◆谷川岳の沢で鉄砲水 少年団の親子ら流され1人死亡
6日午後3時20分ごろ、群馬県水上町湯桧曽(ゆびそ)の谷川岳のふもとを流れる
湯桧曽川で、夏季合宿のハイキングに来ていた埼玉県東松山市の新明小学校サッカー
少年団の団員らが、局地的な大雨に伴う鉄砲水に襲われた。一行31人のうち、少年
団代表で会社員の萩原勝男さん(55)=同市神明町2丁目=が死亡、付き添いの父
母ら6人が腰や手足などに軽いけがをし、このうち1人が入院した。残る24人は県
警のヘリに救助されるなどして無事だった。
群馬県警や県などによると、少年団は6年生を中心とした子ども18人と、父母、
コーチら14人。6日から1泊2日の日程で東松山市をバスで出発し、午前10時ご
ろ水上町の旅館に着いた。その後、大人1人を除いた31人が谷川岳の一ノ倉沢方面
にハイキングに出かけ、午後2時ごろから沢沿いに下り始めた。
70メートルぐらいの隊列で河原を歩いていたところ、急に水がにごり、鉄砲水に襲
われた。幅約5メートル、水深もひざ下ほどだった緩やかな流れが20―25メート
ルほどに広がり、水位も約70センチに上がったという。
一行は川の両岸に分かれて避難したが、後方を歩いていた萩原さんら5人が流され
た。萩原さんは約600メートル下流で見つかり病院に運ばれたが死亡。ほかの4人
は2、300メートル流され、3人が軽いけがをした。また、登山道のない左岸に避
難した9人は県警や県の防災ヘリに救出されたが、2人がけが、右岸に逃げた1人も
足に軽いけがをした。
前橋地方気象台は6日午後3時20分、群馬県内全域に大雨・雷・洪水注意報を出し
た。現場では事故当時、山の頂上付近から雷が鳴るのが聞こえ、雨はまだポツポツと
降る程度だったが、湯桧曽川の上流では1時間に50ミリから80ミリ前後の大雨が
局地的に降っており、鉄砲水につながったとみられる。
地元の人たちの話では、現場付近ではこの時期、集中豪雨に見舞われることがあり、
険しい山に囲まれているため、鉄砲水のような急な出水も時々あるという。
現場は新潟県境に近い谷川岳の東側。湯桧曽川沿いにはキャンプ場などがあり、夏休
みには首都圏などから多くの家族連れや団体客らがハイキングに訪れる。(8月7日
asahi.com 01:24)
◆鉄砲水事故 現場は急な斜面で水が集中しやすい場所
現場は、岩肌が露出した急傾斜地に囲まれ、上流に降った雨が一気に沢に流れ込みや
すい。6日は午後2時台の1時間に約20ミリの雨が降っていたとみられ、鉄砲水の
恐怖を改めて示した。
気象庁によると、日中の気温の上昇と上空の寒気により大気の状態が不安定になり、
雷雲が発達しやすくなっていた。群馬県全域には午前11時15分から雷注意報が、
午後3時20分には大雨・雷・洪水注意報が出ていた。現場付近のレーダー解析雨量
は、午後2時までの1時間が10ミリ、3時までが20ミリ、4時までが10ミリ
だった。
山のベテランで、現場付近の自然・地理に詳しい群馬県谷川岳登山指導センターの田
村有三・主任登山指導員によると、谷川岳付近では局地的な雷雨が5日続けて降って
おり、川が急激に増水しやすい状態になっていた。
午後4時前に現場に駆けつけたところ、川の水位は通常よりも50センチ程度上が
り、水も濁っていた。しかし、2時間程度で水位も戻り、水も澄み始めていたとい
う。
田村さんは「大雨は局地的なので、どこで鉄砲水が起きるかを予測することは難し
い。今回も、たまたま居合わせてしまったということではないか」と話している。
日本気象学会理事長の廣田勇・京大教授は「テレビのニュースで見た限り、事故がな
ければだれも気づかなかったかもしれない程度の、ごく局地的、一時的な増水だった
のかもしれない。もっとも1時間に20ミリの雨が降っていたのであれば、地形に
よっては鉄砲水が起こることは十分にありうる。注意報であっても川沿いのルートを
避けるなど、山には十分に注意してほしい」と話している。(8月7日 asahi.com
01:25)
◆鉄砲水の危険性伝わらず 湯桧曽川事故で現場調査
「鉄砲水が起きやすい」。山に詳しい地元の人たちは、知っていた。しかし、危険性
は十分に伝わらないまま、川遊びをする人たちが次々とやってきた。群馬県水上町の
谷川岳ふもとを流れる湯桧曽(ゆびそ)川で6日、埼玉県のサッカー少年団の一行が
鉄砲水に襲われ、1人が死亡、6人がけがをした災害は、瞬時で状況が変わる自然の
恐ろしさと、特性が異なるそれぞれの川の、事前の情報提供、収集の大切さを改めて
教えた。建設省や県、町は7日、早朝から現場を調査した。
建設省などは7日午前8時半過ぎからヘリコプターを使ったり、川岸を歩いたりし
て、現場の詳しい状況を調べた。事故当時、現場ではほとんど雨が降っていなかった
が、上流に降った雨で、ふだんは20―30センチほどの水位が、最も高いところで
約120―130センチほどになっていたとみられる。
■猫まくり■
「猫まくり」。群馬県水上町の地元では、鉄砲水をこう呼ぶ。壁のように押し寄せる
水の波頭が、猫の前脚のように曲がる様子から来た言葉だ。同町では鉄砲水は決して
珍しくはない。多くは小型だが、大人の背を超すほどの大規模なものは、河川敷で工
事中の重機群を押し流す力を持つ。道路が冠水して車が通れなくなるぐらいの出水は
珍しくない。
湯桧曽川のそばにある群馬県谷川岳登山指導センターで、14年間、指導員を務めて
いる木村今朝夫さん(53)は、「昔このあたりの川で遊んでいた子供は一、二度は
猫まくりを経験していた」と話す。生暖かい風が吹き、ミミズをいじったような泥く
さいにおいがしたら、それが「猫まくり」の前触れだった。ふもとで雨がだらだら降
り続いているときは起きず、山頂近くで短時間にまとめて降った雨が、岩肌を滑って
一気に下流まで流れる。地元の人間は川に行くときは、常に「奥」を気にしながら歩
くのが常だという。
しかし、都会からレジャーに訪れるハイカーらに「その常識は通用しない」という。
河原でキャンプをしている人に「危ないよ」と注意しても「今降っていないじゃない
か」と文句を言われた、と木村さん。「自分たちはキャンプ場に警告の看板を立てる
程度しかできない。アウトドア用品を売っている店で注意を呼びかけてほしいのだ
が」
群馬県砂防課によると、谷川岳は急こう配で山腹が岩場になっているため、上流で大
雨が降った場合、鉄砲水が発生しやすい。1998年8月には、現場から約4.5キ
ロ離れた谷川岳の南東斜面の赤沢で鉄砲水が発生、国道291号に土砂が流れ出て橋
が埋まった。また同じ8月には、現場から約5キロ下流の湯桧曽川で、上流で降った
雨による急な増水で、中州に女性が取り残される事故もあった。
同課では「具体的なデータはないが、木や草がなぎ倒された跡が時々みられる。最近
では『ゲリラ豪雨』と呼ばれる、狭い範囲に雨量が把握できないような大雨が降る
ケースも多い」と話している。(8月7日 asahi.com 12:08)
◆鉄砲水のメカニズムを調査へ 群馬の湯桧曽川事故
埼玉県東松山市のサッカー少年団の一行が鉄砲水に襲われ、1人が死亡した群馬県水
上町の湯桧曽(ゆびそ)川。一夜明けた7日朝、現場はふだんより水かさが多かった
が、昼前から強い雨が降り増水した。鉄砲水は急しゅんな地形を縫う急流の多い国内
では、どこでも発生する可能性があり、対策が難しい。建設省は県、町と合同で現場
を調査し、鉄砲水のメカニズムを調べ、対策に役立てることにしている。町は川の上
流に雨量計を設置し、注意を呼びかける看板を増やすことにした。
建設省土木研究所砂防研究室の仲野公章室長と砂防課の専門家ら3人が7日朝から、
県や町の職員と現場で、増水の経緯などを調査した。仲野室長は「現場は切り立った
がけに囲まれ、複数の沢から雨水が集まり、一気に水かさが増す地形だ。訪れる人に
もっと注意を呼びかけるように、町を指導することも考えている」と述べた。
建設省によると、鉄砲水の全国的な発生件数については「実数はつかみきれていな
い」(災害対策室)という。土砂を巻き込んで渓流を流れる土石流については、全国
で7万9318カ所が「危険渓流」に指定されている。土石流は鉄砲水に比べ、破壊
力が格段に違い、被害も大きくなるため、砂防ダムなどの対策が各地で取られてい
る。
今回の現場は沢が川にそそぎ込む地形になっているが、土石流の危険渓流には指定さ
れていなかった。「人家が近くにあるなど、被害が想定される場所でないと指定され
ない」(同省砂防課)という。
鉄砲水について、建設省は「天候の関係や降雨量により、発生の条件が変わり、どこ
でも発生の可能性はある」とし、対策の取りようがないのが現状だという。特に天候
の変化が激しい山岳地域は注意が必要だという。
1998年8月27日に起きた水上町の鉄砲水などによる災害は、1日に179ミリ
の豪雨によって、湯桧曽川や利根川沿いの国道291号や町道で、約30カ所が陥没
したり土砂が流れ込んだりする被害が出た。町は「雨により、川の水位が急に上がる
ことがありますので、注意してください」という看板を立てた。しかし、今回の事故
現場付近にはなく、町は上流の5カ所に看板を増設するという。(8月7日 asahi.com
13:36)
■鉄砲水――「本物の自然」の怖さ
谷川岳が、慶応大学山岳部の部報に「近くてよき山」と紹介されたのは昭和の初めの
ことだ。日本アルプスにくらべて地味な存在だった上越国境のこの山は、その報告に
よって一躍注目を集めた。
その数年後には、上越線の清水トンネルも開通し、谷川岳は登山のメッカとして、山
好きのあこがれの的になっていった。
一方で、いたましい遭難が続発した。
登山口近くにある遭難慰霊碑には、700人を超す死者の名が刻まれている。これほ
ど多くが犠牲になった山は、世界にも類がない。いつしか、「魔の山」「墓標の山」
という形容詞が冠せられた。
その谷川岳で、埼玉県のサッカー少年団一行が鉄砲水に襲われた。
現場の湯桧曽(ゆびそ)川は、ふだんは澄んだ水がやさしく流れる渓流だ。車で近く
まで簡単に入ることもできる。しかし、その流れはまぎれもなく、ベテランの登山家
を含むおびただしい命を奪ってきた谷川岳の厳しい自然の一部にほかならない。
事故のあった日、サッカー少年団一行31人は下流へ向けて河原を歩いていた。急に
水が濁りはじめ、ひざ下ほどだった水位はみるみるうちに1メートルほどに上がっ
た。流れは河原いっぱいに広がったという。
背後から襲われたことなどを考えれば、流れにのまれた人が少なかったのは、不幸中
の幸いだった。それでも何人かが流され、引率していた人が亡くなった。
現場付近では当時、山の頂上付近から雷が聞こえ、雨がぱらつきだした程度だったと
いう。鉄砲水を心配するほどではなかったのかも知れない。だが、沢筋を歩くときに
は、天気のいかんにかかわらず急な増水に気を配るのが登山の鉄則である。
とりわけ谷川岳は、じょうごを縦に割ったような巨大な岩壁群が、りょう線から落ち
込んでいる。そんな地形上の特徴から、降った雨は地面にしみこむことなく、滝のよ
うに岩壁を伝って一気に沢に流れ込む。
野外活動を楽しみに、毎夏、首都圏などから多くが谷川岳のふもとを訪れる。そうし
た人々に、目の前のせせらぎが、実は人を容易に寄せ付けない自然とひとつながりで
あることへの認識はあるだろうか。
近年のアウトドアブームのなか、人工的に管理された「疑似的な自然」を楽しむ施設
が各地に増えた。整備されたキャンプ場や森林、親水公園などである。
しかし「本物の自然」は、一見同じように見えても、管理された自然とは異なる。雨
が降れば激流が流れ、ぬれたまま風に吹かれれば夏でも疲労凍死したりする。自分で
自分を守るしかない厳しい世界である。「本物の自然」と「疑似的な自然」を混同し
ている野外活動愛好者が多いのではなかろうか。
本物の自然はいつかきばをむく。それが、少年団の遭難からくむべき教訓だろう。谷
川岳を「近くてよき山」と紹介した登山家大島亮吉は、次のような警句を残してい
る。
「そのもっとも平穏な日において、山の凶暴さを思え」 (8月8日 朝日新聞 朝刊
社説)
◆鉄砲水事故、融雪水が原因と建設省が断定
群馬県水上町の谷川岳・湯檜曽(ゆびそ)川で、埼玉県東松山市のサッカースポー
ツ少年団の児童、父母らが鉄砲水に襲われ、一人が死亡、六人が負傷した事故で、建
設省は八日、事故現場から約二キロ上流の同川右岸にある支流の芝倉沢の残雪が、茂
倉岳(1977・8メートル)山頂付近に降った雨水とともに一気に流下し、その融
雪水が湯檜曽川に流入したのが鉄砲水の原因と断定した。
同省砂防課の職員らが、八日朝から行った同川流域の調査でわかった。
すでに七日の調査で通常は四十センチ程度の湯檜曽川の水位が事故当時、八十〜百二
十センチに上昇したことがわかっていたが、さらに現場を遡行(そこう)してたどっ
たところ、芝倉沢沿いにのみ増水に伴う痕跡があることが判明。また、芝倉沢沿いや
同沢と湯檜曽川の合流点付近に雪の塊が散在していることも確認されたという。
現場近くにある同省のレーダー雨量計は、事故があった六日午後、茂倉岳周辺の降雨
を記録しているが、同課は「豪雨とはいえない程度の雨量」としており、降雨などで
茂倉岳の残雪が解けて崩壊、大量の融雪水が一気に流下したと見ている。
「谷川岳ロープウェイ」の手塚忠男専務(64)は「例年なら雪が消えている芝倉沢
にも残雪があった。春先には例年の倍の七メートルくらいあった」と話している。(8
月9日 YomiuriOn-Line 05:10)
ACHP編集部
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