「山は人を優しくする」という島田良さん=諏訪市諏訪1丁目で
諏訪地域を中心とした登山愛好家らが15年前につくった「百名山に登る会」が、1
00回目の登山を迎えた4月、会の発足時に登った車山(標高1925メートル)に
記念登山した。会長で、指導をする諏訪市諏訪1丁目の山岳洋品店経営島田良さん
(64)は、登山をはじめて半世紀。「山に行くと人がやさしくなる」と表情を和ら
げた。この日を無事故で迎えた陰には、島田さんの豊富な経験がある。
車山登山は片道約4時間の行程で、50人が参加した。帰りに諏訪市の霧ケ峰にある
山荘で15周年の祝賀会をした。
「みんな元気になり、生き生きとしている」
島田さんは、15年間を振り返った。
「百名山に登る会」は、当初200人ほどの会員だったが、現在は約130人。初心
者が多く、中高年登山の走りで「自分たちの百名山」を目指した。
最も注意したのが事故防止。あまり知らない山は事前調査したり、高い山には山岳会
のメンバーが参加したりした。「楽しい雰囲気づくりが、一番の事故防止。慣れと気
負いはいけないね」と島田さん。
これほど長続きするとは思っていなかった。ちょっとした岩場で、ふだんは使わない
ようなザイルといった道具を使い楽しんでもらうようにしたことなどが、長く続いた
理由ではないかという。
島田さんは諏訪地区山岳遭難防止対策協議会のメンバーだ。遭難があれば救助に向か
う。
今年1月下旬。大雪に見舞われた八ケ岳・南沢の大滝で、男女4人のパーティーのテ
ントが雪崩に襲われた。救助隊の一員として夜間、現地に向かった。ひざ上まである
雪をラッセルして登山口から約2時間。意識を失った男性1人を救助した。下山した
のは明け方だった。一睡もしなかった。
「テントを張る場所ではない。むちゃだ」と語る。
遭難現場で幾度も人の生死に出合った。「生きていてほしい」との願いが届かないこ
ともある。人の無力さを感じる時だ。
初めての登山は、八ケ岳。中学を卒業してすぐだった。やがて「ヒマラヤへ登りた
い」との思いを抱きながら、68年に9人でアラスカに遠征、標高4800bなどの
山を踏破した。待ち望んでいた「ヒマラヤ・マナスル(標高8156メートル)」へ
の道は、40歳の時に訪れた。日本とイランの合同登山隊の一員に選ばれた。8千
メートル級の山に挑戦するのは初めてだった。
この時、最終キャンプの7500メートル付近まで登ったが、頂上へのアタック隊に
は参加できなかった。
「最高齢で頂上に立ちたい」。ヒマラヤ登頂への思いは、いまも持ち続けている。危
険な体験もした。
ヒマラヤで、キャンプ設営のためにガイドら10人ほどと出掛けた時、長い斜面が目
前に現れた。新雪が降ったばかりだった。「雪崩が来そうだ」と予感して進むルート
を変えた。歩いていると危険だと感じたルートの方で雪崩が発生した。判断を誤れば
巻き込まれていた。
こうした経験や救助活動などを教訓として生かしているという。
「山のために生きているようなもの。仲間ができて酒を酌み交わしながら語らう時、
山をやっていて良かったと思う」
(5/20 asahi.com 長野)
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