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TRPGはテーブルトーク・ロールプレイングゲームの略です。テーブルトークは卓上で会話を交えて遊ぶことを意味する言葉であり、家庭用ゲーム機で遊ばれているRPGを、人間同士の会話で楽しむゲームということになります。しかし、TRPGにはこれだけでは語りきれない様々な要素を内包した遊びであり、ゲーム機とは違った楽しみを数多く含んでいます。
RPG(ロールプレイングゲーム)というのは、「役割を演じる遊び」と訳すことができます。この言葉が示す通り、ゲームの参加者は特定の役割を与えられ、その仮想的な役割を演じることで話を進めてゆくゲームです。そのため、TRPGというのはよく即興演劇に例えられたりします。与えられる役割というのは多くは人間ですが、それ以外の生き物である場合もあります。この役割のことを、ここではキャラクターとして説明します。
特徴的なのは、この時に参加者には台本などが与えられるわけではなく、状況のみが説明されるということです。参加者はキャラクターの立場で物を考え、どのような行動を取るかを選択しなければなりません。つまり、「役割を演じる」というのは、一般に言われる演技のことを指すのではなく、あくまでも特定の役割を担うという意味で使われる言葉であることを、よく覚えておいて下さい。なお、TRPGというのは1つのジャンルであり、スポーツのように非常に幅広いものを指す言葉です。ですから、TRPGという特定のゲームが存在するわけではありませんし、それぞれ個別のゲームごとに違ったルールがあり、異なる楽しみ方があるわけです。といっても、ジャンルとして分類されているからには共通する要素も多々あります。以下の項目では、TRPGがどのような要素を持った遊びであるかを簡単に説明してゆきます。
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目的と役割
○目的
もちろん、単に何者かの立場で行動するだけではゲームとしては成立しません。特定の目的があり、それに到達するために効果的な行動を選択するという作業があって、初めてゲームとして存在することができます。一般にTRPGでは、仮想世界の中で起こる特別な事件(ハプニング)を解決することをゲームの目的としています。たとえばサッカーやバスケットボールで得点を取り、ゲームに勝利するということに当たる作業です。
ゲームの目的は個別のルールごとに異なるものです。たとえば、キャラクターとして刑事を扱うゲームでは、通常は犯罪事件を解決することが目的となります。そして、より上手い手段でなるべく早く解決することができれば、結果に対する評価は上がることとなります。一般的には経験点として評価する部分を見てもらえれば、それが何をするゲームかが明確となるでしょう。参加者はこの目的を果たすことが、ゲームにおける第一の目的となります。
しかし、ゲームの一応の目的は設定されていますが、その解釈は必ずしも一義的ではありません。刑事が事件を解決するという目的を与えられたとして、強行突入して犯人をとらえるという手段もあれば、説得して自首させるなど、さまざまな解決法が考えられます。多くのTRPGでは、スポーツのように数値で単純に比較できる目的ではなく、解釈にある程度のゆとりを持った目的設定がなされています。ですから、ゲームの目的という大枠に沿った行動を取りながら、なおかつ自分が設定した目標を充たすことも可能となります。
○楽しみ
TRPGの楽しみというのは、事件を効率的に解決することばかりではありません。このゲームが他のゲームと異なる点は、あくまでも自分とは違った立場の人間(キャラクター)になって考え、そして行動を選択するということです。ですから同じ刑事であっても、犯人に対して自首を進めるような刑事もいれば、どんな手段を用いても事件を解決すればよいと考えている者もいるでしょう。また、入り立ての新米刑事と定年間際のベテラン刑事であれば、捜査方法や判断も異なるはずです。これらのキャラクターが全く同じ事件にかかわったとして、果たして過程も結果も全員同じになるでしょうか? もちろん、それぞれ違う物語が展開されるはずです。
TRPGでは、この立場にあるキャラクターであればこうする、ということも判断の材料になります。教師として設定されているキャラクターは、教師らしい考え方をするのが最も自然といえるでしょう。あるいは異世界の住人であれば、その世界の住人らしく行動することが求められるのです。
これはゲームの中では、ジレンマの元になりかねない要素でもあります。たとえば子供のいる刑事であれば、子供のためにやむを得ず犯罪を起こしてしまった人間に同情することもあるでしょう。他にも、人のよい刑事であれば犯人に騙されてしまう可能性もありますし、若い刑事であれば正義感のあまりに犯人に過剰な暴力を加えてしまうことも考えられます。これらは事件をうまく解決するという目的から考えると、不利になる要素ともなりかねません。
しかし、TRPGは事件を解決するという結果だけではなく、過程を楽しむことも重視されるゲームなのです。キャラクターの立場によって事件へのアプローチの仕方が違ったり、性格によってはどうしても出来ないこともあるでしょう。これはゲームの目的を果たすためには制限となる場合もありますが、TRPGではゲームを楽しくする要素の1つと考えて下さい。それがTRPGの大きな特徴なのです。このような立場による判断の違いは、時にはまるで映画やTVドラマのような物語を作り上げます。これらは結果的に出来上がるものではありますが、ゲームの参加者の選択と行動によって生まれたものには違いありません。TRPGでは役割とその組み合わせ、そして一人一人の選択によって、無限のストーリーが生まれる可能性があるのです。これはあらかじめ結末が決まっている演劇や、数値だけで評価するゲームにはない要素であり、TRPGの最も魅力的な点といえるでしょう。
○注意点
キャラクターを表現することとゲームの目的は、必ずしも一致するわけではありません。設定されている目的と役割を演じることのどちらも充たしてこそ、初めてゲームが成立しているといえます。〜という性格だからゲームで設定された目的を果たさなくてもよい、という意見は決して成立しないのです。この点を勘違いすると、そのゲームが持つ固有の楽しみを得られないばかりか、周囲に迷惑をかけることにもなりかねません。
たとえばサッカーにおいて、自分がドリブルが好きだからといってドリブルばかりしているプレイヤーがいたらどう思うでしょうか? ドリブラーだからというのが、チームの戦術を壊していることの言い訳になるはずがありません。また、野球で一番バッターになったとして、ホームランが好きなら大振りばかりしてよいのでしょうか? このように性格を理由にして、ゲームで果たすべき目的から遠ざかるような選択をするプレイヤーなど、チームのお荷物でしかないのです。
もちろん、ゲームの目的がキャラクターを上手く演じることであれば、特定の性格を演じることに重点を置いてもよいでしょう。しかし、それ以外の目的がある場合、それを無視するということはゲームに参加していないも同然の行為です。もし、こういった点について意見の食い違いが起こった場合は、自分の立場をスポーツや他のゲームにたとえてみればよいでしょう。そうすれば、自分が何をしているのか、そして何をすればよいのかが明確となるはずです。
TRPGというのは、あくまでも複数の人間が参加して行うゲームであり、なおかつ参加者同士で勝利を競うゲームではないのです。全員が楽しむということは、ゲームの目的以前に存在する大前提といえるでしょう。自分が有利に事を進めたいだけ、あるいは好き勝手に行動したいだけならば、自分の頭の中で空想するなり小説でも書けばそれで済むことです。自分をゲームに参加させてもらえない存在に貶める前に、全員で楽しむという最大の目的を思い出すようにしましょう。
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ルール
ゲームの基本的なルールというのは、特定の役割を演じたり、選択した結果を評価するための基準として設定されるものです。たとえば、ある刑事が犯罪の現場を捜索したとしましょう。優秀な刑事であれば容易く証拠を見つけてしまうかもしれませんが、そうでない刑事は証拠を見逃してしまう可能性もあります。もちろん優秀な刑事でも、時には何かを見落としてしまうことも考えられます。
TRPGでは、キャラクターがどのような能力や技術を持っている人間なのかを、レベルなどの数値で表現します。そして多くのゲームでは、その行動がうまくいったかどうかを、サイコロなどを用いてランダムに判定します。
もちろん、ある技術に秀でたキャラクターは、確率的に成功しやすいように設定されます。また、専門的な技術を習得していないキャラクターは、行動そのものを行えないこともあるでしょう。たとえば、ドイツ人と会うことになったとして、ドイツ語が話せないことで困難な立場に追い込まれる場合も考えられます。このような要素としてルールをとらえる場合、キャラクターが持つ能力や技術は選択肢であり、数値は選択を行う際の判断材料ということができます。自分に出来ることは何か、逆に不得意なことは何なのかを考え、どのような行動を取るのかを決定するのです。これがゲームとしてのTRPGが持つ面白さの1つです。それから、キャラクターを表現する数値は、自分が演じる対象がどのような存在であるかを示す手がかりでもあります。プレイヤーはキャラクターが持つ数値から、その人物がどのような人生を歩み、そしてどのような趣味・嗜好を持っているのかを判断して下さい。そうすれば、その人物をよりイメージしやすくなり、身近に感じることができるようになるはずです。
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遊び方
TRPGでは、コンピューターがやってくれることを、すべて人間が行わなければなりません。たとえば、主役となるキャラクターたちを操ることはもちろん、シナリオをつくることもそうですし、イベントの管理や人々の行動、あるいは敵となる存在を動かすことも含まれます。
ゲームの参加者はこれらの作業を分担して行います。一般にTRPGでは、参加者を大きく2つの役割に分けることができます。1つはゲームマスター(以下GM)という役割で、それ以外はプレイヤーとなってゲームに参加することになります。GMはゲーム機にあたる役目を負います。GMは舞台を整えたり、シナリオのあらすじを決めたり、司会進行役やルールの審判などもつとめなければなりません。また、キャラクター以外の登場人物を演じることもGMの役目となります。GMは1人で行うのが普通ですが、それでは処理が大変だという場合には、サブマスターとしてもう1人がサポートすることもあります。
残りはプレイヤーとなって、自分のキャラクターを動かします。TRPGの場合はゲーム機のRPGと違って、誰のキャラクターが主役ということはありません。プレイヤーみんなが主役であり、通常は全員で力を合わせて困難に立ち向かってゆくものです。GMは事件を起こし、状況をプレイヤーの前に提示します。そして、プレイヤーがそれに対してどのようなリアクションを取るかを考え、行動を選択します。必要があれば、その行動が成功したかどうかをルールに従って判定します。そして、キャラクターが起こしたアクションに対して、どのような結果が起こったかをGMは描写します。この繰り返しによってTRPGというゲームは進んでゆきます。
TPRGの特徴の1つとして、シナリオの結末が決まっていないということが挙げられます。一応のあらすじは存在していても、その通りにストーリーが決着するわけではないのです。プレイヤーの選択肢によっては、目的が遂げられずに終わってしまうこともあるでしょう。逆に、咄嗟の機転によって予想以上に良い結末が迎えられることもあるのです。また、同じシナリオを繰り返し遊んだとしても、キャラクターが違えば全く違う結果になることも十分に考えられます。
もちろん、これはTRPG以外のゲームにも当てはまることですが、TRPGの場合は可能性の幅が無限といっていいほど広いのです。もちろん想像力には限界があるでしょうが、こういった創造性もまたTRPGの大きな魅力の1つでしょう。
さて、これでTRPGがどのようなゲームなのか、だいたい分かっていただけたでしょうか? もちろん、これだけでは実際のプレイの様子までは想像できません。詳しく知りたい方は、TRPGに関する雑誌やリプレイ本(ゲームの様子を戯曲の台本風にまとめたものが多く、キャラクターの台詞と卜書きが書かれている)といったものを書店で購入できますし、ネット上でもTRPGに関するページを開設なされている方はたくさんいます。ぜひ、そちらの方をご覧になって、TRPGに対する理解を深めていただきたいと思います。
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