マレーシアコーヒー製造工場訪問記


マレーシアのコーヒーについて

マレーシアの茶店や大衆食堂や屋台で供される大衆コーヒー、一般にKopiコピと呼ぶ、は日本で見られるコーヒーとは違ったタイプです。いわゆるアメリカンタイプでもエスプレッソタイプでもありません。またサイフォンコーヒーでもありません。ある種のドリップコーヒーですが、コーヒー豆自体も違うのです。

この1,2年クアラルンプールにはカフェが続々と登場して、今では日本で普通に言うコーヒーが容易に飲めるようになりましたが、それまではそういうコーヒーはレストランかホテル内の飲食店かファーストフード店が主な提供場所でした。ただそういうコーヒーは値段が高い、カフェなら 1杯RM4からRM6もしますので、茶店で飲むKopiの価格1杯RM0.80又0.90とは比べものになりません。ですから筆者は断然Kopi派です。

Kopiは一般に練乳を入れて供されます、又砂糖だけ加えたものをKopi-O(コピオーと発音)と呼びます。多くの在住者はこのKopiがお好みでないようですが、筆者は味に全然うるさくありませんので一向に気に介しません。

以下は専門家のお話の受け売りが主です。
マレーシアコーヒー豆はアラビカ種でもロブスタ種でもありません。元はアラビカ種豆から進化させたのですが、今ではちょっと変わった種となっています。さらに違う点は、マレーシアコーヒー豆は砂糖、バター又はマーガリンを加えて煎るのです。

このためかマレーシアコーヒーKopiはどす黒くちょっとねっとりしています。それに練乳を加えると幾分滑らかな味になり、ミルク甘さが目立つのですね。

以上は(今週のマレーシア第155回の一部を抜粋再録)

ジョーホール州のコーヒー製造工場

さてこのマレーシアコーヒーがどのように焙煎、精製されているか興味が湧きましたので、以前新聞で小さく記事になったコーヒー製造工場(こうば)を訪ねてみました。以下はその報告です。

この工場Kluang Trading and Coffee Factoryは、ジョーホール州の内陸部の町Kluangの郊外にありました。クルアンの町からバスで約10分ほどですが、住所も電話番号もわからず、人に尋ね尋ね且つバスに乗ったり歩いたりと探し出すまでに1時間もかかりました。

まあそれも無理もありません、規模自体が想像していたよりずっと小さい零細企業で(従業員10人に満たない)、しかも外から見ただけではまったくわかりません、外見は普通の大きな民家なのですから(写真右)

看板も全く出てないにもかかわらず筆者が最終的に見つけ出せたのは、その香りのせいでした、近くまで行ったら、なんとも言えない香ばしさが漂ってきたのです。それを頼りに上記の工場内に入っていったのです。突然約束もなく訪ねた筆者をオーナーの呉天福氏(Goh Tian Hock)は親切に工場内を見学させてくれました。

呉氏の父親が操業開始して以来30数年という老舗のコーヒー工場です。昔ながらのマレーシアコーヒー製造法を保っているのです。

製造法

コーヒー豆を釜の中に48Kg入れる。そしてスコップでかき回しふたをする(下中の写真)。釜は木々をくべる昔ながらの釜で、釜口はもちろん外側にあります(下右の写真)。自動かき混ぜ機が作動し、しばらくして定量の白砂糖とマーガリンを加えます。マーガリンは芳香を増す為とか。こうして釜にいれられた豆が1時間半混ぜ煎られるのです(右下写真)。尚コーヒー豆はLiberica種で100%ジョーホール州産とのことです。左下写真でおわかりのように、薄い茶色です。



この段階で煙と香ばしさが工場内に増してきます。時間が来たら、釜からスコップで煎り上がった豆を横にある平たい大きな台上にすくいだし(下左写真)、従業員数人で豆をつぶしにかかります。扇風機で風を送りながら大きなスコップで豆をたたきつぶすのです(下中の写真)。バーンバーンとつぶす音が響きます。炒り上がった幾分どろどろした豆は黒くなっており、その豆は熱いので湯気をあげてます(下右の写真)。それを数人が砕く様は壮観です。狭くちょっと薄暗い工場内に匂いと湯気と煙が充満するのです。



これぞ手作りのコーヒー製造過程という場面です。熱加減、どの時点で砂糖を加えるとか、炒った豆をどの程度砕くかもすべて経験からの作業のようで、町工場に残る手作業の尊さを感じます。こうして伝統的な配合と温度と焙煎法を守っているのですね。



ある程度たたきつぶし終わって、ちょっと休憩です。その間に豆がさめていくのです。こんどはその形のなくなった黒い豆をスコップですくって台脇に置かれた荒つぶし機にいれます(左上の写真)。ずっと細かく砕けた焙煎済豆(上中の写真)、もうこの時点で豆の形は全くしてない、をさらにグラインダー機(大きなコーヒーミルみたいな物)にかけて、荒い粉末にするのです(上右の写真)。

人気の地場コーヒー

その粉末を皆で手分けして(左端の写真)、缶詰します。缶には業務用の9Kg用、3Kg用そして筆者がお土産にもらった、おそらく小売り用の500g用の3種あります。左から2番目写真で Kopi Campuran(混ぜコーヒー)と命名されているように、その成分は70%がコーヒー豆、30%が砂糖、マーガリン、食塩から成ります。右から2番目の写真に示したように、表示にはHalal(ムスリムにも供してもよい食物の意味)のマークが入ってます。缶を開けて中身を撮ったのが右端の写真がです。



オーナー呉氏言うに、「ほとんど全部ジョーホール州内へ卸しており、クアラルンプールへは売っていません。」
この焙煎コーヒーはブランド名 Cap Televisyen と名づけられKluangではたいへん人気あり、Kluangの茶店の大多数で使われているそうです。Kluang訪問の際は 茶店でKopiを味わって下さいね。

取材協力していただいた Kluang Trading & Coffee Factory の住所はJohor 州の Batu 3, Jalan Mersing, 86000 Kluangです。尚そこでは小売りしてませんし、英語は通じませんので電話番号は省きます。

駅構内にある人気の茶店

KluangのCoffee Shop(茶店)で最も人気あるのは、KTMマレー鉄道のKluang駅構内にある茶店だそうです。筆者が訪れた午後も次から次からくる客でにぎわっておりました。ここもCap Televisyen のコーヒー豆を使っているとか(新聞の記事)、1杯80セントの香り豊かなKopiを飲みながら、ナシルマやカリパを食べ、華人インド人マレー人の入り交じった地元客の光景を眺めているのは楽しいものです。

クアラルンプールのカフェのような気取った雰囲気ではもちろんありませんが、これぞ田舎の町の午後のひとときだな、という気分が伝わってきます。マレーシア旅行に慣れた方にはこういう旅も是非味わってほしいものだと思います。

参考:クルアンへの交通と宿泊案内

Kluangへは、クアラルンプールのPudu Rayaバスターミナルから直通バスが出ています、約4時間、運賃RM13.1。便数が少ないので、ジョーホールバル行きバスでAyer Hitamで降りれば、ローカルバスに乗り換え約30分で着きます。又はマレー鉄道のKluang駅下車でもいいです。ジョーホールバルからならものすごく頻繁にバス便があります。

Kluangの町中心部には結構宿泊施設があり、ぐるっと歩いても30分ぐらいなので、ホテル探しは容易です。中級ホテルのPrime City Hotel(1泊RM120以上)から、1泊RM30からRM40の安ホテルまで選択があります、エコノミークラスホテルAnika RM85,安ホテル Milano RM45,White House RM34といたところです。

バスターミナルは川を挟んだ大きな建物で、BCBショッピングセンターと陸橋でつながっている。

99年11月7日掲載


付録:イポーの有名なホワイトコーヒー白珈琲

マレーシアの華人系の大衆食堂(コーヒーショップ)、屋台で供されるKopi を炒れるコーヒー粉は海南人業者が製造しているのが一般的ですが、イポーではホワイトコーヒー白珈琲が普通に供されています。ペラ州最大のホワイトコーヒー白珈琲製造業者は説明する、Kopiの粉に比べてホワイトコーヒー白珈琲の場合はマーガリンと砂糖はごくわずかだけ加えて豆を煎ります、つまりほとんどコーヒー豆だけなのです、と。そのため煎りあがったコーヒー豆はKopiの豆に比して、白っぽいのです。

イポーはホワイトコーヒー白珈琲の本場ですが、20世紀中頃ペラ州でこのホワイトコーヒー白珈琲が始まったと多くの人は信じています。ホワイトコーヒー白珈琲は長い間イポーのオールドタウン、つまりJalan Sultan Yusof とJalan Bandar Timahに囲まれた地区、 だけで人気があったと地元のホワイトコーヒー業者は語る。オールドタウンには40軒ほどのコーヒーショップがあり、ほとんどがホワイトコーヒー白珈琲を供している。この地区の有名なコーヒーショップに、Nam Heong, Sin Yoon Loong の2軒があり、近接しています。

2003年9月21日のStar紙の記事から抜粋