火の玉は狸かムジナのしわざ 上の方に、うちの親戚があってね、お正月のオセチ 〔注〕に行っての帰り、夜の十暗から十二時の闇かね、こんな、茶釜のふたっていったらこんなくらいかな、二十センチくらいの大きさの火の玉が、向こうに見えるんだよ、まぁるく。いまでいえば中央学園のね、もとは原の屋敷のすぐ前なんだね。そこに下屋、肥小屋(しもや こえごや)ってのがあって、その前の方にお茶の木が二株か三珠あって、だいたいあすこらだなって思ってる上に、すーつと落っこって消えちゃったんだな。もう、おっかなくて、年寄りのあいだにへえって、ふるえながら歩って帰ってきた。子どもと年寄りで五、六人でね。出たのは、あそこだなぁと、思ったところまでくると、消えちゃってたですよ。ないんですよ。その時は、いい気持ちしなかったね。「ありゃあ、きっとムジナか狸だんべ」って、年寄りが言ってた。遠くに見えるけど、そういう時は足もとにいるんだって、言ってましたよ。そんなこと言われると、なお、おっかなくなってね。あれは‥ムジナのしわざなんだろうよ。
ムジナに屋敷を見せられる ムジナも化かすって言ってたよ。人が通るとね、いい娘さんか何かに化けてね、「おとうさん」とか「おかあさん」とか、呼びこむなんて。人間が化かされて、ムジナの棲んでいる土管の中を、出たり入ったりしたなんてね。屋敷だと思ってね。屋敷に見せられてね。ムジナが、その土管の中に、二匹棲んでたって。これは、国分寺へ奉公に行ってたときに聞いた話だけどね。
ムジナに化かされて動けない ムジナに化かされたっていう詰もあったよ。夜なんか河原に渡ちまうとな − 田まわりだから夜遅く行くんだよ、夏の夜、田んぼの水を見に1そうすると、寝ころんだりなんかすると、ムジナが乗っちまうんだってな。ムジナに乗られると、てめえの体が、ちっとも利かなくなっちゃって、ムジナが乗ってるのがわかるんだけれど、動くわけにはいかないんだな。ムジナに化かされると、体がちっとも利かなくなっちゃう。で、てめえの腹に乗ってるんだけども、払え落とすわけにいかない。てめえの体が動かねえんだな。そうらしいや。
狸の八畳敷 狸のきんたま八畳敷ってね、大きくなるんだって。ほめてやったらば、温まって、だんだんだんだん大きくしたって。 〔入間町 明治30年生 男〕 【補注】深大寺元町の明治四十二年生まれの人(男)から聞いた話では、囲炉裏にあたって大き〈ひろげた八畳敷に、その家の人が火種をほうり込むと語られる。「狸の八畳敷」の話は、狸が、ひろげた八畳敷を、斬られる、やけどをする、針で刺される、などという昔話で、全国各地に分布している。
囲炉裏にあたりに来る狸 昔よくね、戸をあけとくと、寒いときにね、狸が、囲炉裏のとこへ来て、あたるって。そんなことあったって、年寄りが、よく言ってたよ。ここらにも、狸がいたんだねえ。
ウナギを食べに来た狸
ムジナが呉汁を食べにくる わたしの実家は、(仙川の)染物屋なんですけどね、染物に大豆の呉汁を使うんですね。大豆をひいて呉汁をつくるんですけど、職人さんがね、その大豆をひいてたらば、だれか、腰のあたりをさわるんですって。それで、手で払ったら、キッキッキッキッと鳴きながら向こうへ行ぐんですって。それからね、杓子みたいので呉汁の大豆を練るのね、それでもってボーンってすると、ころがって逃げたって、ムジナが。子どもの時分に聞きましたよ。
ムジナがカシの実を拾いに来る 秋になると、カシの実をね、ムジナが拾いにくるんですよ。ヒョロヒョロヒョロヒョロって鳴くんです。よく鳴いてました。何となく、うすらさびしいようなね。 「それ、ムジナに食われちゃう」って、よく小さい時分にはねぇ、言われましたよ。
ムジナがカシの実を食べに来る さむしいってんで、夜、寝てるんだって、そうすると、ムジナがね、しつぼでパタパタパタって、帰ってきたような書立てるんだって。そうすーと、あけてみていないんだって。そんでね、おいらたちが、いいかげんでかくなってから、ポリポリポリポリ、カシの実を拾って食いに来て。そんで、朝、肥引きに出て行くんで、日が短いうちは家を暗いうちに出て行くんだけど、そうすーと、あっちの墓場の方でね、ピョーピョ一つてゆってね、鳴きながら帰る。黙って帰ればいいのにね、ムジナが、ピョーピョーつて鳴きながら帰る。それこそ、ほんとに鳴きながら帰ったよ。
ムジナのためぐそ ムジナはね、「ムジナのためぐそ」ってね、ひと場所へ行っちゃあ、するんですよ。ムジナのためぐそって、よく言ったものです。ムジナは、ヒョロヒョロって、よく鳴いてね、「あ、ムジナがきたよ」って。昔は、家のまわりが竹やぶみたいでしょう。だから、よく鳴いてました。鶏なんかの血を吸いにくるのか。鳴く声は、気味が悪かった。
ムジナと狸
ムジナの穴
ムジナ坂
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