賛:「環境守る心つくる」
否:「人多すぎ自然破壊」
丹沢山系(神奈川県)の険しい尾根道を走る山岳耐久レースに、地元丹沢自然保護協
会の会員が「丹沢の自然を傷める耐久レースはいらない」と中止を求める論文を機関
紙に掲載し、波紋を広げている。こうした山岳レースは丹沢山系だけで4つ、全国で
は年間150にのぼるほど過熱している。中高年を中心にした登山ブームの中で、自然
の素晴らしさを多くの人に知って欲しいと始めた山岳レースが、今度は環境破壊を招
くと批判に遭っている。
丹沢山系の代表的なルート、大倉尾根で6月4日に開かれた第十四回丹沢ボッカ駅伝競
走。ボッカとは山小屋へ荷物を運ぶ仕事をする人のことだ。今年は1チーム4人で計97
チームが参加した。20キロか40キロの重荷を背負い、チームが計5キロのコースを
走ってタイムを競った。ユニークな企画が受け、参加申し込みは年々、増えている。
主催する神奈川県山岳連盟は、出場チームを100弱に絞るなど「総量規制」し、国定
公園の特別保護地区に指定される塔ノ岳(1,491メートル)山頂をゴールからはずすなどし
て、自然保護に気を配っている。これまでは地元の自然保護団体なども、レースを支
援してきた。
それが最近、「丹沢の自然を傷める耐久レースはいらない」という論文が、丹沢自然
保護協会の機関紙「丹沢だより」に掲載され、同協会はその後、レース中止を求める
方針を打ち出した。
◆16日の催し 論文で批判
問題になったのは、7月16日に開かれる北丹沢の「12時間山岳耐久レース」。丹沢山
系の主峰蛭ケ岳(1,673メートル)周辺の高低差1,273メートル、距離35.5キロを約750人のラン
ナーが走る。開催の狙いは、登山客を増やすことだ。登山客が増えれば、山小屋の経
営は安定し、遭難救助や登山道の整備なども出来ると言う。
ランナーは特別保護区内の稜線を走る。中止を求める論文を丹沢自然保護協会の機関
紙の2月号に書いたのは、会員の脇田信雄さん(57)だ。論文は、レースで路肩が
崩れ、木立の中の草が踏みつけられ、動物を驚かすと指摘する。
「ルートは自然環境が維持されている数少ない場所だ。土質が弱い稜線を、大勢のラ
ンナーが走ったらどうなるのか」
◆バブル期のゴルフ場?
14年前自らの呼びかけでボッカ駅伝を始め、ランナーとしても活躍した鍋割山荘主人
の草野延孝さん(51)は昨年、ボッカ駅伝の手伝いから手を引いた。
「自然破壊の責任は私にも有り、その償いで出来ることはやる。登山の活性化への気
持は分かるが、これではバブル時代のゴルフ場とどこが違うのか」
表丹沢の入山者は麓の秦野市調べで約50万人だが、蛭ケ岳以北だと1万人から2万人だ
と言う。
◆収益の一部 登山道整備
レースの実行委代表で、蛭ケ岳山荘を管理する杉本憲昭さん(61)は「表丹沢で
やっているのに、なぜ北丹沢だけを責めるのか」と反発する。
レースは登山客の増加だけが目的でなく、「自然保護意識の高揚」も掲げている。一
般登山者の無理な追い越しを禁止し、ゴミを捨てると失格になる。トイレも、途中2
個所の山小屋以外では、ランナーが背負う携帯トイレで済ませる。収益金の一部は登
山道の整備に充てる。
「自然が残っている北丹沢の素晴らしさを、レースを通じておくの人に知ってもらい
たい。それなのになぜ中止となるのか」
(7月15日 朝日新聞 朝刊)
ACHP編集部
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