11月に入り、マレーシアを襲った大気汚染のニュースはもうほとんどなくなりました。
8月に始まって最悪期の9月そして収束に向かった10月と、この3ヶ月間は”Haze" と呼ばれるかすみ・もやにマレーシアの空は多かれ少なかれずっと包まれてきました。クアラルンプールのような大都市だけでなく地方の都市、さらには一時はこういう大気汚染とは本来縁のない田舎の村や離島、まで空がかすんでいたから、今回のもや・かすみ騒ぎは深刻でしたね。
最悪期には世界のマスコミまでもが報道し、日本でも新聞の第一面で伝えられましたから、マレーシアに興味のない人までマレーシアの大気汚染が知られてしまったようです。
10月終わりになっても筆者のところに、マレーシア旅行計画してますが行っても大丈夫ですか、というメールがたまに届きました。もちろん”大丈夫です”と返事してますが、付け加えて、クアラルンプールのような大都市は本来透き通った青い空はあまり期待できませんよ、というようにしています。
なぜなら今回の”Haze”騒ぎは、最大の原因はもちろん、インドネシアのプランテーション農園開発のために人為的に起された山野火災ですが、あとで述べるようにそれだけがマレーシアの空をかすみ・もやにさせたすべてではありません。
日々世界のニュースを追うマスコミは,何か大きなまたは突発的な問題が発生するといっせいに大きく報道します。問題が小さくなれば、いやそれがかたづかなくても人の興味をひかない程度になれば、あえてそのニュースの後報をしなくなりますね。これはマスコミである以上当然ですから、その報道姿勢を批判するのは必要でしょうが、不満をなげていてもはじまりません。
マレーシアの観光当局とか旅行業界の幹部はこれにものすごく過敏に反応し、旅行客が減ったのは外国のマスコミにもその責任があるといった論調で不満を訴えています。マレーシアの旅行産業はいずれも大きな影響を受け、ホテルは満室率がぐっと下がり、例えばサラワク州では30%にも落ちたそうです、旅行社はキャンセルが相次ぎ、土産物屋は売り上げが落ち、タクシーは客が減ったなどなどです。
そこで筆者はマレーシアに住むものとして、またインターネットで情報を伝えているものとして、まことに微力ながら,できるだけ公平にマレーシアの空の現状を伝えるようにしてきました。ですから2度3度とこうしてお伝えしています(もっともこれが最後ですよ)。とにかく ”Haze” 最悪期は終わったのです、KLの空はだいたいいつもの程度に戻ったのですよ、と当ホームページ内とメールで何回も書きました。
そこで、だいたいいつもの空に戻ったという点ですが、勘違いしてもらっても困るのです。筆者の意味するのは、クアラルンプールにいつもの青い透き通った空が戻ったということでは、ありません。KLの大気は、バンコクヤじゃカルタに比べればましでしょうが、お世辞にもきれいな大気とはいえませんから、いつもとは言い難いのです。
地元大学の講師を務める大気汚染の専門家によれば、インドネシアからの煙害騒ぎ中でも大気汚染の2割はマレーシア自身が排出するいろんな排気物・ガスによると、述べていました。
排気物・ガスとは、工場や自動車の排気ガス、ゴミの違法野焼き、のことでしょう。これはマレーシア自身が抑制すべき且できるものです。つまり政府と企業と民が適切な規制を作りそれを遵守し、向上させていくかにかかっていますよね。
新聞によればこのもや・かすみはなんと15年も前の82年9月30日に初報道されたそうです。
「首都圏が15年も前からこのHazeに襲われており、それがほとんど毎年続いてきたのは事実です。問題は、政府はそれ以来何をしてきたか、ということなのです。」 とはNGOであるマレーシア環境保護ソサイエティーの幹部の発言です。
「当時の政府はHazeの内容と影響を調べるとの話をしていたが、我々はその調査の結果を今だに目にしていない、そして政府は今またそういう調査をする話をしている」
マレーシア消費者連盟会長は、「Hazeが起こるたびに専門家が外国からやってくる。が我々は自身を守るべく情報をまだ得てないし、次から起こらないようにする情報もまだ得ていないのです。」
「Hazeは単にインドネシアからやってくるだけでなく、マレーシア自身の汚染によっても悪化させているのですよ」
筆者はこのHaze 問題が起きたとき、この「今週のマレーシア」の大気汚染のトピックスで、マレーシア(人)自身の環境問題への取り組みのいたらなさを揶揄しました。マレーシア人が、特に都会から遠く離れた田舎や離島の人が、ひどい煙害をもたらしたインドネシアを批判するのはよくわかります。批判して当然です。
これは、筆者も別のAseanに関するトピックスで触れたように、インドネシアの無責任さを建設的に批判しそれを防止策につなげていかないことには、来年もまた山野火災は発生するでしょう。
しかしマレーシアがそれだからといって、己自身の環境保護への鈍さを棚に上げて、インドネシアだけを批判するのはおかしいのではないでしょうか。
92年に環境庁が実施した首都圏の大気調査のおり、そこでは交通渋滞や産業排気ガスを抑制しないと2005年までに空気は悪くなる一方だ、という結果がでたのです。にもかかわらず、「政府は汚染レベルを下げていく対策の実施をためらいおよび腰である」 と消費者連盟会長は言っています。
なかでも典型的な例は94年に環境庁が作成した”クリーン大気行動計画” を政府が拒否したことだそうです。その計画には、産業はより汚染をすくない天然ガスに切り替え、新工場を住居地区から人の少ない地区に移転させ、車には触媒排気マフラーを義務づけ、排出ガス濃度をさげさせることなどがもられていたそうですが、当然産業界にコスト負担が増加することから、この計画はお蔵入りになりました。
「その計画はついに公開されなかったし、なぜその実施が適当でないかも明らかにされなかった」 とマレーシア環境保護ソサイエティーの幹部は語っています。
「NGOは何度も政府に(環境保護対策を)やらなければならないと訴えてきたのですが、我々はいつも”反開発”だとレッテルを貼られます。」 とは上記消費者連盟会長です。
上記で描写したように、政府の対応はそれほど積極的だとは感じられません。たしかにゴミ捨てや野焼きに対しては厳しい罰金主義で対応していますが、一番の汚染源である工場と車の排気に対しては厳しい基準を適用していません。
じゃ、私企業や民はどうかといえば、9月のこのコラムで書きましたように、環境保護意識の不十分さにはがっかりします。例えばこのところ首都圏の住民を怒らせている断水騒ぎは、浄水場の上流にある採掘会社がディーゼル油を排出したことから起きたのですが、こういう無責任事故はよく起きていいます。(「新聞の記事から」にこういうニュースをいくつか載せてあります)
今回のもや・かすみ騒ぎのとき、ある政府幹部が来年9月は英連スポーツ大会をマレーシアで主催するから、Hazeなんてとんでもないというようなことを述べてましたが、マレーシアが大会開催に総力を注ぎ、各国からも多くの観光客が来るから、その時期はもや・かすみのない空であるべきだということでしょう。
重要な行事があるからでなく、そこに住んでる住民のために空気は汚染されていてはいけない、という発想になれないのですね。オリンピックがあるから道路をつくるんだという考えと同じですな。
マレーシアは先進国入りを目指してしゃにむに進んでいますから、民も公も環境保護に向ける金と気持ちが及び腰になるのは理解できますが、日本など先進国が60年代、70年代に犯した過ちを繰り返さずに、つまり先進国の失敗を反面教師として、開発と保護をうまく同居させてほしいものです。
”先進国は自身がすでに発展しているから、後を追ってくる途上国を環境保護だとか人権擁護とかによって、その追跡を妨げている” という途上国指導者からの反論があります。事実、”南の熱帯国はいつまでもやしの木と白い砂浜のままでいてほしい” という先進国側の勝手な願望がありますから、たしかにその批判にも一理はあるでしょうが、それだからといって先進国の人たちの多くが、途上国追い上げ阻止の思想を持っているわけではありますまい。
環境汚染は結局人に帰ってくるから、どこであろうと汚染のない、またはより少ない道を探ってほしいと、筆者を含めて多くの人は願っているはずです。
いつまでも、青い空と強烈な太陽と透き通った海は貿易総額世界第17、18位の工業国(マレーシア)のもう一つの顔でありますように。 そして、もっと多くの方にマレーシアを訪れていただきたいですね。
環境問題に感心のある方への参考までに、マレーシアの広い意味での環境 NGO を書き出しておきます。
NGO 名 |
連絡先 |
E-mail |
注 |
Environmental Protection Society Malaysia |
03-7757767 |
なし |
74年設立 |
Citizen's Clean Environment Action Campaign |
03-3226166 |
haze@tropicalstorm.com |
97年設立 |
Malaysian Nature Society | |||
Sahabt Alam Malaysia | |||
Worldwide Fund For Nature Malaysia | |||
Sustainable Transport Action Network for Asia and the Pacific |
fax: 03-2532361 |
tkpb@barter.pc.my umpap@po.jaring.my |
95年設立 |
マレーシアって英語国だと思ってる方けっこういらしゃるのではないでしょうか。近隣のASEAN諸国の中では、シンガポールは別格にして、タイ、インドネシア、ベトナム、ミャンマー、ラオスより英語の通用度はずっと高いですからね。
特に旅行者が接するホテル、レストランを初めとした旅行業に携わる人たちの英語力は、上記の国々よりずっと上といっても間違いではありません。それだけでなく半島マレーシアの都市部やリゾート地で旅行者が出会う人たちも,一般に比較的よく英語を解すことも通用度の高さを感じさせます。
またマレーシア政府も外国からの投資推進に際して、英語がよく通じることをその理由の一つに上げているぐらいです。
進出してきた外国企業は社内では英語をコミュニケーション言語にし、国語のマレーシア語を推進する立場である政府官庁との交渉も英語でやる、マレーシア語で準備しなければならない書類はマレーシア人に任せるといったように、もっぱら英語に頼ってしまい、マレーシア語を習得することを怠ってしまうのです。
(外国人の中には英語一辺倒にした方が外国人には都合がいい、という本末転倒の考え方があります。どこの国の国民が外国人のために自国の国語を決めるでしょうか、ヨーロッパの各国を見てください。人口数百万の小国でも断固、当然です、としてその言語を国語に定め、人々もそれを誇りにしています)
マレーシアで英語の通用度が高いのは、もちろん19世紀以来の英国植民地であった歴史に由来するでしょう。英国植民地政府は英語に堪能なエリートインド人官僚と中国人官僚を使って、いわゆる”差別して支配する” 政策をとりましたから、一般民衆まで英語が浸透していたわけではありません。むしろしいて一般大衆に英語を強制しなかったのです。
しかしエリート層や上流階級だけが英語に通じていたことの反動として、英語が話せれば高等教育と貿易商売につながるから、次第にマレー人を始めとして大衆が英語学習に傾き、、英語が広まっていったようです。さらに英語はマレー人、中国人、インド人のどの民族の母語(母国語とは違いますよ)ではありませんから、一種の中立的言語になりますね。これは元英国系植民地国家で共通の理由です。
このような理由からマレーシアは英語の通用度の高い国になったのですが、その原因をみると、マレーシア国民の英語崇拝が独立語も残ったことと、もう一つにマレーシア政府の言語方針の”ゆれ”のせいがあります。もちろん政府はそんなことを認めませんが。
マラヤ連邦が1957年に独立してからも、英語はしばらく公用語として認められていましたが、現在はごく一部の分野を除いて違います。その後1963年9月になってサバ州とサラワク州及びシンガポールが半島部のマラヤ連邦と一緒になることで、1つの国家 マレーシアが成立しました。このため両州でのマレーシア語化が遅れたようです。しかしそれにもかかわらずというか、国家が公用語と認めようが認めまいがといった方が正確でしょう、英語はある種の公用語的役割を果たしてきましたし、現在も占めています。
後日加筆: 最近旅行して発見したのですが、サバ州の一般大衆の間での(族際語としての)マレーシア語使用は、半島部より高いのでは、という感じを持ちました。つまり半島部なら英語が用いられる可能性が高い場面でも、サバではマレーシア語での会話をいたるところで耳にしました。短期間なのではっきりとは言えませんが、いずれ別の機会に扱ってみましょう。 −以上加筆分
政府は英語を禁止したわけではないことと、それは旧宗主国英国の残した数々の国家の仕組みの一つとしての英語を完全に廃止することができなかったからですが、民の側では旧主国への残した最大の財産である英語へのあこがれを常に持っていたという面がそれに寄与したのでしょう。
マレーシアは多民族国家ですから、民族毎に当然母語(母国語ではありませんよ)が違います。どこの国であろうと国として成り立っていくには必ず共通の言語が必要ですから、マレー半島の本来の民族(ここではマレー半島先住民族オランアスリには触れない)で、多数民族であるマレー人の言語であるマレー語、Bahasa Mulayu と呼ぶ、が国語にふさわしく、それをマレーシア語(Bahasa Malaysia) と呼び国語にきめたわけです。
ここで近隣の多民族国家の場合を、参考のため少しばかり見てみましょう。フィリピンは、一民族の言語であるタガログ語をフィリピノ語と名づけて、フィリピンの国語として普及させようとしています。大分成功しているようです。
インドネシアは、地域のリンガフランカであったマレー語とほぼ同じ Mulayu 語を発展させて、インドネシア語と名づけ国語にしました。あえて多数民族のジャワ語を国語に定めなかったのです。
同じマレー語圏なのにインドネシアとマレーシアは植民地の歴史からも違い、インドネシアでは各民族が地域語である自分の母語とインドネシア語と併存させているのと違い、マレーシアのマレー人は母語であるマレーシア語(マレー語)が唯一の言語であり、他の言語を併存させてはいません。ただし一部の都会中上流階級マレー人を除く。
以上のような経緯を経て、国語であるマレーシア語は、当然生活の隅々までその通用度は及びます。電話、電気、水道などの公共料金請求書は全部マレーシア語だけで書かれています。役所はもちろん率先して公文書をマレーシア語だけで書きます。警察はマレーシア語の世界ですから事故報告書などもマレーシア語で書くのですが、外国人は英語で書いてもいいようです。
自動車免許試験はマレーシア語で受けますが、外国人は英語の試験を選択できます。
学校教育をみても、どの民族学校でもマレーシア語がもちろん必修です。マレーシア語で合格点を得ない限り、他の教科がいくらいい点でも上級進級試験に合格できません。
つまり複数民族国家の族際言語として、政府はマレーシア語化政策を進めることによってマレーシア語が英語にとって変わることを期待したし、今もそう期待しています。しかしこれが100%成功したとはとても言えません。むしろ最近では英語が族際言語(民族間の会話言語のこと)として、一時よりも力をましたのではないかと思えます。都会の中上流階級の集まるようなところへ行くと、この思いはより確かなものになります。
公的でない催し物、諸民族が対象の公式でない集会・会合やセミナーなどは、都会なら英語が媒介語として用いられることが大変多いのです。筆者は昨日たまたま マイクロソフトの IE4 ブラウザー発表会にいったのですが、主催者も質問者も一貫してすべて英語を用いていました。これはほんの一例です。
特に情報技術関係などではマレーシア語はまったく英語に太刀打ちできません。マレーシア語の MS Window さえないのですから仕方ないと言うしかありませんな。
この理由を推測してみましょう。世界の元英国植民地国家、英連邦国家で一般的なように、元植民地言語である英語の通用度に曳かれて英語への郷愁が常にマレーシア人の脳裏を去らないようで、都市のマレーシア人を中心として日常的に英語(以下すべて英語といっても Malaysian Englishを言います)を使ってきたし使いたいようです。
特に都市部の中上流階級は、マレー人であれ華人系であれインド系であれ、コミュニケーション言語として英語を使いたがるので、日常会話を英語交じりの会話にするのです。英語交じりといっても単にいくつかの英単語を会話の中で使うという程度ではなく、マレー人同士ならマレーシア語会話中に英語の文を混入させるとか、華人系同士になると華語(中国語)の会話と英会話を併用するというように、2言語混在会話となります。
2言語混在といっても、優れたバイリンガル話者が2言語を交互に使うというのではありません。例えばマレーシア語の会話中、文の一部に英語を組み込み、それをマレーシア語の時制で話すというようにです、必然的にマレーシア英語になりますね。尚どのように混在させるかは、いつかそのうちに”マレーシアの英語 内容編” でも書いてみましょう。
非マレー系マレーシア人(華人系、インド系)がマレー人とコミュニケーションをする場合、マレーシア語の中に英語を挟むというスタイルがけっこう多く聞かれます。マレーシア語の中に単に英単語をはさむという程度ではなく、英文を混在させるのです。この理由は、彼ら(非マレー系マレーシア人)のマレーシア語の能力が十分でないこともありますが、英語を使うことである種の中立的立場を感じさせます。
役所のような公的機関になるとマレー人の比率が相当高いので、マレーシア語だけでの会話の占める割合がぐっと増えますが、街の会話になると上で述べたように、2言語混在会話になりがちです。
尚この傾向は都会から離れた郡部や東海岸の州にいけば、会話中に英語の混在率がぐっと減ってきます。つまりマレーシア語だけの会話が普通になります。
マレーシアの各民族の理由とは別に、マレーシアが経済的に発展すればするほど国際間の通商と人の往来が盛んになりますから、英語通用が伸びはすれ衰えることはありません。インターネットの時代になればさらにそれが助長されるのは目にみえてます。なにせマレーシア政府はマルチメディアスーパー回廊を建設してますから。
しかしこの英語偏重は、マレー民族主義者とイスラム保守主義者(この両者は重なる場合が多い)には面白くありませんから、常に政府への批判勢力となり得るわけです。
筆者はこのイスラム保守主義者やマレー民族主義者が彼らの論理から英語使用の拡大に反対する根拠はよくわかりますが(賛成ということではありませんよ)、残念ながら、それとは別の論理で英語拡大風潮に批判する・反対する論理にであったことがありません。つまりナショナリズム・イスラム主義からではなく、言語の権利・平等という観点から、国語を尊重し英語偏重が言語の独占につながる、という論旨での批判です。
西欧思想の押し付けを果敢に批判し、アジアはアジアの思想で統治すると訴え実行するマハティール首相も、英語の独占に対してはその矛先が鈍いのです、というより英語通用を助長してるように見えます。助長というと多少語弊ですが、マレーシア語を国語として育てていきながら、国民が英語をよく使えるようになり、ある分野では英語使用を奨励していくといったわかりにくい態度です。
かたや副首相のアンワルは、不注意な政府役人が英語通用に関する方針を誤解していると批判しています。
「そういう役人は英語の重要性をいつも強調しすぎていて、まるで政府が国語のマレーシア語を軽んじているかのような印象を与える。それが逆に愛国者の反政府的な反応を生むことにもつながっている。」
「政府はマレーシア人が科学情報技術の面で最新の発展に肩をならべていくべく英語の利用を奨励しているのである。でもこれは国語を軽視しているということではない」
さらに私企業とくにファイナンス業界での日常的な英語偏重を批判しています。マハティール首相とは少し語調の違ったアンワルらしい一面です。
英語は、残念ながら、世界で一番通用する国際ビジネス語であることは誰も否定できません。つまり英語は金になる言語でもありますね。世界のいたるところで、日本を含めて、英語はある種の崇拝を学習者・話者に植え付けます。ですから当然、マレーシア人もその英語崇拝を抱きますが、この崇拝、日本人の抱くそれとは少し違います。
多くのマレーシア人が抱く英語崇拝とは、我々は英語ができるから、科学技術は英語を通して学びそれを英語を使って応用していくという形ですね。
日本は翻訳文化の国ですから、翻訳を通して学び翻訳を通して広めていくという形です。英語を媒介としなければ科学技術は身につかないという思想ではありませんし、それが日本の翻訳文化を発展させ、民のどの階層でも技術を学べる理解できる、もちろん学ぶ意志がありことが前提ですが、ようになりました。
これはすばらしいことです。日本ではどの所得階層であろうとどこに住もうと、科学技術文献から海外小説まで日本語で読めます。インターネット上のホームページの世界はたいへんいい例です。これが英語ばかりで書かれていたらとてもここまで日本のインターネットは延びません。しかし、マレーシアでは相当違うのです。
元植民地国家であった発展途上国の場合、高等教育を英語、フランス語でしか受けられないことが多いのですが、マレーシアはそうではありません。大学教育はすべてマレーシア語で受けられるすばらしい環境を整えているにもかかわらず、ある程度高度な技術本は英語それも輸入本が多数であり、まず英語がわからないと太刀打ちできないということになります。
理科系だけでなく法律でも英国系の大学出身者が非常に多いのです。英国で法律学の学位をとり、マレーシアで法律家となるという順番ですね。医者もシンガポールとか英国の大学を終了した医者が目立ちます。
インターネットのホームページ、その数自体日本の比ではありませんが、の多くが英語で書かれています。つまり底辺の広がりがこれゆえ限定されてしまっています。一般的にマレーシアの英語通用度は日本のはるか上ですが、それだからといって英語を気楽に書ける読める人口は思ったほど多くないのです。
ところで上記で政府の”政策のゆれ”と書きましたが、この政府の政策のゆれを最近の事例から拾いますと、マレーシア政府はこれまで大学教育での教育媒介言語はマレーシア語でなければならない、という原則をここへきて少しゆるめ、理科系の科目に限って英語を媒介にして講義することを許可しました。また大学入学資格統一試験(STPMと呼ばれる)でも英語の科目を必須ではないが、必要単位数に含めると決めました。
若い世代の英語力が落ちている(と政府は考える)ので、先進国入りを目指すためつまり技術発展国を目指すために、英語直での教育を認めざるを得ないということでしょう。このように少しずつマレーシア語防御のガードがゆるんだ面と、反対に2000年までにマレーシアのテレビ局は放映する番組の8割までをマレーシア製の番組にしなければならないという方針もあります。これは必然的に全部ではないにしても、マレーシア語の番組がふえることにつながるわけです。
このようにマレーシアにおける英語は、国語でも公用語でもないにも関わらず、常に非公式な(?)公用語と族際語としての地位を保ってきたといっても間違いはないでしょう。身近な例を上げると、銀行の現金自動引き出し機ATM の画面上説明文は、普通マレーシア語、英語、そして華語から選択するようになっています。マレーシア語のわからない外国人に気をつかっているわけではありますまい。
マレーシアでは、たとえ建前だけとしても複数の言語を国語の地位に認めることは考えられませんから(マレーシア華人の共通語である華語、日本で言う中国語のこと、インド系マレーシア人の多数派語であるタミール語が国語になる可能性はゼロ)マレーシア語と英語の微妙な力関係はこの先も続くでしょう。
尚蛇足になりますが、読者の中にはこのトピックスを読んで勘違いされる方があるかもしれませんので、下記のことをあえて付け加えておきます。
筆者は、マレーシア語が好きだからこういう文を書いたわけでもないし(とりたてて好きではありませんし又堪能でもありません)、英語が嫌いだからこのように書いたわけでもありません(嫌いではないが、他言語と比べてそれほど好きな言語ではありません、もっとも筆者の飯の種の一部ですが)。筆者は英語が最大の、唯一ではない、国際語であることを認めた上で、言語の平等、国語の尊重、複数言語の奨励という立場にたっております。
後編は98年7月8月掲載の第94回と95回に掲載しています。多くの実例を解説していますので、どうぞご覧ください。
世界の国、地域にはそれぞれの文化、慣習がありますから、それが自分になじみがないからといって安易に批判するのは慎まなければなりません。ですから筆者もそのことを念頭においてこの「今週のマレーシア」を書いてきました。といって単に無批判にそれを描写するのでなく、日本人として又マレーシアに生活する者としての視点から、マレーシアの社会と習慣に対する現実を踏まえた批評を心がけています。
何年も当地に生活していれば、特に筆者は日系企業で働いていないので日本人社会にあまり関わらずに暮らしていますから、自ずといろんなことがわかってきますし、あきらめ(?)もつきます。しかし中には現実を踏まえたのにも関わらず、どうしても納得いかないことがいくつかあります。
その一つにメイドと呼ばれるお手伝いさんの問題があります。当ホームページでも外国人労働者に関するトピックスなどで、少しばかり触れたことがありますね。
最近政府は新しく雇う(外国人)メイドの移入凍結と現在のメイドの労働ビザ更新も厳しくすると発表しました。
とりあえず、新聞の投書欄に載った”メイド問題解決” と題した次の投書(抜粋)をお読みください。
「地元マレーシア人のメイドを雇おうとしてごらんなさい。冗談じゃなくね。地元のメイドを雇うのは難しい、だってマレーシア人はそういう召し使い的仕事をもうしようとしないから。
我々マレーシア人の若い女性といくらかの年取った女性はいつでもオフィスや工場の仕事に就こうとします。彼女らの給与は少しばかり低いけど、そういう仕事には喜んでいるのです。
メイドに対する取り締まりに関しては多くのことが語られ書かれました。私(投書の主)は政府が真剣に今回の発表を再考慮してくれることを期待します。今回の発表は、メイドに依存している人々に大変大きな影響を与えています。
我々はそういうメイドに依存しすぎてはいけないことはわかります、しかし代替え策は何ですか? 我々は(外国人メイドに替わる)十分な地元のメイドがいますか?
我々はメイドの訓練について論じてきた。いつそしてどうしたらそれが終わるのでしょう?いいかね、この問題は私たちに及ぶのですよ。外国人メイドを(その国へ)送り返してしまったらほとんどのマレーシア家庭は自分たちだけでやっていけるの?
政府が厳しい処置を取るなら現在メイドに依存している人々に代替えを与えなければならない。そうでないと大変不公正です。
中略
あなたは代替えを手にしない限り今もっているものを放したらだめですよ。
多くのマレーシア人はメイドを雇用して、子供や病気がちの老人の面倒を見させてます。じゃあ一体誰がこういう人の面倒をみるというの?
(政府の求める)メイドが必要なことを証明しろというのはばかげている。人々は自分の顔を見てくれるためにメイドを雇っているわけではない。
政府は女性が職から離れ専業主婦になれっていうわけ?女性が家庭の外で職に就くことを奨励している政策にまったく矛盾してませんか
我々の子供幼児施設数は限られていますから、もう外国人メイドはいらないと本当に言えるときがくるまで、現在の状態を保とうではありませんか。州政府はゴルフ場よりもメイド訓練センターに土地を与えることを真剣に考えるべきではありません?」
11月18日付けThe Star 新聞より、投書主は在スレンバン州とありました。
こういう意見は決して特別な意見ではありません。都会のマレーシア人ならきわめて一般的な考えでしょう。
皆さん、これをお読みになってどう思われますか。
この投書主がいみじくも述べていることば、”マレーシア人はそういう召し使い的仕事をもうしようとしないから” にこの考えのエッセンスが見えています。どんな理由があろうと、メイドは召し使い的仕事だからマレーシア人がやらない、だから外国人にやらせよう、というこの発想にはついていけません。
メイドという仕事が重労働だからでも、(もちろん軽労働ではないでしょうが)、低賃金だからでも(もちろん高賃金ではないがこれより低賃金の職はたくさんある)なく、メイド職そのものが持つ仕事の性格から、マレーシア人はもうそういう仕事につかないのです。
あたりまえでしょう。しかし ”十分な地元のメイドがいますか?”とこの投書主は揶揄してます。じゃあもしメイドが高賃金になったら、「貴方は又は貴方の子供に将来メイドになりたい、させたいですか?」 と筆者はこの投書主に逆に聞きたいですな。
考えてみてください。メイド、聞こえのいい本質を隠した言葉でいえば domestic helper とマレーシアのマスコミは使いますが、は彼女たちが働く家の中で店の中で、所詮主人と召し使いの関係なのです。雇用者と被雇用者の関係の面よりも、主と従の関係におかれますし、主はそれを期待しているのです。ですから通いではなく自分の家や店に住み込ませることを望みますし、現実に住み込みがほとんどです。
日本でも戦前は女中さんが裕福な家庭にはいたそうですが、現在日本では相当な裕福な家庭でも、住み込みの女中さんを置いている家庭はまずないでしょう。ましてや普通の中流家庭では、女中さんどころかお手伝いさんを雇うことさえ不可能ですよね。
病気の老人や身体障害者がいて自分たちだけで面倒を見れないとき、市役所の提供する家庭ヘルパー制度を利用するとか、家庭サービスを掲げた私企業にお金を払って、サービスを買うという方法ですね。これは社会福祉という面と福祉企業の利用という面に基づいていますから、メイドつまり女中さんを使うという方途とはまったく別のことなのです。発想自体が違います。
経済が発展し平等思想が根づいていけばどの国の民であろうと、極々一部の例外を除いて、働く場において主と従の関係を嫌います。まして同一国民下の家庭や店で、従として使われることはしなくなるのは当たり前です。メイドが単なる雇用被雇用関係でないからこそマレーシア人はもうメイドとして働かないのです。
お手伝いさんのような仕事をしているマレーシア人はもちろんいますが、それは外国人家庭のまかない、例えば在住日本人家庭がよく使っている通いのアマさんとか、 知り合いの家庭へお金をもらって通うという形ですね。
残念ながらこの投書主を含めて多くのメイドを雇うマレーシア人の発想には、平等思想の面から納得がいきませんね。メイドが低賃金重労働でなく、それが人間の主と従の関係に基づくから、マレーシア人だけでなく本来人は好まない、ということに彼らは気がつかないのです。
メイドとしてマレーシアに働きに来ているのは職のないかより高賃金を求めてインドネシア、フィリピンからがほとんどで、中にはスリランカ、タイからも少数いるそうです。彼女たちはメイドとして一生幸せにかつ満足でいるのでしょうか?
メイドを使う社会習慣があるのは何もマレーシアに限りません。近隣諸国なら、裕福なシンガポール、マレーシアよりもっと一般的ですね。タイ、東北タイ出身者やラオス人などを使ってます。インドネシア、いうまでもなくその貧富の差を利用していくらでも候補者はいます。
筆者のシンガポールやマレーシアの知人も家にメイドを置いています。筆者の住む下町の中級アパート、メイドを住み込ませている家庭はそうでない家庭より多いでしょう。筆者にはメイドが絶対必要とはどうしてもみえませんが、そういう社会習慣ですから、彼らもメイドがいれば便利だから雇おう、それぐらいの感覚で使っていることでしょう。新聞の広告欄には中国語紙、英語紙とも毎日メイド斡旋エージェントの広告が複数載っています。
これほどまでに一般化したメイドを、すぐなくすということは不可能なことはよくわかります。だからといって、マレーシア経済が発展したからマレーシア人がやらない仕事を外から連れてこればいい、というのはエゴ以外の何ものでもありませんね。ですから、例えば政府や公的機関に保育所を作れということに力をそそぐよりも、”既得のメイド権”保持にいっしょうけんめいなのです。
男女の役割論議、保育所設置、福祉センターやサービスを充実させる、福祉産業を育成することは二の次で、公はメイドをいかに規制するかに重点を置き、民とエージェントはいかにして”品質のよいメイドを養成する”かに論点がいって、メイドとは何なのかという本質論議になりません。これを東南アジア的文化といえばいえるでしょうが、2020年までに先進国入りを目指しているマレーシアにそういう発想が根づいてこないことは残念です。
もちろん筆者は西欧先進国、例えばドイツがトルコ人などに、フランスがアルジェリア人などに、のように自国人がやらないいわゆる3K労働を、外国人労働者・移民にさせていることは知っていますから、先進国がすべてモデルなどと言う気はありません。
ただ筆者は、マレーシアがその経済が非常な速度で発展して、他の多くの発展途上国から一歩も二歩も抜き出た状態にある現在、かって自らがあった状態の国の民を見る目が、西欧先進国の目に似通っているのではありませんか、という気持ちを抱かざるをえないことが時々あるのですね。メイド問題はこういうことを考えさせてくれます。
かって日系企業に働いていた頃、マレーシア人の採用もしばらく担当しましたので、当時次のような単語にてこずりました。SPM, STPM, SPMV, SRPM, O-Level, A-Level, Diploma, Certificate, Degree, Matriculation などなど。こういう単語は英和辞典をひいてもその単語自体がないか、(マレーシアで使われる)意味が定義とまったく違うのです。
マレーシア人スタッフに聞いても明瞭な定義はなかなかえられないものですし、こういうことを解説した日本語の文献は当時、あったかもしれませんが、見当たりませんでした。教育制度は当然ながら国によってそれぞれ違いますし、マレーシアが元英国植民地として英国の制度を模倣している部分があるといっても、相当程度マレーシアにあったように変更を加えていますから、辞書の定義でなく自分で知識を得るしかありません。
英語の単語にもマレーシア特有の使われ方があるのです。ですから英米で習っただけの知識でマレーシアの文書・資料を訳すと、意味がよく通じないか誤訳する場合もあります。
翻訳者にも医学畑とか機械畑などそれぞれ専門があるように、東南アジアの文書・資料を訳すにはそれなりの予備知識が必要です。
この点に関して、去年雑誌でたまたま目にした記事におかしな説明を見つけましたので、著者の翻訳家にメールを出して指摘したのですが、やっぱり無視されました。
翻訳家でも専門家でもありませんが、翻訳もたまにはする筆者としては、こういう専門家の態度には残念なものがあります。
本題に戻りましょう。マレーシアの学制は、6年、3年、2年 の計11年制です。その上に高等教育機関として大学や大学に準じる学校、専門学校があります。高等教育機関としてではなく中等教育の一つとして、6,3 つまり計9年の学業後に行く職業訓練校・施設もあります。たとえばIKM と呼ばれる公立の職業訓練校です。
初等教育である6年終了前に全国統一の試験UPSRがあり、中等教育前期終了の3年次にPMR試験が全国的に催されます。そして中等教育終了つまり Form 5 と呼ばれる5年次(3年プラス2年)終了時に、大変重要な SPM 試験があります。もうすぐこのSPM試験が行われる、いやもう終わったかな。というのも現在学年度末休暇(今年は11月22日開始)で新学期は新年直後に始まります。
SPMが終わったからもう安心とはいえなくて、国内の高等教育機関つまり大学等へ進学する生徒は、一般に、大学入学資格統一試験STPMに合格する必要があるのです。一般に と書きましたのはそれ以外の方法もあるからですが、ここがすこし複雑で筆者も完全に理解してるとはいえません。説明してみましょう。
STPM 試験はSPM合格後約2年間の Form6の前期と後期を終えてから受けることになりますが、STPMは最難関といわれる試験で、国内の大学Universityに進学するさい義務づけられているのです。つまり国内の大学でなく海外に留学するとか、国内のカレッジCollege に進学する生徒にはSTPM合格が絶対必要ではありません。もちろんSTPMでいい結果をとればそれに超したことはないそうですが、絶対必要でなく且つ難関ということもあって受験者が減る傾向にあります。91年には75,000人ほどあった受験者が97年には46,000人に落ちました。
なぜSTPMが減っているかにはいろいろ理由があるそうですが、上記に述べたように国内の大学に進学しなければあえてSTPM のために2年かける必要はないとか、STPM合格にはマレーシア語合格が必須ですからそれを嫌ってというのも中にはいるそうです。
さらに海外の大学、といってもほとんどが英国圏ですが、に留学する場合英国圏で一般に認可されている GCE-A レベルに合格すれば入学資格は得られますから、GCE-Aレベル合格を目指して勉強する生徒もいます。ただこのGCE-A レベルはマレーシア政府が関与するものではありません。
STPM は公費で勉強して国立のマレーシアの大学への入学する資格を得られる、一番経済的な道ですから、特に低所得層には大変有益なのです。進学相談でも、金銭的に私費留学できない人とか国内大学進学指向の生徒にはSTPM 受験を奨励しています。当然ながら金のかかる私立のカレッジcollege 進学者はほとんど中上流階級の家庭で、ブミプトラがずっと少ないのは事実です。
STPMを終えれば学業は13年ということで、12年終了を条件にしている日本の大学への留学資格もできます。SPM終了では11年で足らないのです。又STPMは世界の各国で中等教育終了資格として認められているので、その大学の入学試験に合格さえすれば、特別の大学前予備教育は必要ないとのことです。
しかし教育省は現在高等教育の見直しの一貫としてこのSTPM試験を改廃することを考慮中と伝えられてますので、近い将来変わるかもしれません。
上記で大学をUniversity と書きカレッジをCollege と添え書きしたのは訳がありまして、マレーシアでは大学とカレッジは厳然と区別されていまして、誤解を招く言い方でいえば格が違うのです。簡単にいいますと、大学はDegree を取得でき、カレッジはDegree が取得できなくて Diplomaまでです。Degreeとは日本の大学でいう学士のことでしょう。Diploma はDegreeの前段階とでもいえばあたらずとも遠からずでしょう。
尚マレーシアの高等教育理解を複雑にしているのは、大学によってはDiplomaコースを設けているところがあることです。そしてSTPM合格ではなくて、Matriculation プログラムといってその大学内で大学前予備教育を与え、一定の水準に達したらDegree 取得の本コースに進めるという、”ある種の優遇プログラム”があります。このMatriculationは確かブミプトラ専用です。
このMatriculationに対しては、「大学の有能なスタッフが大学前予備教育に関わるのは人的資源の無駄である。Matriculation は廃しすべきだ」 UKM の準教授の言葉のように、廃止をとなえる意見もあります。
さて国内のカレッジへ進学した生徒は多くのカレッジが提供するTwinning プログラムを利用して海外へ留学する道があります。Twinning とはカレッジで2年ほど勉強してその単位がカレッジと提携した海外の大学、もちろん英国圏一部米国も、で認知され、後期学年をその提携大学で就学するというプログラムです。つまり留学の期間が半分にすみますから金銭的にも生徒の家庭には助かるし、学生は最低2年間はマレーシアでその大学の履修単位をとれるという利点があります。
ですから各カレッジは宣伝時にどこの大学と提携しているかを売り込むのです。カレッジに進学してから提携先でない大学に留学するのは難しいそうですから、生徒もあらかじめよく考えなければなりません。
マレーシアでは国内大学就学者に比べて海外留学者の比が大変高く、大学に進学する5人に2人は留学するのです。おおざっぱにゆうと毎年国内の大学へ入学する生徒が3万で、海外に留学する生徒が2万人です。たいへん高い留学率ですね。
その理由は国内の大学の定員が足りないからだというのが第一の理由です。今年の数字を見ると国内の大学への志願者は4万人でしたので、単純にいって定員から1万人があぶれました。
大学の定員が足りないこともあって、マレーシア政府、MARA公団などの公費で留学している学生は合計2万人に上るそうです。この数字は英語国、つまりイギリス、米国、オーストラリア、ニュージーランド、カナダの大学で学んでいる(修士課程とかは除いて)推定6万人のマレーシア人留学生の3分の2にあたります。もちろん定員不足だけの理由ではありませんが、政府はこの数字を減らす方針です。
なぜこんなにも留学比率が高いかの論議に、マレーシアの大学の大学は劣っているからという議論もあるようですが、当然ながら強い反論があり、UM大学の副学長は、「品質と言う面からはマレーシアの大学は十分よいのに、なぜ父兄は子供を外国に送るのか?」 とか USM大学の副学長は、「多くの研究の分野では国内大学は世界的クラスである」 マレーシア私立カレッジ協会の長は、「外国がすべて良いことにはならない。」 といってます。
ちまたで言われるのは、”国内の大学に入学するより外国の大学へいく方がずっとやさしい”というのがあり、筆者もある意味ではそう思います。
もう一つ留学者が多い理由と考えられているのに、国内の大学がブミプトラ割り当てシステムをとっていることがあります。これは公的機関のUPUが国内大学への入学者を民族別に割り当てます。つまりブミプトラ(マレー人と先住民族)55%に対して非ブミプトラ(華人系とかインド系)45%の割合で、国内大学の大学生を受け入れるのです。
この割り当てシステムのため、STPM試験で合格しても必ずしも大学に入れるわけではありません。とくにこれは非ブミプトラ系に影響が大きいようで、例えば華人系マレーシア人がSTPMでいい成績を収めても、割り当てに漏れれば入学できないことになる、ですから割り当てシステム見直しを求める声があります。
ただ割り当てシステム反対の声があっても、ブミプトラ政策はマレーシア政府の根本政策ですから一朝一夕にかわるものではありません。
学生を外国に送らない送らなくてもいいようにするための解決に一番いい方法は、国内大学の増設か定員枠拡大ですから、政府はそれに積極的に取り組んでいます。教育大臣の強い肝いりで、今年からDegreeを習得する国内大学の就学期間を4年から3年に減らして(医学部などは別)、去年に比べて入学者数を3割以上増やしました。就学期間が減った分学生を増やせるというわけですね。さらに来年度は各大学が入学者数を10%から15%増やすよう指示しています。
国立大学は最大手の UPM, UKM、UM(マラヤ大学)から最小のサラワク大学まで全国に9校あります。その中に外国からの留学生がたいへん多い国際イスラム大学というのもあり、またサバ大学とサラワク大学は設立してまだ数年の新しい大学です。総入学枠が上記に書いた3万人弱ですね。
それと確か去年認可設立されてばかりの、私立大学が3校だけあります。Univeristi Telekom (テレコム経営)、Universiti Tenaga Nationnal (電力会社経営)、Universiti Teknologi Petronas(石油会社経営)です。3校合わせても入学者数1,400人の小規模です。ちなみにUPMは6,500人、UKMは5,300人、UMは4,000人ほど新入生を受け入れています。
大学ではないけど準大学的な高等教育機関としてITM があります。これはMARAマレー人公団設立の、マレー人のための高等教育機関です。華人系マレーシア人のためには、私立という形ですが、与党政党でもあるマレーシア中国人協会が力をいれているTAR カレッジがあります。
その他純私立の高等教育機関はカレッジですが、中にはいくつかの国内大学よりも大きなカレッジがあり、Stamford Collegeは学生数16,000人だそうです。カレッジが国内大学とTwinning プログラムを提携しているのは極めて少ないようですが、Stamford がUSM大学とコンピュータサイエンスでTwininng をしているとか、UM 大学がITMや Inti Collegeの Diploma を認めて学生がDegreeコースに進める、というような例があります。
このところのマレーシア通貨の下落もあり、政府は私費公費に関わらず外国へ送るマレーシア人留学生を減らそうとしています。留学先はほとんどが英語圏ですが、公費だと加えてアラブ圏の国にも留学生を送り込んでいます。有名なルックイースト政策で日本にも数千人の公費留学のマレー人と私費で学ぶ華人系マレーシア人がいることは皆さんご存知ですね。又インド系マレーシア人の中にはインドの大学へ子供を留学させている家庭もあります。
副首相アンワル自ら国民に 「国内の大学へ進学しましょう」と呼びかけています。このまま国内大学の定員枠が増えていけば、現在のような高い留学比率は下がるでしょう。
ただいくら政府が音頭とっても、裕福なブミプトラがケンブリッジに子供を留学させたり、華人系マレーシア人家庭が子供をデザイン勉強に日本の専門学校に送るのは、なくならないと思いますけどね。
以上筆者の理解するマレーシアの高等教育の仕組みと現状です。予備知識として「新聞の記事から」の11月27日分などにも教育問題のニュースを載せてあります。
追記: ごく最近の新聞報道によりますと、政府はマレーシアの私立高等教育機関つまりカレッジが外国の大学と提携して、完全なDegree 授与のできるコースを開設することを認める、と決定しました。これによってマレーシア人学生が外国へ留学しなくても”国内留学”だけで、いくつかの分野でDegree を取得することが可能になります。
政府のこの方針はマレーシア人留学生を減らす政策のためですが、カレッジにDegreeコースを許可するのは提携外国大学は評判のよい大学であること、そのコースもその外国で取得できるDegreeと同品質であること、との条件がついています。
先月筆者はサバ州を訪れて、時計周りに陸路(一部空路)でサバ州を1周してきました。そのあらましは「旅行者・在住者用ページ」 に書いてありますのでご覧ください。わずか1週間程度の滞在で、サバ州をどうこう語るのは正直言いまして、分を超えたことです。もちろん、旅行地の紹介として、あそこが良かったとかおいしい物を食べたとか景色がよかったなどの旅の印象程度ならいくらでもできるでしょうが、サバを考え批評するのは1週間ではいかにも不十分です。
筆者はクアラルンプールに現在まで通算して5年半から6年近く暮らしてきました。単なる仮の住民として住んでいるわけでなく、生活の本拠地であり、筆者にとってマレーシアは今では ”うち”なのです。
そこでマレーシアに暮らしている ”疑似マレーシア人”の目から、半島部と比較したサバ州を語ることはできると思います。
ずっとクアラルンプールに住んでいますが、半島部マレーシアの他の地域は、ボルネオ島部マレーシア−これを東マレーシアと呼びますが東海岸と間際らわしいので、筆者は東マレーシアという言葉は使いません−のサバ・サラワク州よりずっと身近に感じます。それはすべて陸路でつながっているから、いつでも簡単にバス、列車で訪れることができるという地理的な面、新聞のニュースなどでも半島部のニュースはサバサラワク州よりずっと多くたえず見聞きしていること、に多分に依るのでしょう。
半島部の民族はマレー人、中国人、インド人それに外国人労働者と半島部のどこへ行っても、場所によって構成比は随分違いますが、それほど珍しい人たちに出会うわけでもありません。
しかしサバ・サラワク州ではまったく違います。マレーシアの主要構成民族のマレー人と中国人、ただインド人は極端に少ない、のほかに、というより元々のボルネオ島先住民族である、カダザンドッソン、イバン、ビダユ、ムルッ、バジャウ族など、数十の民族がそれぞれサバ州とサラワク州に住んでいますから、そこで出会う顔は見慣れた半島部のそれではありません。
もちろん話す言葉は、都市部では国語のマレーシア語が族際語として使われているのですが、彼ら先住民族同士とか郡部田舎では、当然その先住民族の母語で話しています(と推測されます)。
注:母語と母国語は似て非なるもの。同じ場合もあるし違う場合もある。日本人の場合は母語と母国語は普通は同じだが、例えば在日韓国人の場合、母語が日本語で母国語が韓国語という人もいます。
Sandakan で泊ったホテルの1室でテレビのチャンネルを回していたら、聞きなれない言葉のカラオケビデオが流れていたので、ひょっとしたら Kadazandusun 語ではと思ってフロントで尋ねたら、やっぱりそうでした。サバ州先住民族中の最大民族で、州人口の3分の1近くを占めるKadazandusun 族でも、その言語のカラオケ曲が半島部のホテルのビデオやカラオケクラブで歌われることはまずないでしょう。大きなホテルなら絶対無いと言っても間違いありません。
マレーシアのラジオ局、公営はRTMと呼ばれマレーシア語放送中心ですが、英語チャンネル、中国語チャンネル、インド人用のタミール語チャンネルはあっても、ボルネオ島部で話される言語の放送チャンネルはありません。
ましてや民放ラジオ放送局ではありえません。数局ある民放は英語放送局が中心で、中国語・広東語放送局(筆者は大抵この局を聴いている)が一つだけあります。筆者は家でしょちゅうラジオをかけてますが、これまで例えば、Kadazandusun語の曲を各局の番組の中で一度も聴いた記憶がありません。
サバ州では州地元のマレーシア語の放送の中で、Kadazandusun語の番組があると何かで読んだことがありますが、これとてマレーシア語や英語の放送時間に比べたらずっと少ないはずです。ましてや他の少数民族の言語の番組が放送されることはない(と簡単な番組表を見た限りでは、思います)。
サバ州の学校では、国会が新教育法を可決した95年から、 Kadazandusun語が時間割の中で教えられるようになりました。その前はどのように教えられていたか、筆者は知りません。
Kadazandusun族は上記で書きましたように、サバ州の主要構成民族です。マレーシアでサバ州だけで、州首相の民族別任期制が自主的に実施されています。これは前回の選挙で州政府を握った政府与党UMNOの発案で、マレー人、Kadazandusun族、中国人の間で2年ごとに州首相を交代するというものです。たいへんいい試みですね。
尚サバ州は結構非(反ではありませんよ)中央気運があるようで、前回の州選挙まではKadazandusun族中心の政党PBSがしばらく州政権を握っていました。今マレーシア各州で、与党連合UMNO以外の政党が州政権を握っているのは、イスラム原理主義政党ともいうべきPASが握るクランタン州だけです。
さてサバ州は57年のマレーシア成立に遅れること6年、63年にサラワク州とシンガポールといっしょにマレーシアに参加したわけです。これは、白人ブルック王国の支配下にあったサラワク州と同じように、サバ州が長い間英国北ボルネオ会社の支配下という、半島部とは違った歩みをしてきたことがその原因でしょう。それに同じ先住少数民族が国境を挟んで住む、インドネシアとの関係もあったかもしれませんが、それは歴史の本に譲ります。
そのためサバ州とサラワク州には半島部にない又は施行されない法律がまだ残っています。例えばマレーシア人を含めて旅行者が最初にそれを感じるのは、半島部からサバサラワクに入州した時ですね。サバ州の場合、マレーシア人なら身分証明証の提示、外国人ならパスポートの提示が義務づけられています。サラワク州にいたっては、外国人の場合、半島部から到着すると外国から入州扱いで、パスポート提示だけでなくスタンプが押されます。
皆さんご存知のように、マレーシアに入国すると入国スタンプの枠内に、「西マレーシアとサバ州に3ヶ月以内の入国と滞在を許可する」とかかれてますね。つまりサラワク州はこの範疇に含まれていないのです。
この間少し新聞話題になった、半島部の弁護士はサラワク州サバ州で許可なく事務所開設及び弁護活動をできないというのも、サバサラワク州の半島部とは違った歴史の示す証です。おそらく探せばこんな例はたくさんあるでしょう。
サバ州を旅していて毎日新聞を買いましたが、販売店や街の新聞売りに行くと、サバ州で(恐らくサラワク州でも)発行されている地方新聞が大きな場所を占めていました。英語紙なら Daily Express, The Borneo Post, Boreno Mailです、中国語紙なら詩華時報、亜洲時報です。半島部で地元新聞があるのはペナン州の中国語紙だけですから、これだけ多くの地元新聞が発行されているとは意外でした。ちなみにサバ州の人口は2百万弱。
見ていると地元紙の方が売れてます。半島部からの新聞つまり全国紙より20セントから40セント安いこともあるかもしれませんが、やはりサバ州の人たちの心に非(反ではないですよ)中央意識があるのではと感じました。無理もありません。半島部とボルネオ島部間には距離と歴史の違いが結構あるのですから。
一番興味深かったのは、独立した地方マレーシア語紙は1紙だけで、あまり売れてなくてつまりどこの販売店にも置いてあるわけではない。マレーシア語の新聞は、地方英語紙のなかに毎日別刷りとしてはさみ込まれていることです。サバ州のマレーシア語新聞読者層はきっと全国紙のBerita Harianか Utusanを好むのでしょうね。国語のマレーシア語紙を凌駕しているのは中国語紙で、全国紙の星洲日報もありますがやっぱり地方紙が圧倒的に読まれてるみたいでした。
地方英語紙の Daily Express に興味深い記事が載っていましたので訳してみましょう。その新聞の記者が書いた記事です。題して 「クアラルンプールとコタキナバルとその間」
クアラルンプール人は(彼らの)期待することが多すぎる、というのは言い過ぎではない。たった4日前のことだ、クアラルンプール人は断水に対して歯ぎしりして水道局を責めた。これはちょうど何回か停電がおきて電気会社に対するのと同じように。
たぶんクアラルンプール人は自分たちはマレーシアの首都における納税者だから、そういう基本的供給の停止を経験すべきでないと思っているのだろう。
それならサバ州に来てご覧なさい。
統合化の名のもと、サバ人が長い間断水と停電それらの真の解決策なしに耐えてきたことを、クアラルンプール人は経験できるのでは。
サバでは人は何週間も時には何箇月間も水なしで生活するのに慣れているのです。そして多くの人がまゆをあげたりしないのです。
停電はもっと頻繁です。 ちょうど先週コタキナバルでおこった停電のように、読者がこのDailyExpressのオフィスにその怒りを伝えてきました。
中略
我々新聞社が何度もサバ電気公社SEBに電話しても、応答がなかった。これまでの経験にもかかわらず、SEB は大衆からの抗議に答える人を配置することをしないようだ。SBDは停電の通知を新聞に載せるのはうまいが、突然停電が起こっても、誰もそれを説明してくれないしいつ停電が終わるかも答えない。
その説明として、お決まりの”Sorry"が停電の48時間後に現れました。
断水の場合も同じようだ。断水が起こると住民はまず我々に電話してきます。住民は本来なら応答しなければならない水道局より新聞社を信じているかのように。DailyExpressのホットラインはこのような苦情をほとんど毎日受けています。
いつもの断水に付け加えて、サバ州民はこの間クアラルンプールで起こったような経験、水源地汚染を経験しました。州都への水源供給河川に2週間で3回油が混入したのです。そのためコタキナバルの何千という住民が影響を受けました。5星ホテルでさえ断水するほどひどいものでした。
サバ州環境局はこの3回とも、「ただいま調査中、汚染の犯人を罰する可能性を考慮中」 との声明をだし、いつもの聞きなれた言葉ですが、結局何もそれからありません。我々は環境局がまだ調査中だと考えるしかありません。
以上、97年11月9日発行Daily Expressの記事から筆者抜粋翻訳。
クアラルンプールを揶揄した、随分はっきりしたもののいいようですね。半島部の新聞に出るサバ州を伝える記事ではこういう論調はお目にかかれません。コタキナバルような都市部でもこのような停電断水が多いとは、始めて知りました。停電断水は首都圏を含めて半島部でもいろんな場所でしょっちゅう起きてますから、それを非難する記事が新聞に載るのは日常的です。
しかしこのサバ新聞記者の論調を読むと、サバはもっとひどいようですね。短期の旅行者には当然ながらわかりません。もっともクアラルンプールでも、ホテル生活してたり高級住宅地生活者は停電断水に合うのは極めて少ないですから、停電断水の多さの捉え方が違うでしょう。
「サバ州1周の旅シリーズ」に書いたように、サバ州は距離的にも海を隔てて飛行機で2時間半以上、近隣国家の首都へ行くより遠い、ですし、その航空運賃の高いこともあって、半島マレーシア人が気楽に旅行に訪れる地ではないのは間違いないでしょう。クアラルンプールからインドネシアのスマトラ島にあるメダンとトバ湖への3泊4日の人気ツアーの価格がRM450ほどで、コタキナバルへの往復飛行運賃が約RM700もすることをみただけでも明らかです。
逆は真なりで、サバ州住民にとっても半島マレーシアに気楽に旅行に行ける地ではないでしょう。特に低所得者層にとってこの運賃では敷居が高そうです。
筆者はサバ州の旅でこんなことを強く感じました。サバは遠くにありにけり、ですね。
当ホームページのいろんなところでマレーシアリンギット(通貨記号RM)で価格や料金を示しています。時々思うのですが、この数字がどんな風に日本の皆さんに捉えられているのかな、ということです。
価格や料金を日本円に換算してしまうと、マレーシアのそれが日本に比べて単に安い、時にはものすごく安く感じるのは間違いありませんね。例えば12月8日頃の日本円からマレーシアリンギットへの交換率は2.8 ほど、つまり RM1=¥35 ぐらいです。ここ数ヶ月のマレーシア通貨下落によって、リンギットは円に対しても2割以上下がりましたから、何もせずに円表示では値下げになったことにことになります。日本からの旅行者には大変うれしいことでしょうが。
物の値段やサービス料金をマレーシアリンギットにしているのは、当ホームページの書かれた内容をできるだけ現実生活の中において知っていただきたいからですが、マレーシアでその数字がどんな重み又は軽さをもっているかはなかなか理解しづらいでしょう。
その国に住むかしょちゅう訪れてないと価格の実感がわからないのは当然でしょう、もっとも住んでいてもどういう暮らしをしているかによってものすごく変わりますけどね。
ちょっと古いけどそれほど現在とは変わらないはずですから、製造業に携わる労働者の平均日給基本賃金、手当ては含まない、を州別に示してみましょう。(原資料は人的資源省の調査による)
州名 |
95年1月から6月の数字(RM) |
その前年同期と比べての増加(RM) |
Perlis |
8.0 - 10.5 |
0.5 - 1.0 |
Kedah |
8.0 - 15.0 |
0.5 |
Malacca |
12.0 - 15.0 |
3.0 - 4.0 |
Negri Sembilan |
11.0 - 17.0 |
2.0 - 2.2 |
Perak |
10.0 - 15.5 |
0.5 |
Johor |
11.5 - 19.0 |
1.5 - 4.0 |
Penang |
12.0 - 21.0 |
2.5 |
Selangor |
12.0 - 21.0 |
1.0 |
Kuala Lumpur |
13.5 - 18.0 |
2.5 |
Kelantan |
7.0 - 10.5 |
0.5 -1.0 |
Terengganu |
7.0 - 9.0 | |
Pahang |
10.0 - 13.5 |
2.0 |
Sabah |
7.0 - 16.0 |
3.0 |
Sarawak |
8.5 - 15.0 |
0.5 - 2.0 |
まだまだあげればきりがありませんが、これぐらいにしておきましょう。そう例外的に高いのは自家用車、国産プロトン車が1.5Lクラスの最低でもRM4万、カローラでRM8万ぐらいです。
さて物価を紹介したあと、ちょっと高給取りの人たちを見てみましょう。首都圏の場合です。
企業の経営陣クラス、取締役とか社長なら年額RM17万からRM19万だそうです。幹部管理職クラスなら年額RM8万からRM9万ぐらい、その下の中間管理職、マネージャークラスなら年額RM3万からRM4万ぐらい(筆者の推測では現在、もう少し高いような気がします)。エンジニアのような技術者の場合もいい給料を取れますから、年額RM5,6万はいくのではないでしょうか。
ちなみに政府とか議員の給料を参考までに。経済成長低下のため、ごく最近政府首脳や高級公務員の給料を数パーセントカットするという発表がありました。これを見ると大臣は月RM1万ほど、国会議員は意外に少なく月RM4600 ほどです。この額程度なら、工場や会社のマレーシア人幹部マネージャークラスならもらっていることでしょう。
この数字を上記の工場労働者の基本日給と比較すると、上下の開きが随分大きいことがおわかりになるでしょう。都会に住む非熟練労働者で子供が3,4人いる家庭は結構苦しい生活だということがおわかりですね。
マラヤ大学の労働経済の専門家によれば、95年の時点で貧困家庭と推定されるのは半島部で4.6人家族でRM425、サバ州では4.9人家族の家庭で月RM601 サラワク州なら4.9人家庭でRM516 だそうですから、「貧困レベルという意味において示されたこの平均日給表は、多くの普通の労働者家庭がどのように暮らしているかを示している」 と述べています。
首都圏の若年勤め人で、高学歴でなく普通の会社や店舗勤めなら、総額月RM1000を超えるか超えないかですから、例えばRM3000近くする日本へのパックツアーに参加するのはなかなか大変です。日本からマレーシアへのツアーはどれくらいでしょうか、よく知りませんが8万から10万円ぐらい? いずれにしてもその方の月給より安いことは間違いないでしょう。
普通の勤め人でも独身で家があれば、やっぱりその分支出は他のことに回せますし、消費はそれなりにエンジョイできるのではと感じさせられます。事実休日のショッピングセンターはそいいう若者でにぎわっております。
特に高学歴である方面の技術・能力をもったヤングエグゼキュティブは、非熟練工場労働者層よりずっと高給取りですから、都会の消費生活の中心ではないかと思えるほどです。旅行者の皆さんが訪れるショッピングセンターやレストランでは、こういう若い中流層にいつも出会うことになります。
マレーシアの公務員は一般に民間と比べて低賃金と言われています。手元に数字がありませんのでいつか入手したら書きましょう。ただ警察官の賃金表の一部がありますのでここから抜書きしてみます。警察官も公務員の一部ですからね。ただこれは警察官のみに適用されます。
マレーシアの警察官は3階層から構成されており、一番上が官報で公示される2千人の上級幹部職、真ん中が警視からなる幹部警察官5千人、一番下が8万人警察官の9割近くを占める一般警察官からなります。階層毎にそれぞれ受験資格、給料体系、昇進規定が決められています。いわば独立した階層なのです。
大多数の警察官はもちろん一般職警察官ですし、市民が普通接するのも平巡査から警部、警視補までのこのクラスですね。一般警察官になるには公募時に応募して受かればいいのでしょう。最低学歴は、義務教育9年間終了時の国家統一試験PMR(以前はSPRと呼ばれた)に合格していることが最低条件ですが、警察はこの必要学歴を、その後 さらに2年間の教育を終了したSPM 試験合格者(いわば日本の高卒に当る)に引き上げようとしています。事実最近の応募者の8割はSPM修了者です。
この警察官の初任給が大変簿給です。 基本給がPMR修了者だとRM419、SPM終了者でもRM475です。PMR終了警察官がそのクラスで最高段階に上っても、RM833 にしかならないそうです。SPM修了者でも昇進しない限り、最高段階はRM1000に満ちません。
警察階層真ん中のグループである幹部警察官の初任給でも、基本給はRM770で、そのクラス最高段階になる14年後はRM1522になります。
警察官の職業性格上残業は頻繁だそうですが、警察長官によれば、「残業は一切つかない」
手当てはありますが、それは一種の資格手当てで、警察犬係手当てとか爆弾処理係手当てとか刑事手当て、特殊技術手当てなどがあるそうです。つまりそういう資格を取れなかった一般警察官は受領できないでのです。
一般警察官の中で5万人を数える一番多いクラスつまり平巡査クラスでは、いくら基本給が上がってもRM1000は超えません。これは結婚して家庭を持つ巡査には、いくら宿舎が提供されると言っても不十分な額ですね。普通警察官は警察署の敷地内にある官舎に家族生活しています。
警察長官も一般警察官の給料の低いことを政府に訴えています。
首都圏などの私企業に就職してある程度の資格をもっていれば、大学卒でなくても初任給はRM1000を超えるか超えないかですし、SPM終了の20代で月収RM1000を超える者を探すのは難しくありません。工場勤めでもテクニシャンとかラインリーダーになれば、この層はほとんどSPM終了、月収は間違いなくRM1000を超えますから、一般警察官の給料は同学歴層に比べても低いことになります。普通の勤め人よりずっと低い水準なので、つい一般警察官の???の要求が巷間の話題に上ります。
警察官の給与引き上げ論のときには、いつも汚職の話が言及されるそうです。警察長官はこう弁明しています、「(警察官の中には)何も考えずに当然のごとく賄賂を受け取る者もいるが、賄賂を受け取るものの多くは自分の昇進の見込みの無いことを頭に置いたり、都会の中で少ない給料で家族を養っていかなければならないことに誘発されるのである。」 だからと言って許せませんから、上記の言葉「取り除いていく」とのことです。
いずれにしても警察官や公務員の給料が民間より法外に低いと、そこに働くものの士気に及ぼす影響のみならず、公務員がもう一つ仕事をしたり(珍しくないそうです)、上記のようなことが起こりかねないのも、理解できないわけではありませんね。
久しぶりにマレーシアのインターネット事情を書いてみましょう、となるとどうしてもプロバイダーの悪口になってしまうので、多少気がひけるのですが、その後どう変わった又は変わってないかをお伝えたえしたいし、新しくマレーシアに来る方の参考にもなるでしょう。
でも毎日数時間インターネットにつないでるものとして、やっぱりプロバイダーのサービスに不満をいだかざるを得ないのです。何度もお伝えしましたように、マレーシアにはプロバイダーが、一般ユーザー向けとして実質的には、2つしかありません。Jaring とTMnetです。
それから Jaringのサービスを附加した2次プロバイダーが3社あるのですが、接続ポイントも大都市にかぎられ、値段もJaringより少し高いので、あまりメリットがあるように思えません。しかし筆者は使ったことがないので、この附加サービスプロバイダーについてはこれ以上は語ることができません。国際回線の速さはJaring と変わらないはずですが、マレーシア国内サイトならひょっとしてJaringよりいいのかな、顧客サービスも優れているのかな。使ってる人に聞いてみたいところです。
なおこの附加サービスプロバイダーのサイトはJaring のメインサイトからハイパーリンクしています。
それとは別に、独立したプロバイダーがなくはないですが、いづれも登録使用料金がものすごく高く、一般ユーザー向けというより、企業の専用回線用向けのようで、実際一般ユーザー向けに広告もしておりません。
ですから普通のインターネットユーザーは、Jaringか TMnetの会員ということになります。監督官庁の指示によって、両社とも料金は似通っていまして、Jaring のインターネット接続特別割り引き番号1511か TMnetの唯一の接続番号1515につないだ場合、接続料金1分1.0セント、電話代1分1.5セントです。つまり1時間つないで合計 RM1.5 になります。日本に比べたら安いでしょう。
Jaring はもう一つの料金選択があって無制限接続、もちろん電話代は別途、月RM50というのも設けています。
Jaring はこの接続用特別割引番号以外に、普通の接続用電話番号が各州地域毎にありますが、この場合は電話代の方は一般電話料金が適用されます。筆者のところからは、今年後半からこの特別割り引き番号につなげるようになったので、Jaringにつなぐ場合、できるだけこれを使うようにしてますが、早朝などを除けば非常につながりづらい、10回コールして数回接続に成功というところです。そして時々接続中にきれてしまうのです。
安いだけに受信容量があきらかに不十分です。そのためかどうかJaringはこの番号を積極的に薦めてません。おかしな話ですね。そこで結局普通の接続番号にダイアルするようになります。こちらの方は途中で落ちることはあっても、ずっとつながりやすいのです。
尚ISDN回線接続に関しては、その普及度はまだずっと低く、個人ユーザーやSOHOで利用している人はいるのだろうか、と思える段階です。接続ポイントも大都市に限られていますし、プロバイダー接続料金も電話回線の4倍ですから、普及までには相当時間がかかりそうです。
もう一つのプロバイダーTMnet、この「今週のマレーシア」の年初のコラムで批判したTMnetです、は依然としてJaringのサービスより落ちますね。その番号1515につながらないことはめったにないのですが、いかんせん”遅い”そしてよく ”途中で切れる”。
筆者は両プロバイダーに加入してますから、こちらのプロバイダーがつながりにくいなら他を、と接続プロバイダー間を行ったりきたりしますが、TMnetにつないでいてページの読み込みができないとかあまりにも遅い、自分のページでも夜間は開けないことさえあるのですよ、時に、Jaringにつなぎ直すとまあなんとか読み込んでくれることが多いのです。
TMnetそのお知らせメールで、国際回線をT3にして能力を増やしたとか、サービス向上に努めていると言ってますが、早い話プロバイダーは二つしかありませんから競争がし烈になることはないので、サービス競争は起こり得ないのですね。ですからマレーシアの超大企業テレコムの子会社TMnetはいまだ顧客サービス精神欠如症から抜けきらない、というところです。
プロバイダーのサービスに不満な人は多いらしく、時々新聞にも苦情記事が載ります。例えばThe Starのコンピューター特集に載った苦情投書に対して、編集委員は次のように答えています。「 あなたは恐らくこんな風に(つまりプロバイダーのひどさに憤慨している)感じている、10万人はいるマレーシアのユーザーの一人でしょう。度重なる苦情にもかかわらず、また当コンピューター紙も何度も訴えてきたにもかかわらず、何も手が打たれていない。次はどうしよう? 多分ユーザーは力を合わせて、消費者団体を通して行動を起すべきかな。」
マレーシアでなぜプロバイダー間の競争が起こらないかの理由は、第一にインターネットユーザーの少なさです、まだ推定20万と30万の間でしょう。日本の500万、たしかすでにそれを超えたのですよね?、と比べたらその規模はいかにも小さいですね。だから政府は今のところ新規プロバイダー設立を認めません、パイが小さいから過当競争になるというところでしょう。プロバイダー参入にはマレーシアでは官庁への届け出ではなく、承認が要ります。
その推定まだ20数万というユーザーの中で、若年層つまり学生の占める割合が非常に高いようです。以前Jaringが外部団体に依頼したユーザー調査でもそれが現れていました。ユーザーが若年高学歴層に偏っていることは、マレーシアの個人ホームページのリストや掲示板を覗いてみるとそれが実感できます。
30代以上の一般社会人とか家庭の主婦とかが気楽にインターネットを楽しむ段階にはまだまだいたってないのですね。筆者の周りのマレーシア人を見ても、中流程度の収入があっても家庭でインターネットにつないでいる人は皆無です。
なお当然ながら、個人やSOHOが手軽にホームページを作る段階にはいたっておらず、プロバイダーとしてはJaringがサーバースペースを提供していますが、5MBでRM600というようにマレーシアの物価に比べれば比較的高いのです。他の有名インターネット会社の場合はどうかと試しに手元のパンフレットをみると、附加サービスプロバイダーのSilicon Netが5MB ドメインネーム付きで年RM600 です。
日本のプロバイダーの中には会員になると、ホームページ用のスペースがついてくるところもありますが、マレーシアではまだそういうプロバイダーはないようです。
マレーシアでコンピューター情報を入手するもっとも一般的な方法は、英字紙で毎週挟み込まれてくるコンピューター別刷り版を読むことですが、その中にもホームページ用のレンタルサーバーやホスティングサービスを広告してるのは極々わずかですから、まだまだ個人やSOHOのホームページ造りが普及していないことが伺えます。
もちろん企業用にホームページ作成を請け負っている会社は結構あるようで、マレーシアのビジネスリンクサイトをみると、そんな会社の案内が簡単にみつかります。でもユーザー数が20数万ですから、IT産業は人気が高く数が多いとはいえ、そういう商売自体が繁栄するまでには時間がかかりそうです。
個人ホームページだと筆者のみるところ、無料レンタルスペースとして有名な米国のGeocities 利用しているマレーシア人が多いようですね。マレーシア国内でレンタルサーバーを積極的に売り込んでいる会社がないことと、あっても比較的高いので、国外の無料サイトに流れていくのでしょう。
ところでホームページの内容ですが、筆者はたまにしか訪問してないので断言はできませんが、少なくともマレーシアにドメインネームがあるサイトは、もちろんマレーシアの法律に厳しく従う必要があります。Jaring のレンタルスサーバーの条件にもマレーシアの法律の範囲内で、と書いてあり、それは厳然と適用されるのです。単なるうたい文句ではありません。
インターネットであろうと新聞であろうと雑誌であろうと映画であろうとマレーシアで公開を目的としたものは、厳しい検閲の前に自己検閲がありますから、レンタルサーバーといえどもプロバイダーの事前審査があると推測されます。
具体的に言えば政治的なプロパガンダや民族・宗教批判はタブーですし、いうまでもなくポルノは、ポルノみたいなのも含めて絶対禁止です。アダルトページ・掲示板なんてマレーシアでは存在しえないのです。
たまに見る日本のコンピューター雑誌やアダルトサイトで、”日本の規制が厳しくなりました”とかいう言葉をみることがあるのですが、マレーシアの現状と比べたらいうまでもなく、いや恐らく、一部の西欧諸国を除けば、世界の多くの国と比べても日本の規制は緩やかなのでは、と思わざるをえません。
日本のアダルトサイト発信者は、対極に米国をおいているみたいですが、マレーシアから見たら米国も日本も同じ船に乗っているとしか見えませんね。
断っておきますが、筆者はマレーシアのようにアダルトサイトを徹底規制・完全禁止しろと言ってるわけではありませんよ。ただ西欧特に米国の反対側に日本があるというという発想は止めにして欲しいのですね。
インターネットカフェはマレーシアにもあります。特に首都圏一帯には数あり、有名ショッピングセンターとか学生街、高級住宅街の店舗へ行けば見つけられます。料金とサービス内容は良く知りませんが、1時間RM8前後かな、それに大抵どこの店も学生割引きを適用しています。やっぱり学生層が主要な顧客でしょうか。
スバンジャヤに50台のPCを設置したインターネットカフェがオープンしたというニュースを以前新聞で読みました。
でもインターネットカフェは首都圏一帯に偏在しているようで、サバ州旅の時少し探してみましたが、1軒もありませんでした。
インターネットカフェとは違って、インターネットができるPCを組み込んだNetCard Station という機械を設置しているショッピングセンターや駅があります。この機械はちょうどビデオゲームの大型マシーンのように、プリペイドカードを挿入して音声ガイドにしたがって操作するタイプです。
RM20とRM50の2種のプリペイドカードがあるそうで、メール発信や受信もできますが、OSが英語ウインドーですから、日本語・中国語のような非ローマ字の言語は表示できません。ですからスバン空港にも設置してありますが、日本人旅行者がこのNetCard Stationでメールを受け取っても文字化けになってしまうはずです。
以前筆者は、展示会に出展していたその会社の人にこの点をついたら、いずれ複数言語のタイプもつくると言っておりましたから、それに期待しましょう。そうなれば日本人も旅先で、日本語のメールを受け取れるかも知れませんね。
マレーシアは世界に名を知られつつあるマルチメディアスーパー回廊を建設中で、そこは光ケーブル施設したインフォーメーションのハイウエーになる予定です。幅15Km長さ50Kmのこの回廊内にあれば、インターネットは各家庭にも簡単に且つ十分に利用できようになりますから、この面では素晴らしいことです。
でも一方、東海岸の州の多くの地域では電話普及率50%以下ですし、ボルネオ島では電話どころでないところもおおくあり、全国的にインターネットが普及するには、まだまだ相当時間がかかるのは否定できません。
このアンバランスが現在のマレーシアを象徴しています。
年が終わろうとしているこの頃、新聞の第一面をよく経済記事が飾ります。でも景気のいいニュースではなく、景気後退にいかに対処し乗り切るかというような記事です。
タイに始まり、フィリピン、インドネシアと襲った通貨暴落、下落というよりこの方が正しいでしょう、と経済停滞成長率鈍化の嵐はついに韓国まで及びましたね。マレーシアも国際投機筋と投資機関・家の狙い撃ちを受け、これは少なくともマレーシア指導者層に言わせればですが、順調な(と見えた)時期 4,5月頃までに比べれば、リンギットは米ドルに対してなんと 50%以上も暴落しました。12月23日の対米ドル交換レートは3.9 という以前なら信じられないようなレートです。
日本円が米ドルに対して少し下落してますので、リンギットは円に対してはそこまで暴落してませんが、それでも現在は100円を買うのに RM3ほど必要です。もちろん通貨だけでなく、マレーシアの株価は確か少なくとも30%、40%は下がりました。もっとかな。
一口に為替交換率が半減したというと実感がわかないかもしれませんが、以前はRM1万で輸入していた外国製機械が今はRM1万5千も要るということです。マレーシアでも当然ながら貿易決済は米ドルばかりですから、その影響は絶大なものがあるはずです。輸出品は50%余分に収入できるから帳消しにはなりません。部品や原材料を相当程度輸入しているからです。つまりコストがその分すでに高くなっているのです。
この通貨交換価値減少による影響は、貿易業者や製造会社だでけでなくすでに一般人の身の周りにも及んできました。身近な例でいえば、輸入食品類の値上げです。果物はすでに2、3割ぐらいは値上がりましたし、菓子類も同様です。
中央銀行の指示によりファイナンス会社は自動車ローンの期間を最長5年、価格の70%までに押さえ審査を厳しくしたことで、自動車の売れ行きがぐっと減り、これまで注文してから数ヶ月は待たなければならなかったプロトン車がそんなに待たなくても入手できるようになったとか、中程度以下のコンドミニアム・アパートの販売が鈍ったとか、はたまたAnnual Partyと呼ぶ忘年会の予約が減った又は予算を減らして豪華にしなくなくなったとかの、いろんな現象を新聞は伝えています。
しかしクアラルンプール中心地の繁華街・ショッピングセンターの賑わいは減ってるようには感じませんから、この通貨暴落の影響はまだ深刻にはなっておりません。ボーナスの支給を2ヶ月を1ヶ月にするとか、新規採用を減らすとかはあるでしょうが、タイのようにファイナンス会社が何十もつぶれたとか、韓国のように IMFの救済を仰いだわけでもありませんし、会社がいくつもつぶれて失業問題が発生しているわけではありませんから、劇的に目に見えて経済が停滞しているという実感はまだわいてきません。これは一般マレーシア人も同様でしょう。
でもこれだけ通貨交換率が下がってこのままであるはずがありませんから、来年はじわじわとその影響が目に見えてくることでしょう。
ところでマレーシアの輸出額No.1は電気電子製品ですが、その次がパームオイルです。マレーシアは世界のパームオイル生産量の約半分を生産し世界中のパームオイル輸出量の6割を占めるのです。犬も歩けば棒にあたるではなく、マレーシアを旅すればパームツリー農園にあたるというぐらいです。
このパームオイル世界一生産国マレーシアでパームオイル製品、例えば石鹸、マーガリン、アイスクリームなど、尚パームオイルを原料にした化粧品もあるそうです、が通貨リンギット下落を理由にして値上がりしようとしているのです。100%地元生産品がなぜ値上げする必要がある、と批判したマハティール首相ならずとも、誰でも理解に苦しむところです。
それは原パームオイルが米ドルで取り引きされているため、マレーシア国内のパームオイル精製会社と加工会社が原パームオイルを購入する時も、米ドル決済でしなければならない、ということから来ているそうです。つまり米ドルがリンギットに対して50%も上がったので、購入原パームオイル価格があがり、それをパームオイル製品に転嫁するという構造です。つまり消費者には、地元農産物製品と言えどもなんらメリットはないということで、パームオイル取り引きシステムに強い批判が出ています。当りまえですね。
「パームオイル関係各社は自国通貨が信用できないのか」 とマハティール首相は非難してましたが、この思想構造は中進国マレーシアといえども時折見られます。
世界の国で自国通貨に信用が置けず、人々が通貨を金にかえて貯えたり、米ドルに交換して蓄える国は発展途上国にいくらでもありますが、東南アジアの優等生国マレーシアではもう必要ないと思っていたのですが。
国際相場市場で取り引きされる一次農産物の取引形態を、自国内といえどおいそれと変えるのは簡単ではないでしょうが、パームオイルがあふれてる国でそれを米ドル取り引きするのはいかにもおろかですね。そこで政府はパームオイルの二重価格制度、つまり輸出向けには米ドル取り引き、国内向けにはリンギット取り引きを提案しています。
この二重価格システムは早急に実施されるべきだ、パームオイルを世界的取り引き品目にしたのは長年の政府の努力大なので、これをくんでパームオイル生産社は、国内向けにはリンギット通貨で売れば儲けは多少減るが、マレーシア人消費者のためにも少しは犠牲を払うべきだ、と新聞は訴えていました。耳を貸すべき意見ですね。
ただこういう二重価格制度は維持が大変であるのはわかります。なぜかといいますと、以前から政府は何十かの生活必需消費品目を価格統制品に定めています。例えば小麦粉、卵、パン、クッキングオイル(パームオイルから作るので、生産会社が値上げしようとしたら政府は急きょ統制価格に決めた)などですが、これらの内いくつかは近隣諸国のその価格より低いので、その統制品が近隣諸国の消費者の気を引くわけです。
ずっと前からですが、シンガポールから消費者が大挙してジョーホールバルの市場やスーパーにやってくる事態を生んでいます。今やシンガーポール通貨とマレーシア通貨の交換比率は1対 2.3 ほどというすごい差がついてしまい、その買い出し傾向は一向に収まりません。
それはまだ道義的な問題ですが、それより深刻なのはタイやインドネシアへの密輸出ですね。つまりマレーシアで売られる小麦粉や砂糖がタイヤインドネシアのそれよりもずっと安ければ、それをその国にもっていって売れば差額分が儲かりますね。こういうのは需要があれば供給が生まれる構造ですから、警察や税関当局を常に悩ましています。
長い海岸線とジャングル国境で両国と接するマレーシアですから、密輸出輸入を完全にふさぐのは不可能です。日本では麻薬ぐらいしか組織的密輸品にならないでしょうが、マレーシアは麻薬のみならず、このページで何度か触れた人の密入国、インドネシアたばこの密輸入などいくつかの品が、海と陸の国境を密かにそして組織的に越えています。
ですから価格統制品を決めてもその保持監視が大変なのです。小船でマラッカ海峡を超えて運び出すのか、担ぎ人がジャングルを歩いて運ぶのか知りませんが、官憲の目をすり抜けて物質は行き来しているのです。国内取り引きと消費者関係大臣も言っています。「省の調べによれば、シンジケートが調理油や小麦粉を小船に乗せてマラッカ海峡を渡り、タイやインドネシアに運んでいる。」 と。
そして運び屋や違法入国を果たそうとした外国人が水際で逮捕されたニュースがよく新聞に載ります。
ここらは日本とはずいぶん事情が違うのですね。国内の販売価格だけを見張っていればそれでいいということにはなりませんから、苦労はわかります。
来年になれば、経済停滞はさらに進むと一般に考えられてますから、その時中進経済発展国マレーシアはどのように乗り切っていくのかなと、我が身に及ぶ影響を心配しながらも、興味をもっています。
田舎から働き来に出てきた非熟練労働者層はレイオフ新規採用停止などで過剰になるから、田舎へ戻ればいいが、しかし都会生活になじんだ彼らが田舎生活に戻れるのかという議論もあります。外国人労働者はこういう場合一番先に整理対象になるでしょうが、工事現場がなくなったから、はい自分の国にかえりなさい、といって彼らがそのまますっと帰国するとは思えません。借金してまたは資金を溜めるためにマレーシアに来たからです。
マレーシア最大の休暇期間である来年1月末の中国正月とハリラヤ休日の二重休暇を控えて、政府や州政府は今必死に日常消費物の値上げ抑制に取り組んでいます。二重休暇まで値上げは極力抑えるように指示を出してますので、多分その頃まで値上げは少ないでしょうが、2月初めに休暇が終わればいろんな物、物だけでなくサービス価格も上がるでしょう。
例年この休暇明けには大衆食堂や屋台は飲食物代などを値上しますが、今回はきっともっと広範囲に値上げがおよぶのではないでしょうか。消費者物価指数だけを見ていては実感できないのです。筆者を含めて多くの一般階層にはいささか心配な来年の街の経済です。