槍ヶ岳/北鎌尾根

暁山岳会/吉原 隆、丸山尚代


< 記 録 >丸 山 尚 代


<山行日>     1997年4月26日(土)〜29日(火)

   GW前半の予定を考えあぐねていたところ、会のCLから「北鎌へ行ってもいいですよ」と思わぬ声がかかった。
自分の行きたいところを伝えておいて本当によかった。CLを4日間もひとり占めできることに感謝し、この機会
に多くを学ぼう。

4月26日(土) 快晴

〔七倉6:30→湯俣10:15→P2取り付き14:00〕

 信濃大町駅から単独行の方とタクシーに同乗させてもらい、七倉まで5,400円弱。5/1以降は高瀬ダムまでタク
シーは入るとのことだ。ゲート手前は20人くらいの登山者で賑わっていた。登山届を補導所に提出し、運動靴の
まま歩き始める。予備日を含む5泊分の荷が肩に食い込む。

 高瀬ダムを過ぎると、スキー板を担いでブナ立尾根へ向かったパーティが減ったが、それでもまだかなりの人
だ。湯俣までほとんど雪はなかった。湯俣で靴を履き替える。吊り橋を渡ってから水俣川左岸の巻き道になり、
ヤブこぎやへつり、高巻きなど、沢登りの要素が強くなる。

 河原に雪はなく、高巻きの時に所々残雪があるくらいだ。千天出合下流の吊り橋は見事に崩壊していたが、そ
の残骸の近くを石づたいに飛んで右岸へ渡る。私は自信がなかったので、空身で渡らせてもらった。その少し上
流にザイルが渡してあったが、そこまで行くのにへつりが大変そうだし、流れも強そうだ。

 ほどなく出合になり、天上沢へ入る。再び左岸へ渡ってP2へ取り付くのだが、ここに以前あったというワイヤ
ー1本の橋は姿がない。しかしここも短い倒木と石づたいに難なく渡れた。2ヶ所とも、増水時に渡れるかどうか
は自信がない。我々は運良く濡れることなく渡れ、念のためにザックに忍ばせてきたネオプレーンの靴下は使わ
ずに済んだ。

 そこからP2へ3パーティほど向かったが、我々は初日ということもあり、予定通り取り付き点の沢の近くで幕
営する。早々に宴会をしていると、どんどんテントが増え、対岸も含めて合計8張ほどのテント村になった。

4月27日(日)快晴→晴れ

〔P2取り付き点5:10→北鎌のコル10:20→P8 11:50→独標15:05〕

 P2への登りは胸がつくくらいの急登だ。ここでバテたらあとで大変なので、ゆっくり登る。途中の岩場で疑わ
しいロープがぶら下がっていたが、ホールドがしっかりしているのでそれには頼らずに登れる。昨年ロープが切
れて滑落事故があったというところだろうか。
 
 P2の肩に近づくにつれようやく雪が出てきた。稜線に出ると、前穂が遠くに姿を現わした。P5を天上沢側へト
ラバースする時、最初の2mほどの下りが少し怖かったので、ピッケルとバイルを使い慎重に行く。

 長いトラバースの後、50mほど直上する。急登だが、トレースがついていたので楽をさせて頂いた。P5とP6の
コルで今度は千丈沢側へトラバースするのにザイルを出している、昨日P2で泊まった先行パーティに追いつく。

 ここまでのトレースをつけるのに苦労したのだろうと思う。待ち時間で休み、我々はノーザイルで登る。P7の
下りは残置ロープが悪いので、私だけ懸垂で降りた。

 北鎌のコルで大休止とする。大天井岳に薄いレンズ雲がかかっている。せめて明日いっぱい天気が持ってくれ
ればいいのだが。P8への登りがまた辛かった。P2とP8の登りで、私の体は完全にバテてしまったらしい。

 独標取り付きで再び先行パーティに追いつく。独標を右へ大トラバースするのに難儀しているようだ。その大
トラバースはどう見てもいやだったので、北鎌4度目の吉原ガイドに従い、独標左方の稜線を登ることにする。

 後続パーティも我々と同じルートを来た。残置ロープのかかっている1ピッチ目はルンゼ状の雪壁で、効かな
いダブルアックスとハイマツなどを掴んで登り、2ピッチ目は簡単なリッジ状の岩場、最後の独標への登りはや
や緩やかな雪稜。

 頂上に立つと、ようやく槍の穂が目の前に大きな姿を現した。我々は独標一番乗りだったので一ヶ所しかない
幕営地を確保できたが、その後次々に登ってきたパーティは、少し先のコルや小ピークに張ったようだ。疲れた
体にムチ打って整地し、テントを張り終えた頃、トラバース組が登って来た。かなり疲れているようだ。夕方に
なるとP8にも4張ほどテントが見えた。

4月28日(月)曇り→雪→雨

〔独標5:35→北鎌平8:20→槍の穂先11:10→槍の肩11:50→横尾14:50〕

 昨日ほど苦しくないアップダウンを何度か繰り返し、ようやく槍の穂の取り付きに着いた頃、雪が降り始めた。
先行パーティで渋滞していたので、最初のビレー点のある大岩を我々は右から巻いて登る。吉原さんだけならこ
のルートで渋滞を回避できただろうが、そこはフカフカの雪壁で、水すまし登り(?)の技術を会得していない
私は、ただもがいているだけで雪を崩してしまい、一向に上に進めない。何度か吉原さんから檄が飛ぶが、のろ
まな私のために結局渋滞は回避できず、最後の3ピッチ目の正規ルートで少し待つことになった。

 ただもう自分が情けない。3ピッチ目の最後、ピックを打ち込もうと上を見上げた時、確保している吉原さん
の横に見覚えのある祠が目に入った。その映像はいつまでも私の心の中に焼きついて離れないだろう。

 やっと手に入れた山頂は横殴りの雪で、辿ってきた北鎌尾根を悠々と見下ろすというはかない夢は実現できな
かったが、それでも感動は深く、涙が溢れ、吉原さんに気付かれまいと、狭い山頂を意味もなくウロウロした。

 穂先からの下りを慎重に降り、雪から雨に変わる槍沢を一気に下る。雨で何もかもずぶ濡れで、途中何度かテ
ントを張りたいと思ったが、ビールの幻影がヘトヘトの私を横尾まで導いてくれた。

☆ 今回の北鎌尾根は体力が全てだった。私の体力と技術を的確に把握し、無理のない日程で北鎌尾根を
 一緒に辿ってくれた吉原さんに深く感謝したい。

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