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■血塗られたブタオさん一族■
西暦1935年、清国最後の皇帝にして満州国皇帝である愛新覚羅溥儀の身辺を警護する禁衛隊に一人の男がいた。その名を「ブタオ」さん。
……もちろん愛称であり本名は不明である。禁衛隊ではおそらく第二隊の隊長を務めていると思われ、皇帝とも直接会話のできる身分である。特技は犬食い(魔都上海の裏社会を席巻する紅華会幹部呉東来と同じ)
溥儀は皇帝を守護すると伝えられたきた北斗神拳の伝承者である閻王を探していた。しかし、閻王ほどの護衛がつけば一部の禁衛隊はお払い箱である。このご時世なかなか堅気な仕事につくのは難しい。解雇されれば、暴徒と化す恐れすらある。そこで立ち上がったのがブタオさんである。ブタオさんは部下が解雇されないために先手を打ち、閻王の居場所を知ると思われる李永建を尾行し、閻王を亡き者にしようとした。
ブタオさんの思惑通り、李永建と閻王の密会を捕捉。全てが予定通りだった。しかし、ここからがいけなかった。李永建の「龍の入れ墨」を侮辱してしまったのである。また、閻王の朋友であった潘光琳を始めとした青幇一党が既に亡き者となった事実(実際は潘光琳は生きている)を明かしてしまった。
ブタオさん率いる3人の部下は閻王のフォーク攻撃の前にあえなく昇天。ブタオさんは辛うじて手の甲で受け止め、腕に隠したボルゲ様顔負けの暗器で応戦したが北斗神拳の前には無力だった。ブタオさんの悲劇は「龍が原因」と最後まで思い込んでいたところにある。閻王曰く「…龍は関係ないよ」の一言にブタオさんは愕然。「わからば えっ!?」の断末魔とともに「ボォン」と滅び去った。「蒼天の拳」最初の悲劇である。
ブタオさん一族は断絶した…かに思われた…。
■アルさん、御家再興する■
───70〜80年後──→
ブタオさんの死後およそ70〜80年、見事御家再興を果たした人物がいた。その名は「アル」
本名のようだがこれも愛称であり、「アルさん」の愛称でファンの間で親しまれている。
ブタオさんは推定享年40歳。入れ替わるように生まれた息子がいたとする。息子の35歳の時の子、つまりブタオさんにとっての孫がアルさんだとすると40歳くらいになる。祖父ブタオさんとちょうど同じ年頃である。これも何かの因縁だろうか。
アルさんは修羅の国で領地を持つ上級修羅である。修羅は幼少の頃から幾百もの戦いを経て生き残った者だけがなることができ、さらにその中から選ばれた強者だけが名を名乗ることが許される。しかも領地を与えられるとなると、地位は大名クラスともいってもいい。ただの村長だから中級じゃないの?と指摘される人もいよう。しかし、注目すべきはアルさんが羅将ハンの居城の傍の地を治めているということだ。その地位の高さは異例のものと想像できる。
しかし、ここで考えてみて欲しい。これほどの男にしてはあまりに弱すぎはしないか。理不尽なやられ方だったので反撃できなかったという見方もあるが、郡将クラスの腕があるようにはあまり見えない。ブタオさんのように暗器を操る武人だったのかもしれないが、それではゼブラにも及ばないだろう。
答えは簡単。修羅の国といっても必ずしも強い男ばかりが地位を得るわけではない。おそらくアルさんは国人や在地領主のようなもので、基本的な地位は親の代から受け継がれていたものと思われる。つまりアルさんの地位の地盤はアルさんの父親が築き上げたのだと思われる。いわゆる「中興の祖」である。修羅の国ではたしかに拳力は出世のポイントであるが、それだけでは名を許されることも難しい。砂時計のアルフでさえ、ヒゲが似合う年齢になり123戦目にして初めて名乗ることを許されたのだから、拳力だけでのし上がるのがいかに難しいかわかろう。アルさんは、第三次世界大戦で修羅と化した国を「知略」によって乗り切り、羅将ハンの信頼厚き側近にまで出世した。アルさんは羅将ハンの最高参謀であり軍師でもあったのだ。そんなハンの信頼に応えるために最後まで頑なにケンシロウに抵抗したのだった…。
■理不尽な最期■
北斗神拳伝承者ケンシロウは北斗神拳を本来の姿である暗殺拳、つまり殺人道として使っていた。だが、ケンシロウの問題点はむしろ礼儀知らずなところにある。それを証拠に「人に道を尋ねる手段」として北斗神拳を使う。ある者は口を割らせる秘孔を突かれ、またある者は顎を粉砕して無理やり吐かされた。運良く助かる場合もあるが、そのほとんどは吐いた後に結局屠られてしまう。無傷で済んだ者はわずかに一名だけだ。
まあこんな時代である。所詮はモヒカン、それに類する連中なので葬ってもさほど責められる行為ではないかもしれない。しかし、アルさんのケースではケンシロウは
『場所を知っていたのに、偶然に通りかかったアルさんをそのときの気分だけで血祭りにあげた』
のである。ではその全貌を検証してみよう。
車を急襲
▲アルさんには何の落ち度もない。ただ近くを通りかかったという理由だけで、アルさんの愛車を破壊。おそらく巨大な岩でも投げつけたのであろう。ちなみにアイヤ〜はビックリした時、痛い時に使う。
当然文句を言います
▲絶妙な受け身で何とか助かるアルさん。『気』だけで『暗殺拳』の使い手であるケンシロウが背後にいると見破り、この地を治める修羅のアルであると伝えるが、ケンシロウは全く聞いていない。注目すべきは「支配する」でなく『治める』というセリフ。ケンシロウは修羅=悪と決めつけていたようだが、アルさんは民に尊敬される領主様だったのだ。
ケンシロウ脅迫開始
▲いきなり顎を掴み、脅迫。アルさんも「えっ」と信じられない行動に驚きを隠せない。さて、このケンシロウの冷淡な表情を見てもまだ救世主と思いますか?こんな物の聞き方では例え知っていても答えられるわけない。車を弁償しろ!!
暴行開始
▲短気にもこれだけの問答で聞き出せないと判断した、とっても語彙の少ないケンシロウ。しかも「ある」「ない」について日本語の解釈で勝手にキレている。中国語では語尾が発音上舌を巻いて「ある」と聞こえることがあるのだ。日本語で中国人が「ある」をつけることはないが、修羅の地では中国語が常用語で、読者にわかりやすく日本語に訳してあったものと思われる。
さらに凶行
▲この時点で既に秘孔を突きまくり、聞き出すつもりが毛頭ないのがよくわかる。リン探しでイライラしていた鬱憤を晴らしたに過ぎないようだ。アルさんは「義侠心」「忠誠心」「漢の意地」など諸々の理由で言わないと固く決心していたのだ。拳王配下で口が堅そうで軽かった男とは分けが違う。
ちなみに「ひょんげ〜」は「そんな〜」→「ひょんな〜」が訛ったものだ。また「ないあるないあ」で区切らないといけない。「ないあ」の後にスペースがあるのにわざわざ改行しているのには意味があったのだ。もしかして一呼吸置いたのかもしれない。
そして…
▲あまりにもひどい結末だった。アルさんは
『脅迫では主君を売らないという義侠心と漢気』
を感じ取ってもらえれば殺されるとは思っていなかっただけに「まさか」の最期だった。ケンシロウは主従関係を結んだことがなく、義兄でも平気で葬るように義の心はほとんど持ち合わせていなかった。アルさんにとっては全くもって大誤算。
そして何よりもひどいのは、アルさんを葬った直後に振り向いて
「あれか…」
と冷然に言い放ったことにある。
ケンシロウは既にハンの居城を知っていたのだ。
天国でアルさんは
「あなた知ってるアルよ!!」
と叫んでいるに違いない。ここにまた一人の英雄が散っていった…。
ケンシロウはアルさんに出会うまでに7回ほど道や居場所を尋ねている。
質問内容
被害者
結末
やつ(シン)は今どこにいる?
クラブ
秘孔命門により背骨が「ベキン」
首領の居場所を教えろ
マッド軍曹
「たわば」
ユダはどこに居る?
靴磨きさせていたユダ配下の男
「ぺがふ!!」
ユダの居場所を教えろ!!
ダガール
秘孔頸中から下扶突を突かれて気が狂う
拳王はどこだ?
拳王配下の男
助かる。しかも無傷。
ラオウはどこだ!?
拳王配下の口の堅い男
顎を「メリャ」
あの兄弟(ハーン)はどこにいるんだ?
帝都強制収容所衛兵
顎粉砕
※秘孔で吐かせたケースは対象外
助かった男は仲間とフドウをいじめていた一味だ。すでに一人はナイフを顔面に刺し「なにをぱら」と餌食にし、一人は顎を折られているので、鬱憤晴らしは終わっていたと考えるのが妥当なところだろう。
ケンシロウは相手に関係なく、その時の気分で命を奪うには至らないこともある。その典型がケンシロウを村ごと焼いてしまおうとしたボルゲだ。そう考えるとアルさんはあまりに哀れだ。ケンシロウは後のことを全く考えていない。治世とは全く無縁で、決してリュウガのいう「大木」にはなれない男なのだ。ラオウ亡き後、配下達は暴徒と化し、ジャコウに操られた帝都、そして帝都滅亡後はコウケツのような小者にまで国を乱される結果となってしまった。修羅の地もカイオウ亡き後、ヒョウ・黒夜叉の二人で名のある修羅が滅ぼされたとはいえ、やはり残った下級修羅どもが暴徒と化してしまっただろう。智で治める良識派だったアルさん一族もおそらく地位を失ってしまっただろうが、伝統的に引き継がれた才覚、そして「ヒゲ」できっと再興してくれるものと信じてやまない。
知らないあるよ〜 おせーて