隷主義者によるデモ行進が行われました。これに逃亡奴隷の一団が合流したことから、白人とデモ隊との間に乱闘が起こり、多数の死傷者が出ることとなりました。この乱闘が起こったきっかけは、白人の子供たちによる投石だったといいます。

・逃亡奴隷虐殺事件
 開戦の直接の原因となった事件で、昨年の8月に起こったものです。以前から奴隷の逃亡を助けていた地下鉄道と呼ばれる組織の導きで、約千人の奴隷がホールレラント砦への逃亡を企てようとしたのですが、何者かによって計画が事前に南部軍に知らされ、レイクスノアという町でほぼ全員が虐殺されました。この時、かつての人権革命の英雄の子孫であり、地下鉄道の中枢で働いていたカルシェという青年もこの事件で死亡し、辛うじて逃げ延びることができたのは白人の少年と赤人奴隷の少女、そして生まれたばかりの赤人の赤ん坊だけでした。この少年というのが南部のアイアソール州の知事の息子であることと、そして事件のあまりの残酷さに北部の人々は驚くとともに、南部への怒りを新たにしました。これによって黒人を中心とした志願兵が急増しており、今夏にも北部では南部へ大侵攻を開始する予定でいます。志願兵の40%が逃亡奴隷であることは、南部市民の奴隷に対する虐待ぶりが予想されます。


○経済要因

・綿花
 現在のカルネアの輸出の中心となるのは雪綿と綿織物ですが、かつてはペルソニア産の綿花を原材料として輸入し、これを綿織物に加工して国外へ輸出しておりました。しかし、技術力からロンデニアに勝つことが出来ず、また、現地ペルソニアへ業者が直接参入して綿織物をつくりはじめたために、価格でも品質でも国外製品に負けるようになったのです。しかし、聖暦750年代に入ると、雪綿という寒さに強く品質のよい綿花が南部でつくられ、これを北部の工業地帯で加工して輸出するようになると、カルネアはかつての地位を取り戻してゆきます。これに伴い、労働力を確保する必要が生じ、奴隷の輸入が増加することになりました。
 しかし、北部の工業地帯はロンデニアに比べると競争力が低く、やがて保護貿易による産業保護を求めるようになります。これに対して、奴隷制大農場による安価な雪綿の大量生産を果たしていた南部は、ロンデニアや現地労働者を多量に用いるペルソニア工場への綿花輸出による利益を望んで、自由貿易を推進したのです。これが現在起こっている内乱の大元の原因です。

・雪綿
 普通の綿花よりも背丈が低い、鮮やかな黄色い花をつける種類です。普通の綿とは逆の性質を持ち、寒く乾燥した地域でしか栽培できない珍しいものです。雪綿からつくられる繊維は、通常のものよりも弾力性、伸長性、保温力に富んでおり、手触りも絹のように滑らかです。また、非常に加工しやすく染色性も良好と、優れた性質ばかり備えています。


○奴隷制度

・奴隷の増加
 カルネア南部は、雪綿栽培に伴って急速に発展した土地であり、労働力確保のために大量の奴隷を必要としました。もともとは輸入で奴隷の数を増やしておりましたが、やがて奴隷との間に自分の子を産ませて、その子供を奴隷にするような増殖法を選択する地主も増えてゆきました。このため、現在いる奴隷の中には混血の者も数多く存在します。なお、奴隷の待遇はこの頃を境にさらに悪化しており、南部では他の国家よりも手ひどい扱いを受けることが多いようです。

・大統領選挙と奴隷制度
 南北が分裂したきっかけは、聖暦775年にカルネア国民党からウェイリンクが大統領として選出されたことです。しかし、これ以前から選挙における奴隷の扱いが問題となっており、南北の溝を深める原因となっていました。
 南部では選挙以前から、奴隷の所有者が奴隷の人数分の票を投じることができる権利を要求してきました。しかし、西部諸州の反対もあって、この要求は拒絶されたまま選挙が行われ、結果としてウェイリンクが勝利することとなったのです。
 南部は選挙後も主張を曲げず、当時の選挙結果は無効であると言い続けてきました。北部はこれを逆手に取って、市民権を持たない者が選挙権を持つことはなく、市民権を要求するのであれば、全ての奴隷は解放されなければならないと主張したのです。このことから北部では奴隷解放が叫ばれるようになり、北部諸州では聖暦784年より奴隷たちに市民権が与えられるようになりました。

・奴隷と兵士
 北部では奴隷制度の廃止が行われましたが、そもそも人権を理由に奴隷の解放を目指したわけではないため、解放後の保護が積極的に推進されることはありませんでした。そのため、解放奴隷は何も持たないまま労働市場に投げ出され、自由という名の牢獄に解き放たれたのです。彼らの中には字が読めない者も多く、肉体労働職に就くしか選択肢は残されておりませんでした。こうして解放奴隷の多くは劣悪な条件で雇用され、何かあれば真っ先に首を切られるという、不遇な立場に置かれることになったのです。
 しかし、安価な労働力を手に入れて喜ぶのは資本家だけであり、下層労働者にとっての奴隷の存在は、自らの立場を脅かす競争相手でしかありません。カルネアでは全成人市民が選挙権を得ているため、解放奴隷という新たな支持者を得る見込みはありましたが、そもそも労働者を支持母体としているカルネア国民党にとっては、下層労働者の反発も抑える必要がありました。
 このような事情から、北部では解放奴隷を積極的に軍隊に取り入れることで、既存の労働者の雇用機会を保護しようとしています。特に逃亡奴隷の虐殺事件後は黒人志願兵が急増しており、政府の思惑通りの状況となっています。なお、志願兵の給料や待遇は、市民権を得てからの期間に応じたものへと制度改正が行われたため、解放奴隷は白人よりも悪い待遇で働く結果となっています。配属先も殆どが前線となり、これまでにも多くの黒人が命を落としています。


○要所

・ホールレラント砦
 対南部の前線基地として建築された堅固な要塞で、北軍の要とも呼ばれています。

・サイフォス川
 北部と南部を分けている川で、シュトラム山脈を源とします。ホールレラント砦のすぐ南に位置しています。戦いの主な舞台となる川で、ここで戦闘が起こった時は、河面の全てが真っ赤に染まるといいます。

・レイクスノア
 逃亡奴隷虐殺事件が起こった、南北の境界近くにあるファナスト山地の麓の街です。地下鉄道の係留点の1つでしたが、現在は完全に南部の支配下に置かれてしまいました。ファナスト山地の地下には、岩壁教会と呼ばれる岩を掘ってつくられた赤人宗教の隠れ教会があったのですが、今はそこも封鎖されてしまっています。


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人物・集団


○集団

・黒豹隊
 黒人志願兵で構成された北軍の1部隊で、南部侵攻の尖兵として組織されました。

・地下鉄道
 南部からの逃亡奴隷を支援する地下組織で、係留点と呼ばれる教会や家などが南部各地にあります。

・黄昏の傭兵団
 エルモア中を旅して回るプロの傭兵たちで、現在は北軍に手を貸しています。術法を使った集団戦闘を得意としており、南部は彼らのことを死神と呼んで恐れています。ダークヘッド、サンセットヒル、スティンガーなど、その多くのメンバーは本名や過去を隠しています。

・ラズファの白戦斧
 北部で活動を続ける秘密結社で、密かに黒人を狩り集めて拷問したり、処刑を行ったりしている集団です。その手口は残忍で、生かしたまま手足を切り落としてどぶ川に放り投げたり、さらし者として死体を公園の木に吊したりします。南部の工作員ではないかと考えられており、北部では指名手配となっています。


○人物

・ウェイリンク=リトリーズ(男/62歳)
 カルネア国民党に所属する国会議員で、奴隷解放推進派の筆頭ともいえる人物です。彼が大統領に選出されたことが、南部と北部を二分させるきっかけとなりました。

・イライアス=ハルト(男/56歳)
 カルネア国民党の党首で、現在の大統領です。目的は民主共和党の打倒にあるようで、彼にとって奴隷制度の撤廃は南部打倒の口実に過ぎません。父が南部の小作農家の出であり、その苦労を目にしていたことが、彼の思想に多大な影響を与えたようです。

・アポリネール=デニスン(男/52歳)
 南部連合の大統領で、伯爵家の直系の血筋を受け継ぐ者です。自らもルーデンス地方に広大な奴隷制大農場を所有しいます。

・リッツェ(男/31歳)
 昼コウモリと呼ばれている情報屋で、北部の動向を南軍に知らせています。普段は薬屋の主人として生活しています。

・フォルテ(女/31歳)
 自由黒人の1人であり、エルモア中に名を知られている歌手です。逃亡時の体験からつくられた歌は、北部の人々に非常に影響を与えました。現在は軍を慰問したり、政治集会でデモンストレーションを行ったりと、非常に忙しい毎日を過ごしています。

・メイリン(女/39歳)
 地下鉄道組織のうちの1人で、黒人女性です。逃亡奴隷の逃がし屋として最も有名な人物で、南部では指名手配になっています。

・レイシーズ(男/44歳)     
 地下鉄道組織のうちの1人で、主にサイフォス川の川渡しをしています。白人ですが、積極的に奴隷廃止運動に参加しています。

・ポッツニール(男/45歳)
 解放者という名の新聞の記者で、黒人たちの思想的なリーダーです。逃亡奴隷の1人であり、現在は自由黒人として北部で活動しています。

・カルシェ=フィルマイユ(男/28歳没)
 人民革命で活躍したカースティン=フィルマイユの子孫に当たる青年で、地下鉄道の中枢人物でもありました。昨年の奴隷逃亡計画を主導したのですが、計画は失敗に終わり、彼も南軍の銃弾の前に倒れています。

・ユリアン=コーネリアス(男/18歳)
 逃亡奴隷虐殺事件で生き残った白人の青年で、現在は北部で生活しています。貴族の跡継ぎだったのですが、奴隷反対主義に傾倒して赤人の少女ステラと駆け落ちを試みました。父親が州知事であるだけでなく、母方の祖父が南軍の将軍であることから、非常に注目される立場にあります。

・ステラ=ノースポーリア(女/16歳)
 赤人の少女で、ユリアンとともに虐殺事件に巻き込まれました。顔の右半分には火箸で殴られた火傷の痕があり、右目は潰れてしまっていてものを見ることはできません。現在は母親としての仕事におわれているようです。

・メリーアン=マ−スリー(女/2歳)
 逃亡奴隷虐殺事件で生き残った赤子で、南部の追撃隊の砲火の中で生まれた赤人の子供です。母親は銃弾を受け死亡してしまったため、現在はユリアンとステラの子供として育てられています。

・オリベイア=ウィーザー(男/67歳)
 カルネア交響曲の父として知られる有名な作曲家です。その曲の素晴らしさもそうなのですが、片腕の音楽家ということが彼の名を広めるきっかけとなりました。


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