超能力者に関する研究が進むうちに、彼らの脳内タンパクの一部の構造が、常人のそれとは異なっていることが判明しました。そして、その発見から110年後に、科学者たちは脳の特定部位の構造を変えることで、いわゆる超能力者をつくりだすことに成功しました。これらの人工的につくりだされた超能力者は『人為能力者』と呼ばれるのですが、これはクローン体を基礎としてつくられました。人為能力者たちが利用された現場は、当然のことながら戦場です。人々は完全に制御された人為能力者による代理戦争を行う傍らで、更に超能力についての研究を進めてゆきました。
後に、このクローン体への人体実験を通じて、新たな発見がなされることになります。人類が解明したのは、超能力者がその力を発揮する際に、その周囲に素粒子レベルの微粒子が出現するということです。科学者たちはその微粒子を『霊子』(霊的因子:スピリチュアル・ファクター)と名付けました。
こうして、科学者たちがこぞって霊子の研究に打ち込む時代が訪れました。その結果わかったことは、霊子は高エネルギー物質であり、素粒子の運動にはじまる様々な物理現象に関連しているということでした。この霊子という物質の不思議なところは、かならずしも可視状態にあるわけではなく、観察しているうちに消滅したり、存在しなかった場所に突然現れるということでした。これはエネルギー状態によって変化する現象であることまでは判明したのですが、その時代の科学力ではそこまでしか解明できませんでした。というのは、励起状態以前の霊子は可視下に存在しないからです。
しかし、それだけでも科学史における最大の発見であり、霊子の科学への応用が期待されました。霊子が安定して可視物質として存在するのは、生物の特定の精神状態(α波を出す状態)のもとでした。そのため、人為的につくりだされた超能力者が主な研究対象とされ、長い年月をかけてその出現パターンの解明と生成エネルギーの抽出に成功しました。それから更に後に、一定の構造パターンをもったタンパク質複合体に、ある波長の電気信号を流すことにより、使用した電力の数十倍にも当たる純粋なエネルギーを取り出すことを可能としたのです。こうして作り出されたのが、人類最初の『霊子機関』です。
この霊子機関が誕生するためには、様々な苦労がありました。特に問題となったのが、『オカルト効果』と呼ばれる一連の事故です。これは現象のシステムを解明しないまま霊子を活性化したことによって、術法と同じ効果が無作為に起こった結果なのですが、オカルト効果の仕組みについては、やはり霊子の追跡ができないことから、この時代では解明されないままで終わることになります。
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