獨標登高会/寺田正之、奈良和秋
<山行日> 2000年5月2日(火)〜6日(土)<記録> 寺田正之
★ 記録写真
昨年のGWに西片と二人同ルートを訪れたが、自身の不甲斐なさとルートコンディショ
ンに恵まれず1ピッチ目敗退。昨年のリベンジを期し再度山行を計画した。直前で西
片が都合で不参加になってしまった。西片の為にも今回は敗退できない。山行前から
相当なプレッシャーになっていた。
5月2日(火)晴れ
コースタイム・自宅出発(17:45)―東所沢駅(20:10〜25)―所沢インター(20:30)
―有磯海パーキングエリア(1:30〜50)―滑川インター(2:00)―馬場島(2:30)―就寝(3
:00)
奈良が仕事を早く切り上げると言うので、私も休みを取って自宅待機。しかし夕刻奈
良から電話で仕事が終わらないと言う。急遽予定を変更し、19:30東所沢駅集合に変
更。余裕を持って葛飾の自宅を出発したつもりが外環で渋滞に捕まる。新座料金所手
前で事故が有り、所用時間70分の表示。奈良に電話し20:30集合に変更。駅前のコン
ビニで晩飯を買っていると奈良が到着していた。
所沢インターから一路北陸道・滑川インターを目指す。昨年は松本から安房トンネルを越えて
富山入りしたが、今年は上信越道が全線開通したので関越道からのアプローチとした
。上信越道に入り軽井沢の先から所々一車線になるところで局地的な豪雨によるノロ
ノロ運転。長野の手前でやっと流れた。富山に付くと雨も上がり所々星が見える。料
金所のおやじにコンビニの場所を聞く。滑川インターから馬場島方面とは逆の方向にしば
らく走ったサンエブリで食料アルコールを調達。馬場島の県警前の駐車場で車中泊と
する。
5月3日(水)曇り時々雨
コースタイム・起床(9:00)―出発(11:25)―取水場(12:30)―タカノスワリ(13
:00)―池ノ谷二股(16:30)―就寝(19:00)
8時に一度起きたが、ぱらぱらと雨が降っている。気分が萎えてしまい、もう一度寝
てしまい9時起床。身支度を整え県警のオフィスに届け出を済ませ出発。昨年の同時
期に比べ雪が異常に多い。昨年取水場まで夏道が露出していたが、今年は馬場島周辺
は一面の雪原だ。そうかと思うと昨年は雪に埋もれていたタカノスワリのゴルジュが
バックリと口を開けている。左岸の雪の踏み後をたどる。池ノ谷のゴルジュは雪に埋
もれていて階段状態。時折薄日が差すものの、霧の様な雨が身体に纏わり付く。時折
雨脚が強くなるのでヤッケを着たり脱いだりとせわしない。
剱尾根末端の二股に付くと既に4パーティほどが幕を張っている。ウエアや装備が湿
っているのでシュラフにくるまっても少し寒さを感じた。隣のテントの奴等が22:00
近くまで騒いでいたので参った。
5月4日(木)雨のち晴れ(停滞)
2時半に一度起きるも、テントには堅いものがぱらぱらと舞う音がし、谷はガスで覆
われていた。4時にもう一度起きるが状況は変わっていない。ここで停滞決定。昼前
に天候は急速に回復し、早い雲の流れに春の力強い日差しが顔を出す。
午後から昨日濡れた装備の虫干。19:45就寝。たまには停滞もいいだろう。良い調整
になった。
5月5日(金)快晴
コースタイム・起床(2:39)―出発(4:00)―R4取り付き(5:30)―登攀開始(5
:50)―ドームの肩(10:50)―コルB(12:00)―R4取り付き(12:50〜13:00)―
ベース着(13:30)
奈良の携帯のアラーム音「キャン・ユー・セレブレイト」で目を覚ます。いつもなが
らこの曲を聞くと山に来た実感が湧く。テントのファスナーを開けると目の前に北斗
七星がでっかい。富山の街の夜景が瞬いて美しい。4時に出発したがこの季節、既に
ヘッドランプは不要だろう。富山の街の明かりにサヨナラ言う間も無く、あたりは白
み始めてきた。
左股をつめるとR4が見えてきた。既に1パーティ取りついて、もう1パーティが順番
待ち。我々はこの日3番目のパーティだ。
昨年の件が有りかなりチキン状態になっていた私は、奈良に1ピッチ目のリードをお
願いする。多少悪いところが有ったが難なく終了点に到着。いよいよ私のフォローの
番だ。取り付きには雪が多く、昨年素手になって微妙なバランスを強いられた1段乗
超す部分も雪の台座が有り、一手岩をつかんでアックスを効かせば難なく通過。岩の
上に氷化した雪が乗った細い右上ランぺも、雪の階段状態。直上に移るトラバースが
一手悪かったがフォローなので気が楽だ。奈良に言わせるとスクリューが根元まで入
らずひやひや物だったとのこと。ダブルアックスで快適にフォローしていると上部か
らスノーシャワー。2分くらい続いただろうか?いつまでたっても終わらない。異常
に長く感じた。おかげで首からしこたま雪が入ってしまった。
2ピッチ目は寺田のリード。ガイドブックによるとこのピッチが核心との事。しかし
岩溝にトラバースする部分は雪の階段状態で難なく通過。奈良が「ビレイポイントが
悪いので安全なところでピッチを切ってくれ」というので、本流に入ってすぐの残置
にハーケンを1本足してピッチを切った。
3ピッチ目(ルート図の2ピッチ目後半)は奈良のリード。ルート中唯一の垂直の滝
だ。垂直と言っても垂直部分は2メートルほどでコの字になっているので両足を突っ張っ
て簡単に越える事が出来る。適当なところでピッチを切る。4ピッチ目寺田のリード
。斜度もなく左の壁にピトンとボルトが一個所ずつ有り、スクリューを使わずにリー
ドできた。ハング下の残置2ケ所がビレイポイント。雪面も平らで安定している。
5ピッチ目(ルート図の4ピッチ目)はローテーションが狂ってしまったのでもう一
度寺田のリード。右上する氷のルートだが斜度も無く、表面が凸凹でどこにでも足が
おける。左の岩の残置にハーケン一枚足しピッチを切る。6ピッチ目は奈良のリード
。ルンゼをつめた岩の下がビレイ点だ。7ピッチ目は雪壁。寺田のリード狭いルンゼ
の中でロープがいっぱいになる。雪面をブレードで馴らし、腰を下ろしてのビレイと
なる。目の前の小窓尾根上のクライマーが手を振っているのでこちらも振り返す。8
ピッチ目奈良のリードで雪壁をつめ岩の下でビレイ。ロストアロー2本でビレイ点を
作ったが、めちゃくちゃ効いていたとの事。
9ピッチ目、寺田のリード。右上する雪のルンゼをつめるが、ロープ一杯で行き詰ま
る。斜度が増すところで残置が無い。ハンマーで岩を叩くが見つからず、ナイフブレ
ード2枚重ね打ちと、柔らかい氷にさしたアックス、引けば外れそうな岩角に掛けた
スリングを支点にする。この時点で戸惑ったためコンテで来た後続に追いつかれた。
申し分けないがしばらく待ってもらう。そして最終ピッチ。雪壁から一度右の岩稜に
出て左上すると斜度は急に緩みドームの肩に飛び出した。広い雪面で奈良が座ってビ
レイしていた。お約束の握手を交わしギアのチェックとレーションの補給。溜まって
いた小用を足す。快晴の天気の元、小窓尾根や早月尾根、剱本峰上もクライマーで大
賑わいだ。ドームの頭で後続の方に写真を撮ってもらい、しばし景色を楽しむ。
下降はコルBからR2を下降だが、ドームの頭から下り一個所岩峰をトラバースする部
分が悪かった。R2自体は階段状態。一応ハイ松からロープを垂らし歩きながら懸垂
した。左股を下降すると昼前だと言うのにまだ登っているパーティがいた。雪が腐っ
て来て悪いだろうな。しばらくルートを観察してからベースに戻った。
剱尾根末端に位置するホテル二股は水道・シャワー完備だ。ハングから幾筋も垂水が
有る。しこたま汗をかいたので上半身裸になって頭から水を浴びる。めちゃくちゃ気
持イッイ〜!これだから春山はやめられない。
日向ぼっこをしながら和んでいると3人パーティが二股のベースに戻ってきた。彼ら
が本日R4に取り付いていた最終パーティだったとのこと。その内の一人が我々のテン
トに書かれているDTK(獨標の略)の文字を見て「僕も昔しばらく獨標に在籍してい
たんだよ」と言う。お互いサングラスをしていて分からなかったが、なんと現在地元
富山に腰を据えて山岳活動を行っているKだった。10数年ぶりの再会に驚き、昔話や
お互いの近況で盛り上がった。
この日18:15頃テントの中にいるとゴーと言う重低音が響いてきた。上空をジェット
機でも通過したのかと思いファスナーを開けると左股いっぱいに広がるデブリが目の
前に有り、K達のテントの手前で止まっていた。これにはちょっとビビッた。
5月6日(土)晴れ
コースタイム・起床(4:00)―出発(5:30)―池ノ谷ゴルジュ出口(6:30)―馬場
島(7:30)―滑川インター(11:30)―所沢インター(16:30)―JR新座駅(16:50)―自宅
着(17:30)
昨日は午後から雪渓の状態が悪かったので、もう一泊し早朝に下山とした。中央ルン
ゼに行くと言うK達を見送り下山。所々膝まで埋まるも、雪自体は締まっている。入
山時よりデブリが増えていて注意が必要だ。
馬場島に着くと、昨年ファミリーキャンパーや日帰りBBQ客でごった返していたのが
うそのよう閑散としている。この雪の量では無理も無い。県警に下山報告を済ます。
上市の温泉は10:00オープンなのでゆっくりと身支度を整える。
昨年も寄った「剣ふれあい館・アルプスの湯」で山行の汗を流す。開館と同時に休憩
室の場所取りに殺到する地元のおばちゃんパワーに圧倒されてしまった。温泉から上
がり昼飯でもと上市近辺で食堂を探すが、皆閉まっている。仕方なく渋滞にはまった
場合の食料をコンビニで調達し、北陸道・有磯海パーキングのレストランで昼食。こ
こは地元のホテルニューオータニの経営で、北陸の食材をつかったオリジナルメニュ
ーが楽しめる。その後上信越道・松代パーキングで燃料補給、軽井沢で3キロ渋滞し
た以外、さしたる渋滞も無くあっけなく所沢に到着。渋滞を覚悟していたが、奈良が
言うには「土曜は学校が有るので空いていたのでは」とのこと。新座駅で奈良を降ろ
し、自宅に戻ったの17:30だった。
今回の印象としては予想した以上にあっさりと登れてしまい、いささか拍子抜けだっ
たと言う事。週末エンジョイ派のクライマーとしては、このくらいが分相応と言うも
のだろう。技術的な難しさから言えば、正月に登った黄蓮谷左股大滝の方が難しいと
感じた。しかしこの時期、里には鯉のぼりが泳ぎ街は夏の装いと言う中、黒部の山深
く屹立する氷のルンゼにロマンを感ぜずに要られない。シーズン最後を惜しむかのよ
うにダブルアックスを振れるのがこのルートの魅力であろう。ともあれ昨年の敗退か
ら心の中にくすぶっていたもやもやが晴れた事は確かである。しかしまだまだ宿題は
山積みだ。これからも頑張らなくては・・・。
●ルートについて
今シーズンはコンディションに恵まれ、氷は取りつきからばっちり繋がっていました
。スクリューは2名で10本ほど持っていきましたが、一番多く使ったピッチでもビレ
イ点用も含めで6〜7本程度です。ガイドブックには氷が柔らかいので長めのスクリュ
ーが必要と有りますが、氷が薄かったので通常のサイズで充分です。タイオフ用のス
リングは多目に有った方が良いでしょう。ビレイ点ではハーケンも必要です。ナイフ
ブレード、ロストアロー等最低でも4〜5枚有った方がよいでしょう。上部雪壁帯では
スノーバー等が有ると心強いです。気温が高いので氷自体は柔らかく、ハイシーズン
まではいきませんが、ドンと鈍い音でアックスが決ります。今回はなんとしてでも登
る気概で行ったのでアブミやチョンボ棒まで用意しましたが、結局使いませんでした
。氷の発達も良く、取り付きから更に下にも2ピッチ分くらい続いていました。左股
の雪渓から直接取り付いたらR4ダイレクト?登れば初登攀?
●東京からのアクセス
上信越道の中郷から北陸道までが開通したため、クルマによるアクセスが非常に楽に
なりました。練馬インター〜滑川インター間・片道380キロで高速料金は8100円です。早いク
ルマなら4時間かからないでしょう。春の時期なら、週末を利用してのこの山域への
山行も考えられます。またR4だけなら渋滞を無しと考え、東京から24時間で夜行日帰
りと言った荒業も可能でしょう。高速代や燃料代はかかりますが、それだけの価値は
有ると思います。
馬場島から入山の場合、R4だけなら剱尾根末端の二股にベースを張った方が良いでし
ょう。今年は雪が多かったのでR4の取り付きのハング下にもテント二張分ほどのスペ
ースが有りました。
今回アプローチで久々にトレッキングポールを使いました。バランスも取りやすく、
体重も分散できるので非常に快適でした。今後もベースを張る山行には積極的に使い
たいと思います。
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