科学魔道文明


 


 魔術の行使によって文明のレベルを旧科学時代にまで復興させた人々は、世界帝国が復活させた科学技術と魔術を融合させることを考えつきました。魔術は霊子とそれが通じる回路が存在すれば成り立つものです。そして、人々は霊子の通過する回路(霊的回路)の補助として文字や複雑な身振り、あるいは魔法陣と呼ばれるものを用いる技法を完成させておりました。すなわち、人間の脳ではなく物質で回路を形成し、そこに抽出した霊子エネルギーを通過させるのです。
 こうして誕生したのが『科学魔道』と呼ばれる技術です。科学魔道の実現は、『呪式』と呼ばれる科学的魔術法則の公式化を成功させたことによります。呪式はいずれ体系化され、『呪学』という大きな学問分野に発展しました。そして、『支配法則』(あるいは完全法則)とまで称された呪学において、50年たらずという短い時間で数々の『魔道方程式』が証明され、人々は物質の構造から幽子に働きかける術を身に付けました。これが科学魔道技術の完成で、個人が魔術を行使することは殆どなくなりました。科学魔道によって生み出された魔道機械が、人に変わって魔術を実行してくれるのです。


 ここで人々は新たな発見をすることになります。それは平行世界の存在です。

 平行世界として発見されたのは、『星界』(スター・ワールド)と『狭間』(虚空界)と呼ばれる2つの世界でした。このうち、狭間と呼ばれる空間は『虚粒子』と呼ばれるマイナスの存在で満ちており、物質が消滅するという現象が起こるために、これを利用することはできませんでした。
 対して星界は、人類を飛躍的に発展させる土壌となりうるものでした。というのは、この空間は霊子が高密度で存在しており、エーテル宇宙とも言うことができる空間だったからです。宇宙への道をいまだ拓くことができずにいた人類は、星界への希望を膨らませました。しかし、この世界にも大きな問題がありました。それが『星界蠱』(星虫)という無機生物の存在です。
 この星界蠱は霊子を食べてそれを活動エネルギーとする生物で、霊子を活性化させる霊子機関に対して敏感に反応します。恒星のない星界に『人工太陽』を建造しようという計画はこの蠱たちによって阻まれ、数限りない人命が失われました。この星界蠱を倒すために生み出されたのが、生物兵器や霊体兵器と呼ばれる存在、そして通称『魔道機』と呼ばれる戦闘機械でした。
 人類はこれらの兵器を駆使して、星界蠱を星界の辺境に追いやることに成功しました。この後、星界を詳しく探査した結果、またもや人類の希望を挫くような結果が判明したのです。星界もまたトリダリス星の存在している実空間と同様、半径100万kmのあたりに位置する緩衝帯に覆われていました。そして、科学魔道の技術をもってしても、この緩衝帯を超えることはできなかったのです。こうして人類は、星界の覇権をかけて争うことになったのです。


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