谷川岳/一ノ倉沢/衝立岩/雲稜第2ルート
<谷川岳/一ノ倉沢/衝立岩/雲稜第2ルート>
相模労山/香取静子、児矢野英典
<メンバ> 香取静子, 児矢野英典
<所属> 相模労山
<山行日> 7/20(土), 1996
<ルート> 谷川岳衝立岩 雲稜第2ルート
<ピッチグレード> V,A2
<ルートグレード> 5級下
(記録)相模労山/児矢野英典
生暖かい風が吹く雪渓をつめテールリッジを登りいつものとおり中央稜基部でガチャをつける.ダイレ
クトカンテに行く佐藤−河野ペアを待っていたが遅いので,アンザイレンテラスに向けてトラバースを開
始.
アンザイレンテラスにはすでに2パーティがひしめき満員のため,下で時間待ちをする.雲稜第1に2
パーティ,第2に僕等を含めて2パーティ,A字ハング1パーティ,ダイレクトカンテに当会のパーティ
を含め2パーティのようだ.
1P 香取リード
左の垂直に近い凹角のフリー.プロテクションはおおむねピトンだが安定している.テラスへのぬけぐ
ちが以外に悪いがボルトがあり安心(V,30m)
2P 児矢野リード
再びしばしの時間待ち.第1の先行パーティの落とすラクが怖い.第2の先行パーティが早く抜けるの
を祈る.いてもたっていられず,先行のセカンドの後を追うようにスタート.第1ハングの下を右上する.
最初の10mはフリーでいけるが,そのうちホールドが乏しくなりA1となる.一箇所猛烈に遠いボルト
があり,アブミの最上段に立ち込んでもとどかない部分有り.ボルトの頭に立とうとしたがやめてあっさ
りチョンボ棒を使った.身長150cmの静子さんはチョンボ棒をつかっても全然届かなかったそうだ.
第1ハング最右端下を右にトラバースし回り込んだところの小さなテラスでピッチを区切る(IV,A1,
40m)
3P 香取リード
いよいよこのルートのクライマックスの衝立岩最大の大ハング越えのピッチ.各テラスでハンギングビ
レイしたまま時間待ちをすると腰が痛くなる.
さっきから下の静子さんのビレイ中に落石が彼女の脇をかすめているため,先行が抜ける前に上がっても
らう.先行はハング越えでもたついているため,このせまいテラスで3人がぶら下がるはめになった.
先行のセカンドがハングの中程まで行ったところで,静子さんスタート.凹角をフリーで数メートル,そ
して左の側壁に移りA1で大ハングへ.あっというまに先行のセカンドに追いつき,フィフィでぶら下が
りまた時間待ち.下から静子さんが丁寧にあおり,ハング10m上のアブミビレイのポイントで切る.
フォローして初めてわかったのだが,ハングのボルトのリングがかなりの数が欠損していて腐った3mm
シュリンゲがたてれいる.プロテクションとしてはPOORすぎるし,いつきれるかわからない.もちろ
ん他のピッチもそうだが.ハング自体はルーフではなく支点もおおむね近い.一箇所少し遠いところがあ
り,アブミを落としたり,回収失敗に注意すれば問題ない.豪快な大ハング越えを楽しんだ.(IV,A2
,30m)
4P 児矢野リード
ビレイ点下で再び待機の後スタート.今日はかたつむりになった気分だ.しばしA1が続くがときおり
ピンがなくなりフリーに移りまたA1という微妙なクライミングとなる.ホールドは剥離しやすく,フリ
ーでは注意を要する.
特に帯状ハング下のフリーに移る部分は傾斜があり,そのくせガバは浮いているものがあるため,かなり
神経を使わされる.いわゆる悪いピッチに相当するのかもしれない.ルート図のピッチグレードがあてに
ならないのがよくわかる.けっしてIVなどではない.でも先人たちはここをビブラム靴で開拓したのだ.
それでも極力フリーでいこうとしているガッツが感じられる.古典ルートではあるが単なるボルトラダー
の人工ルートではないところが素晴らしい.帯状ハング下でピッチを切る.(IV+,A1,40m)
5P 香取リード
帯状ハング下から北稜に抜けるトラバースの道が判然としない.結局,右上気味のフェースから急な草
付き壁にルートをとる.実はこのピッチが僕にとっては一番の恐怖であった.途中,ピトンは2本あった
がぶよぶよのブッシュはつかむと剥がれそうでセカンドでも脂汗が噴出.こんな所をトップでいくとはさ
すが百戦錬磨の静子さん.ブッシュをだましだまし,やっと北稜へぬけた.(V,30m)
ありがとうございます,と言葉をかけようかと思ったそのとき”こやの君,顔に落石受けちゃった〜”
といいながら彼女が振り向いた顔を見て,めまいを覚えた.顔面右半分がおいわさんのように腫れあがり
血が出ていて,右目が完全にふさがっている.右肩からも血が出ている.
北稜を下ってきたパーティの投下したロープのこすれでおとした落石があたったのだ.ああ,なんとい
うことだ.....
この怪我の状態で黙って僕のビレイをしていたのだ.しかし,気丈な彼女は自分で三角巾を巻き,ラクを
落としたパーティと,側にいたパーティにたのんで下降のサポートを依頼.幸いにも精神的ショックもな
く片目でもバランス感覚も大丈夫のようだ.すぐさま北稜下降を開始する.
2回の空中懸垂もこなし,雪渓の消えた衝立前沢をくだり,本谷の雪渓へ渡ったときはほっとした.
その後,月夜野病院へ直行,応急手当て,CT,レントゲンをとったが骨折の心配なし.翌日,北里
大学病院の眼科の精密検査では網膜に多少の傷があるが自然再生するので問題ないとのこと.また腫れ
もすぐにひいて3日後はもとの端正で美しい顔に戻った(顔は女の命...本当によかった).
(タイム)
出合い(6:10)〜登攀開始(7:50)〜登攀終了(14:10)〜北稜下降開始(14:30)
〜出合い(16:40)
(アプローチ,下降路,注意事項)
今年はテールリッジまでは当分の間雪渓つたいにいけそうだ.
略奪点,衝立前沢付近の雪渓は全て消えたので下降は沢通しで非常に楽.(6月にはまだあった)
北稜を下る時,ロープ投下のさいには落石を落とさぬよう十分注意してください.ラクのコールは
風やブッシュなどで聞こえないことがあります.
(釈迦に説法なのはじゅうじゅう承知)
また今回,見受けたところ最近アブミ操作に慣れていない人が多いようです.
やはり人工のトレーニングに時間はさかないのかな.今回使用しなかったが短めの3mmシュリンゲ
はリング欠損のボルトには必携なのでかならず持参すべし.
(後記)
<
最後は事故となってしまった今回の山行であったが,やはりほんのチョットの不注意からくるミス
が大きな事故をよんでしまう.自戒を込めて今後も注意したい.
永い間憧れていた衝立岩は僕に素晴らしい体験と喜びを与えてくれた.
パートナーの香取静子さんに感謝すると共に早い復帰を待っております.
(でも,どうせすぐに8月中に甲斐駒の継続にいくんでしょ).
なお事故に際し下降のサポートおよび負傷の診断のアドバイスをしていただいた日本医科大山岳部
のお二人に紙上を借りて御礼申し上げます.
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