クアラルンプールとクランタン州を結ぶ昼間列車KENALI号


クアラルンプールと東海岸のクアンタン州を結ぶ直通列車は、これまでは別項目でも紹介している夜行急行WAU号だけでした。夜行列車ですので、上下線とも半島部を縦断する際の山間・ジャングル部分での景色を楽しむことができませんでした。その山間・ジャングル区間をマレー鉄道で楽しむには、一部区間(Tumpatと Gemas間)だけで運行されている早朝から夕方にかけて上下合わせて4本ある鈍行列車を利用する方法がありました(詳しくは別項目を参照)、ただ非常に時間がかかることと、車両がお古を使っており冷房車がない時が多いなどの点もありました。なおこの鈍行列車はそれはそれで本当の旅好きにはたいへん味のある列車ですよ。

さてこのクランタン州とクアラルンプールを往復する路線で、昼間走る急行の運行が2000年11月1日から新規に始まったのです。そこで筆者はさっそくその列車に乗車をしました。以下のその報告です。

注意(2002年9月追記): ここで紹介している時刻はすべて開始当時の時刻です。2001年そして2002年の時刻表改正で、Kenali号は夜行列車になりましたので、ここに載せたような昼間の旅が味わえなくなりました。その後2004年ごろ、残念なことについにこの列車は廃止されました。ここでは記録として残しておきます。


小規模時刻表の改正で登場

11月1日にマレー鉄道の時刻表が小規模に改正されました。西海岸を走るクアラルンプールとバタワース間往復の昼間急行Sinaran号が廃止され、一方東海岸線に新設されたのが、ここで紹介する急行Kenali号です。右はその張り紙です。

下りがクアラルンプール発9:15でTumpat着22:10、上りがTumpat発8:25でクアラルンプール着20:58です。運賃は1等RM84、2等RM39、3等RM29です。途中停車駅の詳しい時刻と運賃は、「マレー鉄道の解説と時刻表」 をご覧ください。

この時刻表からいえるのは、運行の7割がたの時間は昼間走るということです。だから半島縦断する際にその景色が相当楽しめるわけです。この路線はクアラルンプールを出てちょうど英字の”J”を逆に綴るように、半島部をしばらく南下し次いで北上してクランタン州の東北端の田舎町Tumpatまで走るのです。ただ下り列車だと、クランタン州に入ったころ夕方になってますから、クランタン州の大部分の部分では景色を楽しめませんが、上り列車の場合は全く問題ありまぜんね。

筆者が乗ったKenali号は運行開始日でしたので、クアラルンプール駅では駅員が大勢運行開始を祝ってこの列車の出発を見送っていました。ただセレモニーは全くありませんでした。左はクアラルンプール駅内での写真です。クアラルンプールを発車した時点はいうまでもなく、それぞれの停車駅で乗客の乗降者をいれても車内はずっとガラ空きでした、1等車は筆者が下車するまでとうとう乗客が一人もいなかった。

これだけがら空きだった理由は、やはり運行開始日であり、ほとんどこの列車がマレーシア社会に知られていないということが原因でしょう。もちろん外国人ツーリストでこれの運行開始を知っていたのは皆無でしょう。筆者は全車両を何回か回ってみましたが、少ない乗客の全員がマレーシア人でした。しかしやがてクランタン州に行くマレーシア人に知られていけば、当然乗客が増え、さらに旅行代理店も知ることになり、それが外国人ツーリストにも少しづつ知れわたっていくことでしょう。

列車の構成は1等1両、2等2両、3等2両の計5両編成で、食堂車は連結されていません、替わりに簡単な菓子類と飲み物類を売る売り子がずっと乗務しています、鈍行列車と違って、外部からの物売りは乗車してきません。それにGemas駅で30分ほど停車しますので、昼食をとることもできるます。座席の様子は、写真でおわかりのように、2等でも十分ゆったりとしています(下中の写真)。1等は絨毯敷きの床に1列が横2と1の座席配列なので、ものすごくゆったりとしています。さすが2等の2倍以上の運賃です(左下の写真)。なお3等でも冷房車両ですよ(右下写真)。



おすすめは3等よりわずかに運賃の高い2等でですね。各車両には大きな荷物置き場も別途スペースをつくってあり、各車両の前部と後部でビデオ上映がありますが、これは良し悪しですね。うるさい見たくもない映画の音が車内に響き渡る場合もあるからです。この点は西海岸路線でも同じです。バスに比べて列車のいいところは、退屈になったら車内を多少歩き回ったり、(私は吸わないが)タバコを吸いたい人はコンパート外へ出て、タバコを吸えることでしょう。ただ到着の早さから言えば、当然バスに軍配は上がります。クアラルンプールからコタバルまでの所要時間を比べれば、列車の方が少なくとも3時間は余分にかかるでしょうから。

さてクアラルンプールを出てKajang、Serembanと停車し、首都圏を離れます、ここまでは窓の外に多少森林の景色を見るとはいえまだまだ都会の郊外を入っている気分です。なおKajangはKLIA空港から乗り合いバスが30分に1本ほどの割合で連絡していますよ。3番目の停車駅がマラッカへの入り口駅になるTampin駅です。11時10分ごろ到着ですから、ここで降りて、バス又はタクシーでマラッカまで行くことが十分できます。その方法は当サイトの「マラッカ州の観光」をよくご覧ください。クアラルンプールから単に速くマラッカへ行くなら、2時間半で到着するバス便を使うべきですが、マレー鉄道を多少でも味わってからマラッカに到着したい旅行者には、この列車はぴったりの旅程が組めます、なぜならTampin到着が11時過ぎなので、そこから1時間もかからないマラッカ市内へはお昼の早い時間に到着できるからです。

マラッカ観光を追えて、そのままパハン州かクランタン州を訪れてみたい方にも好適の旅程が組めるのがこのKenali急行です。この列車はちょっとずつあれこれ試してみたい外国人旅行者の旅程にもってこいですね。ただクランタン州からの上りはこのマラッカ訪問目的には向いていません。



4番目の停車駅が西海岸線と東海岸線の分岐になる重要な駅であるGemasです(上左の写真)。Gemasはこのマレー鉄道の分岐駅として知られていますね。ですからでしょう、駅舎の前にはマレー短剣Kerisと車を飾った記念碑が作られています(上右の写真)。町自体は普通の田舎町ですね。ここで列車は30分ほど停車するので、駅の大衆食堂で昼食を取れます。メニューはお決まりの数種類程度ですが、コーヒーでも飲んで発車を待ってください。下中の写真は食堂内の様子です。こんなスタイルは別に駅の食堂だけでなく町の食堂でもよくあります、ただ横に広いのが駅車内らしいところです。



上左の写真は食堂の前で発泡スチロール入りのミーゴレン、ナシゴレンをマレー女性2人が売っている様子です。1個RM2.8でした。筆者はこれを買って食堂で食べました。大衆食堂はこの駅舎内に2軒あり、その他売店ももちろんあります。

12時40分にGemas駅をでると、それからは俄然山中の風景が多くなります、両側が切り立った森林の谷間、時にすっと向こうまで続く野原に囲まれた鉄路を列車はひたすら走るのです。小さな無人駅をいくつか通りすぎて行くのが、急行らしいところです。時折小さな集落、家家が見える(上右の写真)。13時過ぎ小さな町のBahau駅で5番目の停車、続いて14時半頃6番目の駅Mentakabで停車、それぞれ10人にも満たない乗客が主に3等車両に乗り込んできた。それにもかかわらず依然として車内は空いたままだ。15時ごろとある小さな村であろうKuara Kurau駅構内で停車、ここは急行列車の停車駅ではないが、上りのKenali急行を待ち合わせするためだ。マレー鉄道は全路線単線なので、当然こういう待ち合わせ個所が何箇所かある。

注:クアラルンプールとその近郊結ぶKomuter近郊電車はマレー鉄道の鉄路とは別の電車専用線路です

しばらくしてKenali上りが到着した。窓から眺めた様子では、下り列車よりずっと乗客が多い。停車中の駅の線路を生徒たちが歩いていく、学校が終わって近道の線路上をこうして歩いて帰宅するのであろう(下左の写真)。昼間なら1日6本ほどだけこの線路を列車は通るだけだから、まあ危険ではないと言えば危険ではないが。下中写真は駅構内の様子。下右の写真は車内トイレです。



上り列車が行き去って我々の下り列車も出発。次ぎに到着したのが、Gemasを出て初めて町らしい町であるJurantut駅だ。この町はTaman Negaraへの麓町であり、ツーリストも多く訪れる町だ。地方の町としてはまあにぎやかなほうだ。下の左写真はその街のようすです。下の中写真は駅の中ほどにある切符売り場当りの様子です。



Taman Negaraへ行くためにJurantut駅で下車すると、これまでは夜行急行だと深夜になってしまうので、実際上は利用できなかった。そのためどうしてもマレー鉄道を利用してJurantに到着するには鈍行を使う必要があった。しかしこのKenali号の運行開始で、下りが15時半頃、上りが14時半頃駅に到着ですから、Taman Nagra見物の際にマレー鉄道を使える楽しみができたわけです。なおTaman Negaraへ行くボートは朝か午後早い時間の出発ですから、Kenaliで下車した旅行者はJurantutの町で1泊する必要がありますね。でもTaman Negara見物の後ならKenali号に乗車するのにちょうどいい時刻ですね。

Jurantutを出てしばらくしてまた停車、今度は鈍行列車との待ち合わせです(上の右写真)。それが終わって走り出すと、列車の窓からジュライ川が見えるようになります(下左の写真)。パハン州の大きな街であるKuala Lipisに近づいたのです。この町の紹介は別項目の「半島部諸州の観光 その他」の該当項目を参照してください。下中の写真はクアラリピス駅の裏にそびえるモスクです。下右の写真は駅舎を外から撮影。

8番目の停車駅になるこのKuala Lipis駅で筆者は下車しました。16時45分、時刻表より10分程度遅れていましたが、この程度は許容範囲ですね。この先まで乗っていけば夜になって景色もあまり楽しめないし、翌日クアラルンプール戻る便利さから、筆者はあらかじめKuala Lipisまでの切符を求めたわけです。クアラルンプールからの列車の乗務員もここで交代です。車中で話したマレー鉄道社員の話しでは、この東海岸線では、クアラルンプールからクアラリピスまでとそれ以降終点までの2つの乗務区間に分かれており、従ってクアラリピスが乗務員交代地点になるのです。



KualaLipisを出た列車はその後、しばらくしてクランタン州に入り、クランタン州の南端の町Guamusangで18時ごろ停車します。その後Dabong, Kuala Kurai, Tanah Merah, Pasir Mas と停車して、Wakah Baruに22時頃到着予定です。Wakah Baruはコタバルへの玄関になる場所ですが、宿泊施設はまずない小さな町です。コタバルまでバスかタクシーで20分ほどかかります。そんな遅い時間にコタバルに到着して宿探しするのはつらいので、宿の場所をしらない旅行者にはちょっと下車しづらい時刻ですね。

Kenali号でクランタン州に到着するとGuaMusang以降はいずれも夜間になり、且つどの停車町も小さく中には宿泊施設のない町もあります(Dabong, Tanah Merah, Tumpatなど)。ですから下車するならGuaMusang かKualaKuari駅ですね。そこなら確実にいくつかの安ホテルがあります。コタバルへ行くには翌朝、便数のずっと多いバスで行ったほうが便利でしょう。どうしてもマレー鉄道で最後まで行きたければ、午後の鈍行列車が1本だけあります。なお上りに乗る人は朝Wakah Baruをたつわけですから、こういったことに悩むことはなくなります。

以上のようにKenali急行の乗車旅を通して、この列車の活用法と特徴をまとめると書いておきました。クランタン州を訪問する又は訪問してクアラルンプールへ行く、タイ国へSungaiKolok経由で入る、Taman Negaraへの行き帰りに、マラッカ観光の行き帰りに、そういった場合にKenali急行に乗車する旅程が組めるのです。ただ全旅程をKenali急行を使うのでなく、バス便と鈍行をうまく組み合わせればもっと都合よく回れるようになりますよ。

2000年11月5日掲載