大自然の懐に抱かれ、日常生活と異なる体験をしてみたい。子供のころのように時間
を忘れて野山を駆け回ってみたい。そんなアウトドア志向の人たちが世代を超えて急
増している。巨大な岩壁に挑むロッククライミング、川風にゆったりと身を委ねるカ
ヌー、休日は庭づくりに汗を流す滞在型農園…。道央にはこれら夢を実現できる自然
や施設がたくさんある。時まさに夏−。数々の「屋外体験」の魅力を探る。
◆命綱を握るパートナー。しっかり腰を据えて支える ファイト〜発奮 “登
破”に全身全霊
手を伸ばして岩のくぼみに指をかけ、ぐいっと体を持ち上げる。80キロの自分の体重
が、両手両足の指にのしかかる。人工壁とは違って、触れた岩がぐらついたり、手に
痛く当たったり、自然ならではの険しさがある。
◆海を背に岩登りを楽しめるのが赤岩山のだいご味だ
10メートルほども登っただろうか。見下ろすと、ごつごつした地上の岩が目に入っ
た。背後には遠く石狩湾の海面が見え、その瞬間、くらっときた。命綱を付けている
とはいえ、やはり、怖い!
約30メートル上の岩棚で、命綱を握っているベテランの沼崎勝洋さん(59)が、「さ
くさく登った方が楽だよ」と叫んだ。
道内屈指のロッククライミング場となっている小樽市赤岩の赤岩山(371メート
ル)。市街地から北へ4キロほど離れた石狩湾沿岸に、岩場がそそり立っている。既
に大正時代に岩登りの記録があり、今では200ものルートができている。広告折り込
み業の沼崎さんは30年以上、赤岩山に通っている「ぬし」的存在だ。
ロッククライミングは、両手両足の先の4点で岩にしがみつく。1点を上に動かして先
に進み、残り3点で体を支える「3点支持法」。
◆ヘルメット、ハーネス、カラビナ、チョーク・バック…。なかなかの重装備だ
初心者用のルートも、頂上近くは岩肌がつるつるしていて、くぼみを探すのに時間が
かかる。筋肉が張ってきた。岩棚まで数メートルを残し、ついにギブアップ。ルール
違反だが命綱を伝って登り切った。運動の汗だか、冷や汗だか分からない水分で、体
中びっしょりだ。
赤岩山の常連では最高齢の藤女子大教授、青木正次さん(66)が難度の高いルートに
挑戦していた。「重力を克服したときの自由な感じが魅力」という。海外での登山に
挑戦し続けている青木さんにとって、ロッククライミングは登山技術を磨く場でもあ
る。
◆最近は若い女性も多数、赤岩を訪れるようになった。
札幌市北区北12西3の山道具販売店「秀岳荘」のクライミング担当、小田光昭さん
(26)は、「岩登り用ウエアがカラフルになってきたのも、人気の秘けつのようで
す」と指摘する。屋内人工壁を持つスポーツ施設が増えていることもファンの増加に
つながっている。沼崎さんは「女性は男性より股(こ)関節が柔らかく、技術習得が
早い。それで面白くて、のめり込む」と話す。
ロッククライミングは、老若男女に愛されるスポーツといえそうだ。
◆楽しむとき 過信は禁物 小樽山岳連盟・沼崎勝洋さんの話
ロッククライミングは、登山技術の一つとして発達しましたが、装備を必要最小限に
して、肉体の力を最大限に生かしてスポーツ性を追求するフリー・クライミングに人
気が集まり、すそ野が広がりました。
しかしロック・クライマーの数が増えると、マナーの悪さも目立ってきました。
最も困るのは、自然の岩場でルートの途中の壁面を削って、足や手を引っかけるくぼ
みを作ってしまうことです。自分が登ることができないからそうするのでしょうが、
自然のままの難しさを克服することも岩登りの醍醐(だいご)味ですので、やめてほ
しいですね。
人工壁を経験した後、自然岩に挑戦する人に多いのですが、安全への過信も問題で
す。人工壁はきちんと管理されていますが、自然岩に打ち付けてある支点は、いつだ
れが取り付けたか分かりません。赤岩山は海に面しているため、鉄製の支点がさび、
抜けやすくなっている所もあります。ちょっとした不注意が大事故につながるスポー
ツだけに、安全には万全を期してください。
<メモ>
▽交通手段 JR小樽駅前バスターミナルから、中央バス「おたる水族館行き」に乗
り、「赤岩2丁目」で下車し、徒歩約20分▽道具の価格 専用靴1万円前後、ハーネス
1万円前後、滑り止めの「チョーク」2千円前後。
◆道央圏の主な人工壁施設
1)NACニセコアドベンチャーセンター
(所在地) 倶知安町山田179−53
(電話番号) 0136・23・2093
(人口壁の規模[単位はm]) 高さ11×幅12
(料金) 道具貸与=1日2000円/道具持参=1日1000円
2)道立総合体育センターきたえーる
(所在地) 札幌市豊平区豊平5−11
(電話番号) 011・820・1703
(人口壁の規模[単位はm]) 高さ15×幅6
(料金) 4時間400円
(備考) ロープのみ貸与
3)秀岳荘白石店
(所在地) 札幌市白石区本通1南2
(電話番号) 011・860・1111
(人口壁の規模[単位はm]) 高さ4×幅18
(料金) 1日500円
(備考) 道具貸与なし
4)滝野すずらん丘陵公園
(所在地) 札幌市南区滝野247
(電話番号) 011・592・3333
(人口壁の規模[単位はm]) 高さ13×幅9
(料金) 無料(駐車料金400円)
(備考) 道具貸与なし
(2002/08/01(木) 北海道新聞朝刊)
ACHP編集部
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