母や姉たちの知識と信念を受け継いだ『ユナス』は、魔術や学問などの多方面において人々を指導し、無償の愛とその実行を掲げて布教活動に尽力しました。そのため、後に彼女は『主教』と呼ばれることになります。一方で彼女は、彼女に近しい人々とともに異なる目的、科学魔道の封印も行ないました。それは人民に知らされぬうちに行なわれ、長い年月を経た現在では科学魔道の技術(特に呪学)が人々の前に現われることはほとんどありません。こうして教会は、表裏2つの目的を遂行するために存在することになりました。それが聖母教会を『表教会』と知られざる『裏教会』とに機能を2分させることの原因となります。
裏教会は科学魔道の封印を行うと同時に、神書というものをつくりあげました。これが現在、神の記録として残されているものです。これに書かれている魔神や神、そして天使というのは、魔道機や生物兵器、あるいは霊体兵器たちのことであり、科学魔道時代の技術を悪役に据え、神罰を受けて封じられたという記録を捏造することで、遠回しに人々の心に過ぎた技術を行使する危険性について警告しているのです。その敵側の主役『魔神アヌカリヲ』として取り上げられたのが、巨大魔道機アン・ユーカリヲンです。
アヌカリヲは神話の中で、『天の大地』を落とした罪により翼をもがれ、エルモアの地に逃れたところを『退魔の業火』と呼ばれる光で滅ぼされたことになっています。そしてアヌカリヲはこの仕打ちを恨み、世界に呪いをかけ、これが『変異』であると伝えられています。順番は入れ替えてありますが、ほぼ現実にあったことを巧みに神話に織りまぜてあり、実に裏教会らしいやり方といえるでしょう。
ユナスは聖母教会の基礎をつくり上げた後に死んだことになっていますが、実は彼女は現在も生きています。そればかりか、アリアと12人の娘もまた、眠りについたまま封印の儀式を続けているのです。
行方不明だと伝えられているアリアは、実は聖母アリア教会の地下で眠っています。しかし、ここに沈んでいる都市の封印が解けかけるという事件があり、それを補助するためにユナスは眠りについたのでした。このことから、裏教会は封印の儀式を強化する必要を痛感します。
ユナスが眠りについた後も、教会は魔術の行使による人々の救済を続け、絶大な権力を手に入れることになります。そして、再び王国が出来始めるころには、多くの国で教会は重大な発言力を持つことになりました。政治に介入した教会は表教会の目的を遂行すると同時に、裏教会としての教え、すなわち科学魔道の管理を可能としました。それは人々の生活の多くを教会が統制することを意味します。
教会はその力を用い、アリアと12人の使徒が封印した都市の上に、それに対応するアリアや使徒たちを祀る教会を作り上げました。しかし、その本来の目的は中央都市の封印をより強固にするためであり、そのために教会上層部の者たちは数々の魔術儀式を施したのでした。彼らが計画したのは、人々の祈りによって生じる霊子エネルギーを封印の強化に使用することでした。そのため、祈りに用いられる『聖言』(神聖語)を呪文とすりかえ、人々は知らずのうちに霊子を教会の地下にある中央都市の封印に注ぎ込むことになりました。同様に、魔力を集めやすい形状を偶像崇拝の対象として用いました。それが現在の聖印である『円十字』(アンク)です。こうして教会は人々の祈りを利用して、ほぼ完全な封印の儀式に成功することになりました。ここまで至るために、アリアが生まれて千年以上の年月を必要としています。
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