野呂川支流/タル沢中俣「酒豪の滝」(初登)

ARIアルパインクラブ/有持真人、藤原敦紀、鈴木敏浩


<山行日> 2000年1月15日(土)<記録> 有持真人



 先日、登攀したタル沢の右俣の記録が「山渓/95年5月号/58P」に掲載され ていました。川崎市役所山岳会、山岳同人東京心岳会パーティの記録です。

 我々が登った氷瀑とは違う所ですが、地名、名称をこの記録にあわせて、今回 の記録を訂正しました。

 95年にタル沢右俣の記録が発表されていたので、どなたか我々が登ったタル 沢中俣の氷瀑を登った方、記録を見たと言う方がいましたらご連絡を下さい。

 もし、初登されているのであれば、今回の記録を取り消したいと思います。

<日程>   2000年1月15日(土)
<ルート>  南アルプス/野呂川支流/タル沢中俣「酒豪の滝」(命名)
<メンバー> ARIアルパインクラブ/有持真人、藤原敦紀、鈴木敏浩
<グレード> V+/180m/4P
<所要時間> 3時間(取付〜終了点)

<適期> 12月下旬〜3月中旬
    ※ 自転車でアプローチするなら、早い時期の積雪前
★ 写真集  ★ 概念図  ★ ルート図

<行動>

 奈良田(04:40)〜荒川出会(05:40/06:00)〜タル沢出会(07:00/07:20)〜酒豪の滝 取付(09:30/10:00)〜終了点(13:00/13:10)〜取付(懸垂下降)(14:10/14:40)〜 タル沢出会(16:00/16:10)〜荒川出会(16:35)〜奈良田(17:00)

 昨年、野呂川支流に未登の氷瀑探しに行った際に、タル沢にも目をつけ、出会 から左岸を少し登って氷瀑を探したが、それらしき氷瀑は全く見えなかった。

 その時にはあきらめて、すぐ横にある、白龍ルンゼ、日影ルンゼを初登する事 になった。

 今回登攀したタル沢の氷瀑は、1月8日に鳳凰三山/赤沢右俣を初登した際、 対岸にある荒川出会、野呂川周辺の氷結状態を確認している途中、池山吊り尾 根の中腹に発見したものである。

 後日に知った事だが、95年1月に川崎市役所山岳会、山岳同人東京心岳会 パーティによって、タル沢右俣が登られていたが、今回の中俣の氷瀑は未登で ある様だ。

 場所は、対岸から見て去年に初登した白龍ルンゼのすぐ右側(広河原より)に なる。見た感じではかなり大きな氷瀑であった。

 先週の赤沢はソロだったが、今度はメンバーも3人になり、早速登りに行く事 になった。

 先週末に雪が降り、一時的に自転車でのアプローチは難しい状態になったが、 水、木曜日と気温が高く、雨が降ったため雪は融けているだろうと推測し、先週 同様、自転車でアプローチする事にした。

 昨年まで開いていた奈良田のゲートは、今年は鍵がかかっている。早速、自転 車3台を連ねて出発。南アルプス林道に雪は全く無い。

 荒川出会までは緩やかな登りになっているので、変速ギアの無い折り畳み自転 車ではチョット辛い。しかし、1時間で荒川出会に到着。

<アプローチ>

 荒川出会から広河原方面は、坂もきつくあちこちがアイスバーンになっている ため走りづらい。タル沢出会まで約1時間。奈良田から14km地点だ。出会の 橋には「樽沢」と書いてある。

 出会の滝は水量も多く、奥に氷瀑があるなどとは想像もつかない。さて、アプ ローチだが、出会の谷も深く滝も大きいので、沢通しに登るのは不可能だ。

 地図を見ると、左岸は傾斜もきつく崖がある。右岸は最初の標高差500mの 急登を藪こぎで越えれば等高度線の間隔が比較的開いていたため、右岸から アプローチする事にした。

 100mほど藪こぎをすると、踏後らしきものが見えた。獣道かと思ったが、 あまりにもしっかりとした踏後なので、山仕事の作業道らしい。

 この道を歩いていくと、タル沢の上流に向かって続いている。所々とぎれてい る箇所もあるが何とか歩いていける。腐った木橋、鉄の階段を上り少し行くと、 堰堤が見える。この道は、堰堤工事の時の作業道の様だ。

 堰堤の上流が本流、右岸にある沢は枝沢である。この枝沢の上流と、堰堤の 少し上流の左岸に氷瀑が掛かっている。これは先週、対岸から確認したもので はない。目指している大滝はもっと上流だろう。とりあえず、この2つの氷瀑は後 で登ることとし、大滝を求めて前進する事にした。

 本流は、水量が多く通過できそうになかったため、右岸の尾根を高巻いたが、 かなりの高巻きになってしまった。尾根の上に出た時、正面に大滝が現れた。か なりデカイ。良くこれだけの氷瀑が未登で残っていたものだ。

 装備を着け、ナメ滝をクライムダウンし取り付きへと向かう。大滝の手前で左 岸から沢が出会っている。これが1/25000地図上に表示されている右俣で ある。川崎市役所山岳会、山岳同人東京心岳会パーティが登ったのは、この 右俣である。

 正面の大滝の右側が中俣、左側が左俣である。中俣は左俣よりスケールが大 きく、下部は中俣、左俣と氷瀑でつながっているためV字状の氷瀑になっている。

 今回は、スケールの大きい中俣の氷瀑を登ることにする。

 さあ、いよいよクライミングだ。3人なので、有持がオールリード、藤原、鈴 木がフォローで登攀を開始。

<クライミング>

1P IV−/40m(スクリュー×2)

   中俣直下の右側は簡単なので、左俣直下のナメから登りはじめる。氷の状態 は柔らかくなく、堅くなくベストの状態だ。30m直上して氷りのバンドを右へ15 mトラバースし、スクリュー2本でピッチを切る。

2P (左)V+/40m (スクリュー×6)(右)IV+/40m 

 このピッチは2本のラインを引くことができる。右ルートはIV+で上部で左 へトラバースし、ビレーポイント直下で左ルートと合流する。

 左ルートはビレーポイントから直上する。中間の約8mが垂直で少しかぶり気 味である。

 今日は、有持が左ルートをリード、藤原がフォロー、鈴木が右ルートをフォロ ーで登攀した。

 左側の氷の小さなバンドでスクリュー2本でピッチを切る。

3P V−/50m (スクリュー×4)

 このピッチも2ルートがとれる。右はV+はありそうだが、今日は氷質がかな り悪く、登る気にはならない。左はV−程度だが氷質はかなり良い。迷うことな く左を登る事にする。滝の落ち口をすぎると傾斜が落ち、ザイル一杯でピッチを 切る。

4P IV/50m (スクリュー×2)

 ここまで登ると傾斜もかなり緩くなりナメ滝と氷床が続いている。簡単な滝を 何カ所か越え、ザイル一杯になるまで登りピッチを切る。

 この上部は、一応、ナメ滝が続いているが氷床とII〜III程度のナメ滝にな っている。

 地図で確認してみても傾斜が緩く、これ以上のグレードの氷瀑はないと判断し ここで登攀を終了した。  この大滝は、中俣、左俣をまとめて「酒豪の滝」と命名した。これは、年末年 始に酒を飲みすぎて入院直前までいった藤原からとったものである。

<下降>

 まず終了点から右岸を歩いて下り、3P目の終了点(滝の落ち口)近くまで下 る。そして、立木を支点に45mの懸垂下降で2P目の終了点の氷の狭いテラス まで下降する。

 そこでVスレッドを作成し、50m一杯の懸垂で取り付きに戻る事ができる。

 懸垂は立木でもできるが、場所が少し悪いのでVスレッドの方が安定していて 良いだろう。

 取付からは来た道を歩いて戻れば、約50分でタル沢出会に戻る事ができる。 しかし、上部半分はトレースがしっかりと付いている訳ではないので、日が暮れ てからの下降は迷わないように注意が必要である。

<その他の氷瀑>

 今日は時間がなく、酒豪の滝/左俣と上流域を登る事ができなかったのが残 念だ。

 目測だが、酒豪の滝/左俣は2P/80mで、1P目はIV+、2P目は2本 ラインがとれ、左がVI−、右がV+程度で共に約15mだと思われる。左は下 部の発達がいまいちであったが、登れない事はないだろう。

 上流域については確認はしていないが、対岸から見た時に氷瀑らしきものが見 えたし、地図を見ても傾斜がかなりあるので、まだ氷瀑のある可能性はあるだろ う。今度、機会があったら登ってみたい。

 それから、下山時に堰堤上部にある枝沢の氷瀑を確認してきた。堰堤の右岸の 枝沢の氷瀑は、V+/20m。堰堤上部の本流左岸の氷瀑は、V−/40mとい った感じであった。トップロープも可能なので、時間が余ったときの練習にちょ うど良いだろう。

<あとがき>

 今回のこのアイスエリアは、アプローチが少々遠いが、積雪前であれば自転車 でアプローチする事ができるので、十分に日帰りも可能である。

 しかし、全ての滝を登るのは日帰りでは無理なので、1泊2日でじっくりと登 るのが良いだろう。


<装備>

 ザイル(50m×2)  アイススクリュー 10〜12本(Vスレッドを作るなら、長めが1本必要)  懸垂下降用残置シュリンゲ <参考時間> 徒歩(1泊2日) 自転車(前夜発日帰り) ・ 奈良田〜タル沢出会  (徒歩/4〜5時間)(自転車/2時間) ・ タル沢出会〜中俣下部 (1時間30分) ・ 取付〜終了点     (3時間) ・ 終了点〜取付/懸垂下降(1時間) ・ 中俣下部〜タル沢出会 (50分) ・ タル沢出会〜奈良田  (徒歩/4〜5時間)(自転車/55分) <参考グレード> 「タル沢大滝」  酒豪の滝(中俣) 2P目(左)V+(右)IV+ (180m/4P)        (左俣) 2P目(左)VI−(右)V+  (100m/2P)目 測  堰堤左/本流右岸の枝沢  V+/20m 目測  堰堤上部/本流左岸の枝沢 V−/40m 目測


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