前衛フェース/3ルンゼ

獨標登高会/西片裕、奈良和秋、寺田正之


<山行日> 2000年2月11日(金)〜13日(日)<記録> 寺田正之



 昨年3月の連休に悪天候と、中央道の通行止めに伴う一般道の渋滞で錫杖沢出合いで 敗退となった。風雪の中一瞬垣間見た前衛フェースのカッコよさにリベンジを誓った のが今回の山行だ。3連休と言う事もあり周辺の氷瀑偵察も兼ねた。

2月10日(金)

 3連休前と言う事もあり仕事が山積みだ。上司に一件仕事をお願いし、強制終了。今 回の集合場所をJR御茶ノ水の駅前にして正解だ。帰宅後クルマに荷物を積み込み21: 30御茶ノ水到着。すでに西片、奈良の両名が待っていた。代官町から首都高に乗り、 22:17八王子インター。中野トンネルでちょっと渋滞したが24:08松本インター。道 路に雪はなく快適だ。コンビニでアルコールを調達し、乗鞍高原を目指す。25:20番 所大滝の駐車場で車中泊の予定だったが、雪のため閉鎖。仕方なく農協のスーパーの駐 車場に停めた。ビールで乾杯し、26:00就寝。

2月11日(土)晴れ

 7:00起床。軽く朝食を済ませ8:00番所大滝の偵察に行く。遊歩道も深いところで膝 くらいのラッセルだ。滝の音がゴーゴー行っている。遊歩道をかなり下ると目の前に 滝が現れた。しかし結氷率は40%ほどか?真ん中を水流が勢い良く流れている。一 番右が上部まで繋がっているが、途中水流がバウンドするところでもろに水を被るの で登攀は無理だろう。早早に引き上げる。

 クルマに戻り安房トンネルを越えればすぐ平湯スキー場だ。ローカルスキー場なので 連休でもさほど混んでいない。夏場は上の駐車場までクルマで入れるが、冬季は下の スキー場の駐車場から圧雪された道を歩く事になる。観光客のため長靴やスノーモビ ルを貸してくれる。結氷率は50%くらいか?氷の色がブルーでとても美しく幻想的 だ。夜はライトアップされるという。右側が垂直のツララの集合体になっていて上部 までつながっている。取り付きではもろに水流を食らう事になる。それにしても朝っ ぱらから観光客が多く登攀は無理だろう。

 平湯から栃尾に下り10:30『道の駅・奥飛騨温泉郷上宝』でちょっと早い昼食。奥飛 騨牛のカルビうどんとする。その後新穂高温泉の駐車場に移動し身支度を整え12:00 出発。露天風呂のある橋を越え、槍見館の裏から登山道に入る。降雪後だが踏み後が あり非常に助かった。13:50錫杖沢出合い。そこから先、踏み後が埋まっておりクリ ヤの岩舎に到着したのは14:30だった。

 クリヤの岩舎は既にツェルトとテント各一張りづつで満室状態。脇の岩陰に幕を張る 。晩飯を食い18:30就寝。

2月12日(日)晴れ

 4:00起床。6:14出発。岩舎のテントのパーティは昨日戻らなかったようだ。ツエル トのパーティは昨日偵察で基部まで行き、今日は1ルンゼを登ると言う。途中まで彼 らと行く。関西から来た2人組との事。快適に登高できたのは踏み後のある基部まで 。7:28目の前が3ルンゼだ。垂直の岩壁の間に深く抉られたルンゼでかっこいい。こ こから先は腰までのラッセルとなる。

 奈良のトップでラッセルしていたが、途中から寺田に代わる。目の前の雪をアックス のシャフトで縦横に切ると面白い様に雪が落ちていく。が、セカンドの西片を直撃だ 。直射日光が当たり出すとまず左岸側からスノーシャワーが始まった。ルンゼ右側は スノーシャワーの通り道なので左側を登る。斜度が増したところからダブルアックス 。ここまで来ると雪もだいぶしまってきた。とその時、右岸側から強烈なスノーシャ ワーが来た。頭を低くし両手のアックスを思いきり握り締めた。ここで落ちたらアイ ゼンで西片を直撃だ。10秒以上続いただろうか?なんとかやり過ごす事ができた。お かげで首から雪が入ってしまった。

 傾斜もかなり増してきたのでルート図の右岸にある終了点をさがし、雪を掻き分ける が見当たらない。8:10その時奈良が左岸に終了点を見つけた。ルート図に照らし合 わせると、3ピッチ目の終了点らしい。

 セルフを取りガチャを装着し9:07奈良のリードでクライミング開始。目の前がチョ ックストンの滝だ。雪を払い残置をさがす。滝自体全面に氷はなく下部はミックス。 途中の残置にアブミをかけ、そこからダブルアックスで越えた。西片・寺田と続く。

 5ピッチ目チムニーの滝。垂直の洞窟状の内部の氷を登る。ビレイ中には分からなか ったが、天井が雪でふさがれていたので、天井に穴を空け強引に上部に抜けたと言う 。垂直の洞穴にかかるツララ状の氷は、サードの寺田が登る頃には無くなりかけてい た。フォローもザックが出口につかえ難渋する。

 6ピッチ目、またもやチョックストーン滝。これも奈良のリードで取り付く。残置は あるのだがどこから越えていいのやらムーブがわからず悩む。薄い氷に無理矢理スク リューでランニングを取りぬける事が出来た。2月の北アルプスとは思えぬ好天で暑 い位でビレイも楽だった。6ピッチ目の終了点に3名が顔を合わせたのが14:28。あと はボルトラダーを登れば2級の草付き。しかしルンゼ裏側に下りたらラッセル地獄は 目に見えている。同ルート下降とする。

 15:30、4回の懸垂で傾斜の緩むところまで下りた。目の前には青空の下、焼岳から 穂高連峰〜槍ヶ岳と北アルプス盟主のパノラマが広がる。普段目にする事が出来ない シチュエーションに一同感激。

 16:15ベースに戻り撤収。16:55出発。昨晩の降雪でトレールはほとんど消えている。 昨年は錫杖沢出会いから30分で槍見に戻れたが、今回は難渋する。18:00過ぎ日もと っぷり暮れたところで赤布を見失う。広いルンゼ状をトラバースするところだが、ど うやら違うようだ。

 無理に動いて体力を消耗するより、食料も予備日分あるので幕営を決定。山中でもう 一泊する。目の前には国道を走るクルマが見え、スキー場の場内放送も聞こえると言 うのに...。

2月13日(日)晴れ

 6時起床。7:30出発。昨晩迷った場所はまったくの勘違い。道は横でなく、下に続い ていた。少し下るとここだと思い込んでいたトラバース部分が現れた。大のオトナが 3人もいて迷うのだから、思い込みとは恐ろしいものである。

 8:30新穂高温泉の駐車場にたどり着いた。身支度を整え平湯バスターミナルにある『 レストラン&スパ・アルプス街道平湯』という温泉をを目指す。昨年7月にオープン と言う事だけあって清潔でくつろげる。何より男湯が「錫杖の湯」、女湯が「笠の湯 」という名称でちょっと感動。松本で昼食を取り、12:18松本インター。大月合流で ちょっと渋滞したが14:30八王子インター。いつものICI前で両名を下ろし、首都高の 渋滞もあり自宅に帰ったのは17:00近かった。

 今回の山行で印象に残ったのは昨年敗退したルートを登る事が出来たと言う事。リー ドは奈良に任せてしまったが、充実した山行だった。何より安房トンネル開通前は山 行計画の対象にさえならなかった錫杖岳が、道路事情にもよるが八王子インターから 3時間圏内でのアプローチが可能となった事が大きい。今回はルートの冬季の情報が 乏しく、3ルンゼのみという贅沢な山行だったが、次回は是非夏に訪れてみたい。錫 杖沢出会いから見上げる前衛フェースはド迫力でかっこいい!いつも行きなれた山域 でのクライミングが中心となってしまうが、初めて訪れる岩場に接する事はとても新 鮮で気持ちの良いものである。


★ エリア別山行記録へ戻る ★ INDEXへ戻る