富士山が美しいということに、異を唱える人は少ない。だが、「静岡と山梨のどちら
の富士山が美しいか」となると、話は別だ。駿河湾を前景にした真っ白い駿河富士
は、古く万葉集に歌われた。富士五湖の背後にそびえる味わい深い甲斐富士も、多く
の画人らの創作意欲をかき立ててきた。芸術家に限らず、富士山を見た多くの人々が
「私の富士」を持っている。「どちらが一番か」は結論の出ない論争なのかもしれな
い。観光客誘致に長くしのぎをけずってきた静岡、山梨の間でも今、雪解けの気配も
感じられる。「ライバル物語」その5、富士山の巻。【地方部・中山裕司、富士吉田
通信部・石原聖、静岡・斎藤良太】
◇山梨県◇
◆観光客誘致
山梨、静岡両県の観光団体は今月中にも歴史的な大連合を行い、自治体を含む約30
団体で富士山協会(仮称)を発足させる。海外などへ取られている客を富士山へ取り
戻す作戦を一緒に展開する。
1998年に富士山五合目を訪れた観光客は山梨側約198万人、静岡側約39万
人。富士五湖周遊、温泉巡りなどの人も加えるともっと多い。だが、観光客減は深刻
で、山梨側ではピークの90年(360万人)から4割以上もダウンした。
協会設立の推進役は食品会社「米久」(本社・静岡県沼津市)と大手観光の「富士急
行」(本社・山梨県富士吉田市)。「富士山全体を一つのテーマパークのようなもの
にしたい」。庄司清和・米久会長は今年4月、「富士山一周ビッグウォーク」の実行
委発足式で語った。堀内光一郎・富士急行社長も「富士山は国民のもの。山ろくの地
を借りて生きる山梨、静岡の人々が街並みを整え、地域全体で観光客を迎え入れ、世
界に誇れる山ろくにする」と意気込む。
毎日新聞社も創刊130年記念事業「富士山再生キャンペーン」を実施中。富士山周
辺は「再生」に向け、大きく動き始めた。
◆紙幣
日本銀行発行の紙幣は2000円札まで計57種類。このうち4種類に富士山が描か
れた。山梨側3種類、静岡側1種類である。
1984年発行の現在の5000円札の裏の「逆さ富士」は山梨県・本栖湖からのも
の。現地の風景や写真家、岡田紅葉さんの「富士写真集」などを参考に大蔵省印刷局
の工芸官が描いた。湖面に映る逆さ富士の方が偽造防止に役立つという。51年と6
9年に発行された500円札の裏にも、図柄は別だが、同じ山梨県大月市の雁ケ腹摺
(がんがはらすり)山からの富士山が描かれていた。
静岡側の唯一のものは38年発行の50銭政府紙幣。沼津市の愛鷹(あしたか)山か
らの富士山で、表に使われた。 (minichi interactive)
ACHP編集部
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