元素秘学


 


 物理化学の方面から真理を探究する学派で、錬金術という言葉の本来の意味に近い分野であることから、純粋錬金法と呼ばれることもあります。究極的な目的はもちろん、原質(ルートマテリアル)の存在の確認と形質の制御であり、これらを利用して完全存在へ至るための手段を得ることですが、実際に行う作業は物質の変化や現象作用の解析となります。

 この分野は既存の科学技術を用いるだけではなく、科学魔道の技術とも繋がりが深く、発掘品などを実験に利用することもあります。もっとも、一般社会と技術レベルそのものは大差ありませんので、発掘品の利用といっても技術の流用でしかなく、それ自体を解析できた者は1人としておりません。実験に際して当たり前のように用いている道具でも、その利用法が正しいかどうかは誰にもわからないのです。
 この他にエルモア地方の一般科学と大きく違うところは、電気についての研究が進んでいることであり、電気と磁場の関係などについても既に言及されています。しかし、エルモア地方で電気を連続的に利用するには、雷雲機関と呼ばれる制御機器と、完全物質の1つと考えられている真鉄でつくられた電線が必要となります。なお、真鉄の判別には真金の検証用機器の回路を使用します。


○錬金場

 かつての元素秘学は、その理念や目的こそ一般社会のそれとは異なっていましたが、行っている研究の内容自体は異端のものではありませんでした。しかし、十数年ほど前に開発された1つの機械によって、これまでの科学レベルでは全く考えられないような物品や化合物を生み出すことに成功し、かつてとは全く異質の学問として発展を遂げています。この機械というのが、科学魔道時代の発掘品を流用した『賢者の三角門』と呼ばれる装置で、これによってエルメラの箱宇宙と呼ばれる特異な錬金場を作製することができます。

 この錬金場は非常に特殊な性質を持ち、他分野のそれとは違って大がかりな機器を設置するために、最低でも5m四方の空間が必要とされます。これは雷雲機構などの電気制御装置や霊子機関の基盤、その他の霊子金属で作製された複雑な金属回路を組み合わせたもので、作製するためには一般的な物理化学の知識はもとより、元素秘学についての総合的な知識が必要とされます。作業量も格段に多く、通常は作製するのに数年ほどの時間を費やすものです。
 これらの装置の中央部には、ルクルスの硝子塔と呼ばれる複雑な硝子管の集合体と、それに連結されたマエラストールの回転宮と呼ばれる硝子球が設置されており、この内部で様々な物理化学的変化が行われます。賢者の三角門を起動させた場合、箱宇宙と呼ばれる濃密な闇が直径1mほどの硝子球の内部を満たし、ところどころに青白い光の粒子が滞空しはじめます。しかし、これは密閉状態でなければ発生しないため、これがどういった物質であるかは未だ謎のままです。ただ不思議なことに、この外部で同種の実験を行っても、殆どの場合は現象そのものが観測されないのです。また、門を利用した一連の実験は、他の分野に増してイレギュラーな結果が生じる率が高く、必ずしも同一の結果が得られるとは限りません。それが発掘品の影響のためであるという者もいれば、見えない領域での実験条件に差違があるのだと主張する者もいます。これが不測の事態で済むうちはよいのですが、場合によっては装置を壊してしまったり、最悪の場合は爆発事故を招いてしまうこともあるので、実験に際しては過去の文献を調査するなど、慎重に準備を進める必要があります。
 なお、この実験には大量の霊子物質を用いるため、資金の調達が常に問題となります。これによって精製した物質で資金を得ようと考えても、硝子球自体があまり大ききくはないことも関係するのでしょうが、多量の物質が得られることは殆どありません。たとえばプリマテリアルなども生み出すことができるのですが、術法で作製される場合に比べてあまりに少量で、小指の先ほどの量しか得られないのが普通です。この他にも、質量保存の法則など通常の物理法則が無視される場合が多々あり、通常の実験で得られる化合物などは、装置を用いずに作製した方がむしろ効率がよいのです。ですから、大きな組織か後ろ盾のある錬金術師でなければ、この装置を用いた研究を続けてゆくことは難しいでしょう。


○技術

 元素秘学の分野で行うことができるのは、以下のような技術となります。これらは殆どが科学魔道時代の発掘品に頼るか、あるいは箱宇宙の中で作製された物質などを利用した技術となります。それ以外の技術については、電気および科学分野についてやや研究が進んでいる程度で、一般社会のそれと大きく異なるものではありません。
 これらは、現実に比べて異質な要素は多々含まれていても、実際になし得るものは現実世界の科学を大きく上回るようなものではありません。とはいえ、エルモア地方の一般技術に比べればかなり高度な技術と言うことができるでしょう。


 電気の利用/磁場制御/霊子物質の利用/重力制御/物質の抽出/薬物の合成/合成物の均一化/合金作製/物質の腐食/不純物の純化/気圧制御


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