今回はまたしても小生の悪癖、ルート間違いで完登をむざむざ逃してしまい ました。余りのアホらしさに呆気にとられる方もおられるのでは。
確か9月に同ルートをトレイスされたチーム '84の方が、「つまんない」と コメントしてらしたと思いますが、日本のエイドルートは大概こんなものだと 思います。本場(例えばエルキャップ)がどの程度のものか知りませんので海 外との比較はできませんが。それから脆さについてですが、あの程度ならまだ 許せる範囲だと思います。僕の登ってるルートって、もしかしたらつまんない ルートばかりなのかも知れませんが。来年はチャンスあればフリーフォールを 登ってみよっと。
それでは、以下本文です。
11月3日(日) 晴れ
5:20T4発−5:401P目スタート−15:10アルムテラス−17:104P目FIX後 同テラス
11月4日(月) 晴れ
3:40テラス発−(夜明けを待って)5:455P目スタート−13:10樹林帯へ、終了−
14:40屏風の頭14:50−(パノラマ新道経由)16:50徳沢−18:00上高地
ずぅ〜と以前から何度も計画した。昨年はようやく実践したものの、アルム
テラスで二分されるルートの下部のみ、今年に入っても5月と9月に企画倒れ
になっていた。
今回、新しいが強力なパートナーを得て、やっと「パラノイア」 (訳せば"偏執症"、<変質>に否ず。)上部に着手できた。ところが!またしても 小生の悪い癖、事前の勉強不足が祟って最後の最後でルートを間違えてしまっ た。
このルートのルールは、既成ルートの間近にありながら、ビレー点以外の 残置支点に一切触れないこと。迷い込んでしまった「大スラブルート」でもこの ルールは結果的に守られたので、まあ、「パラノイアもどき」ってところでしょ うか。しかし!しかしですよ、これまで何度も企画倒れとなった経緯や実際に ここまで重荷を担ぎあげたという意味で散々苦労して、最後で「ありゃ!」とい うのは余りにもやるせない。全く。
間違えたのは5P目。岩雪126号のルート図を持参したのだが、あとで初 登時の記録と照合してみると、実はこれ、上部については記述が不適当と思わ れる。
問題の5P目のロープスケールが、実際は40Mはある様子が「20M」 となっている。続くフリーのピッチは「10M」(初登記事は45M)。この辺り は草付で、既成ルートとの重複はないはずだがやたらとしっかり踏み固められ ている。
また、左には大スラブの岩肌が広がり、どう見てもそちらの方が快適 そう。ロープが20Mを過ぎた辺りから、目は否応なくそちらに向き、またむ しろ踏み跡はそちらに向かっている。その先は岩のバンド状となり、立派なビ レー点もある。
疑心暗鬼、それでも草付に現れる岩にラープ・アングルと打ち 込んで直上を続けるも、さらに続く草付にいい加減に辟易する。踏み跡も不明 瞭。悩んだ末、潅木を支点に左下の例のビレー点にテンショントラバース。次 は直上から左斜上するフリクションのよく効く難しい10Mのフリーでビレー 点へ。
富澤君は残置の横にフレンズを咬ませて越えていった。が、結果として このビレー点からは、どう足掻いても大スラブルートの終了点に至るのが最も 自然だ。あれやこれや、いろいろと可能性を探ってみたがどうしてもルートに 無理がある。ゲートの閉門時間が気になって仕方ない。時間はどんどん経過す る。そしてようやく自分のミスに気が付いた。
時間的にやり直しがきかないた め、仕方なく既成ルートの終了点をゴールとした。ルート上に残された痕跡か ら判断して、小生同様の失敗を犯しているパーティーが過去に沢山存在するよ うに思われるのだが、実際のところどうなのだろう。
以下、行動概要。初日は雨中のアプローチを嫌い9時過ぎまでターミナルで ごろ寝を決め込む。話には聞いていたが、春の大水で横尾からの道はかなり変 わってしまった。それまで時折にわか雨が降る程度だったが、1ルンゼを詰め 屏風岩に向かって高度を上げていくにつれ、地形の関係からかガスが濃くなっ た。暗くなってT4着、ロープを渡しツェルトを張る。11月というのに、夜 はさほど寒くなかった。
2日目、依然ガスは晴れないが雨ではない。暗いうちから行動開始。横断バ ンドを大スラブ側に20Mトラバースして、1P目、富澤君トップにを送り出 す。大したことないとタカをくくっていたが、濡れた草付ルンゼはいやらしか った。軽くしたとは言え、ザックを背負わせたままで申し訳ないことをした。
2、3P目はこのルートのハイライトの連続するアーチクラック。左斜上する 完全に頭を押さえられたクラックで態勢がなかなか苦しい。が、この箇所はす でにフリー化がなされている。少しでもそれに近づきたいものだが、天候は回 復したものの相変わらず壁は濡れたままで、旧態然のフレンズの人工でジリジ リ稼ぐ。おニューのゴアの雨具が壁に擦れてなんとももったいない。
3P目終 了点間近、アルムテラスへのトラバースの箇所は極端に脆い。ひやひやもので 軟鉄ハーケンを2本打って切り抜けたが、1本は回収の際に崩壊を誘発する恐 れがあるので申し訳ないが残置した。ごめんなさい。テラスに荷物を集結し、 4P目のフィックスを張る。この部分、悪いと聞いていたが言うほど脆いわけ でもなく、またチムニー内のピン打ちも楽しめる程度のものだった。
夜はアル ムテラスでゴミを燃やして束の間の暖を取る。満天の星の下の贅沢なビヴァー ク、ついついこれまでのいろんな夜のことを思い出した。この夜はさすがに冷 えた。翌朝、一部壁の濡れた部分にかかっていたフィックロープは完全に凍結 して、壁から剥がすのに苦労した。
寒さと態勢の悪さであまり寝付かれず、3日目は早々と起き出した暗い未明 からユマーリングを開始、しばらく明るくなるのを待って登高を再開した。
5P目は一部脆い箇所があり、実際、幾らかの落石を誘発した。氷の張り付いた 部分もありできるだけ慎重にやり過ごす。その上の草付以降は上記の通り。そ して午後も1時を過ぎてやっと終了。
ここから屏風の頭を越えて上高地まで5 時間程で行かねばならぬ!!まあ無理だと思ったが、ベストは尽くしてみよう。 時に薄く、またヤバそうな踏み跡を追って稜線へ。左には1ルンゼが落ち込ん でそこから頭までは気が遠くなるように思えたが、だんだんしっかりしてきた トレールを休まず詰めていくと潅木からやがて這松に植生が変化し、思ったよ りは呆気なく頭に着いた。
本当に久々に見る涸沢は、箱庭のようで何だか悲し いぐらいチンケに思えた。主稜線の雪も大したことなく、とても11月とは思 われなかった。さてさて、先はまだまだあるのだ。最後の水を飲み干し、ガチ ャも雨具も全部ザックに押し込んでパノラマ新道を急ぐ。奥又を横切るところ まで来ると、体力を持て余した富澤君は走り出した。
体力もなく、地下足袋の 僕にはちょっと辛いが、それでも地面が軟らかいところでは小走りして少しで も先を急ぐ、と言うより、富澤君に追いすがる。やがて新村橋を渡り徳沢着。
ここに5時前に着くことができたので、何とかタクシーは拾えそうだ。リヒト の調子の悪い富澤君は、暗くなるのを嫌ってここからノンストップで上高地ま で駆けるという。おぉ、行きなさい、どうぞお先に!僕も僕なりに急ぐ。
今日も綺麗な星空だ。坂道は一人寂しく駆け上がり、森の中ではコールを発して気 分を紛らわす。薄暮が暮れるころには小梨平の灯りが行く手を照らす。そして 6時、上高地に到着、最終バスまでまだ10分も間があった。
今回のルートにつき、最後の部分がなんとも悔しいので試しに富澤君にもう 一度行く気があるか聞いてみた。僕は下部はアルムルートを登り、上部だけの つもりだけであったのだが、彼曰く、「是非2・3P目をリードしてみたい」。 おぅ、そうかそうか、あのピッチは何度登ってもいいもんだぞ。僕は次回で3 度目だ。上部をやらせてくれるなら、また例の重荷を背負って行きましょう! と、いうわけで来年もチャンスあれば懲りずにパラノイアに向かうことでし ょう。いつもながら、ご苦労様でした。