魔道機


 


 蠱使いや宝珠使いは確かに強力な戦士なのですが、その数はあまりにも少な過ぎます。そのため、ほんの少しの訓練で使用できる銃をもつ移民たちは、戦いを有利に進めています。そして、この状況が更に悪化するであろう事態が起こりました。それは789年の初め、つまり最近のことです。

 ロンデニアの移民の1人であった『バーニッシュ=ビー』という青年軍人が、原住民との戦いで深手を負い、そして森の中で気を失ったまま倒れていました。偶然それを原住民の娘が助け出し、ある村に保護されることとなったのですが、このことをよく思わない他の村の人々は、バーニッシュの引渡しを要求してきました。
 しかし、いつしかバーニッシュと心を通わせるようになっていた娘は、ひそかに彼を連れて逃げ出したのです。ですが、結局は2人とも捕らえられ、聖域の中心地に連行されることになりました。そして、しばし投獄生活を送ることとなったのですが、彼は大型のトカゲ竜が現れて混乱する人々の隙をついて、脱獄することができました。しかし、地理に明るくないことから、彼は聖域の更に奥地に向かうことになりました。そこで彼が見たのは、真昼だというのに水面の向こうに星々が煌めいている小さな泉でした。
 不思議に思った彼がその泉に手を浸した時、異変が起こりました。彼の体は不意に泉の中に引き込まれ、気がついた時にはまわりに無数の星が煌めく不思議な暗黒の中に漂っていたのです。
 どれくらいの時間が経ったのでしょうか、水も食料もないまま漂流を続け意識が朦朧となった頃に、運良く彼はボロボロになった建物にたどり着きました。そこで発見したのが1体の機械製の巨人です。半ば破損していながらもまだ可動するその機械は、強大な力を秘めた戦闘兵器だったのです。

 まだ活動可能な内部の機械頭脳の助けもあって操縦法を身に付けた彼は、しばらくするとそれを自在に操れるようになっていました。そして、建物内部にあった装置の力を借りてこの星の海を脱出し、仲間たちのもとへこの機械を持ち帰ることになりました。しかし開拓村にたどり着いた早々に、バーニッシュは仲間たちがトカゲ竜の群れに襲われている光景に出くわすことになります。彼はこの戦いで死亡することになりましたが、トカゲ竜を追い払うことには成功しました。
 こうして、はじめはこれを恐れていた移民たちも、破損していながらも何体ものトカゲ竜を倒したこの機械に羨望の眼差しを向けるようになったのです。人々はこの戦闘機械を『機神』と呼び、その秘密をどうにかして解明しようとしました。しかし、機神自体がバラバラに破壊されてしまったこと、本国から遠く離れていて技術者がいないこと、そして何よりバーニッシュが死んでしまったことから、機神の秘密についての情報はほとんど得られていません。しかし、たった1機でさえ戦局を大きく変える力を持つだろう機神という存在は、この大陸に進出する上で最大の魅力となったのです。なお、科学魔道の技術をこらしたこの戦闘機械を、旧科学魔道文明の人々は『魔道機』と呼んでいました。

 現時点では、この最初の1機を除いた他の魔道機は全く発見されていません。そして発見されたばかりであるため、まだロンデニアの移民たちしか魔道機を知る者はおりません。ですが、ひそかにカーカバートを出発した船も新大陸に到着しており、手練の密偵や冒険者を多く抱えている彼らにこの情報が知られるのも、おそらく時間の問題となるでしょう。そして、これから植民地が拡大するにつれ、いずれ星界の遺跡で眠る多くの魔道機は必ずや発掘されることになるでしょう。


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