月の秘密
旧科学魔道時代には、月は1つの国家として成立していました。トリダリスからは遠く離れているため、大変異現象による大きな被害は受けなかったのですが、同じく被害をまぬがれたコロニー勢力との戦いで、その大部分の人口を失うこととなりました。
しかし、彼ら『月人』(ムーンノイド)は全滅したわけではなく、生き残った者たちは『クローン体』(クロノイド)や擬人をつくり、その労働力を利用して復興作業につとめました。そして大変異現象が収まった頃に、月人もまたかつての生活を取り戻すことができるようになったのです。その後、彼らは変異現象の調査のためにトリダリスに降りたのですが、その結果は思わしくありませんでした。彼らの科学魔道技術でさえ、霊子の異常活性化状態を押さえることはできなかったのです。また、地上の人々はそういった混乱の最中にあっても、なお戦いを続けようとしていました。彼らはこの状況をおさめるために、科学魔道の技術を用いることを控えました。というのは、ここでまた安易に科学に頼ることが、本当にこの惑星のためになるかわからなかったからです。
そして悩んだ末に彼らが打ち出した方策は、各地に結界を張って変異体と戦乱の拡大を押さえると同時に、区切られた地域を1つの単位として、その中で最良の人類社会を模索するためのテストを行おうというものでした。これは『箱庭計画』と名付けられ、様々な地域でいろいろなパターンの社会形成がテストされることになりました。彼らはトリダリス星の管理を行なってはいるのですが、あくまでも観察者の立場を崩そうとはしません。また、地上への干渉も極力さけようと考えています。実際、エルモア地方では、聖人ルーンを派遣した以外には、社会に大きく影響するような部分には何も手を加えておりません。なお、たった1つの地域だけは、月人の完全管理のもとで成り立っている社会を形成しています。これがペルソニア大陸の赤道結界の向こう側の地域で、ヘヴンと呼ばれる7つの閉鎖実験場があります。これらはそれぞれが1つの都市として機能しており、精神ネットワークによる完全管理社会や、社会性昆虫のような徹底した役割分担がなされているような社会など、都市ごとに別々の設定がなされています。もちろん、月人が管理しているというこは住民に知らされてはおらず、彼らはカゴの中の実験動物のような生活を千年以上も続けているのです。
○その他の用語
・月の道
月から結界機に送られるエネルギー波の通路のことをいいます。ペルソニアの大断崖の付近では、エネルギー波の影響で大気が震えて星が歪んで見えることがあり、『星の波』と呼ばれる変異現象だと考えられています。
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月人
月人は自らの体を、半不死化することに成功しています。これは擬人の技術を応用したものですが、新しい技術が用いられています。しかしその代償として、彼らは次世代を残すことができなくなっています。もはや彼らの遺伝子を残すものはクローン体しかおらず、彼らは現在の社会を永遠に維持してゆくことになったのです。
月人は『霊玉』と呼ばれる核を埋め込んでおり、これが不死の力の源になります。概念としては擬人のライフ・クリスタルに近いのですが、霊玉とは圧縮霊子の塊であり、霊子核の融合エネルギーにも匹敵するパワーを秘めている半永久機関なのです。彼らは圧縮霊子の反発するエネルギーを取り出し、体内に組み込んだ科学魔道回路にエネルギーを送り、それによって半不死化を可能としたのです。月人の政治は、10人からなる最高評議会によって決定されます。評議員たちは選挙で選出されるわけではなく、このまま永久に評議員として働くことを運命づけられています。そのため、月人たちは彼らを『長老』と呼んでいるようです。
彼らは不死となって以来、それぞれの役割分担を変更することなく活動しています。そのため、社会そのものは非常に安定しているのですが、技術はともかく思想や社会そのものが発展するということがありません。そういったことは、地上での実験の結果にまかせてしまっているようです。そして、最良の社会のサンプルが得られた時には、彼ら自身もそれに倣って社会を変えてゆくのでしょう。
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浮遊大陸
月人がつくり出した結界には、ペルソニア大陸の赤道結界、中央地方の移動結界、そしてカイテインと東方の交通を阻む水晶鏡などがあります。こういった結界はトリダリス星の全域につくられています。
これらを監視するために機能しているのが、トリダリスの上空8000〜10000mを飛行する『浮遊大陸』(天上都市)です。ここにはクローン体たちが住んでおり、各地の上空を一定周期で巡回しています。彼らは地上に情報収集のための人員を派遣しており、それによってトリダリスの状況を把握しています。エルモア地方でこの役割を担っているのが、『聖月教団』と呼ばれる宗教団体です。彼らは自らを『ムーン・チャイルド』と名乗り、月の導きを信じる異端信仰者を演じています。彼らは『星月系』という独自の術法を操りますが、その中には月や浮遊大陸に設置された機械を起動させる内容もの術もあります。しかし百年ほど前になって、浮遊大陸のクローン体たちの中に、月人の方策に対して異なる見解を抱く者が現れるようになりました。彼らの意見には、不死人に使役される定命の者の苛立ちや不満が色濃くあらわれており、自分たちの存在を被験体となっているトリダリスの人々の姿と重ね合わせているようです。
こうした不満分子の一部に、ひそかに自分のクローンをつくって身代わりとし、自らは地上に降りて行った者たちがいました。そして、変異や戦乱に苦しむ者たちを助けるために、科学魔道の技術を伝えたり、あるいは聖月教団への妨害活動を行うようになったのです。こういったクローン体がつくり出した組織の1つが、エルモア地方で『外なる星のかけら派』と呼ばれている存在です。実は彼らの存在がなければ、現在のエルモア地方の発展はあり得ませんでした。なぜなら、学問院で霊子機関の発掘を行った『コルフト=カートランド』もクローン体のうちの1人で、彼なくしては霊子機関が実用化されることはなかったからです。後に『霊子機関の父』と呼ばれるようになった彼は、霊子機関をより簡単な構造にレベルを落とし、この地方の技術でもどうにか複製できるように改良しました。こうして霊子機関がエルモア中に広まることとなったのですが、彼自身は聖月教団の手にかかって暗殺されることになりました。一般には敵国の暗殺者の仕業だと思われているこの事件には、実はこのような裏の背景があったのです。
しかし、コルフトも何もせずに殺されたわけではありません。彼は死ぬ前に霊子機関の設計図とともに、法王への密書を送っています。この手紙は内容だけでなく、それを送ったという事実さえ門外秘とされていますが、それが今後のエルモア地方にとって重要な意味を持つことだけは間違いないでしょう。それとは別に、死の直前にコルフトの手元から消えたとされている研究ノートの謎があります。『コルフト・ノート』と呼ばれる数冊のノートは、暗殺者に持ち出されたのだという噂もありますが、実はそうではありません。なぜならば、聖月教団が回収したのであれば、すぐに処分されてしまっているはずなのです。しかし実際には、霊子機関は法教会を信奉する国家だけでなく、その他の先進国家にも製造法が広まっているのです。彼のノートを持ち出した人物の仕業なのか、あるいはコルフト自身による工作なのかはわかりませんが、これに関する情報は月人でさえ一切手に入れておりません。エルモア地方でも最大級の謎とされています。
○その他の用語
・名もなき導師
歴史にときおりあらわれる人物で、強力な術法師としての伝説だけが残っています。主に変異体の掃討に力を貸しており、地域によっては聖人の1人として崇められていることもあります。彼は聖月教団のクローン体であり、最高評議会の1人の映し身です。ミュウという弟子をつれていることが知られています。・狭間の守人
エルモア地方で唯一の狭間への入り口を守る集団です。彼らは聖月教団の一員で、強力な戦闘集団として訓練されています。
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星人
評議会と意見が噛み合わなかったのは、クローン体だけではありませんでした。現在の月の体制が確立する以前に、月人の一部は主流派に対して反対意見を表明し続け、そしてついに袂を分かつこととなった集団が存在します。月人たちはこの勢力を『星人』と呼んでいます。というのは、彼らは大型の人工衛星に住んで、トリダリスの衛星軌道を周回しているためです。
後に彼らは旧コロニー勢力と手を結び、月人に対抗するための力を蓄えてきました。コロニーの住民は昔から、秘儀と呼ばれる魔術と科学魔道の中間に位置するような独自の科学大系をつくり上げており、現在もその技術で新たな技術や兵器を開発しています。そして、トリダリス全土に対して密かに干渉を続けており、エルモア地方にもその手先が忍び込んでいます。
月人たちはこの動きを警戒しているため、トリダリスの管理が甘くなっています。霊子機関の発掘も、こうした隙をついて行われたものなのです。そして、聖暦789年の現在、星人はいよいよ本格的な活動を開始しようとしています。これからの時代の移り変わりには、彼らの存在も大きく関係することになるでしょう。
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