名優塩沢兼人逝く

塩沢兼人さん、安らかに…
平成12年5月10日
名優塩沢兼人氏、脳挫傷(事故)のため逝去
享年46歳でした。あまりにもお若い…。謹んでご冥福をお祈りいたします。

青ニプロ

 衝撃は突然訪れた。
 多くの確かと思える情報を目の当たりにしながら「何かの間違いであって欲しい」と信じたくない気持ちのまま夜が明け、朝刊に現実を突きつけられた。新聞によると5月9日午後4時頃ご自宅の階段から転落し頭を強打。そのときは外傷も擦り傷程度で意識もはっきりしていたので、本人も「大丈夫」と話していたそうだが、午後10時頃意識不明となり病院へ搬送される。
 そして…。5月10日午前0時54分……。

 頭を打ったときはそのとき大丈夫でも、精密検査したほうがいいといわれている。まさにその通りで、結果があるものに「もし、たられば」はないとはいうが、「もしすぐに病院に行っていたら…」と考えたくなる。そう考えることで慰めにするしかなかった。
 スポーツ新聞を含め何誌かは写真入りで掲載されていた。私の知っている塩沢さんよりやや年をとられたものの、笑顔で写っており、もうあの美声が聞けないなどとはとても思えなかった。
 派手さこそないが、俳優界にとっての至宝であり、もし他の声優であれば埋もれてしまうようなキャラであっても、一際強い個性を放っていた。最近の「白鳥刑事」などはその典型ではないだろうか。「マ・クベ」や「オーベルシュタイン」といった冷静で狡猾なキャラはまさに真骨頂。その一方で少々トーンを上げ、「物星大」のような楽しいキャラも演じていた。これからますますの活躍が期待されていただけに残念でならない。

 東京中野の宝仙寺で葬儀が行なわれ、多数のファンがつめかけた。場内では生前の歌やセリフが収められたテープが流されていたが、生前の姿を思い出しながら、これが塩沢さんと共有できる最後の時であることを実感させた。弔辞として同業で親交の深かった柴田秀勝氏が思い出を語った。最後の「兼人のばかやろー」が強く印象に残っている。アルコール依存症になるなど悩みも多かったらしく、それがちょっとした油断を呼んでしまったともいわれているが、柴田氏はそのことを承知で思わず叫んだのではないだろうか。奥様のはるみさんが最後にご挨拶。ファンに対してお礼ができなかったと仰ったが、お礼をしなければいけないのはファンである我々のほう。数え切れないほど良い夢を見させてもらったのだから…ファンが棺の目の前まで行けるなど、最後の最後まで…。