変異現象

概説\認識\浄化


 

概説


 『大変異現象』というものが起こった正確な原因は、科学時代に突入した聖暦789年の現在でも未だに明らかにされていますせん。そのため、今でも魔神の呪いによるものだと信じられています。
 しかし、本当の問題はその原因の真相ではなく、今でも大変異現象の爪痕は残り、そして変異と呼ばれる現象が各地で頻繁に起こっているということなのです。現在起こっている変異は、伝説に伝えられる大変異現象ほどの影響を及ぼさないため、『小変異』あるいは単に『変異現象』と呼ばれていますが、小さいとはいってもそれは無視できるものではありません。人々は大変異現象から約二千年が過ぎた今でも、悪魔の呪いに苦しんでいるのです。


 変異とは万物を歪ませる全てのもの、およびその現象のことをいいます。これはその名が表しているように、系統だったものではありません。変異はその対象となるものを選ばず、無差別に影響を及ぼします。環境、生物、物体、空間、時間、そして夢や人々の心にさえも変異は起こります。まさしく悪魔の呪いという他はありません。

 変異は様々なレベルで起こっています。同一の地域では比較的同じ変異が起こりやすいのですが、少々の条件の変化でまるで違うものになることもあります。
 大きな変異としてあげられるのは、自然環境の変異です。大変異現象によって陸地が一瞬にして水に変わってしまった場所もあります。それが現在エトワルト海と呼ばれるエルモア地方最大の湖です。また、西海では海流の流れが不規則に変化し、幾つもの大渦巻きが遠方への航行を不可能とさせてきました。現在の小変異はこれほど大きな影響を及ぼすことはありませんが、それでも空が不気味な七色に光ったり、雲もないのに雨が降るといった不思議なことはよく起こります。
 小さな変異の中に数えられるのは、生物の変化でしょう。単なる突然変異程度のものから、想像もつかない存在への変化まで、その段階は様々です。こういった変異の影響を受けた生物を『変異体』、あるいは『変異種』と呼びます。大変異現象によって姿を変えた生物のうち、種としてその存在を確立したものは数多く残っており、今でも人々の生活を脅かしています。海も森も山も、変異体が存在しない場所はないといっても過言ではありません。
 規模はともかく、変異現象の恐ろしさはそれだけにとどまりませんでした。変異現象は物質を対象とするだけでなく、精神にもまた大きな影響を与える場合があります。そのため、通常よりも凶暴な生物や、あるいはその逆の生物も誕生することとなりました。また、無生物にさえ精神が宿ることさえあり、それが数々の怪現象を引き起こす原因となっています。こうして生み出された怪物の中には、『不死者』(アンデッド)と呼ばれる存在などがいます。

 変異現象はこの世界とは切っても切れない存在です。人々から忌避されているとはいえ、もう生活の一部に組み込まれているものですから、うまく変異とつき合いながら生活するように心がけた方がよいでしょう。


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変異に対する認識


 変異現象は魔神の呪いであり、その多くは人々に悪影響を与えるものです。また、その影響を受けた生物もまた、特殊な能力で人間社会に害を及ぼします。そのため、変異現象が憎むべきものであるということは、この世界に住む誰もが認めるところです。
 しかし、必ずしも全てが変異現象として受けとめられているとは限りません。変異によって生まれたものでも、人々がそれを認識しないまま、ごく普通の物理現象として受けとめられている場合もあります。変異体の中にも単なる動物として扱われるものも多くおりますし、厳密に変異体を区別する方法が存在するわけでもありません。精神面での変異は特に見分けることが難しく、専門家でも判断しかねる状況がほとんどです。逆に変異の影響ではないにもかかわらず、科学的に未発達な社会ゆえの誤解や偏見というものも存在します。人種的な特徴さえ変異の影響とみなす者もおりますし、科学的な裏付けからそれらを否定する科学者を、悪魔の手先だと非難することさえあるのです。

 いずれの場合にせよ、変異の影響を受けたとみなされたものは、周囲からあからさまに嫌悪されます。それが一般的な社会生活を送っている人間であれば、悪魔に魅入られた者として社会から隔離されてしまいます。呪われるのはその者の不徳によるものであり、悪であると考えられているのです。
 そうなってしまった場合は異端階級という最下層の存在として扱われ、周囲から辛い仕打ちを受けるのが普通です。知られたくない場合は包帯などを巻いて、変異してしまった部分を隠して生活することになるでしょう。一族からそのような者が出るのは何よりの恥ですので、家族もそのことを必死で隠そうとするでしょう。名誉を重んじる家系では地下牢に閉じ込めて、生涯をそこで過ごさせるということもあります。
 しかし、最も多いケースは住んでいる土地からの追放です。もちろん、変異体を嫌うのはどこへ行っても変わりませんので、余所へ逃げたからといって境遇がよくなるわけではありません。そのため多くは乞食などに紛れて、事実を隠したまま生活することになるようです。見付かってしまった場合はまた同じことの繰り返しとなるでしょう。そして、ひどい時には私刑を受けて死亡したりすることもあります。しかし、そんな事件があっても、多くの土地では黙って見過ごすのが普通です。警察でさえそれを犯罪とはみなさず、事故として処理してしまうのです。

 なお、これには多少例外もあります。それは特定地域に頻発する変異現象で、ある程度は仕方のないことだとして認識されています。そういった土地では、変異現象の影響を受けたために何か事件が起こっても、それはある程度日常化されてしまっていることなので、よほど大事でなければ過剰に騒ぎ立てることはしません。また、永久的に変異の影響に侵されているのでもなければ、ちょっとした罪歴と同じように扱われるくらいで済んでしまうものです。自身や家族が口外することはありませんが、もし知られてしまったとしても周囲から煙たがれる程度で、極端に疎外されることは少ないでしょう。


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変異の浄化


 変異の影響は、ものによっては術法で取り除くことが可能です。そのため聖職者の奇跡の力によって、正常な状態に戻すことも決して不可能ではありません。しかし、宗教機関に届け出た場合、変異の影響を取り除くための浄化の儀式は信者たちの目の前で行われます。ですから、もし浄化されたとしても、変異したという事実は周囲に知られてしまうのです。また、信者としての扱いも変わり、破門されたに等しい処遇を受け、教会で祝福や儀式を受けることはできなくなってしまうのです。他にも、その後の人生のすべてを徳を積むことに捧げなければなりませんし、衣食住などの生活にも厳しい制限を受けることになります。結婚もできなくなりますし、娯楽もまた悪の道に染まるものとして止められていしまいます。葬儀の際も特別に魂の浄化を行い、墓も一般信者とは離れた場所に置かれることになります。

 儀式で救えなかった場合は、堕落した存在として永久に破門されてしまいます。そうなった時は、各宗教機関が個別に設置した施設に収容され、浄化のための厳しい修行に励むことになります。一般にこのような施設は、人目に触れない山奥などに置かれているといいます。しかし、特別な立場にいる聖職者以外は誰も建物の場所は知りませんし、一度連れてゆかれた者が戻ってきたという話も聞きません。家族にも修行に励んでいるということや、生死については報告が届きますが、手紙のやり取りなどを行うことは許可されていないのです。

 また、仮に浄化されたとしても、人々の扱いがよくなるわけではありません。一生、呪われし者という烙印を押されたまま生きることになりますし、周囲はそのような存在が近くにいることを望まないものです。ですから、よほど敬虔な信者がいる地域でもなければ、宗教機関にも報告せずに追放してしまうものです。それゆえ、宗教機関へ届け出ずに、人知れず姿を消す者は後を絶ちません。
 なお、犯罪を起こした者が変異の影響を受けていた場合、通常は警察から宗教機関へと通報されます。もし浄化されれば、そのまま罪人として裁かれることになりますが、そうでない場合は宗教機関を保証人として身元の引渡しが行われます。そして、その後は浄化のための施設へと収容されるという段取りとなります。


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