灰色の怪物
自然の脅威もそうなのですが、怪物の危険性も人々の生活をおびやかす要素の1つです。中央地方にも数多くの変異体が生息しておりますが、中でも化石獣と虫の存在は異色といえます。
『化石獣』とは別名『ロック・ボーン』とも呼ばれる怪物で、石となった生物の骨に意志が宿ったものです。この地方では変異の際に死亡した生物の骨がいたる所に埋もれており、これがいつ化石獣となるか予測もつかないのです。
虫による被害はもっと直接的であり、時を選ばず人間を食糧として襲います。その中でも『灰色の王』(グレイ・ロード)と呼ばれる存在は最悪です。数十cmくらいの虫なのですが、集団で行動することにより、被害は恐るべきものとなります。雑食性であり、相手が生物であれば何でも食べることができ、食糧がなくなると新たな土地へ移動するといった生活を繰り返します。
この生物の恐ろしい点は『融合』(あるいは取り込み)という能力で、食糧とした生物の能力や身体的特徴を自分のものとすることができるのです。そのため1個体の姿形や能力は独特のもので、鳥の翼をもつものや光合成を行なうものまで存在します。これらの能力の獲得は冬の休眠期に行なわれ、約半年の期間を経て脱皮した時には、以前とは異なる姿に変貌を遂げています。この脱皮のための眠りは『寛大なる王の眠り』と称され、人々が息をつくことのできる季節となります。
灰色の王は雪と花粉の奥深くで眠っているため、この季節に掃討することはほとんど不可能です。休眠が終わると、いよいよ脱皮の時が訪れます。それだけでも十分な警戒を呼び起こすことができるのですが、この変異体の場合はそれだけにとどまりません。その理由は『できそこない』(あるいは、なりそこない)という奇形が生まれるためです。これらの奇形体は、正式には『灰色の暴君』と命名されている生物で、灰色の王は他生物の利点を取り入れるのに対して、灰色の暴君は今までに食べた生物の全ての特徴を備えて脱皮します。幾種類もの生物と融合した姿は異様で、大きいものでは100mに達する個体も存在するようです。灰色の暴君は次の脱皮に入る前に死んでしまい、また年に数個体しか現われませんが、それでもこの地方における恐怖の代名詞として君臨しています。
灰色の雨
動物だけではなく、植物も畏怖すべき対象となります。もちろん人間が糧として依存するのも植物ですが、冬期に最も警戒すべきものといえば、その植物から放出される花粉の雨なのです。
通常の花粉だけでも厄介なのですが、化石となってなお生きている植物たちが放出するものは、灰色の王に並ぶ恐怖の代名詞です。この化石植物が出す灰色の花粉は『花灰』(フラワー・アッシュ)と呼ばれていますが、これは受粉することなく単体で増殖することができるのです。この花灰が恐れられる最大の理由は、生物に着床するとその細胞内に入り込み、その養分を吸収して成長するという増殖法を取ることです。
これに寄生された場合は、細胞ごと焼いてしまうしかありません。ですから、この地方に取り残された人々は、全身をすっぽりと覆うような服装をしています。外に出る場合は目や耳をゴーグルや布で覆ってしまい、特に口や鼻からは絶対に入り込まないように気をつけます。肺に寄生されてしまうと、通常の手段ではこれを取り除くことは絶対にできません。長くぜんそくのような症状が続き、苦しみのうちに死に至ることになるのです。そして春には、体中から灰色の化石植物が芽を出すことになります。
花灰は雪とともに降り積もるために取り除くこともできず、春になって雪が消えると、すでにある程度の成長を遂げています。人々は雪解け後の最初の仕事として、化石植物の除去に取り掛かります。ただ、これらは灰色の王など他の生物にも寄生するので、一概に人間の敵とばかりはいえません。
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