航空交通機関


 

利用状況


 空を飛ぶことはエルモア地方の人々にとっても長年の夢でした。それまでにも翼を背負って塔や崖から飛び降りたりする、『タワージャンパー』と呼ばれる人もいないわけではありませんでしたが、最初に空への第一歩を踏み出したのはやはり気球でした。気球は熱した空気で飛ぶ熱気球から始まり、次に水素ガスやヘリウムガスを使って浮かぶものが開発されました。そこからプロペラ推進による飛行船へと発展し、聖暦789年の現在では大型飛行船での旅行さえ可能となっています。

 しかし、飛行船は浮かぶということはできても、鳥のように大空を飛ぶという表現に見合うものではありません。空への夢は果てず、現在も大勢の人間が熱心に航空機の開発を続けています。主に海を持たないカスティルーンやペトラーシャ、そしてロンデニアとの諍いによってポラス海峡の通航が困難であるライヒスデールやフレイディオンで特に研究が奨励されており、国家から補助金が出されている場合もあります。国家としてだけではなく、個人でも大きな翼を背負う滑空機(グライダー)や、霊子機関を用いた羽ばたき飛行機(オーニソプター)を開発している人は存在します。しかし、まだ誰も長い距離を継続して飛行するには到っておりません。というより、開発者以外の人々から見れば、それは落下に相当するものでしかありません。事実、彼らは実験の度に怪我を負い、時には命を失う者さえいるのです。こういった開発状況から、空の交通機関として現在最も有望視されているのは、やはり飛行船ということになるでしょう。


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気球


 人類は気球によって初めて大空へ到達することができました。初期の頃は熱した空気で飛ぶ熱気球タイプのものしかありませんでしたが、現在ではゴム引きの布を用いた水素気球やヘリウム気球も存在します。しかし、これらはほどなく飛行船へと姿を変えることとなり、あまり利用されてはいないようです。

 気球の操縦は高度を操作することによって行います。熱気球であれば、最初は30分ほどの時間をかけて空気を熱する必要があります。それからある程度までの高さに昇ったら、今度は風向きを見なければなりません。風向きや風力というのは、その時の気球の高度によって変わります。自分が進みたい方向に移動するためには、そちらに吹いている風をつかまえる必要があるのです。速度は完全に風任せですし、燃費も風次第ということになります。ですから、気球士(パイロット)は気球の基本的な取り扱いだけではなく、天候を予測する的確な判断力を要求されます。

 気球はペトラーシャなどの一部の国家で、軍事的にも利用されています。先進国家では気球隊という空軍が設立されており、気球によって空から状況を偵察し、そして戦場を指揮することで効果をあげた記録も残っています。


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飛行船


 飛行船は霊子機関を利用したプロペラ推進装置の開発によって、ようやく実用化が可能となった交通機関です。気球とは推進装置の有無で区別されています。現在使われているものはいわゆる硬式構造であり、軽量な骨組みを用いて形状を保つようになっています。充填されるガスは水素の場合もあればヘリウムガスの場合もあります。
 なお、気球は民間でもよく使われていますが、飛行船は近年になってようやく一部の先進国家で、旅客用としても利用されはじめた程度の段階です。現在はユークレイ、ペトラーシャ、カスティルーン、ライヒスデール、フレイディオンの5国のみで運行されています。

 気球はそもそも軍で開発されたものであり、軍事利用が当初の目的でした。先進国家では気球と同様に空軍で運用されており、パラシュートをつけた落下訓練なども行われています。大型のものは50名以上の人員を乗せて飛ぶことができます。なお、砲門を搭載した飛行船はまだ登場しておりません。あくまでも局地強襲、あるいは移送手段としての利用が考えられている段階です。


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