トレーニング方法/質問(1)/回答<2>
左京労山の伊藤です。

 当然、速いほうがいいに決まっています。しかし、
これには 「適切な確保を行った上で」 という前提が
あります。

  したがって、スピードアップのためには、あらゆる状況下で
最大限の安全を確保するための技術をトレーニングする必要
があります。抽象的になりますが、これは技術というよりも想像
力の問題です。危険を認識できず落ちたらどうなるかを想像で
きないような者にはアルパイン・クライミングをやる資格はありま
せん。

  残念なことに、この国では、「スピードこそ安全につながる」
というせりふは、確保技術を身に付けようとしないクライマーが
己の技術の未熟さを隠すためにロープをちゃんと使わないこと
の言い訳として使ってる場合が多いように感じます。落ちる確率
というものは極めて低いので、まともな確保をしなくてもたいてい
無事に帰ってこられます。しかし、それは単に運が良かっただけ
です。

  私自身、運が良かっただけと思うことは多々ありますが、それ
でも冬季登攀では、特に悪天候下では確保には万全を期している
つもりです。他のクライマーが見たらこんな易しいところでと驚くよ
うな場所でもロープを使っています。

  黒部丸山東壁から八ツ峰に継続したときには、八ツ峰1峰3稜
のP1岩峰の下から剱岳を越え早月小屋の下の2,100m地点に着
くまで、6日間ずっとアンザイレンしたまま行動したことがあります。
黒部別山の大タテガビン南東壁正面壁からから南尾根を登ったと
きには、壁に取り付いてからハシゴ谷乗越の直前まで、9日間ずっ
とアンザイレンしていました。

  尾根上でロープを使わなければもっと速く動けたと思いますが、
多くのクライマーがそういう易しいところで命を落としていることを考
えれば、万が一に備えるのは当然のことでしょう。

  確保を省略してスピードを上げるのは運に頼る危険な登り方で
す。ビレイしつつ速く動くこと、これが課題です。

  私はこのように考えますが皆さんはいかがですか?

--------------------------------------
 伊 藤 達 夫
 京都・左京勤労者山岳会
--------------------------------------

★ アルパインクライミング/質問コーナーへ戻る ★ INDEXへ戻る