空に昇った山の仲間

 三和裕吉さんの追悼文を紹介します。

 風も無く穏やかな冬の日、山の仲間によって、故・三和裕吉さんの追悼が行われた。 事故現場である凍った滝を背に、雪の祭壇がしつらえられ、花束の横にアイスバイル が添えられた。あわせたショベルの内側にろうそくがともされ、冷気の中に線香の煙 が香り、空へ立ち昇っていく。

 息子さんが、数珠を持つ手を合わせ、お経を読み始めた。なんてやさしく簡素な一周 忌なのだろう。

 山岳の指導者であり、山の仲間でもあった三和さんは、昨年1月アイスクライミング の指導中に、滑落し死亡した。皆の目の前で起こった事故に唖然ととし、亡くなった という事実が信じられなかった。

 山に登る度に、その存在がいかに大きかったかを思い知らされ、同時に、成し得なっ た夢や思いは、どこに浮遊しているのだろうと考えた。

 山は、時に人を修験者のようにしてくれる。死は、生が完結した時に起こるとは限ら ない。いや、別の意味では完結しているのだと、出口の無い迷路に入り込んだ気にな った。

 しかし、追悼の場に立ち、少し解けたような気がする。答えなどあろうはずが無い。 人は死にゆくもの。完結しようがしまいが、いかに自分を燃焼させるかなのだと。そ して願わくば、香のように空に昇ってゆきたいものと思う。

・ぽくぽくと 木魚にもにて 山靴の音

 三和さんは、皆の靴音を聴きながら眠っているのかもしれない。安らかにあれ。

 札幌市 臨時職員 50歳 女性(2月10日 朝日新聞 朝刊)

 編集部注:新聞購読者以外にもご紹介したい内容なので掲載させていただきました。 改めて故人のご冥福をお祈りします。なお追悼文集につきましては、山岳書籍のコー ナーをご参照ください。

 ACHP編集部


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