神奈川山岳会/服巻、鈴木
< 記 録 > 服 巻 辰 則
<山行日> 1997年8月12日(火)〜17日(日)
服巻@神奈川山岳会(東戸塚山の会)です。
早く報告を書かねばと思っていると、同行の鈴木から記録(感想)が届きましたので流用いたします。「ん」と
思う記述もありますが、手を加えていません。若い女性の文章をお楽しみください。
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8月13日
室堂8:30着−同8:45発−剣御前小屋11:00着−同11:30発−剣沢小屋12:00着−長次郎谷出合13:00着−
熊の岩15:30着(7時間)
荷物は24.5kgである。おそらく今までで一番重いザックを担ぐことになった。フルセットの登攀具はやはり重い。
夜行乗り継ぎで余り寝ていないせいか体がだるいが、剣沢小屋までは順調であった。お盆の時期で人が多い。剣沢小
屋に着くまで小池パーティ、宮川パーティにも会った。同胞の仲間に会うと嬉しく少し元気がでた。
問題は剣沢小屋を越えてからであった。剣沢雪渓は標高2250m位までであり、雪渓が顔を出す所まで岩砂利交じり
の下りである。肩にズッシリと重石が圧し掛かったようで痛い。
ようやく雪渓に入り6本爪アイゼンを履くと少し楽な下りとなるが、長次郎雪渓との出合からひたすら登りである。
この頃から雨足が強くなった。徐々に登って行くが、眠い、重い、痛い、寒い、冷たい中の登りであり、相当きつか
った。
真っ正面に熊の岩が見えるのだが、なかなか近付かない。熊の岩までの雪渓は一個所クレパスが入っている他はし
っかりとしている。ようやくY峰にたどり着く。 当初、三の窓まで上がれればいいとも言っていたがバテ気味であり、
また剣尾根へ行く場合、熊の岩をベースにした方が下りが楽なこともあり熊の岩ベースとする。
夜行で来てフルボッカで三の窓まで行くことのできる体力が私にはなかった。Y峰を右手に見ながら少し登り、熊
の岩天場にたどり着く。着く頃は雨が止んでいた。この日は天気図を取れなかった。
予報によると14日はくもり一時雨。明日を思って緊張しているのか、この日の行動で疲れ果てたのかほとんど眠
ることができなかった。
8月14日
起床2:00−熊の岩3:00発−池谷乗越4:00着−同4:30発−三の窓4:55着−チンネ左稜線取り付き5:10着
−登攀6:00開始−チンネ頭10:55着−同12:00発−熊の岩14:10着(11時間)
天気は快晴。早々チンネ左稜線へ向けて出発する。テント、シュラフ等をデポしているとはいえ荷物は相変わらず
重い。長次郎雪渓を登る。当たりはまっくら。前の日の明るい内に池谷乗越までどういうルートを取り雪渓を登った
ら良いかをよく観察していなかったため、どう歩いていったらよいかよく分かっていない。
リーダーに後ろから指示されながら登る。次の日に暗い内から登り時は前日に良く観察しておかなければならない。
数々のクレパスが現れる。クレパス処理として、雪渓がしっかりと残っている部分があればそれを乗越し、なければ
完全に巻くか、クレパスの高度が低ければそのままクレパスの中に入って乗越した。
暗い中のクレパス越えは恐ろしかった。しかし、通常の水が流れる沢にできる雪渓クレパスと違い、長次郎谷の雪
渓クレパスは地面との平行線と約90度の角をなして下に伸びているため、クレパス端に立ちながらルートを判断する
ことが可能であった。
池谷乗越付近の雪渓の斜度はかなり急である。登りはよいが下りが恐そうだ。明るくなるのを待ち池谷ガリーを下
る。三の窓にも点々とテントが張られている。これでは左稜線に取付くのも何番目になるかと思っていたら、なんと
取り付き着は我々が一番であった。しかし三の窓から装備バッチリ身軽パーティが着たので先に行ってもらうことに
する。
下部が雪渓で埋まっているため1ピッチ目は、W級凹角の登りとなる。服巻さんリード。結構な登り応えである。
革登山靴を背負うと荷もまた重い。2ピッチ目からフェース状、鈴木リード。体が慣れずまた高度感にも慣れず少々
時間がかかるが登る。
つるべで一応順調に上がっていく。4ピッチ目、ピナクルの後ろに回り込む部分であるが、私が悩んだ挙げ句、上
部に見える支点のピンと途中のピンに引かれ凹角のガリーを登ったため1ピッチのフェース登りが省略されてしまっ
たが。緩い這い松帯を登っていくとようやくリッジクライミングである。
私は直ぐにのどが乾き、水を飲まないとバテてしまう質である。通常は休みなんてなしだぞー、という服巻さんの
言葉を受けながら、水が欲しくてどうしょうもなくなると、何回か安定したテラスでザックから水筒を取り出して水
を飲んだ。
簡単に取り出せる小さいパックに水を入れ、直ぐ短時間で飲める状態にしておけば良かったのだが、今回そこまで
気が回っていなかった。ルートによっては安定したテラスなどないのだから、次回から小さいパックをザックポケッ
トに入れておこう。
核心部、なんと鈴木の順番だ。行ってもいいぞ−リーダーは言っていたが切り立ったフェースとハングを越える自
信がなく当然服巻さんにトップ交代。セカンドで行くがA0使いまくりで登る。ハング越えよりも最初のフェースが
難しく、そこで腕が疲れてしまった。ハングはA0を使いながらも一回では上がらず、2回目でようやく上がった。相
当下手である。落ちなかったことだけが救いだ。
そこからはまた気持ちの良いリッジクライムの連続である。ようやく頂上に着く。クレオパトラニードルが眼下に
見える。八峰の頭・小窓の王も目前に迫っている。登攀を開始から初めて回りの景色を眺める。それまでは余裕がな
かった。
左稜線は思ったより岩がしっかりとしていて、気持ち良く登ることができた。ただ登攀自体が簡単なこともあり中
間支点が少ないため、特に2個目のピンをとるまで緊張した。結構クラックなども多いのでギア類を有効に使えたら
良いのだろう。ギア類の使い方も勉強しなくてはいけない。
下りは池谷ガリーには出ずにクレオパトラニードルと八峰[Z峰を巻き、Y峰の頭よりXYのコルへ下降した。私
は左稜線の登攀で精神的にかなり緊張していたせいか、寝不足のせいか、バテ気味であった。登山靴での優しい岩登
りも慣れていなく恐く感じる。
ゆっくり目に歩いてようやくベースにたどり着く。たどり着いたはいいが、荷物の整理をしていると睡魔に襲われ、
整理後テントの中で寝てしまう。天気図を取る時間となったので起きようとするが、起きると目眩がし気持ち悪くな
ったので、少し水を飲ませてもらいまた寝る。
夕食の支度も出来ず寝ており、全て服巻さんにやってもらう。相当疲れたようだ。夕食もほとんど喉を通らずほと
んど水分と糖分を取った。服巻さんと話をしている内に少し元気がでてきて夕食の半分を食べる。左稜線でバテるな
ら剣尾根は無理と判断、明日の行動は源次郎尾根縦走、八峰縦走、八峰Y峰登攀、チンネもう一本のどれかにしよう
ということになった。
熊の岩から八峰Y峰登攀ではまるでゲレンデに来ているようで嫌だったが、一応明日の朝起きた時の状態で決める
ことにした。私は一定時間歩いたら休み、行動食を食べ水分を取ってからまた歩き出すといた山行しかしていなく、
こういう不規則な行動には相当弱いことが分かった。何か工夫なりトレーニングなりしないといけない。この日はよ
く眠れる。
8月15日
起床3:00−熊の岩4:00発−八峰TUルンゼ取付4:30着−同4:55発−U峰6:35着−同6:45発−X峰8:35着
−同8:45発−XYのコル9:10着−Y峰9:45着−同10:00発−八峰頭11:35着−池谷乗越11:45着−同12:15発
−熊の岩12:45着(9時間)
朝、快晴、気分も良い。下知識が何もなかったので本当は行きたいなどと言ってはいけないのであるが、憧れてい
た八峰縦走に行きたいと申し出た。
ルートの机上学習をしておかないとあまり勉強にならないかもしれないなーという服巻さんの言葉だったが、八峰
縦走に行くこととした。TUのコルへ上り詰めるルンゼまで長次郎雪渓を下っていく。
熊の岩から下はそれほど急斜面でもなく、かつ朝は雪渓が締まりアイゼンが効くため歩きやすかった。ルンゼ取り
付きで、張り出した岩を越えるのが難しく、ハーケンを打ちながら登った。
その後はTU級程度の岩を登っていく。最初の内私はまだ登山靴での岩登りに慣れず、登りに時間がかかる。TU
のコルにそのまま出ず、少し上部の稜線へ出た。上部稜線へのスラブが細かいホールドで少々難しくザイルを出して
もらう。稜線に出ると踏み後が明瞭である。
U峰から懸垂下降で下りV峰を目指す。草付き帯の踏み後はわかりやすいのだが、どうも岩稜帯はこう登れば楽だ
というルート判断が難しい。ただ登るのに必死なのではなく、先々を見てルートを判断しなくてはならない。V峰か
ら懸垂下降一回、W峰から懸垂下降2回し、X峰へと登る。X峰への登り(またはトラバース?)ルートの踏み後がい
くつか付いている。
X峰から2連続懸垂とクライムダウンでXYのコルに着く。XYのコルからY峰までの踏み後はかなりはっきりし
ている。Y峰には人が沢山いる。Y峰から三の窓谷側へクライムダウン、一回懸垂下降する。昨日通った道である。
真っ直ぐ進んでいくとクレオパトラニードルへ行く巻き道であり、Z峰の巻き道でもある。Z峰へ上がる道を探すが
踏み後が無く巻き道を進む。
[峰へ登るルンゼが見える。この時ルンゼ沿いにものすごい大きな落石があった。人為的な落石である。もう少し
早く付いてあのルンゼ沿いを私たちが登っていたら・・と思うと相当恐ろしい。脆い脆いルンゼを登っていくと徐々
に岩がしっかりとし、[峰に出る。後ろのパーティが我々のパーティの直ぐ後ろにいたので相当緊張した。
[峰からの下り短い懸垂下降をし、頭へと登っていく。懸垂下降の降場から頭への登り始めまで結構恐い。ルート
を間違えると難しくなってしまう。頭から池谷乗越まで直ぐである。思ったより早い時間に着いたため、T峰の往復
をしなかったことを後悔するがかなり充実した縦走であった。
八峰稜線からは昨日に登ったチンネ左稜線がきれいに見えた。池谷乗越からアイゼンを着け雪渓を下る。トレース
も付いていたが、陽を浴びた雪が締まっていないのですぐ団子になり歩き辛かった。
8月16日
起床3:30−熊の岩4:30発−Y峰Cフェース剣稜会ルート取付5:00着−登攀5:30開始−7:30終了
−XYのコル9:15着−同9:30発−熊の岩9:45着−同10:45発−剣沢出合11:45着−同11:55発
−剣沢小屋14:15着−同14:45発−剣御前小屋15:35着−同15:45発−雷鳥平16:45着(11時間)
またまた快晴、起きるのがきつい。Y峰を2本登ろうということで出かける。目指すは剣稜会ルートである。案の
定一番に取付くが、私が靴紐を替えたりしていたら直ぐ後ろにもう1パーティ付いている。危ない危ない。登りは優
しいが、優しいのでどういうルートで登のが一番良いか判断が難しい。
結局2時間かかって頂上に到着。下り、しっかりした踏み後をたどって降りると見覚えのないルートに入ってしま
った。クライムダウンが難しそうな所に何本ものシュリンゲが掛けられた懸垂下降の支点がある。ここから懸垂をし
よう、ということで降りる。徐々に切り立った壁になってくる。
結局40m懸垂を4回連続した。Aフェースからの落石がもの凄い音を立てて落ちて来るのを横目に見ながらの懸垂で
ある。恐い。結局XYのコルよりも三の窓谷側へ下った所に降りた。
そこからコルまでの登りが命がけである。落石を避けられる所で休憩を取りながら走るように登っていった。しか
し走るように・・は気持ちだけで実際はガラガラのガレ場登りを素早く行うのは難しい。なんとか無事にコルにたど
り着いたころはもう一本登る気力を無くしていたため熊の岩に戻り、下山する準備をした。
行けるところまで行こうということになった。第一の目標は室堂から下山、第二は雷鳥平、第三は剣沢小屋であっ
た。結局バスの時間が間に合うか間に合わないかという時間となったので雷鳥平泊りとした。この日もフルボッカで
歩いたが、初日と異なり気分的に楽であったので元気であった。
8月17日
起床4:00−雷鳥平5:45発−室堂6:30着−信濃大町9:20着−戸塚15:45着
下山
以上、大変充実した夏合宿となった。体力的にはシンドイ部分もあったが、チンネ左稜線というロングルートを登
ることができ、また八峰も下半より縦走することができた。
また、フルボッカで結構歩くことができたので少し自信が着いた。更に、岩稜帯のルートファインディング、落石
をできるだけ落とさない歩き方、登山靴での岩登り、雪渓処理、中間支点の取り方等の一端を学ぶことができ、中身
の濃い内容であった。これからの山行に生かして行きたいと思う。
服巻さん、色々と指導して下さりありがとうございました。
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