剣岳/剱尾根/R4(敗退記)

獨標登高会/西片裕、寺田正之


<山行日> 1999年4月28日(水)〜5月3日(月) <記録> 寺田正之



記録写真

4月28日(水)夜から雨

 連休前に限って仕事が忙しい。30日も代休を取るのでなおさらだ。19:30仕事を強制 終了し社を後にする。20:30帰宅。食事を済ませ息子にバイバイして21:30出発。G W前日でも首都高はさほど混んでいない。22:30西片と待ち合わせの八王子ICI前 着。ところが待ち合わせの時間を過ぎても西片が現れない。なんと中央線が事故で1 時間遅れで雨の中到着。25:30長野道みどり湖パーキング着。ビールで乾杯し26:00 就寝。

4月29日(木)雨のち晴れ

 6:15起床。6:30出発。松本で高速を降り上高地を目指す。早朝なのでそれ程混んで いない。沢渡の駐車場は結構いっぱいだ。安房トンネルを越え7:45栃尾温泉にある 道の駅・奥飛騨温泉郷上宝で朝食とトイレ休憩。R471をひた走る。上岡でR41合流 。時折雨が激しくなるが初めて走る道は楽しい。9:30富山着。コンビニで食料を調 達し、燃料も満タンにする。10:00馬場島着。市内は晴れていたが剣岳周辺は曇天だ 。県警のオフィスに入山報告をすませる。本日は小窓尾根に2パーティ、剱尾根に2パ ーティ入山があったとのこと。昼食を済ませ、身支度を整える。12:00馬場島出発。 フル装備と4日分の食料でザックが肩に食い込む。西片と二人白萩川沿いの林道をふ らつきながら歩く。取水口の堰堤の高巻きは右岸が正解なのだが、踏み後をたどり左 岸に入ってしまった。堰堤の上で渡渉できず一度堰堤の下まで戻る。堰堤から先は全 て雪で覆われていた。タカノスワリのゴルジュも難なく通過。そしていよいよ池の谷 ゴルジュの通過だ。雪が少ないと非常に時間がかかる所だが、今年は雪が多いらしく ここもあっけなく通過。踏み後も有り、階段状態だ。この時点で15:00.今宵の宿は 池の谷ゴルジュを抜けた高富の岩屋を予定していたが予想外のハイペースだ。池の谷 上部、剱尾根の末端である二股まで足を延ばすことにする。W字に蛇行する池の谷ゴ ルジュの最後のカーブを廻ると目の前上部に剱尾根が見えた。すぐ近くに見えるのだ が斜度もきつく、たどり着くのに2時間もかかった。17:00剱尾根末端の岩屋の下の 雪を整地し天幕を張る。池の谷上部はガスっていて何も見えない。夕食を済ませ富山 の夜景を見ながら20:00就寝。

4月30日(金)快晴

 抜けるような青空とはこのような色なのか?本日の予定は三ノ窓までなので気が楽だ 。5:00起床。7:00出発。池の谷の雪渓をどんどん詰める。尾根を一つ廻ったところ で目的地、三ノ窓が見えた。左側を小窓尾根、右側を剱尾根の急峻な壁に挟まれ、雪 渓はどんどん傾斜を増していく。R10・R9とカウントダウンしながら登っていったの だが、登りの辛さで何とR4を見逃してしまった。さらに斜度は強まり途中からアイゼ ン装着。10:30三ノ窓到着。目の前の鹿島槍をはじめ東面のパノラマが広がる。先行 パーティ2人組2パーティのテントが有った。我々もゆっくりベースを設営。チンネ の取り付き近くまで偵察に行く。中央チムニーは残念ながら氷は無かった。ぽかぽか と春らしい陽気の中、他パーティの人たちと登山談義に花を咲かせる。さしずめ三ノ 窓はクライマーのサロンだ。富山の町に灯りがともる頃夕食。20:00就寝。夜中小用 に起きると満月?が綺麗だった。

5月1日(土)快晴

 いよいよ今日はR4だ。5:00起床。隣のテントのパーティもR4へ行くと言うことで6: 00頃出発していった。当方は1時間ずらし7:00出発。池の谷を15分ほど下ると、目の 前にドーム北壁の大ハングと、その右脇のR4が現れた。R4は上部の氷は発達してい るが、下部はちょっと頼りない。7:20取り付き着。何と先行パーティは氷が少ない ため1ピッチも行かず敗退してきた。いろいろ情報を聞き、雪渓の反対側から偵察す るが2ピッチ目まで氷がほとんど無い。取り合えず8:00西片のリードで取り付く。し かし2本面のピトンにクリップしたあとのミックスが難しいらしく、それ以上進めな い。寺田にトップを変わる。1段乗越す所にピトン1本足し、グローブを外し微妙なバ ランスで上のバンドにたどり着く。ここからバンドは右上するのだが、雪が付いてい ていやらしい。雪を払うと氷が現れた。ダメもとでスクリューをセットするが、やは り氷化した雪はぼろぼろだ。さらに残置を探すが見あたらない。この先進んで撤退す る場合、手持ちのピトン類が心許ないのでここで敗退宣言をする。10:00三ノ窓着。 3パーティほどテントが増えていた。昼食を済ませ今度は中央チムニーを目指す。 中央チムニーは先行パーティが取り付いている。1ピッチ目の取付の下まで行くがこ こが結構悪い。先行パーティも途中でアイゼンを外したり、アブミを出したり苦戦し ている。アブミを持っていない我々はここで登攀を断念。すごすごとベースに帰る。 三ノ窓から丸見えなのでめちゃくちゃかっこわるい。ダブルアックスを振れたのも、 ここのアプローチのみというのも情けない。1日2本敗退で最悪の1日だ。明日は早起 きして頂上経由〜早月尾根下山のため19:00就寝。

5月2日(日)早朝ガス〜快晴

 天気予報通り夜半に小さな前線が通過。風も強く霰がテントを叩く。3:45起床。ベ ースを撤収し、お世話になった隣のパーティに挨拶して5:45出発。雪が締まってい てペースが上がる。7:40剣岳山頂。記念撮影をする。頂上の祠は屋根だけ出して後 は雪の下だ。8:00出発。急速にガスが晴れ視界が開ける。尾根上は下からどんどん 登山者が登ってくる。9:30早月小屋。下部はグリセードを楽しむ。11:45馬場島着 。着いてびっくり連休の中日でバーベキューやらファミリーキャンプを楽しむ地元の 人でごった返していた。

県警に下山報告。話を聞くと30日に飛んでいたヘリは剱尾根のパーティが滑落事故を 起こし、女性1名が腓骨骨折で救助されたとのこと。さらにこの日三ノ窓から池の谷を 下ってきたパーティの話によると、R4に2パーティ取り付いて、1パーティ敗退、も う1パーティは2ピッチ目の本流の脇の岩壁を登っていたとのこと。完登したかどうか 気になるところだ。

往路リサーチした上市町のアルプスの湯で5日分の汗を流す。その後富山駅前のトン カツ屋でちょっと遅い昼飯。おみやげを物色して16:00富山発。往路を忠実にたどる が上高地で大渋滞にはまる。仕方ないのでこの日は21:30中央道・双葉パーキングで Pキャンとする。八王子に着いたのは翌朝8:00だった。

 R4を初めて知ったのは、1984年刊行された白山書房の『アイスクライミング』の初 版だ。当時クライミングを始めたばかりでとても自分で登ろうなどと思わなかったが 、いつかは登ってみたいルートの一つだった。その後クライミングを続けてきたが、 ここ数年暖冬や個人的理由によりモチベーションが落ちていた。しかし今シーズンエ ルニーニョも終結し、各地で氷の便りが聞かれた。また岩でなく積極的に氷につきあ ってくれるパートナーにも恵まれ、自身もこの6月で40歳になるのを前に是非このル ートを登りたいという思いに駆られた。妻子持ちのフルタイムサラリーマンが目標と するには、申し分ないルートだろう。残念ながら今回その思いは果たせなかったが、 ミックスの腕も磨いて来年出直すとしよう。『アイスクライミング』の解説にある「 完登パーティは多くないようだ。」というのは、コンディションを掴むのが難しいと いうことか?状態が悪い場合、難しいミックスをこなす力量が有るパーティにのみ登 る権利があるということだろう。負け惜しみを言わせてもらえば、下まで氷が繋がっ ていれば何とかなったかも知れない。天候や雪渓の状態に恵まれただけに返す返すも 無念である。

【99年GWの剱岳周辺情報】

●結氷状況

 R4は取り付きから観察したところ、上部の結氷状態は良さそうでした。しかし下部は 岩にベルグラが張り付いているだけのようでした。氷は下まで繋がっていません。 チンネ左方ルンゼも下部はベルグラ状態。上部で少しダブルアックスが振れそうでし た。中央チムニーは、取り付きから見ただけでは氷は確認できませんでした。2ピッ チ目で敗退したパーティによると、ベルグラの部分が悪かったとのこと。

●残雪状況

 タカノスワリ、池の谷ゴルジュも全て雪で埋まっており難なく通過できました。落石 が多いので注意が必要です。R4のアプローチで、前日左俣を登ったときには無かっ たデブリがありました。4/28〜29にかけての降雪による表層のようです。また前日 左俣登高中、右俣から雪崩の音が聞こえました。剣岳頂上の祠は雪で埋まっており、 わずかに屋根が見えていました。雪はそれより高く積もっているので標高3000メータ ー以上あったでしょう。早月の下りも雪が多く、カニのハサミや獅子頭も難なく通過 できました。別山尾根合流下のルンゼも階段状になっており、結局ロープは1度も使 いませんでした。


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