列車

利用状況\用途\三国鉄道\構造\運用\問題点


 

利用状況


 列車は新しい交通機関として注目されています。最初は時速20キロがせいぜいだったものが、現在では平均50キロほどにも到達しているのです。馬車はどんなに早くても時速20キロ程度しか出ず、しかも乗り心地が悪く運搬量も限られています。列車が馬車にとってかわるのは、誰の目にも明らかなことでしょう。
 しかし、現在のところ、ユークレイ、カスティルーン、ペトラーシャのほかは、旅客用として使用している国家はまだ少なく、一部の先進国家のみで実用化されている状況です。とはいえ、鉱山や工業地帯での荷物の運搬など、限定的な場所においては頻繁に利用されており、その価値は十分に認められています。また、正式な客車として使われているわけではありませんが、労働者たちの交通に貨物車が使われている場合もあります。

 有用であるにも関わらず普及していないのには幾つかの理由があります。1つには、レールの敷設には多額の費用と時間がかかるということです。鉄道を敷くために用地を買収しなければならない鉄道会社に対して、時価の数倍の価格で土地を売りつけることを企む地主たちもいます。また、線路用地として農地を潰すこともあり、これは国家経済から見れば損失という他ありません。つまり、鉄道はそれに見合った利益を国家に与える必要があるのです。他にも工事には利権問題が必ず絡みますし、その調整のために開通までの期間が長引くこともあります。それから辺境の怪物も工事の妨げとなります。この世界ではこういった怪物から身を守るために都市に城壁がつくられたり、建物が密集してつくられたという経緯があって、直接的な被害以外にも変異体は列車の敷設に様々な影響を及ぼしているのです。実際、駅が都市の外れや城壁の外部につくられていて、そこまでは馬車で行き来するような鉄道も存在します。
 さらに、蒸気機関車は煤煙が出ることから都市での運行には反対意見が出されることも多いのです。こういった理由から、ユークレイ、カスティルーン、ペトラーシャを通過する三国鉄道では、霊子機関を動力とする霊子機関車が使われています。

 これらの複合的な問題を一挙に解消するために、地下鉄の敷設が計画されている地域もあります。まだ計画段階ではありますが、アイリストールやペトルラーンなどの大都市でそのような話が持ち上がっており、専門家の間で様々な意見が取り交わされている状況です。これに関して1つだけ決定しているのは、霊子機関車を使うということです。霊子機関は煤煙を出さないため、地下鉄の運行には非常に都合のよい動力なのです。実際、蒸気機関車の機関室は煤煙が立ちこめており、機関士は煤をかぶって真っ黒になってしまうものです。


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用途


 法教会を信奉する3国以外の国家では、鉄道は主に貨物運搬用に使われています。もっとも、鉱山の労働者などを天蓋なしの貨物車に乗せて運ぶことはよく行われており、鉄道会社の立派な収入源の1つとなっています。一部ではきちんとした客車を運行していることもありますが、完全な旅客用というものはまだ少なく、荷物同様の扱いとして客が乗っているといった状況です。天蓋なしの貨車に申し訳程度の椅子をつけていたり、有蓋貨車をそのまま利用する窓のない客車もよく見かけます。中には貨車の屋根の上に客席がある列車も存在するのです。
 ちなみに、屋根がないことには一応理由があります。鉱山などの貨物列車は橋の上を通過することもあるのですが、これは古くにつくられた木製のものが多いのです。ですから、車輌が重くなると同時に危険性も高まり、とにかく軽量化をはかる必要があります。さらに、現在使われている多くの列車は蒸気機関車です。蒸気機関車では、機関車の後ろに石炭と水が入った炭水車を積む必要があり、その分の重量も負荷となるのです。屋根が不要ならば取り払ってしまうという発想は、むしろ当然のものなのでしょう。なお、霊子機関車は燃料も少なく水の携行も不要なので、この分のスペースを自由に使うことができます。工場などのような場所と比較して、交通機関では特に霊子機関の長所を活かすことができるのです。

 一般に、列車はあまり身分の高くない者が乗る交通機関と考えられています。貴族や金持ちは馬車で優雅に移動するものです。特に支配階級の裕福な貴族は、自家用の馬車を持つことをステータスとしているのです。馬車には馬が必要で、その飼い葉代や世話人を雇うことができる資金を持っていることは、権勢の証として考えられています。馬車自体もオーダーメイドの豪華なもので、装飾をこらしたり紋章を刻みこんだりするのが普通です。


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三国鉄道


 ユークレイ、カスティルーン、ペトラーシャの三国では、国家間を連続して行き来できる長距離鉄道が存在します。これを三国鉄道といい、エルモア地方で最大の鉄道交通網となっています。ユークレイの北端からペトラーシャの西端までの最長区間では、実に2000kmを越える距離となるのです。現在のところ、陸上交通でこれを越えるものは存在しません。
 このような鉄道が成立できたことには様々な背景があります。これらの三国が法教会で結ばれた同盟国家であることや、内陸に位置するために陸上交通を主体とすること、そして先進的な技術を有しているといった要因が主なのですが、一部には他国に対して国力を見せつけるといった目論見もあったようです。実際、大規模な鉄道網を開設するためには、優れた工業技術と辺境の変異体を駆逐できる余力、そして何より鉱山資源を確保していることが重要です。これらは戦争を行うための条件でもあります。三国鉄道の敷設が計画された頃というのが、鉱物資源問題でカイテイン帝国やライヒスデールとの小競り合いが続いており、そしてペトラーシャと国境を接するフレイディオンでも国内が乱れていた時期でもあります。これらの国家に対する示威行動でもあり、この頃に神聖同盟を結成した三国の結束を高めるためにも、三国鉄道が存在する必要があったのです。ですから、運営も三国が協同で出資してつくられた『鉄道管理局』が行っています。なお、鉄道の敷設にあたっては、数多くの妨害があったという噂がありますが、それらは全て内々に処理されてしまったようで、一般の人々の耳には届いておりません。

 三国鉄道では、旅客用として使われているのは全て霊子機関車です。静かで煤煙も出さないことから、都市へ乗り入れる交通機関として最適のものです。燃料費という点では石炭に一歩譲りますが、燃料の搭載量が少なく水も不要であること、そして何より旅客数が多いことから、料金は非常に安くおさえられています。これによって、鉄道と競合する区間では駅馬車が廃れてしまったという事実があります。しかし、鉄道が通っていない地域では、馬車はまだ一般的な交通機関として利用されています。
 三国鉄道は他の鉄道とは違い、専用の客車が運行されています。客席も立派なつくりで、日常は中層以上の身分の者が利用しています。開設当初に使われた国王や法王のための貴賓客車というものも存在するくらいですし、現在でも政治家や貴族が当たり前のように客車に乗っている姿を見かけます。この辺りは、他国とはだいぶ認識が異なるようです。
 運営はだいたい朝の9時頃から夜の8時くらいとなっており、冬期はこれが少し短縮されます。通常の列車は各駅停車で、区間は数十キロ毎となります。これとは別に急行列車も運行しており、数百キロ毎に停車するようになっています。急行列車は食堂車やコンパートメントで仕切られた一等客車も牽引しており、列車強盗から乗客や貨物を守るための護衛も常設されています。また、ライヒスデールとの国境付近を通る列車は、砲台つきの装甲列車をつけて武装することもあります。


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列車の構造


○蒸気機関車

・機関部分
 蒸気機関車の構造は大きくわけて、石炭を燃やす火室、水を蒸気に変化させるボイラー、そして火室での燃焼を助けるための煙室、ピストンを作動させて駆動力を生み出すシリンダー、シリンダーのピストン運動を回転力に変えるリンク機構などで構成されています。

・炭水車
 機関車の後ろには箱形の炭水車が連結されており、ここに10t以上の石炭と水が積まれています。

・牽引車両
 木材や石炭などを運搬する用途で使われる蒸気機関車は、その多くが軽量化のために無蓋のものが多くなります。旅客用として使用されている場合は屋根つきとなりますが、労働者用の通勤列車の場合は、窓や椅子がないものも珍しくはありません。他にも運搬人数を増やすために、貨車の屋根の上に客席がある列車も存在します。


○霊子機関車

 基本的には三国鉄道で利用されている車両となります。

・機関部分
 霊子機関の場合は、機関部分の形は蒸気機関車とは大差ありませんが、動力機関の占める容積は蒸気機関より遙かに小さく、燃料容量もさほどではないため、燃料と霊子機関を積んでもまだ少し空間に余裕があります。この部分には、レールバイクと呼ばれる非常連絡用のバイクを搭載したり、非常時のためのベッドが用意されていたりします。

・予備車両
 炭水車を必要としない分、1両の空間を余分に利用することができます。旅行用の急行列車の場合はこの部分に食堂車を設置したりしますし、そうでない場合でも車両の一部を使って、車内販売用の台車や商品など保管するスペースに利用しています。

・客車
 三国鉄道の場合は、2人掛けのシートが向かい合うように設置されていて、4席で1ボックスのような形になっています。ただし、労働者用の通勤列車の場合は、運搬人数を増やすために椅子を取り払った車両を使用する場所もあります。

・コンパートメント
 旅行用の個室がついた列車で、ホテルの一室のように通路とはドアで区切られています。車両によっては通路がなく、ドアと外部とが直接繋がっているものもあります。コンパートメントのドア付近には紐が備え付けられていることが多く、これを引くと車掌の待機場所につるされた鈴が鳴る仕組みとなっています。

・専用車
 専用車は一車両貸し切りになっており、オーダーメイドによって社内を自由に改装することも可能です。特に国王クラスのための特別列車となりますが、歌手などの有名人がこれを利用することもあります。


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列車の運用


○蒸気機関車

・機関士
 列車の運転は訓練を受けた機関士が行います。機関士は運転方法はもちろんのこと、蒸気機関の操作も心得ています。有事の際に備えて予備機関士を同乗させる場合もあります。

・機関助手
 運転そのものではなく、蒸気機関の維持を行う役目です。機関助手はボイラーに石炭を投げ込んで、いつでも水蒸気が使える状態にしておく必要があります。石炭も上手に投げ込まないと空気がうまく送られなくなってしまいます。また、水が足りなくなればボイラーを保護するために火が消える仕組みになっているので、水の量にも常に気を配っていなくてはなりません。


○霊子機関車

・機関士
 霊子機関は運用にそれほど手間がかかりませんので、蒸気機関車のような機関助手は必要ありません。しかし、非常時に備えて待機運転士は常に同乗します。

・待機運転士
 予備の機関士として同乗しますが、普段は整備主任を兼ねています。各駅で整備の指示を行ったり、物資の補充を点検する役目を担います。有事の際に連絡係として動くのも待機運転士の仕事となります。


○共通

・車掌
 普段は最後尾の車両に乗り込み、後方の確認などを行います。それから、客員世話係の主任としての役目もありますので、客車や貨物車で起こった問題に対しては、すべて車掌が対応を指示することになります。

・整備士
 停車中の駅では、整備士が駆動部に機械油をさしたり、滑り止めにレールの上にまく砂を追加したりします。そして、1日の運転が終わると列車倉庫で本格的な点検を行い、次の日の運行に備えます。蒸気機関車の場合は定期的に機関内部の煤を取り、正常な運転が行われるようにする必要があります。

・客員世話係
 列車によっては販売員などが同乗して、客に食物などを提供します。三国鉄道の長距離区間では貸本を行うこともあり、本の貸し出しや回収も担当しています。また、駅についた際に客車の清掃を行うのも世話係の役目となります。


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列車の問題点


 現在は様々な地域で鉄道工事に着工しており、近いうちに開通ラッシュが訪れることでしょう。そして、それにともなって様々な問題が持ち上がることが予想され、いろいろと対策も考えられています。まずは列車強盗といった犯罪者の存在です。列車で郵便貨物や現金を運搬することもありますから、犯罪者たちにとっては格好の獲物となるのです。同じことは郵便馬車や旅行時の貴族の馬車でも起こっており、それは鉄道も例外ではありません。現に、三国鉄道では何度か被害が報告されており、武装した警備員が列車を護衛するようになっています。
 それから、鉄道開通初期の頃の話なのですが、列車が交差する際に衝突する事故が頻繁にありました。最初は一方通行的な利用しかしていなかったものが、複数の本数を運行するようになって発生した問題です。エルモア地方では電報のような連絡手段がないため、ちょっとしたことで運行時間がずれこむと、たちまち事故に繋がってしまうのです。手旗信号を利用したり術法師を利用したり、物見櫓を建てたりといった対策が取られたのですが、夜間や曇り、そして雨の日には連絡がうまく届かなかったり、人件費がかかるということでやがて廃止されました。三国鉄道では路線本数も増えたことから、現在は複線にすることでこの問題を回避しています。画期的な連絡手段が開発されるまでは、この状況が続くことになりそうです。

 最後に、列車運行に際して新たな問題を生み出している、『レール・ライダー』と呼ばれる存在に触れておかなければなりません。彼らは列車のレールに合うような補助輪をつけた自転車を使用する者たちで、時には死亡事故を引き起こしたりもします。現在では自転車だけでなく、台車の車輪をレール用に改造し、それを足で蹴って人や荷物を運ぶことを商売とする者まで現れています。手軽にできることから、山間部の貧しい家の子供たちがよくこれを仕事としているようです。鉄道会社もこれには頭を悩ませていますが、有効な対処法は全くない状況にあります。


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