小倉ルート

日程
2001年7月20(金)〜21日(土)
メンバー
(山岳同人カルパッチョ)羽矢洋、碓井桂子
記録
(山岳同人カルパッチョ)羽矢洋
写真
なし
ルート図
なし

<山 行 記 録>


穂高屏風岩 小倉ルート
山岳同人カルパッチョ/羽矢洋・碓井桂子
〈山行日〉2001年7月20、21日
〈記録〉羽矢洋

 五年前の初秋、ディレッティシマを碓井と登った際、二段テラスから左へ派生するボル
トラダーが気にかかり、帰宅後にこれが小倉ルートであることを知ったときから、いつか
登ってみたいルートの一つとして心にずっと居続けていたこの1本を今回登ることができ
ました。
 青白ハングに絡むクラシックルート(鵬翔、緑、ディレッティシマとこの小倉)の中で
も、ピンの状態は最も良好で、近い(近すぎるとも言われているようですが)間隔で打た
れたボルトは、丁寧にきっちりと埋め込まれ、また、腐食はほとんど進むことなく、安心
して登れるルートの1本と言えます。
 
 この夏のエルキャプ計画に向けて5月連休の剣以降は毎週末マイナーなクラック岩場を
訪ねてはネイリング、カミング、チョッキングそしてフッキングの反復練習に精を出し、
概ね一通りの技術を体に染みこませたことでもあり、どう?久々のアルプス本ちゃんに行
かない?行こう!の阿吽で臨んだ穂高屏風。入山日は、かねてから碓井懸案の雲稜、そし
て二日目はこの小倉を登って下山と決め、一路沢渡へ車を走らす。
 ベースは、耐力トレーニングを兼ね横尾。入山初日、横尾にテント設営後、すぐに屏風
へ向かう。雲稜の美味しいところのリードを碓井に託し、キスゲの散見される久々の夏壁
クライミングを思い切りエンジョイした後は、横尾のビールで雲稜に乾杯。
 翌朝、アラームの故障か目覚ましが鳴らず、寝過ごしてしまい5時過ぎに起床。慌てて
屏風へ二日目の出勤。遅い起床が運を運び、T4尾根も僅かの時間待ちでT4に到着。
 下部は鵬翔ルートを採って、大テラスへ上がり込む。鵬翔の下部はT4からの1ピッチ
目(ほぼ水平トラバース)の切り方が少し難しい。何度行っても、いつだってここだとい
う確信はない。しかし、じっくり探せば複数のハーケンが打たれたポイントが有り、また
上部を見上げれば右上気味に所々ハーケンが確認できる。ただし、ここのポイントにはシ
ュリンゲ等の色物の残置物は無いため、しっかり探し出すことがポイント。
 大テラスから二段テラスまでは、一旦左下へ下った後、真左にトラバースして行き、カ
ンテを回り込んだところが二段テラス。ここまでのトラバースは、適当な間隔できっちり
打たれたハーケンがあり、不安は無い。ここは丁度ディレッティシマと小倉ルートが重な
る地点であり、一般的にはガイドブックに紹介されているとおり現在の小倉のスタート地
点にあたる。ここから左上していく小倉ルート1ピッチ目は、見事な間隔で、また、丁寧
に打たれたボルトラダーで、あたかも五線に規則正しく音符が並んだかのようなドレミフ
ァ・・ピッチ。五年前のあの時は、もしかしたらこのボルトラダーをスタンスにして登っ
ていけるかもと思ってみたが、今あらためて目の前にすると、それは無理そう。でも茶目
っ気で案外トライするのもいいかなーっと、そんな気にさせるくらい短い間隔できっちり
埋め込まれたボルトラダーの構築には、どれだけの汗を流されたことかと、そのご苦労が
偲ばれる。
 次の2ピッチ目は所々ボルト間隔も遠く、時々まじるフリーにも臆することなく碓井は
きっちり高度を稼ぐ。壁の傾斜が明確に変化し、被り気味になるところから真右に直角に
折れるかたちでトラバースとなり(気持ち的には若干下り気味に約7〜10m位か)、コー
ナーに打たれたビレーポイントへ。
 続く、小倉の3ピッチ目は一旦直上後、不自然に感じるけれどもカンテを右に回りこむ
ように青白ハングが最も大きく張り出した部分の真下に出ていく。なお、カンテを回り込
むことなく直上するかたちでコーナー部にハーケン、ボルトが打たれたラインがはっきり
確認できるが、これが何ルートかは僕は知らない(昭和51年初版のRCCU監修の新版日
本の岩場にも記載は無い)。
 最大の張り出し部の付け根手前には、きっちり打たれたハーケンとその右横に浅打ちの
ためコクリと首を曲げた頼りなげなもう1本のハーケン。この次はと見れば、大きな庇下
面のかなり向こうに1本逆打ちハーケンが見える。ちょっと見したところ届きそうにはな
く、試してみてもやはり届かない。庇の下面を探るものの、見えるのは剥落した岩の跡と
何人ものクライマーが小さな悲鳴と共に墜ちただろうハーケンのスカーがあちこちに確認
できるだけ。一度は右下に振り子し、ディレッティシマから上がり込んで行くことも考え
てはみたが、フォローが難儀することは確実であり、再度試みる。デージーチェーンに掛
けるフィフィの位置を微妙に調整し、私は一本の小枝!と呪文を掛け、水平にスッと延び
てみる。これが効いたかどうかは知らないが、あれほど遠かったハーケンに手が届いた。
 その後はフィフィからフィフィの掛け替えですぐに庇の上の人になる。それにしても、
庇の先端にぶら下がってT4で昼寝するクライマーを見下ろす時の露出感は爽快の一言に
尽きる。碓井も例の曲がったハーケンから遠いハーケンにエイヤと乗り移るときには、壁
全体に聞こえるような悲鳴とも歓喜ともつかぬ声を発し、そして、大きく何度もスイング
させられるスリルを満喫している姿が、庇の下にしばらく見え隠れしていた。
 終了点も間近。ここからは下降のことも考え、一旦下り気味にすぐ右横のディレッティ
シマにルートを採り、鵬翔ルートと共通のブナの木の終了点まで上がって行く。
 鵬翔ルートの下降は、上から見て左へ左へと下って行くため、所々で振り子が入るが、
二年前に鵬翔を登った際、同ルートを下降していることから不安はない。大テラスへは空
中懸垂で降り立ち、そこからは蒼稜を下ってT4へ。昨日、今日の無事の完登をお互い喜
ぶ。
 横尾に戻り、テントを畳む頃からポツポツ降り始めた雨は徳沢に着く前には本降りとな
り、濡れ鼠になって夕暮れの上高地に辿り着くころ、皮肉にも雨は止んだ。

小倉ルート要所要所時刻メモ
横尾(5:35)、T4スタート(8:15)、終了(13:45)、T4(14:45-15:00)、横尾(16:45-17:00)、
上高地(19:10)

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