鹿島槍ヶ岳/北壁/正面ルンゼ

日程
2001年3月25日(日)
メンバー
(峠の仲間)久野弘龍、(春日井AC)加藤美樹
記録
(峠の仲間)久野弘龍
写真
なし
ルート図
なし

<山 行 記 録>


 鹿島槍北壁  正面ルンゼ 3月25日                                    
 
 昨年から通いつづけた鹿島槍北壁を漸く完登できたので報告します。
 昨年は数回に及び北壁に向かいましたが、いずれも北壁に取り付くことすら出来ずにそのシーズンを終え
てしまいました。

 昨シーズンの敗退から、今年はアプローチは雪の締まる夜間に済ませ、北壁をワンデイで登るという計画
を立てました。荷を軽くすることができるし、雪の腐った天狗尾根を引き返さなくてもいいというメリット
があるからだ。
 
 今回は25日に天気が崩れる予報だったので、崩れる前に登って降りてこようと考えてました。
 
  24日、20時15分、大谷原を出発する。まだ冷え込みはない。第一のポイントである渡渉地点までは難なく
進む。昨年に比べ、河の流れが変わっていて楽にここまで来れるようになっている。

 渡渉も河の流れが変わっていて飛び石伝いには出来ない。 

 渡渉地点でしばし迷う。もしここで濡らせば敗退だ。靴を脱ぐか?脱いでも、膝下までズボンが漬かりそ
うだ。
 ここは一気にアイゼンで駆け抜けるしかない。幅10メートルほど、転倒に備えヤッケにオーバー手袋、向
こう岸の雪壁に飛び付くためのバイル等準備し、そして走る!

 まずは第1の核心ポイント通過、二人共濡れず事なきをえる。
 
 荒沢出合は昨年に同じ。充分に埋まっていた。新しいトレースがある。単独もしくは二人だろう。これを
踏んでもまたその上から潜る。

 雪がゆるい。気温が高すぎるのが気がかりだ。また敗退か?そんな思いが頭をよぎる。
尾根上に上がってもこのくるぶしから時に膝までのラッセルは続いた。雪が締まっているのを期待して夜に
行動したが、少し早すぎたかもしれない。
 
 2時45分、最低コルに到着
 
 トラバースは今回の最大のポイントとなった。すねから膝のラッセルでトラバースを始めが、場所によっ
ては氷化していたり、あきらかな弱層があったりしてそのトラバースだけでも結構辛い。かなりあせるし気
持ち悪い。

 ここのトラバースは初めてなので、結構うろうろしたためにとんでもなく時間がかかってしまい、氷のリ
ボンの下に来たときにはすっかり明るくなってしまった。
 
 無風快晴、足下を見ればカクネ里の大雪渓が氷河のごとく音も無く静かに広く、遥か遠くへ続いている。
 自分の周りは右も左も、さらに上も下も、ただ前方の大きな壁以外何も威圧してくるものは無い。後立山
特有の明るい静けさの中で今一度自分に気合を入れる。

 これから向かうのは憧れつづけた北壁だ!
 
 正面ルンゼに向かって登り始めたときちょうど6時になる。かなり遅れ気味なので急いで取り付きへ向か
う。

 北壁基部の広い雪壁から、右にカーブしたルンゼに入っていく。ルンゼ内は次第に狭くなりゴルジュ状と
なっているため、上部の様子がまったくわからない。雪崩が来てもまず判らない。

 ロープの間隔は雪崩に備えて少し長めの8mぐらいで結び合って同時登攀を行った。

 スピードを上げるために支点は取れない。いくら簡単なところでも振り向くといつのまにか高度が上がっ
ていて支点をとりたくなる。氷質もいいところも有れば、グサグサのところも有る。

 絶対に落ちられない。落ちるわけが無い。自分の実力ならこんなところは駆け上がれる。自分に言い聞か
せながらただマシーンのようにバイルを振り、アイゼンを蹴りこみ登っていく。

 怖いというのではない。この緊張感が心地いい。 

 アルパインクライミング!

 氷の溝を乗っていくと大きなきのこ雪が頭上にかぶさっている。あれが落ちたらまず助からない。常に小
さな氷片が落ちている。大きいスノーシャワーがくれば、足をすくわれて数百メートル下まで止まらないだ
ろう。雪崩をうかがいながらのクライミングが続く。

 しばらく登ると広い雪壁にでる。これを登り中央ルンゼ側に移って300m近く登れば終了だ。

 しかしここからが辛かった。雪は締まっておらず、ひざぐらいのラッセルが続く。大谷原から12時間以
上登り続けているのでスピードが上がらない。ラッセルを交代しながら登り続けるとあっけなく鹿島槍北峰
の頂上に出た。9時45分。看板のすぐ横だ。

 嬉しさがこみ上げるが、気を抜いてはいけない。喜びは下で味わおう。

 下山は北峰と南峰のコルから北沢本谷を下降する。赤岩尾根経由より遥かに速い。しかし、雪崩の巣なの
で雪質、時間はよく検討しなくてはいけない。今回は時間が早いこともあって静かだった。

 本谷が緩くなり東尾根を回りこむ頃にはもう疲れもピークだ。というより、安全圏なのでこれまでの疲れ
が噴出してくる。

 誰かスキーをくれ!

 何度か休憩しながら歩きつづけて大谷原についたのは14時。行動18時間。北壁ワンデイ・アセント(
ディセント)の完成だ。

 次は中央ルンゼだ。あの岩壁に食い込む一本の白い溝は、アルパインクライミングの神髄らしい。
 
 今回ロープはトラバースを始めるところから常に繋いでいた。これには反対の意見もあるとおもう。どう
せ同時登攀なら落ちても止められない。あるいは自分のペースで登れないから疲れてしまってスピードも上
がらず安全でない。こんなことが考えられる。

 しかし、雪崩のこともあるし、僕らは少しでも危険があればロープを出して登ることにしている。ロープ
を繋いで登ることを習慣付けている。雪崩の危険のあるとき、視界の効かないとき、そして、滑落の危険の
あるとき。僕らの選択肢は、アンザイレンしての同時登攀か、スタカットだけだ。でなきゃ二人で登る意味
無いだろう。
 
 こうしていれば防げた事故が今年は多かった...
 
 今回ヘッドライトはティカを使ってみた。電池込みの重量70gのライトだ。
 僕の使っている今までのライトであるペツルのものと比べて、照射距離が短いが、広い範囲がかなり明る
くなる。先を見ながら進むリッジ上では不利だが、壁の中で使用するには有効だとおもう。電池が長持ちし
て、さらに軽いのだから予備の電池の代わりに持つのもいいかもしれない。その場に応じて使い分けてもい
いと思う。

 軽さは魅力的で、ヘルメットにつける場合には絶対有利だ。

 総じて、照射距離の短いのは気になるが、この明るさ、軽さは使える。

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