基本概念


 


 錬金術の目的は真理の探究であり、この世界に存在するあらゆる存在の本質を解明し、究極の真理へと到達するために研究を行っています。個別の学問や技術というのはあくまでもその一環でしかなく、すべてを生み出す法則の探求が最終目的となります。
 この究極の法則こそが黄金数秘あるいは黄金定理と呼ばれる絶対真理であり、これを理解したものは遍く存在を正しく理解し、あらゆる法則を自由に操ることができるのだといいます。これを天上科学などと呼ぶ場合もあります。これに対し、錬金術師たちが現実に行っている学問は銀の公式などと呼ばれています。


○存在の性質

 すべての存在には真実の姿があり、その姿へ向かって変容することが出来ると考えられています。存在として規定されるのは物質に限らず、生物や精神、あるいは霊魂ですら例外ではありません。これはあらゆる存在がその内部に真実の要素を有しているためであり、いかなるものも真実の姿へ至ることが出来るのです。なお、真実の要素のことを神性、そして要素全体のことを霊性と呼ぶ学派もあります。
 錬金術の世界では、存在には常に対になるものが備わっていると考えられています。1つは完全存在で、もう1つは不完全存在となります。不完全存在は状態のバランスが狂っており、真実の要素以外のものを備えています。しかし、正しい過程を経れば完全存在へと変化を遂げることができます。対になるものとして知られている中には、たとえば金と真金といったものがあります。錬金術師たちは、この世の存在は殆どが不完全存在であるといいます。錬金術の作用とは不完全存在を完全存在へと変化させることであり、これは宇宙の生成過程の再現でもあります。

 性質の変化が可能である理由は、存在は形質と原質の2つから成るためであるといいます。形質とは存在の性質を規定する情報のことであり、宇宙の設計図ということもできます。宇宙にあるいかなる存在も、最も原始的な要素である原質に形質が与えられ、はじめて存在として在ることができるわけです。原質は学派によって呼び方が異なり、混沌、根元物質、宇宙の種子、第一物質などと呼ばれることもあります。なお、原質は原子をさす言葉ではなく、錬金術の場合は原子以前の存在として定義されています。
 形質は星幽子と呼ばれる要素から成り、黄金定理とは星幽子の在り方を解き明かした法ということができます。つまり、錬金術の目的は形質を読みとることであり、それはあらゆる存在に対する研究によって為されるのです。完全を知るために、不完全を知らねばならないのが錬金術であり、研究の対象は万物に及びます。カタツムリの渦巻きに宇宙の深淵を見い出し、雪の結晶から魂の作用を知るのが錬金術師という学問であり、真理はあらゆる存在に刻み込まれていると考えるのです。


○原質(ルートマテリアル)

 根元物質たる原質そのものを純粋な形で得た者は存在しません。しかし、その次の段階の物質である万有物質、プリマテリアルを作製する方法は存在しています。プリマテリアルは形質との結びつきが非常に弱く、触れたものの意思によって形状を変えるという特異な性質を持ちます。これは霊性を持つ意思が形質を担うためであるといいます。


○エーテル

 錬金術の世界では、星幽子と原質の間をつなぐ要素がエーテル(霊子)であるといいますが、これに対しては学派によって様々な意見があります。エーテルの存在自体は確かなものとして認められており、多くの錬金術師が興味を示すものの、未だそれが何であるかを解き明かした者はおりません。
 術法もエーテルの作用が関係する現象であると考えられているため、エーテルが形質に影響を与えていることは疑いようのない事実です。そのため、錬金術の実験では霊子物質はエネルギー源としてではなく、触媒や溶液と混合した形でよく利用されています。特に霊水は利用度が高く、霊水を基本媒質とした様々な霊液がつくられています。


○錬金術と科学魔道

 錬金術師の多くは科学魔道技術にも強い興味を示します。科学魔道技術による物品はエーテルを消費して動くことから、この技術が存在することもまた、エーテルと形質の関係を示唆する重要な証拠であると考えているのです。また、完全存在である真金が霊子機関やその他の発掘品に用いられていることも、錬金術師にとっては大きな意味を持つものです。なお、錬金術で用いられる機械の中には、発掘品の部品を流用したものが多数存在します。発掘品絡みの事件に錬金術師が絡むことも決して少なくない事例なのです。



○精神

 術法が形質に影響を与えていることや、霊という存在が及ぼす様々な作用から、生物の魂は霊性を持つ存在であり、エーテルと深く結びついていると考えられています。錬金術の世界では意思や霊魂も立派な研究の対象であり、精神科医の中に錬金術師が紛れていることもあります。


○変異現象

 錬金術師にとって変異現象は異端ではなく、純粋に研究の対象と成りうるものです。変異現象は変化の過程の1つに過ぎず、たとえその原因が魔神の呪いであったとしても、興味を持つのは現象の機構そのものですから、彼らにとって何の禁忌ともならないのは当然のことなのです。錬金術師の中には変異現象が新たなる存在への変化と考えている者もいるくらいであり、こういったことが社会から異端視される原因の1つともなっています。


○進化

 この世界では進化論は発展していません。宗教機関の教えによる影響もそうですが、化石が出土することが殆どなく、考古学上で進化の形跡が見られるような発見もこれまで存在しなかったためです。しかし、錬金術師の間では進化というものが存在すると考えれています。しかし、社会一般では人間は神の被造物であるとされていますので、こういった認識もまた反社会的な異端組織としての性格を強めています。
 なお、進化のことを錬金術師は生命の変奏法則、あるいは生命の超システム(メタシステム)といい、生物に起こる変異現象の影響もこの作用の1つではないかと考える者もいます。逆に隔離されている場での生命体の変化を確認し、変異現象とは全く切り離されたシステムとして、生命は自らの真の姿へ向けて変化してゆく能力を持つと唱える錬金術師も存在します。このシステムを解明することが生命秘学と呼ばれる分野の1つの目的であり、最終的には人間を至高存在(天上存在)へ進化させようと考える者も多くいます。しかし、そのための研究というのは人体実験に他ならず、これを目的とした誘拐事件などが錬金術師によって行われていることもあって、社会はますます錬金術師を憎むようになるわけです。なお、不完全な存在である通常の人間に対して、完全存在としての人間は真人と呼ばれます。


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