宗教の種類
『聖母教会』、『法教会』、『マイエル教』と呼ばれる宗教が、エルモア地方の3大宗教といわれています。このうち、人民の70%が聖母教会を信仰しており、圧倒的な勢力を誇っています。多くの国では聖母教会が国教であり、昔ながらの封建国家には宮廷司祭という存在がおり、国政に関しての相談役を担っています。
法教会の信者は人口比で言えば20%ほどであり、ユークレイ、カスティルーン、ペトラーシャという3国で国教として信仰されています。マイエル教はせいぜい5%ほどで、27年前まで存在していたラガン帝国の領土であった都市国家と、セルセティアという南方の国で主に信奉されています。
この他にも、エリスファリアという国家が独自に設立した『エリスファリア国教会』など、小さな勢力はありますが、主に人々に認められているのは3大宗教であり、それ以外は異端として扱われることが多いようです。
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宗教施設
宗教機関の中心となるのが、教会や神殿といった建物です。都市や街、そして小さな村にも必ずこれらの建物は存在し、あらゆる面で人々の生活に関係しています。
教会とは神やその使いである聖霊たちを祀る場所であり、信者たちが祈りを捧げる場所でもあります。教会の構造として、まず中央に大きな礼拝堂(祭儀室)があり、その正面には神や使徒たちが祀られている祭壇があります。まれに聖者の遺体(聖遺骸)や聖者の遺物(聖遺物)が祀られていることもあるようです。礼拝堂は教室のように机を並べているものもあれば、ホールのようになっている場合もあり、その規模も都市や街など規模によって様々です。大きな教会ではステンドグラスが美しい影を落としていたり、壁や天蓋に立派な宗教画が描かれていることもあります。礼拝堂の横手には懺悔室がつくられているのが普通で、信者はそこで自らの罪を悔い改めます。小さい村では礼拝所が会議の場となったり、学校として利用されています。教会はそれぞれの宗教によって、表から見てすぐに分かる特徴があります。というのは、どの教会も屋根の上にそれぞれの聖印を戴いているからです。聖母教会は円十字(♀)ですし、法教会であれば正十字(+)といった具合です。また、建物の形からも宗派を区別することが可能です。聖母教会の場合は、教会の正面の屋根が尖っているのが特徴です。中央教会のような大きな教会では、尖塔が天を突くように空に向かって伸びており、一目でそれと分かります。法教会の場合は、建物を上から見下ろすと、それ自体が正十字の形をしているというのが最大の特徴です。マイエル教は神殿に神を祀っており、切り妻型の屋根をたくさんの柱が支えています。
教会や神殿はその土地の中心部に建てられています。都市のように人口の多い地域では、中心となる教会とは別に、都市のあらゆる場所に目が届くように分教会が建てられています。これらは教区という単位で区切られており、教会は数百人に対して1つの割合でつくられるようです。これは他の施設に比べて非常に多いと言えます。それだけ宗教には重きが置かれているということで、その戒律は何らかの形で生活に入り込んでいます。
礼拝堂の裏手には神官や司祭たちが住む居住空間や執務室があり、それぞれの信仰と教義に従って修業を行なっています。また、儀式に使用する祭器の保管室や、大学が付設されている場合には教室や図書館といった施設も設置されていますし、裏手の庭は墓所や納骨堂として使われているようです。敷地が手狭な場合は墓地が地下につくられていることもあり、歴史のある古い教会の地下墓地はまるで迷路のような複雑な構造になっています。また、術法の修業が盛んな教会には施療施設があり、寄進をすることで様々な治療を行なって貰えます。なお、蘇生の術も存在しますが、エルモア地方全体を見ても使い手はほとんどおりませんし、重大な理由なしに儀式が行われることもありません。
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宗教の位置づけ
教会は独自の土地を持ち、その土地について徴税権をもっています。ここで徴収される税については、国家に上納する必要はなく、完全に独自の財源とすることができます。これはどの国でも同様の扱いなのですが、その国での宗教機関の権威によって、所有する土地面積が異なります。宗教機関の権威の強い国では地方領主に匹敵するほどの土地を持ちますが、弱い国では財源の殆どを寄進に頼ることになります。
宗教機関は独自の軍をもっているのが普通であり、大きな教会にはそのための訓練所や、騎乗する馬を飼う厩舎が設置されています。武術に長けた者は神官戦士(聖母教会)や聖堂騎士(法教会)、あるいは神武官(マイエル教)という役目についており、その力で人々を守ります。
このように、教会組織は1つの国としての機能を備えています。これが多数の国にまたがっているわけですから、宗教機関の権力の強さがうかがえるかと思います。また、教会は人々の生活に非常に密着した存在です。生まれた時には教会で洗礼の儀式を受けますし、日曜日の朝はミサに参加します。もちろん日々の祈りは欠かせません。宗教上の祭はもとより、結婚式も教会で行ないますし、人生の最後の儀式である葬式も教会が執り行なうのです。エルモア地方で生きる限り、宗教と無縁の人生を送ることはまず不可能でしょう。というより、生活の一部なのです。そういった意味では、教会は第2の我が家であり、宗教家たちは家族の1人とも言うことができるでしょう。
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異端について
宗教によって異端の認定は異なります。例えば、聖母教会と法教会は互いを異端とみなしていますし、法教会から分かれたエリスファリア国教会などは、双方から異端扱いされています。こういった他宗教のことを異教と称し、それを信奉する者は異教徒と呼ばれるのが普通です。
そういった宗教的な見解ではなく、社会全体からも敵と認定されているのが、大変異現象を起こした魔神やその手下の悪魔たちです。悪魔は現在でも出現し、人々をたぶらかして堕落させることに力を注いでいます。人間の中にもこの悪魔の力を借りる者がいます。彼らは一種の宗教のように魔神や悪魔を崇めるため、こういった存在を特に邪教と呼ぶことがあります。『悪魔使い』と呼ばれる邪教徒たちは、宗教組織だけではなく社会にとって明らかな敵となります。悪魔に魂を売り渡した者たちは、悪魔の印を体のどこかに持っているといいます。これが見つかってしまった場合には、人々の迫害を受けたり、時には火あぶりの刑に処されたりします。また、変異の影響を受けた者も、悪魔に魅入られた者として人々に忌避されます。彼らは社会的には『異端階級』として扱われます。異端階級は身分制度の最下層に位置しており、場合によっては教会から破門されたり、土地柄によっては魔女狩りにあって私刑を受けることとなります。
こういった厳しい扱いを受ける異端とは別に、小さな信仰上の食い違いによる異端も存在します。これは宗派という言い方で区別され、その他の宗派からは異端派と呼ばれます。異端派の判定は、『異端審問』という宗教裁判によって行われます。この裁判の結果次第によっては、異端者はその宗派を破門されることもあります。このうちで最も有名なものがサン=ミシャルハ議定と呼ばれるもので、これにより異端とされた主教セルトラーンは後に聖人ルーンに出会い、法教会が生まれることとなったのです。
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