蒸気機関


 


 蒸気機関とは燃料の燃焼によって水を水蒸気に変え、その圧力を利用して動力を得る熱機関のことを言います。燃料は何でもよいのですが、現在のエルモア地方では石炭が主流です。一部では油を燃やすこともありますが、これはあまり一般的ではありません。
 蒸気機関の構造はシンプルで製造しやすいのですが、高圧蒸気機関が登場してからは爆発の危険をともなうようになったので、船や工場などで使用する大型のものは専任の機関士が運転するようになっています(1年につき数十件くらいの爆発事故が報告されているようです)。加えて、石炭をくべる火夫や大量の燃料と水を携行する必要があるため、霊子機関に比べて手間のかかる動力機関だといえます。もっとも、これらを改良する試みはなされており、自動給炭機や自動給水機といったものも存在します。

 最初の蒸気機関は聖暦650年に誕生しました。蒸気機関はもともと、採掘した石炭の運搬や鉱山の排水ポンプの動力といった用途で開発されたものです。これらは人や家畜が行う仕事だったのですが、現在ではほとんどが蒸気機関や霊子機関に置き換わっています。他にも列車や船など交通機関の動力、伐採した材木の運搬、製粉工場や織物工場など、工業を主とする多方面の分野で利用されるようになりました。
 しかし、聖暦732年に霊子機関が実用化されると、蒸気機関の不動の地位が脅かされるようになりました。単純に出力という点を考えるのであれば、特に霊子機関に劣るものではありませんが、運用面や機関そのものの性質といった点で確実に優位をあけわたしているのです。まず第一に、出力を高めようとするほど爆発事故の危険性は増えるということがあります。霊子機関は爆発することはないため、整備以外に技術者を必要としません。また、霊子機関と違ってすぐに作動させることはできず、事前に暖気運転を行わなければならないことでも劣ります。エンジンの規模にもよりますが、通常は10分以上の時間が必要となります。それから石炭や石油といった燃料は、その燃焼に伴って煤塵やガスを発生するという問題を抱えています。何より蒸気機関の弱点として小型化が難しく、その運用には多量の燃料と水が必要とされることから、霊子機関への転換がなされることもしばしばです。

 とはいえ、他の化石燃料や霊子物質よりも埋蔵量が豊富で経済的であるという理由から、石炭を燃やして動力を得る蒸気機関はまだまだ使用され続けることになりそうです。小型化に向かないことは明らかなのですから、小型の交通機関などの分野は霊子機関に明け渡して、今後は出力に比重を置いた用法が主体となるでしょう。エネルギー効率や安全対策についての研究は現在も進んでおり、今後はより安全で出力の高い蒸気機関が世の中に登場するはずです。


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