春の北鎌尾根[完結編]

日本登高研究会/惠川、伊藤


< 記 録 > 恵 川 佐 和 子


<山行日> 1998年4月30日(木)〜5月2日(土)
GWに最後の北鎌へ行ってきましたので報告いたします。 4月30日(木)晴れ 七倉(7:02)/高瀬ダム(8:05)/湯俣(11:05) 第一徒渉点(15:10)/千天出合(16:43)/  P2基部(18:07) ついに季節を変えて4回目の北鎌へのアプローチ。ゲートはやはり5月1日から開くのでタクシーの運転手さんから「残念 ですが」と言って七倉で降ろされる。補導所で聞いたところによると昨日は1P、今日は1P入山しているそうだ。  湯俣までも道は荒れていた。 沢山の倒木で道がふさがれていた為、またいだり、くぐったりのお仕事を強いられる。また、 ヘビに3匹も出会い、その度に悲鳴を上げた。(カエルでなくてよかった)いくつもある橋は落ちかけているところもあった。 湯俣へ着くと、1時間程前に先発した2人Pの姿が見える。ダムの小屋の裏は雪崩れが押し寄せ倒木で行く手をふさがれて いる。よじ登って乗り越え吊り橋へと向かう。  湯俣から先も、正月より荒れていた。倒木は数え切れず、土砂崩れなど・・わずか、4ケ月でこんなにも荒れてしまうのか と改めて自然の力の大きさに驚愕する。水量は思ったより多く、徒渉が心配だ。一枚岩のトラバースは水際は無理。  高巻をすることにする。トラロープを頼って伝わる。ここで先行Pを追い越す。次のへつりは水際を残置ロープを使ってク リア。ワイヤーを伝わってのクライムダウンを終え、一回目の徒渉個所へとたどり着く。 11月、12月に徒渉した地点にあった残置フィックスロープはない。大きな木が倒れ対岸にロープの残骸が見える。水の 量は夏より少ないが、冬よりはるかに多い。ここで徒渉は無理か?  さらに上流へ行くと、一昨年までかろうじてかかっていた橋の残骸が姿を現していた。(夏は水量が多かったので水没して 見えなかったのか?)ワイヤーが両岸に固定されたまま、かろうじて石の上にへばりついてしぶきをあげている。途中までか つて橋を支えていたであろう丸太がところどころに付いている。それを利用する。 伊藤が空身でザイルを張り、フィックスして先にザックを渡す。ワイヤーを頼りにこわごわ足を出す。水流に押されて体が あおられたら、たちまち流される。ようやく渡り終えると、先ほどのPはパンツ姿で胸まで浸かりながら徒渉をしている。 千天出合を通過して、二回目の徒渉個所へ来た。ここも水量が多い。しばらく考えたあと、先へ進みクロスしている倒木を 渡る事とする。この倒木はチェーンソーで倒して作られたそうだ。ザイルを張って、私は自信がないので空身で渡らせてもら った。  先ほどのPはここまできたものの、また引き返して徒渉を始めている。徒渉が好きなのかな?ここまで来るのに予想以上に 時間がかかってしまった。倒木や土砂崩れで時間を大幅に食ってしまった。アプローチは4回の内今回が一番大変だった。  今年の冬はさぞかし大変だろうな・・と思う。 P2基部には冬テントを張っていたところはデブリで埋っているが、他は雪はなかった。ふかふかの土の上に快適にテント を張り、たき火で暖まる。 5月1日(金)晴れ P2基部(7:33)/P2(9:26)/P5(14:00)/P6(15:10) 北鎌コル(15:30)/テント場(15:56) 今日も天気はよさそうだ。出だしから雪は全くない。朝一の急登で辛いがアイゼンを付けていないので足は軽やか。冬より 速い。途中3個所の岩場が出てくるが、最初の黄色の残置ロープはしっかりしているもののその後、2回の残置ロープは老朽 化して途中が糸状にほつれていた。こんなのに体重をかけたらたまらない。でも、たしか冬はこれを使ったな。と思って恐ろ しくなった。 P2へ上がると、昨日のPが休んでいた。P5手前で懸垂。トラバースには雪があったのでアイゼンを付ける。登り返しで は、雪が腐っていたのでザイルを使用。P6のトラバーズは雪はなかったがガレていたのでザイルを使用する。P7を越えよ うやく北鎌のコル。  コルとその先の冬テントを張ったところにはしっかり雪が付いていて、雪を切ってテントを張れそうだ。冬のテント場に設 営する事にする。日が当たって暖かく明日から天気が崩れるなんてウソみたい。しかし、天気予報は明日から悪天明後日はも っと悪くなるという。明日は頑張って槍を越えよう・・。 5月2日(土)霧雨 テント場(6:45)/P8基部(7:45)/独標取付(8:55) 独標頭(10:30)/北鎌平(14:20)/  槍頂上(16:38)/ 小屋(17:30) やはり天気予報は当たった。霧雨でガスっていて視界が悪い。ここから雪がついているのでアイゼンを付ける。といっても 所々なので這松の間を縫って岩を踏み、文字どおりミックスでかえって大変。P8、P9とも登りは雪がついていたが下りは 雪はなく夏道を使用。独標の登りも雪があり、直登とする。右から取付き天上沢側へ出る。残置ロープにつかまりながらトラ バースをし、直上する。ここからザイルを使用。 独標を越えると槍が見えるのに今日はガスっていて直ぐ前のピークしか見えない。雨は時折強くなり、風も加わってきた。 岩稜帯を歩いていると、テントが張ってある。中からおじさんが顔を出し、貧乏沢から来て出合でビバーグして上がって来た が、風が強いのでめげてテントを張ってしまったそうだ。 風は益々強くなり、時折突風もある。濡れたナイフリッジの岩稜を通過する時は緊張する。頭の中で、セリーヌ・ディオン の”タイタニック”がリピートで回っている。ルートは、雪が付いていたり、全くなかったりで夏道と冬道と半々。視界が悪 いので、一体今どこのピークを歩いているのか分からなくなる。  トレースはかすかに残っている程度で、時折途切れる。残雪があるところは何個所も亀裂が入って崩れそうだ。濡れた岩場 はアイゼンと全身を使ってよじ登る。 何回もピークを踏んでいるのに中々北鎌平に到達しない。もういい加減に・・というときやっと北鎌平に着く。しかし、槍 の頂は見えず。北鎌平は雪で埋っていた。 雨はみぞれに変っていた。体が冷え、靴の中は傾けると水が移動するのがわかる。天上沢側の雪庇にも亀裂が入っていた。 これを越えれば・・越えれば暖かい小屋が!と思いガタガタ震えながら、ザイルを延ばす。すると、後ろから二人やってきた。  追い越したパーティーかと思ったら、別の人で、今日はどこから?と聞いたらP2から来た。という。すごい人がいるもの だと驚きながらまた、震える。 右を巻きながら登った。最後の短いピッチでやっと祠が見えた!へなへなとたどりいた。風は最高潮で体を伏せていないと 飛ばされてしまう。伊藤は写真を撮ると言っているので一枚だけ撮影。 風雨が激しい中、梯子を伝って槍を下降。体が飛ばされそうだ。念のためザイルを使用。天気の良い時はすいすいと降りら れるのだが、こんなに緊張した事はない。慎重に慎重にくさりを伝ってやっと基部に到着。伊藤と手をつないで無事降りられ た喜びを分かち合う。二人で小屋まですっ飛んで行った。本当に長い長い道のりだった。 【まとめ】 ・湯俣までの荒れ様には意外だった。 ・湯俣から、千天出合までもかなり倒木があり、難儀する。 徒渉:97/ 7月・・吊り橋残骸から上流約7〜8M地点 泳ぎ 97/11月・・吊り橋残骸から下流約5M地点 股下徒渉 97/12月・・吊り橋残骸から下流約5M地点 股下徒渉 第二徒渉・千天出合からトラバース後 膝上(対岸に残置ロープが見える) 98/ 4月・・吊り橋残骸を利用(水量は胸まで) 第二徒渉・クロスした倒木の上を歩く ・・今年のGWは残雪が少なく、P2基部までほとんどない。尾根上も時折現れる程度。アイゼンはP5まで使用しなかった。 ・・P5のトラバースは夏・冬・GWとも天上沢側。トラバース地点までの懸垂は残置支点がある。冬は懸垂せずに直接トラバ  ースできる。 ・・P6のトラバースも夏・冬・GWとも千丈沢側をトラバース。トラバース地点にピンが2本あり、これでビレーができる。 ・・独標の登り、夏は切れ落ちた千丈沢側を大きくトラバース。ホールドがしっかりしているのでザイルは使用しなくても行  ける。冬・GWは直登を勧める。天上沢側へ出るとフィックスロープがあり途中の岳樺とその上の大きな岩にしっかり結ん  であり、体重をかけられる。(今のところは・・) ・・P11〜P15までは小さいピークがいくつもあり、やせたリッジが続く。長い。 ・ ・北鎌平からは冬季・GWとも天上沢側の雪庇に注意。 ・ ・大槍の登りは夏天気が良ければザイルは使用しなくても行けるが、悪天、積雪期は 積極的にザイルは使用した方がよい。途中途中にピンはあり、適当に切って行ける。 (おおむね3ピッチで祠)  以上 私が4回の季節を変えてたどったアプローチの様子と、3回の北鎌稜線上の状況を取りまとめてみました。あくまで も未熟な私見で、わずか数回の経験から得た事に過ぎないので参考とならないかもしれませんが、何かのお役に立てば幸いと 存じます。

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