稲子岳南壁・中央部ルート

無所属/大久保、弥生山考会/平村


< 記 録 > 平 村


<山行日> 1998年4月19日(日)
 最近、稲子の壁に登る人はいるのでしょうか?10数年ぶりという大久保氏と日曜日に登って来ました。 1998.4.19 晴れ 報告/平村(ただし記憶力に劣っているのであまりあてにならない) コースタイム 唐沢橋5:50〜7:10ミドリ池7:30〜9:00南壁取付9:45登攀開始〜13:00終了点〜13:30 取付14:10〜15:00ミドリ池16:00〜16:50唐沢橋  稲子湯の先、唐沢橋のゲート前広場に車を止めて歩き出したのが5時50分。登るに従い道に残雪も多くなるが、 スパッツがなくても大丈夫。中山峠への登りの途中から右にそれ、林の中をトラバース。そこで腹ごしらえをしてい ると、東壁の方で小さな岩雪崩の音がした。  やはり心配したとおりひっきりなしに崩壊を続けているのかと思ったが、この後は自然に崩れることはなかった。 ガレの末端にはテープの目印が残っていて、そこから南壁の基部をめざして大石がゴロゴロしているのを両手両足で 登って行く。明るい南壁は思ったよりきれいな岩で、三ツ峠に似た規模だ。 1ピッチ目/R大久保・F平村(最後を除く以後も)  中央部小凹角から取り付くが、あまりのもろさに右フェイスへ転進。凹角に戻り5bほどの高さで、全然きいてな い残置ピトンを抜いて打ち直して、やっと中間支点がとれる。15bくらいの短さでピッチを切り平村が続くが、3 bのところでさっそく固まってしまった。  両手のホールドが、引っ張ればテーブルの天板ほどの大きさでそっくり抜けそうな状態。似たような状態の細かい スタンスに立ち込んでずり上がってみても、どこにもまともなホールドがない。一呼吸どころか、三呼吸もおいて考 えてみたが埒が明かず、このままでは力尽きて大きく振られながら落下、壁に激突という方程式になるのも時間の問 題だ。しかたなく運を天に任せてぐらぐらのホールドをそっとつかみ、体を引き上げた。  怪我もせずにこうしているのだから、実は何でもない壁なんだろうが、その時の僕にはN級の難しさだった。ここ を乗り切った技術を三点確保ならぬ零点確保と名付けた。 2ピッチ目  やはり直上のルートは悪いので、ウェーブハーケンを打ち足しながら行くと、5bほどで本来ピッチをきるべきと 思われる小テラスに出る。そのまま通過してチムニーなどをとりまぜ、20bで次のテラス。途中の浮石の多さから は、最近少なくともこのルートには人が入らなかったことが窺われる。  脆くはがれ落ちかけた岩塊や浮石を掃除したいところだが、取付には同行者が待っているので放り投げるわけにも いかない。片隅にそっとよせて、だましだましの登攀が続く。 3ピッチ目  途中、高度感のあるイヤなところもあるが、正面にそびえる東天狗の東壁が見事で、アルパイン気分の味わえる20 bのピッチだった。 4ピッチ目?  ここらへんで3ピッチだか、4ピッチ目だか記憶喪失になってしまったが、確か30bほどザイルをのばし、とにか く草付の快適なテラスに出て一休み。二人が横になれるくらいの幅で、背後はハング上の岩が被さっている。眼下には 人工物が何一つ見当たらない、まるでカナダあたりの景色を見るようなすばらしい森が広がる。  暖かな日差しを浴びてテルモスのコーヒーをまわし飲み、ひととき幸福な気分を味わう。(キザ) 5ピッチ目  テラスから左のブッシュを回り込んだ上に広いコルがあり、そこから先、斜度が落ちるのを見て、平村がリードを命 じられる。壁の上部は快適な硬い岩、アブミの掛け替えと思われる10bの垂壁などルートはいくつかあるが、もちろ んいちばん簡単そうな左上のルートをたどる。それでも出だしに苦労しながら、20bで終了点の広場に出た。握手を かわし、ゆるい傾斜のザレを登り頂稜部に出ると、東壁の下にはミドリ池が小さく見える。 <まとめ>  頂上から中山峠側に下って左フェース基部をまわると、元に戻れる。黒百合平かミドリ池をベースにすれば、2〜3 本は登れるだろうからゲレンデ的といえるかもしれないが、2千b以上の標高や、脆く危険な岩を考えれば、十分にア ルパインクライミングの雰囲気を味わえると思う。  何よりもあまり人が入った気配のない(残置ピトンなどはかなりあるが)壁を登ることが、これほど快感だとは知ら なかった。ぜひまた来ようと思い、稲子の壁を後にした。

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