槍穂周辺の遭難に関する新聞報道

◆涸沢カールで新雪雪崩1人不明 20人以上を巻き込む

三日午前十時ころ、北アルプス・涸沢(南安曇郡安曇村)で山スキーをしていた人な
ど二十数人が新雪雪崩に巻き込まれ、このうち二人の行方が分からなくなった。山小
屋関係者と無事だった人で捜索したところ、午後三時四十五分ころ、茨城県ひたちな
か市、会社員井下典子さん(29)が動けなくなっているのを発見。大阪市生野区、
大学生松本悠作さん(19)は見つからず、同日夕に捜索を打ち切った。豊科署によ
ると、井下さんは全身を打つなどのけが。

同署によると、自力脱出した人の中にも負傷した人がいるとみられるが、いずれも命
に別条はないという。三日は全員が涸沢の山小屋に泊まった。同日は降雪と強風でヘ
リコプターが飛べず、視界もきかない状態。四日、天候の状況を見て県警山岳遭難救
助隊員や豊科署員が現地に赴き、捜索を再開する予定だ。

同署などによると、雪崩は「涸沢カール」と呼ばれるU字状の谷の前穂高岳寄り斜面
で、幅約四十メートルほどの範囲で発生したとみられる。

山小屋関係者によると、冬型の気圧配置の影響で涸沢では一日から雪が降り続き、積
雪は二メートル近くに達しており、三日は各所で大小の雪崩が起きていたという。

松本さんは大学のスキーサークル仲間十一人と涸沢に来ていた。井下さんとは別パー
ティー。(11月4日 信濃毎日新聞)

◆朝から大小の雪崩 涸沢で山スキーの学生ら直撃

「『どーん』というようなすごい音がした」

北アルプス・涸沢で新雪雪崩が二十数人を巻き込んだ三日午前十時ころ、涸沢の山小
屋にいた従業員は、涸沢の上部の「吊尾根」方面で、雪崩の音が響くのを聞いた。
「朝からあちこちの斜面で大小の雪崩が起きていたが、ひときわ大きな音だった」
【本記1面に】

豊科署によると、雪崩が発生したころ、涸沢は曇りで、時々雪が舞っていた。涸沢
カールの斜面でスキーや歩きで新雪の感触を楽しんでいた人たちは、突如発生した雪
崩に押し流され、幅約四十メートルにわたり斜面に散らばり、止まったという。

山小屋従業員が救出に向かったが、茨城県の会社員井下典子さん(29)と大阪市の
大学生松本悠作さん(19)が見つからないため、午後二時半ころ、豊科署に通報。
吹雪で視界がきかなくなり、捜索を打ち切った後、少し離れた場所で動けなくなって
いた井下さんが見つかった。

松本さんは大学のスキーサークル仲間十一人と一日に大阪を出発、五日に帰る予定
だった。山小屋関係者によると、涸沢カールでは毎年この時期、大学などのスキー団
体が合宿に訪れている。ここ数年は雪が少なかったため滑れず、りょう線を歩くなど
の訓練をしていたという。それ以前は、滑ることができた年でも雪崩が起きるほどの
量の新雪はなかったといい、「今年のようなどか雪は経験がない」と驚いていた。
(11月4日 信濃毎日新聞)

◆斜面

今年は思いもかけず早めに、山々に雪が来た。行こう行こうと思っているうちに、乗
鞍岳も冬の装いになってしまった。北アルプスは向こう半年間、限られた登山者だけ
の世界になる

   ◆

乗鞍岳では来年からマイカー規制が実施される。決まったのは今年春だった。それ以
降、山頂近くまで登る道には週末ともなると駆け込みの車が押し掛け、渋滞の影響は
時にふもとにまで及んだ。交通整理の人にドライバーのいらいらがぶつけられ、気の
毒なくらいだった―。知人が今年の乗鞍高原の混雑ぶりを話してくれた

   ◆

魅力はゆったりしたおおらかさにある。山頂一帯はピークを幾つも連ねる。山すそに
目を走らせると気持ちまで広くなる。作家深田久弥は著書「日本百名山」で「これほ
どの豊かさと厚みを持った山も稀(まれ)である」とたたえた。マイカーを降りてこ
そ、良さがよく分かる山だ

   ◆

歴史をたどれば飛騨側からの方が、より多く親しまれてきた山と言えるだろう。顔を
二つ持つ異形のつわもの両面宿儺(りょうめんすくな)などの伝説が、岐阜県側に残
る。約三十年前、平湯峠から乗鞍スカイラインが開通してからは、道路事情に劣る長
野側はますます旗色が悪い

   ◆

ふもとからの姿や懐に抱える自然の多彩さは、身びいきでなく飛騨より信州だと思
う。深田も安曇村からの姿を「日本で最も優れた山岳風景の一つ」と書いている。マ
イカー規制は乗鞍を“信州の山”にするチャンスになる。知恵の絞りどころだ。(1
1月4日 信濃毎日新聞)

◆悪天候で捜索難航 北ア涸沢の新雪雪崩遭難

北アルプス・涸沢(南安曇郡安曇村)で三日発生した新雪雪崩で、県警は四日、行方
が分からなくなった大阪市の大学生、松本悠作さん(19)の捜索を悪天候のため見
合わせた。天候回復を待ち、五日、ヘリコプターで捜索に向かう予定。涸沢では四日
も雪崩が相次いでおり、登山やスキーなどで入山した五十人近くが山小屋に足止めさ
れている。

県警は四日、山岳遭難救助隊員と豊科署員を上高地に待機させたが、降雪と強風でヘ
リが飛べず、徒歩での入山も雪崩の恐れがあるため断念した。同署によると、山小屋
従業員らによる捜索は、悪天候と雪崩による二次遭難の恐れから行われなかった。

涸沢小屋によると、この日の涸沢は終日雪が降り、積雪は約三メートル。涸沢から横
尾に下る沢沿いの登山道でも雪崩が起きているという。(11月5日 信濃毎日新
聞)

◆斜面

秋の盛りから真冬へ一っ飛びに季節が急ぐ。まるで晩秋を忘れたかのように冷え込
み、里にも雪を運んできた。標高の高い山岳地帯は積雪が深くなっている。だから思
い掛けないことが起きる

   ◆

北アルプス・穂高連峰の登山基地、涸沢(約二、三〇〇メートル)で、山スキーなど
をしていた人たち二十人余りが雪崩に直撃されている。けがで済んだ人のほか、一人
の行方が分からない。まだ十一月の初めだ。いくら雪の早い年とはいえ、今ごろ大勢
の人を巻き込む雪崩の発生に驚く

   ◆

涸沢は北穂、奥穂や前穂高の峰々に囲まれた巨大なすり鉢状をしている。いわゆる
カール地形と呼ばれるもので、かって氷河が山肌を削り取った跡だ。三方を急な斜面
が囲んでいる。積もった雪は、絶えずすり鉢の底へと崩れ落ちる。“雪崩の巣”と恐
れられる理由であり、それが例年になく早かった

   ◆

山だけではない。福井県内の北陸自動車道でトラック、乗用車など二十台余りが玉突
き衝突したのも、寒気の災いだった。あられが降り、トンネルを出た途端に路面が
シャーベット状になっている。一台がスリップしたところへ次々に、後続の車がぶつ
かっていった。避けるのは難しい

   ◆

おそらくこの時期、冬用タイヤに切り替えている車は少ないだろう。しかもトンネル
の入り口付近では何でもなくても、山を隔てた出口の気象条件は異なる。一転して雪
だったり、凍結していたりもする。十分に身構える間もなく、冬が辺りを支配してい
る。(11月5日 信濃毎日新聞)

◆北ア・槍ケ岳で山小屋の従業員3人が行方不明

長野県・北アルプスの槍ケ岳(3180メートル)の山頂付近にある山小屋「殺生
ヒュッテ」の経営者から5日、「4日から下山した従業員3人と連絡が取れない」と
豊科署に連絡があった。付近は悪天候のため、救助活動が出来ず、6日早朝から捜索
する予定だ。

調べでは、行方不明になっているのは、▽同県松川村、横沢明浩さん(64)▽大阪
市東淀川区瑞光2丁目、沢田健司さん(32)▽千葉県船橋市海神5丁目、坂本洋さ
ん(17)。3人は4日早朝、上高地に向けて下山を始めたが、同日午前11時ごろ
に経営者と携帯電話で話したのを最後に連絡が取れなくなったという。

殺生ヒュッテ近くの「槍ケ岳山荘」の従業員は、「うちの従業員4人と一緒に下りる
予定だったが、ふぶいていたので見送り、別々に行動することになった」と話してい
る。 (11月5日 asahi.com 21:03)


◆北ア山小屋 100人足止め 大雪でビバークも

この時期としては異例の大雪に見舞われている北アルプスの槍・穂高連峰周辺で、登
山者や小屋じまいした山小屋の従業員が自力下山できず、ヘリコプターを待つ事態に
なっている。五日現在、少なくとも二カ所で五人がビバーク(露営)しているとみら
れ、三日に雪崩事故があった涸沢を中心に、六カ所の山小屋に百人余が足止めされて
いる。

豊科署などによると、前常念岳では、二日に南安曇郡堀金村から入山した東京の男性
(42)と岐阜県の女性(29)のパーティーが石室式の避難場所で身動きがとれな
くなり、女性から携帯電話で連絡を受けた家族が四日、警察に救助を要請した。

槍ケ岳では、殺生ヒュッテの男性従業員三人が四日に槍沢から上高地に向かったが、
五日になっても下山しないため、同ヒュッテ経営者が同署に届け出た。四日午前十一
時ころ、経営者に携帯電話で「槍沢にいる。心配しないで」と連絡があったという。
県警は六日、天候回復を待って、ヘリで両パーティーの救助に向かう予定だ。

一方、槍岳山荘では、四日にスタッフ四人が槍沢経由で下山するはずだったが、吹雪
で視界がきかず、胸までの積雪で雪崩の危険もあるため断念した。「いつから雪が降
り続いているか、日にちの感覚がなくなってしまった」と男性従業員。

北穂高小屋のスタッフは例年、涸沢経由で下山するが、今年は雪崩が相次ぎ、断念し
てヘリを待つことに。経営者の小山義秀さんは「食料や燃料は二カ月はもつが、次の
晴れ間が下山のワンチャンスだ」。常念小屋でも十二人が停滞。四日に登山者と従業
員の計五人が夏道の一ノ沢から同郡穂高町に下ろうとしたが、胸まで潜る積雪のため
引き返した。山崎直人支配人は「大雪で下山をヘリに頼るのは初めて」と話した。
(11月6日 信濃毎日新聞)

◆大雪北ア 100人 ヘリで下山 涸沢雪崩 けが人も搬送

異例の大雪に見舞われた北アルプス・槍穂高連峰周辺で不明になったり身動きがとれ
ない計百人余の登山者や山小屋従業員らの搬送や捜索が六日午前、県警や民間のヘリ
コプターを使って始まった。三日に一人が行方不明になる新雪雪崩が起きた涸沢で
は、雪崩に巻き込まれ山小屋に待機していたスキーヤー二十八人を収容。このうち、
けがをした三人が南安曇郡豊科町内の病院に運ばれた。

涸沢の雪崩で行方不明になっているのは大阪市の大学生松本悠作さん(19)。県警
は涸沢に山岳遭難救助隊員を派遣するとともに、一緒にスキーをしていた人など関係
者から事情を聴き、雪崩発生時の状況を調べている。

豊科署によると、病院に運ばれたのは、茨城県ひたちなか市、会社員井下典子さん
(29)と同県日立市、会社員石川隆志さん(31)、奈良市の大学生松尾彩さん
(19)。井下さんは全身を打ち、石川さんは右手などに凍傷を負っている。松尾さ
んは頭を打つけが。

一方、二日に同郡堀金村から入山し、前常念岳で身動きがとれなくなりビバークして
いた東京の男性(42)と岐阜県の女性(29)は午前九時五十分ころ、県警ヘリに
収容された。生命に別条はないという。

四日に槍ケ岳の殺生ヒュッテを出て槍沢経由で上高地に向かい、連絡が取れなくなっ
た男性従業員三人は依然行方が分かっていない。(11月6日 信濃毎日新聞)

◆北ア涸沢雪崩 不明者はツアー客 主催者から事情聴く

北アルプス・涸沢(南安曇郡安曇村)で三日に発生した新雪雪崩で、県警は六日、行
方不明になった大阪市の大学生松本悠作さん(19)の地上での捜索を打ち切った。
七日以降、ヘリコプターで捜索する。雪崩に巻き込まれたのは、新潟県妙高高原町の
スキー学校が主催したツアーの参加者と引率者ら二十九人で、豊科署は現地での判断
が適切だったか、関係者から事情を聴いている。

ツアーは初滑りを目的に毎年この時期に涸沢で行われており、三十五回目。松本さん
が所属する南大阪大スキー部は十四回目の参加で、今年は部員十四人とOB三人が二
日に涸沢に入った。

関係者の話を総合すると、二十九人は三日、涸沢ヒュッテから前穂高岳寄りに約五十
メートル離れたなだらかな斜面でスキーをしていた。雪崩は上方から約四十メートル
の幅で発生。ある参加者は「押し寄せる雪の高さは五メートルほどあった」と振り
返った。

昨年までツアーに同行した同大スキー部顧問松浦宏之さん(45)は「今年のように
積雪が多かった年はなく、これまでは危険と感じたことはなかった」と話した。

一方、四日に槍ケ岳の殺生ヒュッテから槍沢経由で上高地に向かい、連絡が取れなく
なった同ヒュッテ従業員三人は、北安曇郡松川村、横沢明浩さん(64)、大阪市、
沢田健司さん(32)、千葉県船橋市、坂本洋さん(17)で、依然行方不明。七日
の天候回復を待ち、ヘリで捜索を再開する。

また、六日午後一時十五分ころ、北アルプス爺ケ岳に向け単独で入山した川崎市の会
社員男性(47)が下山予定の四日を過ぎても戻らない―と、大町署に届け出があっ
たが、男性は同日午後二時五十分ころ、県警ヘリで無事救助された。(11月7日 信
濃毎日新聞)

ACHP編集部

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