遭難防止マ温暖化解明 観測装置「第二の人生」 |
山岳遭難防止を目的に、日本の登山家が北米最高峰マッキンリー(6194メートル)に 設置した自動気象観測装置がこのほど、地元のアラスカ州立大の国際北極圏研究セン ターに寄贈された。同峰は植村直己さんら世界的な登山家が遭難しした難峰。国立公 園内の設置許可期限の10年が迫り、撤去しなければならなくなったが、その利用価値 の高さから、同センターが観測を続けることになった。
観測装置を設置したのは日本山岳会科学研究委員会の大蔵喜福(よしとみ)さん(48 )。1990年6月、山頂北側のデナリパスと呼ばれる峠の上部の標高5715メートル地点 に風速計や温度計、気圧計など200キロの資材を運び揚げ、手製の櫓に組み込んだ。
以後、毎年6月に機材の点検とデータ回収を行ってきたが、その際には、荷物運びの ボランティアを兼ねて大学山岳部員を同行。部員減で実力低下が問題になっている各 大学山岳部に格好のトレーニングの場を提供してきた。
大蔵さんが機材の設置を思い立ったのは、山仲間だった山田昇さんの遭難死がきっか けだった。89年2月、3人のメンバーで挑んだ山田さんは、デナリパス近くで遺体で 見つかった。日本人最多の八千メートル峰9座を制した最強の山男もマッキンリーの 厳しい自然に屈した。84年2月には、冒険家の植村直己さんが冬季初の単独登頂成功 後、行方不明となった。
冬のエベレスト北壁に挑み続けた大蔵さんは、山田さんらの遭難原因を予想困難な強 風が原因と推測。「二度と悲劇が起きないよう、現地のデータが必要」と周囲に働き かけて観測を始めた。
その結果、冬のマッキンリーは気圧が低下してヒマラヤの七千メートル峰に匹敵し、 最大瞬間風速が84.5メートルに達するなど、貴重なデータを収集した。
大蔵さんの活動に注目したアラスカ州立大が、「地球規模の温暖化の解明にもつなが る」と、観測の継続を引き受けた。(9月25日 朝日新聞 朝刊)
ACHP編集部