硫黄のにおいがトロッコの車内にプーンと漂ってくる。窓についたワイパーで曇りを
払うと、岩肌に黄色い「湯の花」がついている。黒部峡谷鉄道の終点・欅平(けやき
だいら)(標高599メートル)から黒部ダム(同1470メートル)まで続く関西
電力の工事用輸送路「黒部ルート」のハイライトだ。
欅平から竪坑(たてこう)をエレベーターで二百メートル上がると、トロッコはそこ
から延々とトンネルを走る。その最終区間・阿曽原―仙人谷間こそが、仙人谷ダム建
設に挑んだ人々の苦闘を描いた吉村昭の小説「高熱隧道(ずいどう)」の舞台だ。
「岩盤の温度は165度まで上がったと言います。今は地熱が低下し、気温は20度
ほどですが、それでも、隧道を歩くと汗びっしょりになります」。ガイドが説明す
る。当時はダイナマイトが自然発火するほどだった。
この高熱隧道を抜けると、黒部第四発電所だ。一九九三年に無人化され、今は発電機
の音だけが響く。さらに、荷揚げ用ケーブルカー「インクライン」で斜度34度の坂
を上ると黒部ダムに着く。
この黒部ルート開削や発電所工事では、作業員宿舎が雪崩に遭うなど、百人以上の犠
牲者が出た。隧道のわきには、地蔵が安置され、今もルートを見守っている。
写真・小林 武仁 文・花村 茂寿
九六年から一般公募で行っている黒部ルートの見学会が今年も二十三日から始まっ
た。一日六十人の限定で、今年は三十四回を予定している。問い合わせは、関西電力
北陸支社内の同見学公募委員会事務局(076・442・8263)へ。
写真=急斜面を下るインクライン (5月24日 Yomiuri On-Line 富山版)
ACHP編集部
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