トマの風/柴田修、飯田敏一、今野孝義、佐藤仁
< 記 録 > 柴 田 修
<山行日> 1998年11月1日(日)
【コースタイム】
一ノ倉沢出合 7:02 → ヒョングリの滝上 8:08 → 幻の滝上 10:49→本谷バンド 11:40 →
南稜テラス 12:20 → 一ノ倉沢出合 14:40
「本谷下部に行きたし、落石は怖し」と思っていたのですが、廣川さん・ホゲホゲさんの記録に勇気づけ
られ、この時期に本谷右岸の壁を登っている人も少なかろうと、11月1日に一ノ倉沢本谷下部に行ってき
ました。
黄葉が風に吹かれ飛ぶ晩秋の一日をスラブで戯れ楽しく過ごせました。ルートの様子はほぼ廣川さんの
メールに有った通りの状態。この日の一ノ倉は我々が確認できただけでも本谷下部に3パーティ、二の沢に
単独が一人、南稜・中央稜とも数パーティの入りでした。
尚、本谷バンドからテールリッジの下降では赤ペンキが煩かったですが、張られていたフィクスロープ
は大半が撤去されていました。
湯桧曽駅でいつものようにステーションビバークの後6時過ぎに出発。一旦一ノ倉沢出合いまで車で進む
が止める場所が無いのでマチガ沢まで戻りここで準備をして一ノ倉沢まで歩く。
まわりは紅葉と一ノ倉の岩壁を狙ったカメラマンがいっぱい居て大賑わい。南稜テラスってあんなに高
い所だっけと思いつつ7時2分に入溪。
衝立前沢先の滝は右岸に赤ペンキが着いているが9月の3ルンゼの時と同様、左岸をザイルを曳いてトラ
バース。ビレーポイントからは本流に下り、右岸に移った後は階段状の岩を登り(最後が少々微妙)ピン
とボルトで固められた支点で再びロープを出し、今度は右岸を下り気味にトラバースして再び本流に戻る。
ここはちょうど本谷が大きく右に屈曲するあたり。本流は幅を狭め1.5メートルくらい。暫くあたり
を見回した後、左岸を数メートル進み覚悟を決めて右岸までひとっ飛び。みんな着地がなかなか決まらな
かったようで「アワワ」という感じのへっぴり腰着地でその様子を笑い合う。
まあ落ちても腰くらいまで濡れるだけなのだけどね。ここからフリクションの良く効く素晴らしいスラ
ブ歩きが始まる。いつのまにか岩質も花崗岩に変わっている。傾斜は30度から40度くらいか、気持ちよく
スラブを進むうちに本流がパーッと開け全員から歓声が上がる。
あたりは白いスラブの大伽藍堂でソーメン製作に最適なトイ状の流れにも出会う。
二の沢出合いを過ぎるとお待ちかね、幻の滝が姿を現す。水流はごくわずか。ここは希望してリードを
させてもらう。ギアを多めに持って取り付くがホールドの間隔が遠く最初のクラックへの立ち上がりで早
くももたつき、イメージしていた美しいクライミングとは大分違うぞ、と思いつつ新しい(おそらく今年
打たれた)ピンにようやくクリップ。
その上は腐った(おそらく前回この滝が姿を現した5年くらい前?に打たれた)ピンが有るがこれは気休
めにもならない。その横に薄刃のピンを一つ打つがこれは効いていないのが打った自分にも分かる。
まあ静荷重くらいには耐えるでしょう (^^;)。 そのすぐ上にナッツでランニングを取るがこれは効いた
もよう。少々微妙な立ち込みを「落ちてもすぐ止まる」と自分を勇気づけホールドに体重を預けて登る。
この上はスタンスが大きくなっており下の3人に手を振って余裕でナッツをセットし、A0の誘惑に負けそ
うになりながら何とか外側の壁に体を振り出して上に出る。ここで傾斜は弱まりあとはノーピンでそのま
ま滝の落ち口のビレーポイントまで出てキャメロット#2でセルフビレー。
ヤレヤレである。
この上は本流沿いがつるつるのスラブ、左が階段状の順層スラブになっていて左を取る。一旦階段状を
登った後は右上すると、あたりは再びスラブの天国。左手には滝沢下部から滝沢スラブ群が見える。滝沢
スラブは半分くらいはテカテカと光っていて濡れていた。
やがて本谷バンドが近づく。II級程度のスラブ登りを続けて11時40分頃ついに本谷バンドに出た。4人
で握手。みんなの幸せ一杯の表情。
ゆっくり休んだ後、南稜テラス・テールリッジ経由で出合いを目指す。烏帽子スラブ付近から見下ろす
と本谷から出合い迄の景色を紅葉が彩りこの上なく美しかった。風に吹かれながらテールリッジを懸垂と
歩きをまじえ下り本谷に降り立つ。
いつしか国境稜線付近にはガスで覆われ一ノ倉は不機嫌な表情。このぶんでは一雨来るかもしれないな、
と思いつつ出合い迄の残り少ない道程を慎重に戻り、14時40分に観光客で賑わう出合いに戻った。4人でも
う一度記念写真を取った後マチガ沢まで今日の山行の素晴らしさをかみしめつつ歩いた。
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