カルネア


 


○自然

 シュトラム半島の北部に位置し、海洋である西海と内海であるブルム内海に面しています。東西はシュトラム山脈で分断されています。この山脈が存在するため、西側に比べて東側は雪が少なく、風も弱いので住みやすい土地になっています。対して北東部は冷帯に属し、冬が半年近くも続く厳しい地域となっています。
 太古にはこの地域は海底にあったようで、シュトラム山脈の付近では岩塩をとることができます。中でも『塩柱洞窟』と呼ばれるものは有名です。この洞窟に海から潮風が吹きこんできて、それが天井で冷えて落ちてきたのが、下で塩の柱になったのだろうといわれています。


○変異

 『白金夜』と呼ばれる、1年でも数回しか見ることができない現象が起こります。これは空が白金色に輝くというもので、白夜とは違って夏の夜に起こる現象です。これが起こる時には北部一帯の空気が帯電して、金属が触れないほど熱くなったり、静電気がかしこに溜まっていたりということがあります。ひどい時には油に火がついて燃えだしたりするので、この夜に限っては人々は早々に明かりを消すことにしています。もっとも夜空そのものが輝いているので、明かりに困ることはありません。影響が出るのは食事の準備についてで、夜の食事は昼間にまとめてつくったりします。この日に限って多少の手抜きは許されるので、主婦たちはこの日を休暇のつもりで楽しんでいるようです。
 次に有名なのが、大森林に近い場所に位置している『エヴァンゼル』という遺跡の街のひとつです。この街の変異は『銀色変異』と呼ばれる一連の現象です。これは『金属化現象』ともいい、その名の通り物体が無差別に金属となってしまいます。この辺り一帯の空気は銀色をしており、ねっとりと重く絡みついてくることから『水銀の空』とも呼ばれます。かつて道だったところは空を目指す銀色の植物に突き破られ、隙間から銀色の土が覗いています。春には銀色の花粉が嵐のように吹き荒れ、時には生物に着生して根をのばすこともあるようです。


○略史

 前聖暦155年に、イーフォン皇国ヴァリュア領から逃亡したヴァルネル人たちが建てた国です。元来この地は、南のアルメア国に住むアル人たちが支配していたのですが、これを奪って王朝を築き上げました。この王朝は長く続いたのですが、やはり時代が進むとともにその政策は貴族たちによって歪められ、ついに聖暦655年にカルネア人権革命が起こり、王制が打倒されることとなりました。
 その後、政党政治が成立し、平民派である『カルネア国民党』と旧貴族派である『民主共和党』の2党が勢力を誇ることとなりました。この2党の対立は時を経るごとに激化し、南部諸州の支持する民主共和党は、北部諸州の支持するカルネア国民党の『ウェイリンク』が大統領に選任された時点で、『南部連合』を設立しました。そして、ついに聖暦776年、国が南北に2分されることとなったのです。
 これは北部の保護貿易主義と南部の自由貿易主義との対立が主な原因です。他にも、南部の農場での奴隷使役間題や、選挙の際の奴隷の扱い(南部では、奴隷の所有者は奴隷の人数分の票を投じることができる)などの国政の在り方での対立が山積し、聖暦788年8月に起こった『逃亡奴隷虐殺事件』をきっかけに、内戦が勃発しました。これが『カルネア奴隷解放戦争』の始まりです。
 このように国が二分することになった遠因に、産業資本家の台頭ということがあります。経済によって国に多大な影響力を及ぼすようになった資本家たちが議院になるにつれ、旧来の制度を維持しようとする南部の大農場経営者(旧貴族や地主階級)と対立を深めたため、現在の結果が生まれたといえるでしょう。両者の溝は深く、ついに話し合いによって歩み寄ることはできずじまいでした。


○制度

 政党政治が行なわれています。上下二院が立法を、大統領府が行政を、そして司法府が司法を担う三権分立制がとられています。現在は国は二つに分裂しており、それぞれが独自の政体として機能しています。『北部連邦』は他国と対抗するための保護貿易主義と奴隷反対主義で、『南部連合』は大農場の利を活かして大量に生産した雪綿を主力とする自由貿易主義と奴隷推進主義を唱えています。
 警察機構は行政府に属する近代的な組織です。軍隊も行政府に属する職業軍人で、これについても南北での違いはありません。ただし、こういった戦時においては、国内の志願兵や外国からの義勇軍なども軍役について戦っています。特に北部の黒人志願兵は士気が高く、南部に対する怒りの激しさがうかがえます。

・貴族:名誉階級に属しており、主に政治家として活動しています。
    かつての領地を所有してはいますが、財産の1つでしかありません。
・騎士:存在しません。
・軍隊:行政府に属する近代的な組織です。
・司法:司法府が裁判を行う権限を持ちます。
・警察:行政に属する近代的な警察機構です。


○現況

 昨年より始まったカルネア奴隷解放戦争は、現在までは南部有利の展開で進んでいます。ただ、昨年8月にあった逃亡奴隷虐殺事件に対する怒りから、黒人を中心とした一般志願兵が急増しており、今夏にも北部では南部へ大侵攻を開始する予定でいます。志願兵の40%が逃亡奴隷であることは、南部の奴隷民に対する虐待ぶりが予想されます。


○国家関係

・友好国:なし
・敵対国:なし。ただし昨今では、南部に対しての国際的な批判が多く上がっています。


○首都

・北部連邦:カルネアイス
 北部の首都で、『暁の聖カルナ』を祀っている中央教会があります。近年では工業都市に様変わりしており、人口が急増しています。

・南部連合:シャルウェリン
 南部の首都であり、古くから貿易港として栄えてきた街です。朝から昼頃まで行われる魚市は、非常に活気があります。


○民族

・ヴァルネル人
 淡い銀色やプラチナブロンドの美しい髪で、瞳も銀、金、青、緑などの薄い色をしています。
 白人の中でも、特に白い肌をもちます。

・レプラッド人(赤人)
 赤銅色の肌に鳶色の瞳、赤茶色の髪をもつ人種です。
 主に北方の植民島フリスタスから連れてこられた者たちになります。

・アデン人(黒人)
 黒髪に黒い瞳の黒人です。


○宗教

 首都カルネアイスに白夜の奇跡を起こしたとして『暁の聖カルナ』を祀っている中央教会があります。(白夜の奇跡とは悪魔たちを滅ぼした光の奇跡のことであり、白金夜現象とは別のものです。)
 近年になって政党政治に変わり、そして産業資本家が政治の舞台に台頭するようになってからは、教会の国政への発言権は皆無といっていいほどにおさえられています。大統領への意見書という形で政策への提言がなされることはありますが、それが政治に反映される時代ではなくなっています。


○要所

・シュトラム山脈
 国土の東西を分断している山脈です。これを境に、東西では大きく気候が異なります。

・サイフォス川
 北部と南部を分けている川で、シュトラム山脈を源とします。ホールレラント砦のすぐ南に位置しています。

・ホールレラント砦
 対南部の前線基地として建築された堅固な要塞で、北部の要とも呼ばれています。

・レイクスノア
 逃亡奴隷虐殺事件が起こった街です。地下鉄道の係留点の1つでしたが、現在は完全に南部の支配下に置かれてしまいました。。岩壁教会と呼ばれていた、岩塩坑を彫ってつくった地下の隠れ教会があったのですが、今はそこも封鎖されてしまっています。


○産物

 木材、雪綿、綿織物、岩塩、楽器、ジャガイモ


○文化・生活

 カルネアの代表的な文化といえば、何よりも音楽があげられるでしょう。この国独特の楽器は多く、カルナホルンと呼ばれる角笛や、蹄鉄から生まれた口弾き琴(マウスハープ)と呼ばれるものなどがあります。また、酒場には必ず歌姫がおりますし、古来の伝承などもそのほとんどが歌で伝えられてきた国なのです。吟遊詩人たちは未だに国中を旅し、昔ながらの歌を披露しています。国内にはたくさんの歌劇団があり、特に『北方歌劇団』はエルモア中でもトップレベルの実力を誇ります。
 この歌文化は、思わぬところで歴史に関わっています。聖暦655年には人権革命が起こり、王制が打倒されることとなったのですが、この革命側の連絡事項は密かに歌に織り込まれて伝えられていたのです。こういった史実があるため、南部の奴隷所有者たちは奴隷たちに歌を禁じています。
 現在の北部では、南部から逃亡を果たして自由黒人となった『フォルテ』という女性歌手が、非常に人気を博しています。その歌の多くは南部の奴隷たちの悲劇や自由への願いをテーマにしたもので、黒人志願兵たちの士気を高めています。また、南部の奴隷たちの間でも禁じられているはずの歌がひそかに歌われており、特に『街風ロンド』という歌は反奴隷主義の象徴ともなっています。


○食事

 岩塩の産地であることから、塩気の多い食事をとります。その反動で高血圧の人が多く、他国に比べて平均寿命がいくらか短いようです。
 南部では鳥肉がよく食べられており、鳥肉に油と塩を練りこみ、それをオーブンで焼いて、レバーや野菜をワインで煮込んだソースで食べるという家庭料理が、よく食卓に出されます。また、主要作物であるジャガイモも家庭料理にはふんだんに使われ、鳥のイモ詰め焼きや、酢漬けのジャガイモなどが好まれます。北部に特徴的な食材は、イワエビという岩場で釣れる大型のエビで、イワエビとカブの薄煮やエビ入りキッシュパイなどの料理があります。


○組織・集団

・地下鉄道
 南部から奴隷の逃亡を支援する地下組織で、係留点と呼ばれる教会や家などがあります。

・黄昏の傭兵団
 エルモア中を旅して回るプロの傭兵たちで、現在は北軍に手を貸しています。術法を使った集団戦闘を得意としており、南部は彼らのことを死神と呼んで恐れています。ダークヘッド、サンセットヒル、スティンガーなど、その多くのメンバーは本名や過去を隠しています。

・黒豹隊
 黒人志願兵で構成された部隊で、南部侵攻の尖兵として組織されました。


○人物

・ウェイリンク   62歳  男
 カルネア国民党に所属する国会議員で、奴隷解放推進派の筆頭ともいえる人物です。彼が大統領に選出されたことが、南部と北部を二分させるきっかけとなりました。

・フォルテ   31歳  女
 自由黒人の1人であり、エルモア中に名を知られている歌手です。逃亡時の体験からつくられた歌は、北部の人々に非常に影響を与えました。現在は軍を慰問したり、政治集会でデモンストレーションを行ったりと、非常に忙しい毎日を過ごしています。

・ユリアン=シルファモーネ=コーネリアス   17歳  男
 逃亡奴隷虐殺事件で生き残った白人の青年で、現在は北部で生活しています。貴族の跡継ぎだったのですが、奴隷反対主義に傾倒して赤人の少女ステラと駆け落ちを試みました。父親が貴族であるだけでなく、母方の祖父が南軍の将軍であることから、非常に注目される立場にあります。

・ステラ=ノースポーリア   15歳  女
 赤人の少女で、ユリアンとともに虐殺事件に巻き込まれました。顔の右半分には火箸で殴られた火傷の痕があり、右目は潰れてしまっていてものを見ることはできません。現在は母親としての仕事におわれているようです。

・メリーアン=マ−スリー   0歳  女
 逃亡奴隷虐殺事件で生き残った赤子で、南部の追撃隊の砲火の中で生まれた赤人の子供です。母親は銃弾を受け死亡してしまったため、現在はユリアンとステラの子供として育てられています。

・イライアス=ハルト   56歳  男
 カルネア国民党の党首。ウェイリンクのような奴隷制反対主義というより、その目的は民主共和党の打倒にあるようで、彼にとって奴隷制度の撤廃は南部打倒の口実に過ぎません。祖父が南部の小作農家の出であり、その苦労を目にしていたことが、彼の思想に多大な影響を与えたようです。

・リッツェ   31歳  男
 昼コウモリと呼ばれている情報屋で、普段は薬屋の主人として生活しています。術法師としての力を使って、北部の動向を南軍に知らせています。

・メイリン   39歳  女
 地下鉄道組織のうちの1人で、黒人女性です。逃亡奴隷の逃がし屋として最も有名な人物で、南部では指名手配になっています。

・レイシーズ   44歳  男
 地下鉄道組織のうちの1人で、主にサイフォス川の川渡しをしています。白人ですが、積極的に奴隷廃止運動に参加しています。

・ポッツニール
 『解放者宣言』という名の新聞の記者で、黒人たちの思想的なリーダーです。逃亡奴隷の1人であり、現在は自由黒人として活動しています。

・オリベイア
 カルネア交響曲の父として知られる有名な作曲家です。その曲の素晴らしさもそうなのですが、片腕の音楽家ということが彼の名を広めるきっかけとなりました。


○奴隷解放戦争

 昨年の夏に南部からの逃亡奴隷が軍隊に虐殺されるという事件が起こりました。かつてから奴隷の逃亡を助けていた『地下鉄道』と呼ばれる組織の導きで、約千人の奴隷がホールレラント砦への逃亡を企てようとしたのですが、計画が事前に何者かの手によって南部軍に知らされ、砦の手前の町レイクスノアでほぼ全員が虐殺されるということが起こったのです。かつての人権革命の英雄の孫であり、地下鉄道の中枢で働いていたカルシェという青年もこの事件で死亡し、辛うじて逃げ延びることができたのは白人の少年と赤人奴隷の少女、そして生まれたばかりの赤人の赤ん坊だけでした。この少年というのが南部のアイアソール州の知事の息子であることと、そして事件のあまりの残酷さに北部の人々は驚くとともに、南部への怒りを新たにしました。今夏の南部大侵攻は、これまで以上に激しい戦いとなることでしょう。


先頭へ