前穂高岳/北尾根〜明神岳主稜下降

日程
2003年12月27日(土)〜31日(水)
メンバー
(東京岳人倶楽部)平澤俊章、佐藤孝太郎、佐藤良子、川上佳恵
記録
(東京岳人倶楽部)平澤俊章
写真
なし
ルート図
なし

<山 行 記 録>


東京岳人倶楽部の平澤です。
この年末の記録です。昨日帰って来ました。
皆さん登られているポピュラーなルートではありますが、ACMLのHPに冬の北尾根完登
の記録が少ないので一応ポストしておきます。


前穂高岳北尾根−明神岳主稜下降
2003/12/27-31 平澤俊章 佐藤孝太郎 佐藤良子 川上佳恵(東京岳人倶楽部)

12/27(土) 曇り
 上高地−徳沢−慶応尾根末端1800m付近
 前日沢渡の車中でゆっくり仮眠、タクシーで中の湯に入る。寒々とした空の下、釜
トンネル、上高地から徳沢まで歩いていく。この日一緒に入ったのは4、5パー
ティーだろうか。まだそれほど多くはないようだ。徳沢から新村橋を渡るトレースで
先行に2、3パーティ歩いているだろうと予想しながら慶応尾根にとりついたのは、
二時すぎ。それほど深い雪ではないが、わかんを付ける。急登を終えて平坦地が出て
来た三時ころにテントを張る。

12/28(日) 晴れ
 慶応尾根1800m付近−5,6のコル
 午前中に慶応尾根を登り、八峰に着く頃先行に追いつく。結局昨日入ったのは合計
5パーティだった。二番手で北尾根の登攀に移る。わかんをはずし、アイゼンに切り
替える。七峰のピークの先の岩峰を涸沢側から巻く部分でトップに立つ。前日に入っ
たパーティはないようで、自分たちでルートを探しながら登っていくのはとても面白
い。六峰はやや切り立った壁が出て来て、高度感のある雪壁にフロントポイントがよ
く効き、気持ち良い登攀だ。部分的に佐藤夫婦はザイルを出しながら登る。六峰の頂
上付近で、ちょっとした岩の部分が出て来たが、正面の凹角は一手だがなかなか手強
く、おもしろかった。ここは右の雪壁から巻くこともできる。二時ころ、予定通り
5,6のコルに到着。ここから見上げる五峰は夏に見た場所だ。ああ、またここに戻っ
て来たなという思いが胸をよぎる。遠く富士山が見えるほどに天気は良いのだが、コ
ルはものすごい風だ。風に耐えながら、苦労してテントを張る。
 
12/29(月) 晴れのち曇り、午後から風雪
 5,6のコル−前穂高岳頂上−明神主稜奥又尾根分岐付近
 強風は一晩中吹き続け、テントの撤収にも苦労する。七時ころ、ラストで5,6のコ
ルを出発する。ここから本格的な岩稜となるが、五峰は固く締った雪で夏よりも登り
やすいくらいに感じた。ただ、体がよろけそうなほどの風が吹く。四峰の上部で大き
な岩を奥又側に巻く部分も、夏はスラブのトラバースの一歩がいやらしかったが、今
は固い雪壁でアイゼンのフロントポイントでなんてことはなく通過できた。ピンはあ
り、状況によってはロープの必要な場所かもしれない。
 十時半ころ、3,4のコルに着くと、先行の内3パーティはここでテントを張るよう
だ。おそらくここをベースに前穂を往復して同ルート下降という計画なのだろう。天
気は曇りになり、正面の奥穂には寒冷前線の雲が風にあおられるようにたなびいてい
る。佐藤は「あと二時間くらいで前穂まで来るだろう」という。天気予報通り、午後
から天気が崩れるようだ。
 ここから核心の三峰の岩壁だ。先行は1パーティー。3時間程度で前穂の頂上まで
抜け、明神側の安全圏まで降りる時間は充分あるだろうと判断し、先へ行くこととす
る。
 先行は三人組で、一本のロープを半分に折って20mピッチで登っている。先行の
リードが終わったところで、ルートが重ならないようにハーケンがべた打ちの右の凹
角から登りだす。一手かぶり気味の凹角でホールドがなく、右のクラックにバイルの
歯を差し込んで引っかけるようにして登る。ここは後続のために、A0用のシュリンゲ
をたらしておく。チムニー下のビレーポイントまで40mロープを伸ばし、先行に追い
ついてしまう。2P目は先行がチムニーを行ったので、右の雪の凹角から登る。20m
ほどで先行とルートが重なり、岩の凹角を先行のサードのアイゼンを頭の上に見なが
ら登る。1P目よりずいぶんと容易。三級程度だろう。
 ここで先行を追い越し、ザイルをたたみ、岩稜を登っていく。三峰と二峰とはほと
んど続いており、細くなった岩稜を辿ると、すぐに二峰のクライムダウンの場所に来
た。5mほどの壁だが、傾斜もそれほどではないので、長いシュリンゲが垂れ下がっ
ていてそれを使えばそれほど難しくはない。私はそのまま下ってから、ああ、ここが
二峰のクライムダウンだと気がついた。後続は懸垂で降りる。
 岩稜を少し登ると、もう頂上の雪原だと気がつく。天気はもう風雪になっており、
視界もほとんど効かない。かろうじて右下に頂上直下の道標が見えて、ここが頂上だ
と確認できる。
 握手の後、道標の所まで下り、下降の尾根を捜す。後続に「どちらまで」と尋ねる
と、「もう今日はここで終わりにする」と言う。おそらく奥穂に抜ける予定なのだろ
う。確かにこの風雪では吊尾根を抜けるのは厳しいだろう。
 この道標から真南に明神に降りる尾根があるはずだと目をこらすと、うっすらと白
い尾根が見えて来た。「こっちだね」と確認しあいながら下りていくと。歩くに従っ
て岩稜が出て来て尾根らしくなってくる。11月の偵察の時と同じように、岩稜を右
の岳沢側に大きく巻くように下っていくのだが、視界が効かないので、できるだけ尾
根をはずさないように下っていく。30分ほど下っただろうか。尾根が下のほうで切れ
落ちているように見える。右を見ると、そちらにも尾根が続いているように見える。
どちらかが派生した尾根だろうが、今はどちらとは判別しがたい。せめて明神岳が見
えればすぐにわかるのだが、今日はもう無理だろうと判断し、一時ころ、尾根の脇を
スコップで整地してテントを張る。あらためて磁石を出して、真南を確認すると、ど
うやら右の尾根が正解らしい。
 この夜は降雪が続き、ちょうど吹きだまりになる場所にテントを張ったため、二度
ほど夜中に除雪をした。天気予報では明日は午後には天候が回復するという。

12/30(火)曇りのち晴れ
 明神主稜奥又尾根分岐付近−明神岳主峰−五峰下
 昨夜は3、40センチほど雪が降り積もった。天候が回復し、視界が効くようにな
るまで待とうと、朝は八時すぎに出発する。うっすらとガスが切れはじめ、はるか右
に前穂から岳沢に降りる重太郎新道の尾根が見える。昨日の右の尾根が明神主稜で、
おそらく左に切れ落ちるのは奥又尾根だろうと話し合う。岳沢側を巻くように岩稜を
下るが、新雪が降り積もった下に岩が隠されていて、とても歩きづらい。次第に天候
は回復し、快晴になって来た。明神主峰もはっきりと見え、「ああ、正解だね」と安
心しながら下っていく。明神主峰の手前のコルに下っていく部分は、岩場を縫うよう
に下っていくのだが、やはり新雪のために足場が隠され、ルートファインディングに
苦労する。
 十時半ころ、コルに下ると、正面から下ってくるクライマーの姿が見え、ここから
しばらくトレースがあるとほっとする。おそらく明神東稜を登って来たのだろう。コ
ルからの登りは、すれ違いのクライマーの懸垂を小一時間ほど待ってから、1Pロー
プをフィックスする。それほど難しい岩場ではないが、新雪を全部払いのけての登攀
となる。
 主峰を岳沢側を巻くように越えてから、二峰への登りも、1Pの登攀となり、一時
間半ほどで越える。相変わらず風は強い。フィックスの張ってある左の凹角から、左
にトラバース、更に凹角を直上と、40mを一気に伸ばす。ピンは少ないが、べた張り
のフィックスにプルージックでランニングをとっていく。二峰から五峰までは雪も少
なくなり、稜線沿いに容易に下降できる。五峰を巻くように岳沢側に下った平坦地に
三時頃テントを張る。眼下には上高地も見え、もうここまで来れば半日の行程で下界
なのだと、安心する。

12/31(水) 曇りのち雪
 明神五峰下−南西尾根−上高地
 午後かた天候悪化という予報なので、いつも通り七時前に出発。赤テープに導か
れ、途中フィックスがべた張りのナイフリッジを通過し、二時間弱で岳沢への登山道
に降りる。十時すぎに上高地に下山。この日、上高地は入山者が多く、ああ、明日は
正月なのだなあ、と妙なことを実感しながら中の湯まで一時間半の道のりを歩いた。

○明神主稜の下降点は、頂上直下の道標から真南と知っていれば、視界が効かなくて
も下降は可能。テントを張れる場所は、我々の張った奥又尾根の分岐付近をスコップ
で切り開くか、主峰の直下に一張り程度、後は二峰以降になると思う。

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