大日岳事故訴訟初弁論、国は請求棄却求める

遺影を抱き、入廷する原告側遺族ら(富山地裁で)

北アルプス大日岳(標高2501メートル)頂上付近で二〇〇〇年三月、旧文部省登
山研修所主催の研修会に参加した大学生二人が雪庇(せっぴ)崩落に巻き込まれて死
亡した事故で、死亡は引率講師陣に過失があったからだとして、二人の遺族が、国を
相手取り約二億七百九十万円の損害賠償を求めた訴訟の第一回口頭弁論が二十二日、
富山地裁(永野圧彦裁判長)であった。国側は「講師に雪庇崩落の予見可能性はな
かった」と主張して訴えの棄却を求め、全面的に争う姿勢を示した。

原告側は「講師陣がルート選定に注意義務を尽くさず漫然と進行した結果、研修生を
雪庇上に進入させた過失がある」と主張していた。これに対し国側は「(事故は)講
師も経験したことのない巨大で特異な雪庇が、見かけの山稜を形成していたことによ
る」と反論。「講師には雪庇崩落の予見可能性はなく、国にも責任を負うべき理由は
何ら存在しない」などと主張した。

また、国側は「写真測量を基にした雪庇観測資料を検討した結果、(講師や研修生)
二十七人が乗ったことで巨大な雪庇の崩壊につながったと直ちに認められない」とも
指摘し、雪庇への進入と雪庇崩壊との因果関係も否定した。

訴えなどによると、死亡した都立大二年内藤三恭司(さくじ)さん(当時二十二歳)
と神戸大二年溝上国秀さん(同二十歳)は、立山町にある同研修所主催の「大学山岳
部リーダー冬山研修会」に参加。五日目の同五日午前十一時二十五分ごろ、講師や研
修生ら二十五人とともに大日岳山頂付近に到達し、山頂と思って休息していたところ
足下の雪庇が崩壊した。

提訴したのは、内藤さんの父親悟さん(53)と母親万佐代さん(54)(横浜市保
土ヶ谷区新井町)、溝上さんの父親不二男さん(56)と母親洋子さん(47)(兵
庫県尼崎市常松)の計四人。

【「国は責任逃れ」遺族が怒りの陳述】

この日の法廷では、内藤さんの両親と、溝上さんの父親不二男さんの三人が意見陳述
を行い、息子を失った深い悲しみと国に対する憤りを涙ながらに語った。

内藤悟さんは、「息子は、今回の山登りは国の研修で冬山を教えてもらうんだ。絶対
安心だから今回だけは心配しなくていいよ、と言って出掛けた」と振り返り、「(当
事者である)文科省が自ら作成した報告書の結論が予見不可能で、それを基に国が一
切の責任なしと判断するという理不尽なことが、この日本でまかり通るのか」と語気
を強めた。

また、妻の万佐代さんは「学校教育をつかさどる文科省が真実を隠し、責任はないと
逃げの体制をとり続けたことに深い落胆を覚えます」と力を込め、「生きて帰ること
を学ぶはずの研修でなぜ息子は死ななくてはならなかったのでしょうか」と声を震わ
せた。

不二男さんは、文部科学省事故調査委員会の報告書について触れ、「雪質がどうのこ
うのと専門用語と数字の羅列で、私たちが知りたい、(事故が)人為的ミスか否かの
判断には一切触れなかった」と怒りをぶつけ、「文科省は今まで事故の責任逃れに全
力を注いできたのではないかということ。そのシナリオは事故が起こった直後から始
まっていたのではないかという不信感ばかりです」と締めくくった。 (5月23日
yomiuri on-line 富山)

ACHP編集部

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