霊子と幽子
アンバランスド・ワールドの世界で最も不可思議な存在といえるのが、『霊子』(霊的因子:スピリチュアル・ファクター)と『幽子』(星幽因子:アストラル・ファクター)という2つの物質です。これらは正確な意味での物質ではなく、幽子は我々がいう物質が存在する空間(実空間)ではなく、『内部空間』と呼ばれる異なる空間に存在するものです。そして、霊子というのはその2つの空間を行き来することができる微細粒子のことをいいます。霊子はエネルギーであるとともに、情報の受け渡しをする役目もあります。
○基本構成
アンバランスド・ワールドを構成しているのは、物質(素粒子)としての物質素子、動力素子(エネルギー)としての霊子、記憶素子(空間遺伝子)としての幽子、および時間の4つがあり、これらが複雑に作用しあうことによって、様々な現象が生まれるのです。
これをコンピューターの世界で例えるならば、
ディスプレイの画像=物質
電気の流れ=霊子
プログラム=幽子
となります。そして、内部空間というのが磁気ディスクや光ディスクなどの記憶媒体だと考えて下さい。もちろん、記憶媒体といっても概念的なもので、物質に依存するものではありません。
○作用
幽子というのは、素粒子やエネルギーの存在位置や向きなどを規定しています。この情報が霊子によって伝達されることによって、物質の構造や位置の変化が起こるのです。この世界の法則がパソコンの画像と違うのは、画像側からもプログラムに干渉できるということです。これが術法のおおよその仕組みです。
これを段階別に書くと、
1:物質の配列を変える。
2:物質の配列から霊子に情報が伝達される。
3:霊子が幽子に情報を伝達する。
4:幽子の配列が変わることで、霊子にその情報が伝わる。
5:霊子から物質に情報が伝わり、それによって物質の配列が変わる。
ということになります。術法の場合、1にあたる過程が呪文や身振りということになります。この過程は霊子が通過する回路ができればいいだけなので、精神作用による脳内の電気的な変化だけでもよいのですが、補助的手段を用いた方が回路を形成しやすくなります。
霊子による情報伝達は、普通に生活しているすべての場面で起きています。術法や科学魔道と呼ばれるものが単なる物理現象と異なるのは、霊子エネルギーを精神や霊子物質から取り出して、余分な変化を加えてしまうことです。このために、いわゆる超常現象と呼ばれる変化が起こることになります。
なお、術法と科学魔導の技術で生成できる現象は、必ずしも一致しておりません。術法にしか出来ないこともあれば、逆に科学魔導でしか成し得ないものも数多く存在するのです。しかし、理屈はわかっておらず、科学魔導時代にもその原理は解明されておりません。
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生物の構造
生物もまた、物質の一形態として考えることができます。この世界では、生物は肉体と精神から構成されており、基本的に自我をもつものだけを生物と呼んでいます。
肉体を構成しているのは、物質素子と霊子です。
精神を構成しているのは、霊子と幽子です。
キャラクターとして数値にする場合、これらは耐久値として表記されているものにあたります。
まず精神としての要素に当たるのが気力と自我であり、気力は霊子のみ、自我は霊子+幽子という構成になっています。肉体としての要素は活力と生命になり、活力は物質素子、生命は物質素子+霊子ということになります。
このようになっているため、気力がつきても自我を消費して術法がかけられるわけです。また、自我や生命がつきると死や精神崩壊につながるというのは、生命としての情報を媒介するための霊子が尽きてしまうからになります。そして、死亡すると2つの空間の連絡がなくなり、霊体と肉体に分離するということになるのです。
○例外的機構
生命体を構成する霊子や幽子は、生体外に存在するものと異なる作用を見せる場合があります。これは全体と個の内部空間のあいだには界面が存在するためだと言われておりますが、科学魔道時代にもこの謎が解明されることはありませんでした。
・霊子物質の変換
霊子物質に含まれるエネルギーを用いて術法を発動させたり、精神耐久値を回復させることはできません。霊子物質を利用することが出来るのは、科学魔導の機械とごく一部の怪物だけです。・精神耐久値の変換
精神耐久値1ポイントは約100EP(エネルギーポイント)に換算できますから、生命体の精神は膨大なパワーを秘めているということになります。このため、精神耐久値によって科学魔道の機械を動かす技術が、実験的に開発されたことはありましたが、たった1つの例外を除いて実用化には至っておりません。もとより星界から自由にエネルギーを取り出せる以上、このことにはなんの意味もないからです。なお、変換装置は試作品として作製されたもので、この世界の歴史を通じて1基しか存在せず、現在では作成方法も完全に失われています。・精神への影響
科学魔道技術は生体の精神への直接介入を苦手な分野としており、我々の世界における薬品を用いた精神治療のように、物質的な作用を介して精神へと影響を与える技術が多くなります。この点に関してだけは、術法の方が優れているといってよいかもしれません。これは変異現象も同じ傾向を示しており、一般に精神的な変化よりも物質的な変化の方が多く見られるようです。
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霊子物質
霊子からエネルギーを取り出すためには、『霊子機関』(エーテル・リアクター)というものが必要です。この原理をおおざっぱに説明すると以下のようになります。
○霊子の形態
・エルネギーの放出
霊子が実空間と内部空間を自由に行き来できるのは、先に述べた通りです。この移動の際に、霊子はそれぞれの空間で存在するための形態に属性を変えてしまいます。これにより、実空間でエネルギーを保持していた霊子は、内部空間に入る時にエネルギーをすべて放出することになります。これが霊子エネルギーと呼ばれるもので、放出するエネルギーがほぼ100%となるので、霊子機関は通常の動力機関に比べて高効率となるのです。・霊子の結晶化
しかし霊子という存在は、実空間に普通に存在するとはいっても、かなり希薄なものです。ですから、これをまとまった形で集めなければ霊子機関の燃料として使用することはできません。そこで、これを結晶状構造にして集合させたのが『霊子物質』(エーテルマター)というものです。
科学魔道時代には、空間に浮遊している素粒子レベルの希薄な霊子(浮遊霊子)を、霊子物質に転換する技術がありました。この技術を用いて星界の濃密な霊子を霊子物質にし、それをエネルギー源としていたのです。星界からの輸送時には霊子物質を気体状態にし、物理的なパイプラインではなく、空間に霊子物質の流れる方向を設定することで搬送を行ってました。これの名残が『霊風』(エーテルウィンド)と呼ばれるものであり、現在でも星界へ繋がる空間のほころびからトリダリスへと流れ出しています。・霊石と霊水
聖暦789年現在のエルモア地方には結晶化などの技術はなく、『霊石』や『霊水』と呼ばれる霊子物質を使用しています。この霊石と霊水というものは科学魔道時代につくられたものではなく、大変異現象によってできたものです。
実は異常活性化した霊子が固まってできたのがこれらの霊子物質であり、低いエネルギー段階の異常活性状態(変異の原因となる霊子の活性状態)にあります。このため、霊水や霊石を使用した場合、『霊子蒸気』(エーテルスチーム)という変異の原因になる煙が発生します。エルモア地方の人々はこのことに気づかないまま、霊子機関を使用し続けているのです。・霊砂
これに対して、霊子蒸気を出さない霊子物質も現存します。これは『霊砂』(エーテル・ダスト)と呼ばれるもので、科学魔道時代に転換されていたものと同じ霊子物質です。エルモア地方では『粉末霊石』とも呼ばれているのですが、あまり掘り出されない上に霊水や霊石をに比べてエネルギー効率が悪いことから、霊石のかけらとしか思われていません。これは、霊水や霊石が異常活性化したエネルギー状態の高い霊子であることと、学問院が発掘した霊子機関が科学魔道時代の初期のもので非常に効率が悪いため、このような誤解を受けているのです。
霊砂を用いていた科学魔道時代の霊子機関は、現在のエルモア地方で使用されているものより、遥かに高い出力を誇ります。ですから、科学魔道時代の標準的な霊子機関で霊水や霊石を用いれば、かつて以上のパワーを出すことができるでしょう。しかし、それに機械が耐えられるかどうかはわかりませんし、何か不可思議な現象が起こらないとは限りません。
なお、エルモア地方に霊砂がほとんど存在しないのは、霊石や霊水に転換されてしまったためで、ペルソニア大陸にはまだたくさん残っています。もし、効率のいい霊子機関が発掘されたり、あるいは霊子蒸気による変異が人々に知られることとなった場合、この霊砂の取り合いとなるのは必定といえるでしょう。
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霊子荷
霊子にはいくつかの状態があります。まず、大きく分けられるのが実空間での霊子と、内部空間での霊子です。内部空間というのは不可視の存在であり、これを観察することはできません。そのため内部空間の霊子の形態はまったく知られておりませんが、実空間の霊子については科学魔導時代に詳しく研究されておりますので、それを簡単に説明します。
○霊子荷
霊子は核の周囲をエネルギーが取り巻いているような構造しています。霊子の状態の違いというのは、周囲を取り巻くエネルギーの状態で区別されます。
霊子核を取り巻くエネルギーを霊子エネルギーと呼ぶわけですが、これは電子のようなもので、正と負と中立の3つのタイプがあります。このタイプを『霊子荷』(霊荷)といい、どの霊子エネルギーが核を取り巻いているかで、全体の霊子としての性質が決まります。
正の霊子を正霊荷型、負の霊子は負霊荷型、中立のものを中立型と呼びます。霊子エネルギーは正のみ、正と中立、中立のみ、負と中立、負のみの5つの組み合わせで霊子核を取り巻いています。正と負のエネルギーは互いに打ち消し合うため(対消滅ではなく消滅となります)、正と負の霊子が同時に霊子核を取り巻くことはありません。これに対して、中立型はどちらの影響も受けません。
○属性
霊子が全体として正の属性を帯びていれば正霊荷型霊子(正霊子、陽霊子)といい、中立型であれば中立型霊子(中立霊子)、負であれば負霊荷型霊子(負霊子、陰霊子)と呼びます。正霊荷や負霊荷にはそれぞれ2つのタイプがあり、霊子核の周囲に正の霊子エネルギーしかない場合はプラス&プラス(++)、正と中立があればプラス&ゼロ(+0)というように区別します。同じく負のみであればマイナス&マイナス(−−)、負と中立であればマイナス&ゼロ(−0)です。中立のみの場合はゼロ&ゼロ(00)となります。
これに関連するのが、『瘴気』や『聖気』というものです。魔族と呼ばれるものは、肉体や精神を構成する霊子が負霊荷型(−−)のものです。不死者と呼ばれるものも負霊荷型(−−)に属します。これに対して人間(+0)や天使(++)と呼ばれるものは正霊荷型に属しています。ですから、人間は天使の聖気で傷つけられることはなく、逆に不死者や魔族には浸食されてしまうのです。なお、精霊と呼ばれる存在は中立(00)ですので、聖気や瘴気によって傷つけられることはありません。
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活性状態
霊子荷の他にも、霊子にはいくつかの状態があります。それが霊子エネルギーの活性状態です。
○エネルギー状態
霊子のエネルギー状態には、異常活性化、活性化、結合化、死化という4つがあります。通常、霊子が物質空間にある時は、霊子核と結合した状態を保っています。これが活性化すると霊子エネルギーは核から遊離します。こうなって初めてエネルギーとしてこれを利用できることになります。霊子エネルギーを活性化させることを「励起させる」といい、活性状態のことを励起状態ともいいます。
活性化した霊子エネルギーが遊離してしまった後の核だけの状態を死化といいます。逆にいえば、この段階ではじめて霊子は内部空間に移動できることになります。つまり死化状態にならなければ、情報を媒介することはできません。
・霊子核
霊子核は最小単位ではなく、それ以下の微粒子の結合によって形成されていると考えられています。しかし、その構造解析は科学魔導時代にも成功しておらず、現在も不明のままです。ただ、高いエネルギーを与えることで霊子核が崩壊し、周囲に高エネルギーを放出することだけが知られています。これを利用した技術が霊子核融合砲です。
○異常活性化
今まで説明した3つの状態は、ごく普通の自然状態で存在するものです。しかし、異常活性化というのはこれらとは大きく異なります。この異常活性状態というのは、霊子核が崩壊した時に霊子エネルギーと核とのエネルギーバランスが崩れることで起こります。霊子核が崩壊すると、霊子は通常よりも高いエネルギー状態に移行します。この状態になると、霊子エネルギー自体が霊子核を崩壊させるほどのエネルギー量になります。この時、崩壊した霊子核が内部空間に移行すると、異常活性化した霊子エネルギーはフリーとなり、他の霊子核を攻撃します。そして核が崩壊した霊子は再び異常活性化し……という具合に、サイクルが出来上がってしまうのです。
大変異現象はこうして発生することになりました。この現象が術法よりも超常的な現象となったのは、崩壊した霊子核が情報の伝達ミスをおかすためです。ただ救いがあったのは、異常活性化した霊子エネルギーも正負の属性を失わず、正と負のものが出会った場合は互いに消滅してしまったということと、高エネルギー状態がやがて減衰していったことでした。
このため、大変異現象と呼ばれる霊子核の完全崩壊をもたらすほどのエネルギー状態は収まったのですが、その後も活性化レベルのエネルギー状態が続き、霊子核の部分崩壊を引き起こしています。これが現在起こっている変異現象の原因であり、術法のような小さな変化が現在でも続いているのです。
○変異への対策
変異もまた、霊子や幽子に関わる物理法則の1つでしかありません。科学魔道の技術や術法と異なるのは、これが全くの無作為に起こるという点と、これを防ぐ術は事実上ないということです。
時代が進んだ今では、変異現象の進行を遅らせる技術が開発され、中央地方の結界として実際に使用されています。しかし、これは根元的な対策ではないため、鎮静化は時間に任せるしかありません。また、結界はあくまでも一時逃れでしかなく、それ自身でさえ徐々に変異の影響に侵されつつあることから、場合によってはいきなり停止してしまう可能性さえあるのです。もう1つ、変異を解消する手段として期待されているのが虚粒子ですが、これはまだ研究途上のものでしかありません。
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