発掘と解明『霊子機関』(エーテル・リアクター)は聖暦712年、学問院によって遺跡から発掘された機械の1つです。それから10年という年月をかけて解明されたのが、これが『霊子物質』(エーテル・マター)を燃料とする動力機関だという事実でした。それからさらに10年の月日を費やして、霊子機関はようやく実用化の段階まで到達しました。これらは学問院の総力を結集して行われたことになっています。しかし、実際に発掘から構造解明までのほとんど全てを手掛けたのは、『コルフト=カートランド』というたった1人の人物でした。それゆえエルモアの人々は、尊敬の念をこめて彼を『霊子機関の父』と呼ぶのです。 科学魔道時代の発掘機械は、ほとんど全てが何の解明もされないまま各国の研究機関に死蔵されている状態です。霊子機関の発掘から実用化までに費やされた20年という期間は、実は非常に脅威的な速さといえるものでした。 カートランドの死によって、霊子機関の作動原理についての研究結果は完全に失われてしまいました。いえ、カートランドでさえそれらについて何も言及しておらず、文書も一切残っていないところを見ると、実際には何もつかんでいなかったのかもしれません。彼が残したのは、『霊子物質』(エーテル・マター)というものを燃料にするという事実と、設計図の2つだけなのです。 先頭へ
実際の運用霊子機関は熱を発生しない動力機関です。また、蒸気機関のように大量の燃料や水を必要とするわけでもありません。また、小型で運用時も比較的静かであるため、軍の乗用機関によく利用されています。霊子機関の最低単位は、重量が40kgで体積が10Lです。周辺の動力伝達部の重量を加えても50kg程度にしかなりません。このような小型な動力機関がなければ、オートバイなどの乗用機関は誕生しなかったことでしょう。他にもよく知られている交通機関には三国鉄道の霊子機関車がありますし、新大陸に到達した大型船舶も霊子汽船でした。 霊子機関にはピストン以外に圧力を発生しないという特徴もあります。そのため運用に際して爆発の危険性が全くなく、専任の機関士を必要としません。取り扱いの容易さは簡易な蒸気機関以上なのです。また、霊子物質を使用する時は『霊子蒸気』(エーテル・スチーム)と呼ばれる蒸気が出るのですが、石炭を燃やす時とは違って煤煙(すす)が出ないことも、広く人々に受け入れられる理由の1つとなりました。この2つのエンジンが出す煙の色の違いから、霊子機関のことを『ホワイト・エンジン』、蒸気機関のことを『ブラック・エンジン』と言うこともあります。なお、霊子蒸気を出す時に発する小鳥の鳴き声のような甲高い音を、特に『エーテル・ノート』と呼んでいます。 唯一の欠点は霊子物質の値段です。石炭に比べると高価なことから、これほどの優位点がありながらも、蒸気機関にも活躍の場を譲らねばならないのです。実際には石炭をくべる火夫を雇う人件費がかからず、清掃や整備の頻度も少ないことから、運用コストの差としては燃料代ほどの差は出ないのですが、それでも全体の使用率としては蒸気機関に劣ります。なお、新大陸への航行は不足がちな鉄の確保ばかりではなく、霊子物質の発掘も期待して計画されたという背景があります。 先頭へ |