壁征服143センチ 扉を開く 女性アスリート新時代3 クライミング 小林由
佳さん(13)
今から続く扉を開けると、4畳ほどの部屋に彼女の彼女の世界は広がる。
ホールドと呼ぶ色とりどりに塗られた300個の突起物が、周りを囲む。「小さいか
ら、登るにはこんなことも必要なんです」。茨城県東海村の中学一年生は身長143
センチ。並ぶとクラスの一番前だ。壁から天上のホールドへ、小柄な体が勢い良く跳
ねていく。毎日、父・英司(41)が設定する約450手を、一時間かけてこなす。
競技はルート設定された人工壁を、器具を頼らず登り、最高到達点を競う。ジュニア
オリンピックカップを小学5年から3年連続で制した。高校以下にライバルはいな
い。昨年は国内最高のジャパンツアーで、女子総合2位に入った。並外れたバランス
感覚と、瞬時にルートを読み取る理解力。難易度を示すグレード13をすでに登る。
日本フリークライミング協会の北山真理事長は「ちょっと前まで、男でも12を登れ
ば死んでもいいなんて言ってました」。
小学二年のとき、町でたまたま父と見かけたのが講習会のチラシだった。「やってみ
ようか」。壁との世界が始まった。
英司は「僕らにとっては遊びの延長です。専用の部屋を作ったのも近くに施設が無
かったから」。週末は父が運転、福島や長野へ岩場を求めて旅に出る。
「登った後、ご飯を食べたり温泉に入ったりできるから、岩場のほうが楽しい」。天
賦の才は、自然にはぐくまれた。
初登者は、新しいルートに自ら命名することが出来る。13歳の開拓者は、自らの成
果にこんな名をつけた。「もののけ」「子供をなめるなよ」.....。
この競技が日本に伝わって約20年。愛好者は3万人に広まっている。来年の国体か
らは、山岳競技の少年の部にも採用される。
世界的なプロクライマーの平山ユージ(31)は、彼女の粘り強さに目を見張る。
「家族の支えが、今は大きい。これからはいかに自発的に取り組むか」
年齢を満たしたこの春、オーストリアで世界ユース選手権に挑む。(1月24日 朝
日新聞 夕刊)
ACHP編集部
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