魔術の完成


 


 それから何世代か過ぎた後、彼ら人為能力者たちの子孫の中に、霊子の存在やそのエネルギーの状態を知覚できる能力をもった者が生まれました。カルナザルという名の男は、他の超能力者がその能力を行使しようとする時に、霊子が活性化することに気がつきました。彼はこの現象に興味をもち、後に霊子の状態を詳しく時間をかけて探査したその結果、霊子が霊子とは異なる物質に影響を与えていることを発見したのです。その物質もまた視認不可能な存在であり、彼だけが霊子が霊子と同レベルの微細な粒子の配列を変えていることに気づくことができました。彼はその粒子を『幽子』(星幽因子:アストラル・ファクター)と名付けました。
 次に彼は、霊子と幽子の相互関連についての研究に没頭しました。そのため彼は旅に出て、この時代にはかなり減少していた(魔女狩りのような私刑を受け、殺された者が多かったため)人為能力者の末裔を探し当てなければなりませんでした。それでも彼は時間をかけて放浪の旅を続け、研究を重ねていったのです。

 カルナザルの研究は、超能力の行使による幽子の配列変化のパターンを探し当てることから始まり、その作用が物質にどのように影響するのかまで詳しく調べられました。その結果、幽子の配列の変化には規則性があり、幽子の配列が素粒子レベルで物質の構造を変化させ、異なる物質に変化してしまうということがわかりました。実は幽子とは、物質の構造を規定する配列の基本情報だったのです。ただし通常の場合、霊子や幽子は視認できる存在ではないので、その現象は一般の人間はもとより、霊子を知覚できない超能力者にも理解されるものではありませんでした。
 後にカルナザルは、人々の精神にも幽子と霊子が密接に関係していることに気がつきました。そして、祭祀におけるトランス(催眠)状態など特定の精神状態のもとでは、超能力者ではない人々の周囲でも霊子が活性化し、時には幽子の配列を変化させることがわかりました。しかし超能力者といえども、その肉体は普通の人間と大差あるわけではありません。彼は研究をここで終えて、その生涯をとじることになります。


 カルナザルの研究を受け継いだのは、彼の息子コーネリアでした。父が残した膨大なデータと異能力をもとに研究を続けた彼は、カルナザルと同様に世界を旅して回り、人々の行動と霊子活性との関連についてまとめあげました。これが『魔術』の誕生です。

 その法則さえ身につければ誰もが使用できるという魔術は、もちろんその過程で紆余曲折はありながらも、最終的には文明の復興を目指そうとする人々に受け入れられることになります。しかし、超能力も同様なのですが、魔術を使用できる回数には限度がありました。というのは、精神という不可視の存在もまた霊子と幽子で構成されており、魔術を発動させるエネルギーを精神を構成する霊子から引き出しているからです。このため、自分の精神を擦り減らしてかける魔術は常に危険を含んでいました。
 コーネリアがこのことに気づかなかったのは、彼が人為能力者であるためでした。魔術とは脳内の電気的な変化から霊子へ、霊子から幽子へ、幽子から物質へという配列変化の、一連の経験則をまとめあげたものです。魔術を行使するということは、霊子が流れる回路を作り上げることなのですが、その前段階として脳内に電気的な回路をつくらねばなりません。普通の人間は、踊りや歌、あるいは瞑想などによる脳内の電気的な変化でそれを行うのですが、人為超能力者たちは電子および霊子の流れる回路を、タンパク質の構造レベルで既にもっています。そのため、普通の人間よりも遥かに効率的に魔術を利用することができるのです。逆にいえば、普通の人間は無駄なエネルギーを消費しなければならないということです。(しかも経験則である魔術は、理論によって構築されたものではないため無駄が多く、実は消費した霊子の大部分を利用することなく放出しています。)

 魔術という法則を得るまでにコーネリアは様々な苦労を重ね、誤って自分の腕を消滅させたこともあります(オカルト効果の一種)。しかし、魔術の真の危険性については気づくことはありませんでした。後に彼は1人の村娘と婚約するのですが、魔術の過剰行使によって精神崩壊を起こしたこの娘の家族に殺され、命を落とすことになりました。しかし、彼の残した業績は現在に至るまで重要な存在であり続けています。


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