白馬岳/主綾(偵察山行)

東京岳人倶楽部/高橋、沼田、茶木


< 記 録 > 茶 木 勇 自



(日程)1996年11月30日(土)〜12月2日(月)

・ 所属山岳会名 :東京岳人倶楽部 
・ 参加者名   :高橋(リーダー)、沼田、茶木
・ 山行日    :11/30,12/1,12/2
・ 山行内容   :白馬岳主稜下部取り付きの偵察
・ 入山、下山場所:入下山とも二股
・ アプローチ状況:新雪のため進行困難なラッセルが続いた。



 今年の冬に白馬主稜に入山する予定で11/30,12/1に、メンバー3 名(リーダー高橋、沼田、茶木)で偵察に行って来ました。

 金曜日の夜に急行 アルプスで白馬まで行き、二股までタクシーで入りました。二股で足首まで、 猿倉で膝まで、白馬尻小屋のあたりで股下までのラッセルを行って約7.5時 間かかりました。朝から曇っていましたが、猿倉をすぎたあたりから雪が舞い 始め、白馬尻小屋から川を渡ったところ(主稜の取り付きが確認できるところ) でテントを張りましたが、午後2時半の時点でかなり激しく雪が降っていまし た。

 山は静かで、雪がテントに落ちてくる音しか聞こえません。パサッ、パサ ッ、サラサラ、風はないのですが見る見るうちに積もってゆき、寝る頃(午後 8時頃)には自分たちがつけたトレースがほぼ埋まっていました。

 日曜日の朝、起きるとトレースは全くなくなって、一晩で1m以上積もった ようです。これ以上進んで偵察することは不可能と見て、下山することにしま した。胸までのラッセルが半日続き、林道に出てからも腰までのラッセルが永 遠に続きました。

 スコップで掘っては固め掘っては固め、このくり返しが永遠 に続き、3人ではペースもあがらず、結局猿倉まで到達できず、日没とともに にビバークするとにしました。テント一枚でとても暖かい空間に入ったような 気がしました。

 外では未だに雪は降り止みません。ラジオでは、寒波の影響で 全国的に雪が降ったそうです。高速道路は通行止め、四国や九州にも雪が降っ たというニュースが流れました。山岳地は明日の昼間で雪が降り続けるという 天気予報を聞いたときは、明日中に下山できるのか不安でした。

 食料は2日分 しか用意していなかったため、非常食もほんのわずでラーメン一杯を3人で分 け合い何とか飢えをしのぎました。ガソリンは食事が終える頃になくなり、ず ぶ濡れ寝袋はまるで雑巾のようで、全身は汗でぐしょ濡れ、それでも何とか眠 ることができました。

 夜中、誰かに足を引っ張られる夢を見ました。両隣の二人を必死で起こそう としているのですが、二人には届かず、叫び声をあげたつもりのところで眼が 覚めました。気がつくと高橋さんが、私の足下に体を寄り添って震えているの がわかりました。

 朝がきました。予備のガスコンロでお茶を飲み、レーズンビスケットを数枚 食べて朝食を済ませました。今日1日の行動に耐えられる量ではありませんが 無いよりましです。雪は止むことを知らず、深々と降り積もってゆき、果たし て今日中に下山できるのか、しかし、前進あるのみです。

 今日の工程は昨日ま での3から4倍もあるのです。標高が下がれば積雪量が減りペースがあがるだ ろうという淡い期待のもと、今日もラッセルが始まりました。林道は道に迷う 心配はないのですが、単調で永遠に終わらない気がしました。猿倉をすぎてし ばらくすると雪もしまってきて腿から膝程度に、双子尾根の取り付き入り口あ たりからラッセルにスコップも必要なくなり、双子尾根から下山してきた信州 大パーティ(7名)が加わり俄然ペースがあがりました。

 2日目10時間、3 日目9時間、二日間で計10時間のラッセルのもと、午後3時に二股に到着し、 生きて下山できたと安心しました。工事現場で電話を借りタクシーを呼ぶこと にしましたが、プレハブ内はストーブの火が暖かく、緊張感も溶けていきまし た。いままでそれほど寒さを感じなかったのが、プレハブを出たときは、一般 人の感覚で気温を寒がっている自分がいました。

 白馬は北アルプスで一番北にあり、雪が多いことも覚悟はしていましたが、 一晩に積もる雪が尋常ではなく雪崩は容易に想像できました。冬に主稜取り付 くパーティは皆無と考えられ、人数、日程、技術においてあまりにも課題が多 く、この計画は白紙にすることになりました。

 今回の山行は、偵察にしては時 期が遅すぎる、日程も二日しかない、不安な面を持ちつつ入山しましたが、い い意味でも悪い意味でも大変実りのあるものでした。このおかげで冬にはいる ことが予定の計画では無謀であることが判明し、訓練の域を越えたラッセルを 行うことができ、遭難寸前を経験できました。

 遭難とはえてしてこのような計 画の基に発生するのだということが実感できました。白馬主稜は、来年の春に 挑戦することにしたいと思います。


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