霊子はエネルギーとして理想的でした。一切の有害物質を出すことなく、純エネルギーだけを取り出すことができるのです。こういった優秀な機関が登場して進歩しすぎた科学は、やがて自然界で行われている現象さえ人間のものとすることを可能にしました。人類はやがて宇宙にも進出するかと思われたのですが、ここで発見されたのが宇宙に立ち塞がる壁でした。この不可視の壁の正体は、後に『緩衝帯』(ユーカリヲン・カーテン)と呼ばれる霊子の異常地帯であり、トリダリス星から半径100万kmの空間を完全に覆っています。この緩衝帯の影響によって霊子機関は停止してしまうため、この段階で人類は宇宙への道を閉ざされてしまうことになりました。
こうして宇宙開発は宇宙コロニーの建設を主体とするものに切り替わったのですが、やがて人口増加にコロニーの数が追いつかなくなり、また、政治も人民のすみずみにまで目がゆきとどかなくなって、貧富の格差や退廃的な思想が生まれるようになりました。そして最終戦争と呼ばれる全世界を巻き込む戦争が勃発し、長い戦いの時代に入りました。この戦乱によって、環境の維持はないがしろにされ、人々の生活は以前のレベルを維持できなくなりました。そして、戦争すら続行できないような、苦しみの時代へと突入することになりました。
ここで生まれたのが、『世界』と呼ばれる抽象的な存在です。世界と称されるものは、これから後にも何度か歴史に出現するのですが、これは簡単に説明すれば人間の総意ということができます。ある1つの思想が集合した意識が自我をもつようになった、いわば思想という個体であり、それと同時に最強の超能力者でもあります。
この旧科学時代に現れた世界は3人でした。1人は人類への疑問、もう1人は人類の否定、そして最後の1人は人類の未来への希望が集まって生まれた存在でした。彼らはヒトという存在を滅ぼすのか、そして永遠に生き続けたいのかを問いました。しかし、このままの状態を続けたとしても、人類どころかこの星をも滅ぼしてしまうのは目に見えています。そこで3人が選んだのは生物を無機化することにより、永遠の生命を与えることでした。これによって銀色の楽園の時代が訪れるはずだったのですが、人々の心は最後にそれを拒みます。そして代わりに人類が選んだ道は、機械という存在を消し去ることでした。
世界たちは人々の願いを聞き届け、その時代に存在する全ての機械の活動を停止しました。しかし時はすでに遅く、トリダリス星の環境は戦争によって破滅寸前の姿に変わっていたのです。これ以後、文明のレベルは急速に後退し、人々の生活は中世レベルまで逆行することになります。
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