ヨセミテ/リーニングタワー・ウェストフェイス

日程
2002年8月4日(日)〜6日(火)
メンバー
(アルパインクラブ岩と氷)野上記、水野亜美奈
記録
(アルパインクラブ岩と氷)野上記
写真
なし
ルート図
なし

<山 行 記 録>


ルート:ヨセミテ リーニングタワー・ウェストフェイス
2002年8月4日〜6日  
所属:アルパインクラブ 岩と氷  
メンバー:野上(記) 水野 亜美奈
 
 今年の8月にヨセミテに行って来ました。エルキャピタンも登ったのですが、あまり記録の発表されていないリー
ニングタワーの登攀を報告します。
 
 とうとうヨセミテにやってきた。久しぶり見るエルキャピタンは、相変わらずいかつい。ついこの間行った屏風や
錫杖なんて、エルキャプに比べたらボルダーぐらいの大きさにしか思えなくなってくる。首が痛くなるほどの大きさ
のこの怪物を見上げ、少々食傷気味になった僕らは、予定通りまず仮想エルキャプということで、リーニングタワー
・ウェストフェイスに白羽の矢を立てた。エルキャプの反対側、ちょうどヨセミテ観光で有名なブライダルベールフ
ォールの隣に位置するこの岩塔は、名前の通り岩塔自体がまるでピサの斜塔のごとく前傾しているのである。なんで
もアメリカで一番傾斜の強い岩塔だそうだ。
 キャンプ4入りした翌日、早速タワーまでのアプローチを確認する。ブライダルベールフォールの駐車場から、ケ
ルンの顕著なガリーを空身で30分ぐらいだとわかる。日本の岩場などに比べると、かなりアプローチが近いことが
うれしい。間近に見るタワーはブッシュもなく、下で見るよりもはるかに大きい。あまりにも大きすぎるエルキャプ
の眺めすぎで、どうやら遠近感が狂ってしまったようだ。下見をしてきたその足で、ビレッジストアに食料とビール
の買い出し。そしてキャンプ4に戻り、面倒くさいパッキングをすませ、宴会もそこそこに早々に寝る。
 
 翌日5時起き6時出発。ようやく明るくなってきたアプローチトレイルを、くそ重いホールバッグを背負いながら
、壁の基部までゆっくりと1時間ほどかけて歩く。しかし実はウエストフェイスの本当の取り付きまで行くためには
、重いホールバッグを背負って4級のトラバースをこなさねばならないのだ。そこで最初に亜美奈が空身でルート工
作をしてフィックスを張り、続く野上、水野の順番で重いホールバッグ・ザックを背負いユマールを使いながらフォ
ローする。4級とはいえ、すっぱり切れ落ちたバンドを重荷を背負ってのトラバースは結構こたえる。ゼイゼイいい
ながら、取り付きのテラスに到着した。
 早速準備をしてクライミング開始。今日は2Pフィックスするだけなので気楽だ。しかも両ピッチともペツルのボ
ルトラダーのC1ときており、緊張感はまるでない。そこで今日は亜美奈に全部リードしてもらう。
さすがに早い。ボルトの間隔も近く、グイグイ登っていく。ボルトの遠い所は特製のチョンボ棒を使い、確実に高度

 翌朝5時起き6時出発。まだ肌寒いキャンプ4を後にし、リーニングタワーまで車を走らす。昨日とは違い空身で
アプローチを行き、8時にはフィックス地点に到着した。
前傾しているため、いきなり大空中ユマーリングとなり、空中遊泳しているような気分だが、朝いちのユマーリング
はやっぱりしんどい。1時間半程かけてようやく3人が終了点に着いた。早速準備し野上リードで3P目に取り付く。
(以後記述のない限りすべて野上リード)
 
3P(C2F)残置も多い凹角を、ハイブリッドエイリアンの多用で前進する。下部は所々ボンバーにカムが効き、
またボルトもポイントごとにあるためC2には感じない。所々でフックムーブが入る。上部は残置も少なくなり、3
P目終了点手前の1歩がいやらしい。我々はスーパートポの記述通り、3Pと4Pをつなげて登った。
4P(C1)出だしでカムを使った後は、再びハンガーボルト連打の単調なC1となる。最後5.6のスラブをこな
し終了点へ。このスロープ状の終了点を7.8mトラバースすると、今日のビバークポイントであるアワニーレッジ
だ。
ここで一息ついた後、明日に備え5・6Pのフィックスに向かう。5P(C2)ビレイポイント右上にあるハンガー
にクリップし、振り子で右下のC2Fクラックに取り付く。ハイブリッドエイリアンとトリプルを多用するが、それ
ほど難しく感じない。クラックはそのまま緩やかに右上し、残置の多いC1のクラックへと移る。しばらく残置に助
けながら進むと、直上するフレア気味のワイドクラックへと変わってくる。カムが良く効き、落ちる気は全くしない。
60mロープの我々はそのまま6P目までつなげてのぼる。
6P(C1)トポを見ると5.7カムフックの記述のあと、例のボンバーなボルトラダーが記されている。5P目の
C2がかなり早く登れたこともあり、こりゃ楽勝だと思っていたところ、見事にはまってしまった。5.7のランナ
ウトでさっさと行ってしまえば良かったのかもしれないが、エイドで行ったため逆に怖い思いをしてしまった。半掛
けカムフックとオフセットナッツ0番の掛け替えでのエイドクライミングは、僕にとって今回の一番のクライマック
スであった。でもあとでキャンプ4に戻って他のクライマーにこのことを報告しても、誰もこのピッチのこと記憶に
ないというから、僕が下手なのか、あるいはラインを間違えたのか…謎だ。とにかくほうほうの体でこのピッチを終
わらしてフィックス。50mめいっぱいで、まだかなり明るいうちにビレイポイントに戻ることができた。
 しかしこのリーニングタワーはエルキャプと違い、午後過ぎにならないと陽があたらないせいか、一日を通して結
構寒い。ビレイ中は長袖着用でないといられないほどだ(もっともわれわれの登攀中は極端に気温が低下していたら
しい。トゥーラミにフリークライミングしに行った人の話では最高気温が13度しかなかったということだ)。夜は
寒いのでカッパを着込んで寝た。
 今回快適なアワニーレッジでのビバークのために、今回は3人×1泊2日分の水20L、おかず缶5缶、フルーツ
缶5缶を荷揚げした。こんな缶詰でも所変われば結構うまいものだ。食後のコーヒーを飲みながら見るバレーの夕焼
けが本当に美しい。夜には満天の星。オリオン座を見て、ここが日本から遠い異国であることを想う。
 朝5時半起き8時登攀開始。昨日のフィックスをユマーリングし6P目の終了点に着く。ここは完全なハンギング
ビレイなので、3人集まると結構窮屈だ。7P目はC1で、5.10でフリー化もされているピッチ。水野さんリー
ドでスタート。クラックも顕著で、水野さんはナッツ主体で抜けていったが、余裕のあるパーティーはフリーで行っ
ても相当楽しめそうなピッチである。そういえば1P目のボルト連打の大前傾壁も、フリー化(5.13)されてい
るらしいが、僕の目には人間が登れるようには見えなかった。
 8・9P(C1・C2)下部スラブ帯を簡単なカムの掛け替えで、あっという間に終了点に着くが、予定通り9P
目まで延長する。豊富な残置に助けられ、ハング・ルーフ帯を難なく登る。最後のハングの乗越しが結構遠く、チョ
ンボ棒のない我々は結構苦労したが、なんとかフリーで抜ける。全体的に残置が多く、日本の岩場的でC2には感じ
なかった。最後はプロテクションのとれない簡単なフリーで、1人ビバーク可能な気持ちの良いレッジに着いて終了
。壁も上部に行くに従い、谷からの上昇気流でもの凄い風が吹く。ロープが生きているムチのようにしなり、小便す
るのもままならないほどだ。
10P(C2)いきなりルーフ越えから始まるが、このルーフのためだけに持ってきたキャメ4.5が大活躍する。
ルーフ上は綺麗なC2Fコーナークラック。この頃になると、体もビッグウォール仕様になってきて、C2Fでもガ
ンガン立ちこめるようになってくる。ランナーズ・ハイならぬクライマーズ・ハイといったところか。シンからオフ
ウィズスにクラックサイズも変わり、最後のルーフを水平トラバースしてひょっこり終了点のある大テラスに抜けた
。実質ここでルートは終了し、続く11P目は4級10mだったので、完登の喜びもそこそこに、荷揚げの終わった
のロープを使ってノービレイでフィックスを張りに行った。(リーニングタワーの稜線は花崗岩のナイフリッジにな
っており、ビバーク出来るポイントはない) 
 ルートの終了点からは、突然視界に入ってきたエルキャピタンを右手に見ながら、緩傾斜のスラブを3ピッチ程で
顕著なコルに出る(ビバーク可)。さらにここからエルキャプを背にして、まるでゴルジュのようなルンゼを、4〜
5回の懸垂で地面に立つことが出来た。そこから3分も歩けば、アプローチ道へと合流する事が出来る。懸垂のポイ
ントは概ね分かり易くはあるが、最後のポイントだけ少しわかりづらいかもしれない。(我々は終了点から地面まで
2時間半かかった)
 ここからクソ重いホールバッグをかつぎつつ、フラフラになりながらもなんとか明るいうちに駐車場に戻ることが
出来た。シャワーを浴び、ストアで豪華なサンドイッチとビール、ワインを買い込み、キャンプ4の他のクライマー
の祝福を受け、ヨセミテに来てはじめて心の向くまま酔っぱらうことが出来た。
 
<感想>
このリーニングタワー・ウェストフェイスはビッグウォールの入門に最適だと思います。マニアックでない難しさが
続き、壁の中でのビバークや荷上げなど基本的なことも練習出来ました。そしてビレイポイントもばっちり整備され
ており、ヨセミテのビッグウォールを目指す人なら、いきなりエルキャプはしんどいだろうから、まずこのルートを
目標にヨセミテに来ても損はないと思います。

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