北アルプス・乗鞍岳を仰ぐ観光道路について、長野、岐阜両県が来年度からマイカー
を全面規制する方針を決めた。環境への負担を減らしつつ観光客を迎えるには、細部
にわたる双方の連携が鍵となる。
対象は長野側が県道乗鞍岳線の三本滝―県境区間、岐阜側は来年七月から無料化され
る乗鞍スカイラインだ。全体では二十八キロ余に及ぶ。
地元の南安曇郡安曇村には通年ではなく、繁忙期のみの「部分規制」を望む声があっ
た。
それが押し切られたのは、岐阜側の強い意向とともに、頻繁な車の往来は山岳観光に
似つかわしくないとする考え方の広がりゆえだろう。
お客が来づらいような規制をあえて実行するのは、確かに抵抗感を伴う。とはいえそ
の観光を成り立たせているのは、繊細で壊れやすい自然環境にほかならない。
無秩序な車の流入と排ガスによる大気や植生へのこれ以上の悪影響は避けるべきだ。
標高約二千七百メートル地点という国内で最も高所を走る乗鞍の車道での試みは、全
国的にも関心を集めるだろう。
両県の方針は総論では一致した。だが来年度の実施を踏まえると、限られた時間内に
なお調整の必要な事柄が少なくない。
同じ「通年規制」といっても、岐阜県のスタート予定は五月十五日なのに対し、長野
県は積雪の多さなどから七月一日開通に間に合わせるのがやっとである。
長野側は道路が狭く、カーブもきつい。バスのすれ違いやマイカーの乗り換え場所を
どうするか、県境を挟んで大きな差があってはまずい。
観光や交通案内で双方が情報を共有し、速やかに伝達する仕組みを築くのは何よりの
基本である。
岐阜県が今後、法定外目的税として「乗鞍環境保全税」(仮称)を導入するとすれ
ば、固有の事情をきちんと説明する責任も重い。
貴重な自然を守るという点で、マイカー規制は一歩にすぎない。高山植物の踏み荒ら
し、ごみの放置など観光客のマナーも含め、改めていかなくてはならない。自然観察
の手助けをする専門家や楽しめる案内を同時に充実させていきたい。
無料になったビーナスラインにはこの連休中、例年以上に車が集まった。渋滞や環境
保全への対策が万全でないと、訪れた人にも地元にも不満が残る。乗鞍の場合も人々
に戸惑いをもたらさないよう、論議をしっかり詰めるときだ。(5月9日 信濃毎日
新聞)
ACHP編集部
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