ロンデニア


 


○自然

 大陸の西にあり、西海に面している島国です。大きく4島に分かれており、北の大カルドレン島、中央の小カルドレン島、南のアナリシア島、東のランドレイク島があります。比較的温和な気候で、全土が温帯に属しています。
 アルメア、ユノス、ソファイアとの間には海峡があり、ここは潮の流れが非常に速くなっています。中央の小カルドレン島の海岸は切り立った断崖が多く、人々は石灰質の白い岩壁をさして白亜の壁と呼んでいます。
 平野の多くは土質が悪いため、広い荒野が広がっています。ここでは作物が育たない代わりに、良質の泥炭がとれます。自国での穀物生産量が少ないため、この国は古くから海外へと目を向けなければならず、その海軍の実力はエルモア最強とまで評されています。


○変異

 『発狂現象』と呼ばれるものが有名です。全島の中心域で起こり、生き物が急に不可解な行動を取りはじめます。この現象のため、ロンデニアはエルモア随一の犯罪大国であり、『犯罪者現象』と呼ばれることさえあります。多くは術法をかけると元に戻り、発狂していた間の記憶は全くありません。中には術法では治せないものもあり、そのうちでも『仮面紳士』と呼ばれた青年の例は、今もって伝説として語りつがれています。
 彼の起こした事件は『仮面紳士事件』と呼ばれるもので、簡単に言えば予告殺人なのですが、この方法が類を見ないほど残忍だったことが彼を有名にしました。標的とする相手は貴族の娘で、もちろん厳重な警戒がなされるにもかかわらず、彼は必ず予告を達成させるのです。仮面紳士事件の最も恐ろしい点は、彼が標的を殺害した後に死体をバラバラにし、それを杭で壁に打ちつけるということでした。しかもその死体のすべてが、必ず宗教画を模したポーズをとっていました。このことから教会は積極的に犯人逮捕に乗り出し、そして遂に仮面紳士を捕らえることに成功したのですが、犯人は意外なことに聖母教会の神徒でした。普段は温厚で真面目な青年だったそうです。この事件以来、聖母教会の信用は薄くなり、人々の間に銃や科学の力に頼ろうとする風潮が蔓延するようになりました。
 この他に知られている変異現象には、『海中森林』というものがあります。これは白亜の壁の沿岸域で見られるのですが、その名からも予想がつくように、海の中に森林が形成されているという神秘的な現象です。この森林は地上のものと全く違うところはなく、引き潮になると木の梢が姿を現し、まるで海の上に草原が広がっているように見えます。『洞窟民』と呼ばれる岩壁にできた穴を住処としている人々は、ここに集まる魚を生活の糧としています。


○略史

 前聖暦285年、シリーシア人によって現ロンデニアおよびユノス北部の地域が平定され、ベルメック王国が成立することとなりました。そして、ラートリー王朝の治世が約300年程続いたのですが、聖暦9年になってついにこれが断絶することとなりました。この際、ソファイア王『タイレル3世』は、その母がラートリー家の出身であることから継承権を主張し、『55年戦役』が始まります。
 両国は互いに退くことなく勇猛に戦い続けたのですが、いずれ国政に破綻をきたし、聖暦65年に国内のミュンフ家から国王を出すことで決着を得ました。この時、国名がロンデニアと改められることとなります。長い戦いに疲弊した国民は、待ち望んでいた平和の訪れを喜んだのですが、それもわずかのことでした。それから18年後の聖暦82年に、弱体化したロンデニアからユノス領が独立を果たし、大規模な穀倉地帯を失うこととなりました。これがきっかけとなり、この国は海の道へ発展の希望を託すようになったのです。
 それから後は、この国が出した通商条令が発端で起こった海峡戦争や、アリアナ海の覇権をかけた他国との海戦などを繰り返すこととなりました。ロンデニアの歴史は、決して海を抜きにして語ることはできません。


○制度

 立憲君主国であり、上下院による『二院制』の政党政治が行なわれています。
 この国で少し変わっているのは、海務卿という特別な地位があることです。これは国家に所属する私掠船の船長たちに送られる名誉位であり、軍隊の佐官に匹敵する権限を持っています。

・貴族:名誉階級。主に政治家として活動しています。
・騎士:存在しません。
・軍隊:行政に属する近代的な組織構成です。
・司法:独立した司法組織によって裁判が行われます。
・警察:行政の管轄下に置かれています。


○現況

 蒸気機関が利用されるようになってからは、「強く、そして遠くへ」を合い言葉に、国民は工業化を強く押し進めてきました。霊子機関の導入も早い時期に行われ、聖暦786年には西海の横断に成功し、『新大陸エスティリオ』を発見することとなりました。そして昨年には、入植を目的として5隻の船をエスティリオへ送り出し、現在は国中が新大陸ブームでわきかえっています。
 しかし、今年に入ってから新大陸の領土問題が持ち上がり、同じく入植を開始したエリスファリアとの間で、小規模ですが海戦が行われるようになっています。さらに、周囲の国際状況はロンデニアにとって不都合に働いており、ライヒスデールとフレイディオンの軍事同盟、カイテインの南方政策と衝突するだろうことは明らかです。いずれ植民地間題に絡んだ大規棋な戦争になるのではないかと、はやくも懸念されております。
 内憂としては変異による犯罪者間題があり、犯罪都市とまで呼ばれる『クラッサス』では、護身用につくられた精度の悪い銃器が容易に人々の手に渡り、数々の間題を引き起こしています。精度の悪さから起こる暴発による死亡者も多数出ていますが、それでも銃にたよらねばならないのが現状のようです。また麻薬問題に絡んだギャングの抗争が目立つようになっており、政府はその対策にも頭を痛めています。


○国家関係

・友好国:ルワール大公国、エストルーク
・敵対国:エリスファリア、ソファイア、ユノス、ライヒスデール、フレイディオンなど。他に表向きは敵対しているわけではありませんが、カイテインの南方政策を警戒しています。


○首都:アイリストール

 エルモア地方でも最大規模の都市で、中心にある大時計塔が有名です。霧と高アヤメの街として知られています。


○民族

・シリーシア人
 亜麻色やプラチナプロンドの髪に、青い瞳の白人です。

・アデン人(黒人)
 黒髪に黒い瞳の黒人です。


○宗教

 聖母教会を信奉していますが、国教ではありません。首都アイリストールに『風の聖カナタ』教会があります。宗教の影響が少ない国です。


○要所

・化石の峰
 岸壁いっぱいに魚の化石の群れが埋まっている場所で、アナリシア島の最北の岬で見ることができます。これは海そのものが石化したためにできたものだと言われています。

・大荒野
 北島のリンクリフからケイディアンまでの地域で、ここは荒野が広がる場所となっています。乾燥して風が強く、住民はマントを手放すことができません。

・洞窟村
 小カルドレン島の白亜の壁にある大洞窟です。この洞窟は奥行き500mあまり、高さと幅は50m以上もあり、1つの村として成立しています。ここは満ち潮になると船が出入りすることができます。家屋は100軒以上あり、漁を主体とした生活を送っています。

・麻薬街道
 アスペリオスからカルロッティへと続く道では、堂々と麻薬の輸送が行われています。政府が検問を敷いているにもかかわらず、一度も運び屋が捕まったことがなく(おそらく賄賂をつかませているためでしょうが)、人々は政府の無能ぶりを皮肉ってこのように呼んでいます。


○産物

 泥炭、雪綿、綿織物、羊、亜鉛、小麦、鶏、ジャガイモ


○文化・生活

 昔から治安の悪い環境にあるこの国は、パブ文化という独自の風習をつくりあげました。人々は安心して遊べる場所が少ないことから、いつしか安心できる近所の酒場に集まって遊ぶようになったのです。こうした酒場の多くは家族で楽しめるような娯楽施設を設置したため、後には老若男女が楽しめるパブという社交場になりました。パブは地域の社交場であるため、余所者には非常に居心地の悪い場所です。逆に、ここへの出入りを認められるようになれば、住人として受け入れられたという証になります。
 パブの遊びには賭事に関するものが多いのですが、子供でも遊べるように掛け金は少額だったり、あるいは家から持ち寄った不要品を賭けてもいいような仕組みになっています。儲けがどうというより、その過程を楽しむことが重要で、ロンデニアの人々は何か問題が起こるとすぐに賭事にしてしまう癖があります。特にスキャンダルを題材にしたものは人気があり、『イエローペーパー』と呼ばれるゴシップ新聞がよく売れています。
 現在の都市文化は混沌としており、日常生活にも他国や植民地から入ってくる珍しい品が登場するようになりました。しかし、発達した交通手段が運んでくるのは良いことばかりではありません。近年はギャングによる銃器や麻薬の密輸が横行し、都市には得体の知れない流れ者たちが入り込むようになりました。
 最近になって、都市人口の増加に歯止めをかける目的で、犯罪者や都市浮浪児たちを強制退去させる都市が増えてきました。これに関連して、不当逮捕の件数も増加しているのですが、これが明るみに出ることはありません。というのは、この国では犯罪者の人権はないがしろにされているということと、逮捕された人々の多くがペルソニア大陸やファイン=ファウンドといった植民地に送られて、強制労働をさせられるためです。しかし、依然として犯罪件数が減少する傾向は見られず、むしろ犯罪の手口が巧妙化する原因になっています。
 ギャングの台頭によって犯罪が過激化している昨今では、ペンダントなどのお守りを身につける人が増えてきました。これは実用というよりも、ファッションの一環ととらえた方がよいようで、聖母教会の聖印だけでなく、マイエル教のペンタグラムなどを首にかけている人もいるようです。こういった流行に便乗して、道端で手作りのお守りを売る若者たちもおり、『チープ・アーティスト』などと呼ばれています。


○食事

 主食はジャガイモで、それに魚料理が添えられることが多いようです。緑鰯のきざみ香草和えや、炒め野菜と魚のフライのソース和え、イワシのアンズはさみ揚げといった料理が、よく家庭の食卓にのぼります。
 この国では船乗りが多いため、食料の保存技術が発達しており、スモークサーモンや干し魚、あるいはアンチョビーなどがよくつくられます。特に薫製が好まれており、どの家庭にも必ず保存してあります。


○組織・集団

・見えざる7番隊(インビジブル・セブン)
 国家情報部の国際問題を扱う部署で、各部署のエリートたちで構成されています。非公式の組織で、一般の国民にはその存在を秘匿されていることから、内部ではこのような名で呼ばれています。

・洞窟民
 小カルドレン島の岩壁にできた洞窟に住んでいる人々で、漁を中心とした生活を行っています。薄暗い場所であることから、火を守り神として崇めています。

・スプリンイッシュ施療院
 カルロッティにある麻薬中毒者を収容する施療所で、教会の付属病院のうちの1つです。


○人物

・国王リトマイア2世   46歳  男
 能力的には問題ないのですが、女性関係に非常にだらしなく、現在も愛人との間でいくつか問題を起こしています。しかし、こういったスキャンダルはあまりにも起こりすぎていて、国民もまたかといった感じで苦笑して見守っています。

・ドナン=ミラルド   62歳  男
 現在の首相であり、日和見主義と中道政策で生き残った人物です。責任の回避に関しては天才的ともいえる能力をもっており、部下や秘書は踏み台か生け贄としか思っていないようです。

・エスティリオーネ=アークセルド   43歳  男
 新大陸発見という功績を残した英雄で、新大陸エスティリオは彼の名からとってつけられました。昨年には彼の航海日誌をまとめた『航海大全』が発売され、今でも品切れ状態が続いています。現在は首都郊外の別荘で、航海の疲れを癒しながらのんびりと生活しています。

・ラングリット=バイター   66歳  男
 国内随一の探偵として知られており、小説家としても有名です。彼が扱った事件をもとにして書かれた推理小説は、発売されるたびにベストセラーになります。

・サミッシュ=エル少佐   37歳  男
 インビジブル・セブンの室長であり、部内でも切れ者で通っているエリートです。怜悧で冷静な性格ですが、妻や娘には非常に甘いようで、特に娘の話になるとだらしないくらい相好を崩してしまいます。

・ミセスホワイト   58歳  女
 ロックグリンに住んでいる老婆です。発狂現象によって狂人となってから久しく、身寄りもないままスラム街でゴミを漁って暮らしています。全身白ずくめの装束を身にまとっていることから、ミセス・ホワイトと呼ばれていますが、本当にミセスなのかは誰も知りません。ただ、彼女が時折つぶやく言葉が現実のものになることがあり、人々は彼女の言葉に注目しています。

・アルタニア=カルフェロッグ   64歳  女
 ラングリット=バイター氏の影響を受けて、推理にはまってしまった老人です。しかし、偶然の助けもあったとはいえ「死の窃盗事件」を解決して以来、素人探偵として幾多の活躍を見せています。非常におしゃべり好きで、暇を見つけては近所の人たちと噂話で盛り上がっています。

・ロリアン=ケネス   53歳  男
 表向きは工場経営者であり、ケイディアンの名士として知られていますが、裏では麻薬の密売を行っている悪党です。アスペリオスの麻薬組織とつながりがあり、麻薬の売り上げで私腹を肥やしています。

・クレスト=フェラード   55歳  男
 新聞王として名高い叩き上げの経営者であり、彼の会社が発行している新聞3誌は、この国のシェアの60%以上を占めています。少し強引なところもありますが、彼の斬新な発想は常に国民の目を引き、まだまだその地位は安泰のようです。

・コンラッド=バーンズ   60歳
 部下たちから親父と呼ばれているギャングの大物で、犯罪都市クラッサスの裏社会を統括しています。彼は仲間からの人望でのし上がったような人物で、単なる悪党とは懐の広さが違います。

・ラートル=ザナック   41歳  男
 海務卿としては最も有名な人物で、エリスファリアの交易船を何隻も沈めています。彼の指揮能力もそうなのですが、潮の流れを読むことにかけては並ぶものはなく、現在まで無敗を誇っています。


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