奥羽山系・源太ケ岳雪崩事故に関するマスコミ報道

◆岩手医大山岳部4人が奥羽山系で遭難、教授1人行方不明

13日午後3時前、岩手医大山岳部のパーティーから、「山スキーをしていて雪崩に
遭い、3人が自力で脱出したが、1人の行方が分からない」と岩手県警に通報があっ
た。

同県警によると、同日午後2時半ごろ、同パーティー4人が、同県松尾村の奥羽山系
・源太(げんた)ケ岳(1541メートル)東側斜面で雪崩に遭ったという。行方不
明になっているのは、同大の堀口正治教授(55)とみられる。

4人はこの日朝、同村の松川温泉から日帰りの予定で山スキーで源太ケ岳に向かった
という。

同県警などがヘリなどを使って捜索している。(1月13日 asahi.com 17:31)

◆奥羽山系で雪崩、1人不明

「生きていてほしい」。松尾村の源太ケ岳(1541メートル)で13日午後に起き
た雪崩で、岩手医大山岳部パーティー4人が遭難した。前山岳部長の堀口正治教授
(55)が行方不明に、3人が遭難現場で厳寒の中、翌朝までビバークを強いられる
状況に、ふもとの温泉旅館に続々と集まった県警や大学、山岳会関係者らは、4人の
無事救助を祈った。

この日夕、4人が入山前に立ち寄った松川温泉の峡雲荘に現地本部が設けられた。岩
手署員や地元山岳会メンバーらが慌ただしく出入りし、山岳スキー用具や無線機など
を念入りにチェックしながら14日未明からの救助活動に備えた。

峡雲荘支配人の高橋俊彦さん(47)は「4人は山慣れしたグループに見えた。簡易
テントや食糧も持っていたようなので3人は大丈夫だと思うが、行方が分からない1
人がどうなのか、心配です」と話した。

旅館に泊まっていた山形県の男性公務員(33)は「スキーから戻ってくると、パト
カーや報道の車が来ていて何かと驚いた。全員無事でいてくれればいいが……。もう
温泉気分ではなくなった」。旅館に駆けつけた岩手医大山岳部員の男性は不安そうな
表情で、「無事を祈るだけです」と語った。

この日夜に緊急記者会見した岩手医大の斉藤和好学生部長は「堀口教授は山の知識も
多い方で、生きて帰ってくると信じています」。大学は14日に学内に対策本部を設
ける。

源太ケ岳周辺に詳しい元環境省自然公園指導員の安野木正さん(76)によると、雪
崩の起きた東斜面は樹木があまりなく、この時期は雪崩が起きやすいという。「北の
尾根へ出て縦走し、八幡平方面へ向かえば、雪崩には遭わなかっただろう。ここ数日
暖かい日が続いた影響もあると思う」と話した。

南岩手遭難対策協議会山岳救助隊の四戸寛次郎隊長(68)は「気温が上がって雪の
水分が多くなっていた。スキーで不安定な斜面を横切れば、表層をナイフで切ったよ
うになり、少しのショックでも雪崩は起きる。雪の状態についての判断を間違った可
能性もある」とみている。(1/14 ashi.com 岩手版)

◆雪崩遭難の岩手医大教授を遺体で発見、学生の1人負傷か

岩手県松尾村の奥羽山系・源太ケ岳(1541メートル)で13日午後に起きた岩手
医大パーティーの雪崩遭難で、行方不明になっていた医学部教授の堀口正治さん(5
5)が14日午前7時半ごろ、遺体で見つかった。現場近くの深さ1メートルの雪中
に埋まっているのを捜索隊が発見した。

救助を待っていた3人のうち2人が県防災ヘリで救助され、1人が自力で下山する見
込み。医学部2年の武田三十郎さん(24)は足にけがをしているらしい。(1月1
4日 asahi.com 08:54)

◆雪崩事故で携帯電話が命綱に

松尾村・源太ケ岳(1、545メートル)で13日遭難した4人の岩手医大登山パー
ティーは、携帯電話で110番通報し救助を求めた。犠牲者一人を出したものの3人
は助かり、携帯電話の威力が発揮された。しかし、現場は携帯電話の通話エリア外
で、地形や気象によっては通話ができなかった可能性もあった。県警は「山岳遭難で
威力を発揮する携帯電話だが、過信は禁物」と注意を呼び掛けている。

医大のパーティーは13日午後2時48分、現場から「源太ケ岳に登山中、雪崩に遭
い、3人は自力で脱出したが一人が行方不明となった」と通報した。連絡を受けた岩
手署と県警本部は、救助ヘリを急行させた。

しかし、ヘリは強風のため救助を断念。岩手署は携帯電話に「今日はヘリを引き揚げ
る。明日早めに救助に向かいます」と連絡し、メンバーは「装備はしっかりしている
ので大丈夫だ」と元気に答えたという。

岩手署の高橋岩人署長は「現場と携帯電話で連絡が取れたことは救いだった。連絡手
段が無ければ、救助活動は遅れていた。山岳遭難で大きな強みだ」と携帯電話に一定
の評価を下す。

岩手医大によると、遭難パーティーは警察への通報のほか、大学関係者とも連絡を取
り合った。電池の消耗を抑えるため「3人とも元気だ」など必要最小限の会話で救助
の到着を待ったという。

携帯電話のNTTドコモ、au(エーユー)、J−フォン各社によると、遭難現場の
源太ケ岳は通話エリア外。しかし地形や天候によっては通話可能になる場合がある。
今回は現場の見晴らしが比較的良かったことが幸いしたとみられる。

携帯電話が冬山遭難で威力を発揮したケースは多い。昨年2月に青森県の八甲田山で
迷った県人4人が携帯電話で110番通報。1999年にも栗駒山で道に迷った男性
が携帯電話で助けを求め、無事救助された。

NTTドコモ東北広報室は「エリア外でも通話は可能だが、山岳部では同じ場所でも
天候、地形で通話ができない状態になるので過信はしないで」と利用者に説明してい
る。

【写真=遭難した3人を救出し、下山する救助隊。携帯電話による通報と連絡が早期
発見につながった=14日午前10時40分、松尾村】 (1月14日 岩手日報)

◆源太ケ岳遭難 黒瀬さん状況語る

救助隊員とともに自力で下山した。先頭から5人目が黒瀬さん=松尾村の松川温泉の
源太ケ岳登山口近くで

松尾村の奥羽山系・源太ケ岳(1545メートル)で起きた雪崩による岩手医大パー
ティー4人の遭難は、医学部教授の堀口正治さん(55)が犠牲になる悲しい結末に
なった。自然の猛威は、冬山登山のベテランたちの判断をはるかに超えていた。自力
下山して14日午後、大学内で会見した医学部講師の黒瀬顕さん(38)の話などか
ら遭難の状況を再現してみた。

13日午後2時半。源太ケ岳山頂近くで4人が雪洞を掘り始めて15分ぐらいたった
時だった。

硬い雪面が足元から点状に崩れた。続いて山頂に向かって右側の斜面が大きくなだれ
た。

「体を動かす余裕もなかった」。3人は100メートルほど流され、雪面に体が出て
止まった。堀口さんの姿は見えなかった。

黒瀬さんと医学部3年の村瀬邦崇さん(27)は、堀口さんを必死で捜し続けた。ス
トックをつなげたゾンデ棒で、1時間近く、崩れた雪が積み重なったデブリの雪面を
刺して探ったが、手ごたえはなかった。

強風はやまず、日没に。3人はさらに安全な南側に雪洞を掘ってビバークした。

強風で、雪洞の入り口はすぐに雪で埋まりそうになった。2時間交代で、除雪作業を
続けた。温かい飲み物で空腹をしのいだが「お互いあまり話はしなかった」。

   ◆          ◆

14日午前3時、警察官や県山岳会、八幡平山岳遭難救助隊らの第1陣28人がス
キーを履いて現場に向かった。

6時25分、ビバークしていた3人と合流。堀口さんの捜索を始めた。

約1時間後、深さ約1メートルの雪中で遺体を見つけた。

堀口さんが埋まっていたのは、3人が自力脱出した場所より15メートルほど斜め下
方だった。

7時半、右足打撲で歩けない医学部2年の武田三十郎さん(24)が県防災ヘリで救
出。続いて村瀬さんもヘリで下山した。

8時40分、堀口さんの遺体がヘリで運ばれた。

   ◆          ◆

4人は、何度も一緒に冬山に行く仲間だった。堀口さんと黒瀬さんの源太ケ岳の冬山
登山は20回を超えた。雪崩の起きやすい場所も十分心得ていた。

源太ケ岳山頂東側には雪がひさし状に発達する雪屁(せっぴ)があるため、南側を回
り込んで山頂に向かったという。計画では大深岳の避難小屋で泊まる予定だったが、
強風のため、源太ケ岳で雪洞ビバークすることにした。

黒瀬さんは「雪屁のない緩斜面を選び、雪崩に遭わない教科書通りの策は講じたはず
だ」という。

「今でもあの場所が間違いだったとは思えない。なぜ雪崩が起きたのか。我々の予知
を超えていた。もう一度考える時間がほしい」

   ◆           ◆

岩手医大の立花成勝事務局長はこの日午前、記者会見し、「救助にあたった関係者に
心から感謝したい。無事を祈っていたが、こんな結果になり残念だ。これを教訓に再
発防止策を検討したい」と話した。(1/15 asahi.com 岩手版)

◆「冬山の怖さ」再認識を
  
平年に比べ降雪量が多い今冬は、雪崩の危険性がいつになく高まっていた。雪崩への
万全な警戒が不可欠であったが、県内の冬山で痛ましい惨事の発生となった。

松尾村の源太ケ岳(1、546メートル)で13日、登山中の岩手医大パーティー4
人が、雪崩に襲われ、2人が死傷した遭難事故である。この惨禍は、冬山が秘めてい
る猛威の恐ろしさをあらためて示した。

4人は冬山のベテランであった。しかし、雪崩に巻き込まれた。食料や装備に万全を
期しての入山だったが、4人がたどった源太ケ岳東斜面ルートは表層雪崩の多発地帯
として知られている。危険な個所や地形も把握していたとされるが、気象判断の誤り
や登山計画書の未提出など登山の基本に欠けていたことは否めない。

「まだ大丈夫だろう」「何とかなる」といった過信はなかったのか。過信は惨禍を招
く大きな要因の一つである。「予測が甘かった」との証言もある。

冬山には体力も経験も、自信も、周到な計画をも無にする危険が待ち構えていること
を何より忘れてはならない。自然は人知をはるかに超えるのである。

警戒と備えを怠るな

今回の雪崩は表層雪崩である。雪崩には以前の積雪面に降り積もった新雪層だけが動
く表層雪崩と、斜面の地肌近くの雪までが動く全層雪崩の2つがある。

全層雪崩は、発生前に雪塊が1日に数センチ程度動く前兆現象があり、比較的予知し
やすいが、表層雪崩は、いつ、どこで起きるか分からず、現状での個別予知は不可能
に近いとされる。

突然に起きるのが表層雪崩である。従って、表層雪崩の発生は相対的に全層雪崩より
少ないものの、人命にかかわる危険性は計り知れないほど高い。「表層雪崩の遭難者
数は全層雪崩の約3倍」「死者の9割は表層雪崩」と言われるゆえんだ。

春先に起こりやすい全層雪崩に対し、表層雪崩は厳冬期だろうと、昼夜だろうと、問
わずに発生する危険性がある。予知が難しいだけに、気象台が出す雪崩注意報への関
心が求められる。

雪崩注意報は、盛岡地方気象台によると▽24時間に40センチ以上の降雪があった
場合▽一定量(平地で50センチ以上)の積雪があり、気温が5度以上の日が続いた
場合−に発令される。大雪の降った際には特に警戒と備えが必要となる。

過去の教訓を生かせ

今冬は1月に入り15日までに、雪崩注意報が既に6回出ている。昨シーズン(1月
から5月まで)は9回だっただけに、雪崩被害防止には慎重を期したい。降雪量の長
期予報も平年並みより、やや多い見込みであり、雪崩が再び起きてもおかしくない状
態にあるといえる。

冬山登山はベテランでも遭難の危険が伴う。標高が100メートル上がるごとに気温
は1度下がり、いったん吹雪になると数日間続くこともある。夏山登山の3倍から4
倍のエネルギーを費やし、少々の体力の自信など意味をなさない。例え、冬山に慣れ
ていても単独登山は絶対に避けるべきである。冬山を甘く見ることが、遭難につなが
る。深く認識しておきたい。

今回、携帯電話が救助要請などに威力を発揮した。だが、天候や谷間などの地形では
交信ができないこともあり、関係者は「過信は禁物」としている。

今回の事故や過去の遭難が、冬山登山にはさまざまなリスク、危険が横たわっている
ことを如実に物語っている。重い教訓としたい。 (1月16日 岩手日報 論説)

ACHP編集部

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