Aフランケ/赤蜘蛛

      
日程
2001年10月6日(土)〜8日(月)
メンバー
(浜松労山)石津順策、(浜北労山)木下光男
記録
(浜松労山)石津順策
写真
なし
ルート図
なし

<山 行 記 録>


 皆さん今晩は、先日、甲斐駒ケ岳のAフランケ赤蜘蛛ルートを登ってきましたので
報告します。

 この赤蜘蛛ルートは、4年前、先行パーテイがつかえたため、涙をのんで中途退却
した因縁のルートです。その後、リベンジのチャンスがなかなか訪れなかったのです
が、今年の9月チャンス到来。曽根崎君と2日間の日程で挑戦したところが、私の体
調不良であえなく仙水峠で敗退の見事な返り討ち。

 この10月の3連休は、当初、谷川岳幽ノ沢左フェースの計画だったのですが、出
発の一日前になって、「20mもノーピンでランナウトするとこなんか登れない」
と、パートナーの木下からの申し出。イレブン・クライマーがなにをビビるのかと、
説得したものの、相方が躊躇したルートに取付くわけにはいかず、赤蜘蛛ルート再リ
ベンジが急遽浮上したのです。

メンバー 石津 順策(浜松労山)、木下 光男(浜北労山)

10月5日

 9月の失敗(車酔いによる体調不良)にこりて、芦安峠越えは私の運転で広河原に
到着。9月より駐車台数が少なく、苦労なくスペースを探し出し、車中で仮眠。前
回、寒くて眠れなかったので、今回はシュラフを用意したのが大当たり。シュラフを
ザックの底から引きずり出すのを面倒くさがった木下君は、寒い思いをしたようだ。

10月6日 晴れ

 定刻の30分前に、乗り場に駆けつけてみると、すでに一番のバスは4台ほど出て
しまったとのこと。それでも、7時半には、北沢峠から歩き始めることができた。2
日前の降雨で八合目の水場を利用できるというのに、仙水小屋で木下君は4リッター
のペットボトルを満タンにする。

 前回、足が上がらなかった駒津峰への登りも、ザックの重量が重くなったにもかか
わらず(9月は、シュラフはもちろんガスコンロ、ハーケン、ハンマーさえ省略し
た)、なんとか順調に進む。紅葉もこの辺りが真っ盛りだ。ところが、駒津峰を越
え、水平になったところで、右足がひきつり始めた。日頃のトレーニング不足のツケ
がまわってきたのだ。そんなことで引き返すわけには行かないと、右足をだましだま
し前に進む。

 摩利支天とのコルへのトラバースルートに入ると、息切れが激しくなった。ちょう
ど、酸素不足による高度障害のようだ。15歩あるいては立ち止まり、軽いザックで
頂上往復するハイカーに道を譲って一息いれたり、サンザンである。

 それでも、12時半には頂上を越え、駒ヶ岳神社のほこらの前でしばしの午睡(こ
れがなかなか快適である)をとったあと、2時過ぎ8合目に到着。頭のつかえる岩小
屋はイヤじゃという木下に妥協して、4年前と同じ所にテントを張る。八丈バンドの
水場へおりて、奥壁右ルンゼからしたたり下りた水滴を空タンクに詰めることができ
た。

<タイム>北沢峠(7:30)→仙水峠(9:00)→駒津峰(10:40〜11:
00)→頂上(12:30)→8合目(14:00)

10月7日 晴れ

 岩小屋の前の踏み跡をたどり、Aフランケに向かう。とうちゅう、腐りかけた
フィックスロープや、倒木に打たれたハーケンをつたわるような部分もあるが、踏み
跡はかなり明確である。

 1時間ほどで、赤蜘蛛ルートの取付に着く。そこには他パーティの姿はなく、Aフ
ランケには、アメリカン・エイドで、泉州ルートとおぼしき辺りを登っている二人組
が見えるだけだった。混んでいたら「同志会左フェース」に転進しなくてはと、大型フ
レンズやハーケン、ハンマーも持ってきたが、その必要がなくなった。

 登攀準備をしていると、アルパインガイドの鈴木昇己氏の一行がやってきて、彼ら
も赤蜘蛛を登るようだ。一ピッチ毎、リードを交替するツルベ式で登ることにして、
まず、石津のリードで登攀開始。

 1ピッチ目、2本目のハーケンがやたらに遠く、アブミの最上段にしっかり立ち込
まないととどかない。あと順調なアブミの掛け替えで25m登るとバンドに付き、長
いシュリンゲで支点をとってから、大ジェードルに突入。80mほど突き上げた
ジェードルは、国内の他の岩場では見られない見事なロケーションだ。20mほど、
コーナークラックをフットジャム、ハンドジャムで快適に登りピッチを切る(A1,
25m、V,20m)。

 2ピッチ目、木下にリードを交替し、そのまま、ジェードルのコーナークラック
を、フリーで登る。クラックがなくなり、ボルトラダーになる手前でピッチを切る
(V,30m)。鋼鉄のように堅くしまった左壁にスメアし、コーナークラックにハ
ンドジャムをきかせて登るこのピッチは、赤蜘蛛ルート下半部のハイライトである。

 3ピッチ目、ふたたび石津のリードで、V字ハングの下までボルトラダーをアブミ
の掛け替えでたどる(A1,20m)。予定では、この部分まで、2ピッチをのばす
つもりであった。

 4ピッチ目、木下は、V字ハングを左から巻いて(そのように残置ハーケンが打た
れている)、右上し薄かぶりの3mほのハングをアブミで越してから、スラブ状をフ
リーで大テラスへ着く(A1、20m、III,20m)。この大テラスは、4年前涙
をのんだ時の最高到達点だ。

 5ピッチ目、かぶったコーナークラックに、フレンズをかませこれを乗り越しスラ
ブを左上し(V,10m)、階段状のカンテ(III,10m)を登ると、白稜会ルー
トとの分岐点である外傾レッジにつく。この辺り、白山書房のガイドブック「日本の
岩場」も、山と渓谷社の「日本のクラシックルート」も間違っている。

 50m頭上には、15mぐらい張り出した逆三角のルーフがおおいかぶさってお
り、その大ハングにむかって定規で引いたようなジェードルが突き上げている。左壁
はツルツルの切り立ったスラブ、右壁は何本かのクラックをもち右角が恐竜カンテと
よばれている垂壁。そのうちの1本はクロスラインとよばれるフリールートがある
が、今回の赤蜘蛛はボルトラダーを人工登攀で登る。

 6ピッチ目、上半部の核心部このピッチをリードで登りたいのだが、ツルベ方式の
ため木下に譲らざるをえない。彼は、15mほどボルトラダーをたどり、15センチ
ほど張り出した地点からクラック沿いに登る。クラックには、残置のアングルやボル
ト、回収できなかったフレンズが1本残っているが、何カ所か初登時のアングルが引
き抜かれているので、そこはフレンズをセットし、それにアブミをかけなければ前進
できない。そう、アメリカン・エイドの気分が味わえるのだ。
 
 とちゅう、ヌンチャクが足らなくなったと、木下が悲鳴をあげる。自分の腰回りを
見ると5本ほど、ヌンチャクが残っている。リードを交替したとき、渡し損なったの
だ。ヌンチャクを分解し、カラビナをひとつづづにするか、支点を飛ばすよう指示し
てこの場を乗り切る。

 後続パーティに追われるように、石津もあとを追うが、一つ目のフレンズがガッチ
リ効いてしまってどうしてもはずれない。とうとう残置を増やしてしまった。二つ目
も、三つ目も効きすぎていたが、鈴木昇己ガイドのアドバイスでロックスのワイヤー
をひっかっけて強引に引っ張りなんとか回収できた。

 7ピッチ目、ハンギングビレイの木下をまたいで、2mほどトラバースし、恐竜カ
ンテの右側に出る。ここから、傾斜がやや緩むため、ボルト間隔がガゼン遠くなる。
花崗岩の結晶をつまんで、アブミの最上段にしっかり立ち込む。腰が引けては、次の
ボルトにとどかないのだ。その最上段の立ちこみも、アウトサイドで乗るカウンター
バランスが有効であったところも、何回かあった。30mほどで、ハンガーボルトの
あるしっかりしたテラスに着く(A1,30m)。

 このピッチ、身体が空間に露出し、赤石沢がはるか500m下に見える高度感もも
のすごいが、残念ながらガスにつつまれてそのロケーションを楽しむことができな
い。

 8ピッチ目、ここで鈴木昇己パーティに先を譲り、この日初めての行動食をとり、
のどの渇きをいやす。鈴木昇己パーティは、8.1ミリのダイニーマ・ロープとか、
「ルベルソ」とかいうペッツルの新型確保器(これがなかなか良い)を使っていた。
でも、腰にはチョークバックがあり、人工主体のアルパインルートでも欲しいのか
な、と一瞬思った。
 ここから、5ポイントほどの人工登攀のあるスラブがあるものの、ブッシュ混じり
の緩やかな岩場となり、実質的な登攀は終わる(A1,10m、III,30m)。

 9ピッチ目、樹林帯の中を露岩をつないで登るが、ノーザイルでは、危険である部
分がある(3手ほどIII級)。45m一杯のばして、ピッチを切る。次のピッチ、踏
み跡をたどると10mで,Aフランケの頭の岩小屋の前に出る。9ピッチで登攀完了
としたい。この最終部分も、ガイドブック各書は長めのピッチになっている。

 この岩小屋でビバークし、今日は同志会左を登り、明日は赤蜘蛛を狙うのだという
2人パーティに出会う。若い人たちの元気にあやかりたいが、平均年齢57歳のわが
パーティにあっては、明日は下山一筋でなくてはならない。

 3往復目の木下でさえ、わかりにくい踏み跡をたどり、リベンジ完遂の喜びに浸り
ながら8合目のベースへ帰る。

<タイム>BC(5:10)→赤蜘蛛取付(6:10)→登攀開始(6:40)→登
攀終了(14:50)→BC(16:45)

10月8日 うす曇り

 ゆっくりテントをたたみ、8合目をあとにする。一気に頂上まで登り、さながら月
の砂漠みたいなザレタ花崗岩の南斜面を足取りかるく下る。さすが連休の最終日、
登ってくる登山者の影が少ない。どうせ、北沢峠でバスの時間待ちをするくらいな
ら、錦秋の大展望を満喫しようと、駒津峰でも、仙水峠でもゆっくりやすむ。双子山
の東斜面、小仙丈の北斜面は少し早かったが、駒津峰、栗沢山は、真っ盛りでとりわ
け栗沢山の西斜面は見事でした。

<タイム>BC撤収(6:10)→頂上(7:20)→長衛小屋(11:30)以後
タイム不採取

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