<山 行 記 録>
有持です。
連休前半の初日に、日帰りで剣岳/東大谷/中俣滑降に行ってきましたので
報告します。
<日程> 2002年4月27日(土)晴〜曇
<場所> 馬場島〜池ノ谷〜剣岳〜東大谷/中俣〜立山川〜馬場島
<メンバー> ARIアルパインクラブ/有持真人、藤川勝人
<使用ギア> (板)新型FREE TREK(改修版/滑降テスト用)
(靴)コフラック/バーチカル(プラブーツ)
<行動>
(全行程)12時間40分
(滑降) (合計)2時間5分(稜線〜立山川滑降終了点)
稜線/2900m〜東大谷出合/1450m(1時間25分)
東大谷出合〜立山川滑降終了点/1000m (40分)
(標高差)1900m
馬場島(0305)〜池ノ谷出合(0445)〜三ノ窓(0910/0930)〜剣岳(1130/1150)〜
シシ頭横(1215/1240)〜中俣滑降〜東大谷出合(1405)〜馬場島(1545)
<記録>
今回の計画は、馬場島を出発し、池ノ谷をアプローチし剣尾根/R4を登攀
後、東大谷/中俣を滑降し馬場島まで日帰りで帰ると言うものである。
東大谷/中俣滑降の情報は、7年ほど前の6月に滑降記録があると言うのと、
落石が多いと言うぐらいで、偵察なしのオンサイト滑降となった。
あわせて、ロシニヨールから依頼のあった、改修版FREE TREKのテ
スト滑降をするのも目的の一つであり、テスト結果は良好であった。
出発の数日前に、馬場島の富山県警/山岳警備隊の方から自宅に電話があっ
た。なぜ警備隊から?? と疑問に思いながら話を聞くと、「東大谷の滑降が
計画書に入っているが、東大谷は岩壁に囲まれており、おまけに近年、岩の崩
壊が激しいため落石がかなり多く、危険であるから中止してほしい」との事。
東大谷滑降禁止とは言わなかったが、わざわざ電話連絡をしてくるのだから、
かなり危険なのだろうと言うのはよく分かる。とりあえずその場は、今までの
滑降実績を話し、相棒の藤川と相談してみると言って電話を切った。
さて、どうするか・・・・・。中止するのが一番いいのだろうが、中止の判
断はやはり自分でしなければ納得がいかない。とりあえずルート変更はせずに
行動する事に決める。
最初は、26日にアタックの予定であったが、天候分析をしてみると寒気が
流入してくるため気温が低くなり、下界は晴れるが山岳地帯は雲がかかると予
想でき、クラストした急斜面では滑降できないので、1日ずらして27日に変
更する事にし、警備隊に電話連絡をいれる。
ひまわり画像では、北アルプス周辺は雲に覆われているが、26日の夕方に
自宅を出発する。22:00頃に馬場島に到着。
早速、警備隊詰所に行き話しをし、予定通り行動して東大谷滑降は現地で状
況を判断して滑降するかどうかを決めると言うことで納得してもらった。ヤマ
タンを借りて駐車場で仮眠をする。
テントから顔を出すと、雲は綺麗に無くなっており、先月の滝谷滑降の日と
同じような月が出ている。月明かりの中、馬場島を03:05に出発。
昨日の警備隊の方の話では川の水が多いとの事。第一の関門の徒渉がどうな
るか心配だ。取水口の1回目の徒渉は、飛び石伝いに通過。堰堤を登ってから
は水量が多く、飛び石伝いには行けない。一番浅そうな所を探して、徒渉をす
る。水は膝上程度だが、雪解け水はかなり冷たく足の感覚が無くなってくる。
そこから上流は、しばらく雪渓上を歩けるが池ノ谷出合の手前で雪渓が切れ
ていたが微妙なへつりで通過できた。ここは少しかぶっていてホールドが小さ
いのでザックが重いと後ろに引かれてしまいかなり厳しいだろう。落ちると濁
流に飲まれてしまう。
1時間40分で池ノ谷出合に到着。少し明るくなってきた。第2関門の池ノ
谷ゴルジュの通過は側壁の雪も落ちきっており積雪量も多く、全く問題なく通
過できた。
遠くに剣尾根末端、そして三ノ窓がよく見える。池ノ谷も側壁の不安定な雪
もほとんど落ちており、雪崩れの危険も全く感じないため安心して登って行く。
剣尾根には雪がほとんど付いておらず、夏と同じ状態である。これではR4
はどうなっているのか心配だ。
二俣から左俣に入りR4を探すがそれらしい氷瀑が全然見あたらない。悪い
予感がする・・・・・。よく探すとそれらしいルンゼが見つかったが、氷がほ
とんどなく、到底、快適な登攀ができるような代物ではない。氷は上部に残っ
ているだけで、後はほとんど氷が無くなっていた。
悪いミックス登攀をすれば登れない事もないだろうが、氷瀑のないR4なん
て登っても意味がない。しょうがないのでR4は割愛して、あとは東大谷の滑
降に期待する事にする。
出発から6時間5分で三ノ窓に到着。剣尾根同様、チンネにも雪は全く付い
ていない。大休止してから剣岳山頂へと向かう。池ノ谷出合〜池ノ谷乗越まで
は雪がしまっておりアイゼンがよく効いた。滑落すれば延々と滑っていくだろ
うが・・・・・。
剣岳までの稜線はラッセルを交えての登りとなる。長治郎のコルからの急雪
壁を登り切り山頂を見ると、スキーを持った先行者がいるではないか。もしか
して、TUSACの新井さんではと思ったが、話をするとRSSAの吉田さん
との事。ここで、山スキーMLメンバーの方とお会いできるとは思ってもいな
かった。
しばらく話しを交わす。吉田さんはインディアンクーロワールを滑降すると
の事。しばらく休むと華麗に滑降していった。
山頂での天気は、高曇りに変わり、馬場島方面は2000m付近から雲海に
つつまれている。気温はそんなに低くはない。問題の東大谷の雪面がどういう
状況になっているかと気にかけながらカニのハサミを下っていく。
数年前に大橋さんが山頂から池ノ谷右俣に滑降したルートはクラストしてい
て、到底FREE TREKでは滑降できそうにない状態である。
東大谷は完璧な南面にあり、おまけに落石の巣となっているために条件が整
わなければ滑降は難しい。当然、直射日光が当たって気温が上昇している時に
は雪崩れや落石が多量に落ちるため絶対に滑降はできない。
今日は、午前中まではある程度気温が低く、東大谷に太陽も当たっていたが、
現在では薄曇りでこれ以上の気温上昇はない。2000m以下は雲海につつま
れており、太陽が当たらないので雪崩れの心配はない。しかし、視界が悪い。
という状況で、あとは雪質次第で滑降は可能と思われた。
剣岳山頂から標高差100mほど下ったところがドロップポイントだ。カニ
のハサミの直下となる。
早速、雪質をチェックする。ザラメでは無く腐れ雪で下には少し固いバーン
があるので、スキーで雪面を押せば雪崩れるだろう。しかし、自分で落とした
雪が雪崩れる程度だと思われる状態であったため滑降する事に決定する。
ドロップは標高2900m地点だ。最初の雪面はある程度広く、傾斜は50
度を少し越えるぐらい。稜線から見ると2700m付近がかなり狭くなってお
り、ここに両側の岩壁から落石が集中しているようだ。時折、ガラガラと大小
の岩が落ちてくる。こんなのを食らったらたまらない。いかにここをスムーズ
に通過するかが第1のポイントとなる。
まずは有持からドロップする。案の定、自分の足下から少しずつ雪崩れて行
く。しばらくは、藤川と同時に滑降するのは危険なので、一人ずつの滑降とす
る。2700m手前までは雪質もまあまあで快適に滑降できたが、問題の落石
地帯の通過だ。最狭部で3mぐらいだろうか。石があちこちに散らばっている。
落石の合間にターンと横滑りで岩を避けて滑降していく。無事に通過し、最
狭部下の岩陰で様子をうかがいながら藤川の滑降を見守る。途中で右岸から落
石が来たが大丈夫だった。
ここからしばらくは、落石が散らばっている斜面を、後方からの落石に気を
配りながら滑降していく。下るに従って雪崩れでできた縦溝が深くなり、クレ
バスも時折顔を見せるようになってきた。
2000m付近から雲海の中に入ってしまうため、視界は約10mほどしか
ない。雲海に入ると早速、クレバスがあり、かなり深い縦溝があちこちにある。
視界がほとんど無いために、どこがどんな状況なのか、下部がどうなってい
るのか全く分からない。雪が平らになっていてもいきなりクレバスが出てくる
ためスピードを出す訳にはいかない。一番怖いのは、後方から来る落石だ。
落石が来ても見えないので避けようがない。しかし、落石はほとんどここま
ではこなかった。単に見えなかっただけかもしれないが・・・・・。
雪崩の縦溝とクレバスに苦戦しながら滑降していくと、「あれは何だ!!」
いきなり正面に黒い堰堤の様な物が見えてきた。「ルートを間違えたか??」
近づいてみると、土砂、岩、雪が入り交じった物が山のようになっている。
底雪崩れの後の様だ。それにしても、もの凄い。高度計と地図で確認してみ
るとどうやら東大谷/左俣から出た底雪崩れの様だ。
底雪崩れが中俣を全て埋め尽くしている。当然、スキー滑降などできるはず
もなく、スキーを担いで不気味な底雪崩の山の中を歩いて下っていく。
標高1660m付近から1450mの立山川との合流地点まで、この土砂が
延々と続いていた。
東大谷出合で雲が切れて、この底雪崩れの全容を見て唖然としてしまう。
ドロップ時には雲海で下部が見えなかったために、まさかこんな底雪崩れが
あろうとは思いもしなかった。もし、雲海が無く、この大デブリ地帯が見えて
いたら決して突っ込んでは行かなかっただろう。
気象データを見ると、上市で15日には最高気温が27.8℃、22〜24
日の3日間は20℃以上の気温の高い日が続いたため、このときに雪崩れたも
のだと思われる。しかし、こんなもの凄いデブリには山を始めてから初めて遭
遇した。こんな底雪崩れに巻き込まれたら人間の身体などバラバラになってし
まうだろう。
立山川は傾斜も緩く、今までの緊張感も一気に無くなって快適な滑降ができ
た。時折、雪渓が切れて水流が見えていたが、最初の橋の手前まで滑降する事
ができた。
東大谷下部の標高差約200mの底雪崩れ地帯は歩きとなったが、稜線から
ここまでの標高差は約1900m、滑降時間は2時間5分であった。
馬場島へ向かう途中、我々は知らないで歩いていたが、熊がいるという事で
猟師がスコープ付きの猟銃を持って岩陰で待ち伏せをしていた。知らぬが仏。
馬場島には15:45着。今日の行動は12時間40分であった。
しかし、今回は、最初から最後まで本当にエクストリーム(究極)な山行で
あった。
馬場島でヤマタンを返し、状況を説明して富山に向かった。富山では、旨い
魚と地酒で東大谷/中俣滑降の成功を祝った。
<注意>
東大谷中俣は、上部は傾斜が急なうえ、落石が多く、しかも南面にあるため
気温が高い日などは必ずと言っていいほど雪崩れるだろう。
今回は、気温がある程度低く、雪崩れが集中するエリアは雲海の中であった
ため、雪崩れの心配は無く、気になるのは落石だけであったが、それでも、私
は東大谷中俣を2度と滑降する気にはならないし、他のスキーヤーにもお勧め
はできない。
もし、それでも滑降したいと言うスキーヤーがいれば、天候を見極めて行か
なければ雪崩れ、落石のロシアンルーレットとなり、自殺行為となるだろう。
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