発見された大群落の近くで、小さなヒカリゴケも点在している
「読売新道の方にもヒカリゴケはあるとは思っていたが、これほどのものとは……。
私の知る限り、群落としては国内一、二の大きさだと思う」――。奥黒部ヒュッテと
水晶岳を結ぶ読売新道わきで見つかったヒカリゴケの大群落は、関係者に大きな喜び
と驚きをもたらした。一九四〇年(昭和十五年)に立山町の八郎坂(称名坂)で県内
で初めてヒカリゴケを発見、ヒカリゴケ研究の第一人者でもある金沢高等師範学校
(現金沢大)元助教授、山岡正尾さん(86)(富山市水橋中村)は、その規模の大
きさに驚いている。
山岡さんによると、県内には、室堂平の玉殿岩屋や大日岳、仙人岩屋、美松坂など立
山連山を水源とする常願寺水系と黒部川水系周辺の十一か所でヒカリゴケの生育が確
認されている。今回、見つかった群落は、大山町の常願寺川左岸の断がいの洞くつ内
にあるものとほぼ同規模で、全国でも最大級の大きさだという。
ただ、常願寺川左岸の洞くつのヒカリゴケは一か所だけでの生育だが、今回見つかっ
たものは、周辺の洞くつ内でも生育が確認されており、広範囲に分布している可能性
もある。
富山市科学文化センターの太田道人主任学芸員は「貴重な発見。規模もさることなが
ら、黒部湖より南側での発見は県内で初めてで、新たなヒカリゴケの発生地となるか
もしれない」と、関心を示している。
ただ、生育場所は登山道のすぐわきで、心ない登山者らによって荒らされることが懸
念される。山岡さんは「ヒカリゴケは非常に珍しいものなので、大勢の人に見てもら
いたいが、一度、荒らされると元通りになるまで四、五十年はかかる。保存、保護が
必要だ」と話している。
植生調査のため読売新道を登る「立山連峰の自然を守る会」のメンバーら
【「これ、もしかして…」発見の本紙カメラマン】
高山帯植生調査を取材するため、私は調査隊とともに奥黒部ヒュッテを出発し、赤牛
岳(標高2864メートル)を目指していた。標高約二千メートル。付近は亜高山帯
の森林で、オオシラビソなどマツ科の木々が生い茂り、岩や木の根で作られた小さな
洞くつが無数に点在していた。
私は偶然、小さな洞くつ内で緑色にほのかに輝くものに気づいた。まるで蛍光色のペ
ンキをまき散らしたようなこの物体がコケだと気づくのに多少の時間がかかった。以
前、長野県内の寺で小さなヒカリゴケを見たことがあった私は、半信半疑で調査員に
聞いてみた。
「これ、もしかしてヒカリゴケではないですか」。すると、調査員たちは「すごい。
こんな大群落は見たことがない」と、驚きの声を上げた。さらに、周辺の洞くつ内か
らも小さな群落が見つかった。
現場は読売新道の中でも最も登りが厳しい場所の一つ。私自身、それまで二回読売新
道を歩いたが、疲労して下ばかりを向いて歩いていたので、気づかなかった。思いが
けない発見だった。(小林 武仁)
(8月10日 Yomiuri On-Line 富山版)
ACHP編集部
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